175.ゼイレムからビスムズへ
撮影大会を開いたら昼になっていた。何てこった…!
ちなみに昼食を作るアキ兄さんをシルバーは動画撮影していた。気が散りそう。
と思ったら、たまに『洗浄』で、使った食器や調理器具を片してたみたいで、アキ兄さん的には邪魔どころか助かっていたらしい。ならいいか。
「あとはナズとラテが服か何か作ってるとこ動画撮りたいんだが…」
「結構な時間かかりますよ!?撮影自体は構わんけども!」
「…それもそうか」
「なら、小さなぬいぐるみかマスコットはどうです?ストラップサイズの。で、その作ったものをシルバーさんに渡して提出してもらえば証拠になるのでは?」
「は?お前天才か?」
「ふふん」
「どやあ…」
「何でお前らが胸張ってんだ」
「アキ兄、リオ兄…」
あ、呆れた目で見られた!!!
でもあのシルバーが素直な賞賛を口にするのも珍しいし、それがハルを褒めるものだったから、つい…!
それに、ハルの提案は確かに有りだ。何しろナズの召喚にぬいぐるみの素体のようなものがあるわけで。
それを使って作成すれば、確かに短時間で完成する。サイズが小さければ尚更。
ナズの腕があれば、10分程度で完成するんじゃないだろうか。動画としては有りな時間だろう。
「うーん、確かに凹凸の少ないやつなら数分で出来るかも…?何か希望あります?」
「…じゃあ、猫」
「よっしゃ、ネロくんそっくりの作りましょっか」
「ああ」
『えっ…ぼく?』
「しっぽふたつにすれば市販品とか思わんやろ。ちゃんとあたしが動画内で作ったやつって信じるやろ。やったるで!」
『ちっちゃいネロ、作るですのー!』
この世界のものを持ち出せるかという問題についてだが、基本的には問題ない。
さすがに武器とかは創造神が「これは駄目」って判断して回収するようだが。
なお、この措置は神石を通してでしか出来ないので、ヒャッハー組には適用されない。
ちなみに芝の持ってた槍を始めとした持ち物は、大半こっちで処理した。具体的にはダストシュートとラムのおやつだ。
さすがに服はそのまま着ていってもらった。鎧っぽいとこは回収したけど。
若干の『防御力上昇』のバフ効果はあったようだが、そういうものは地球に渡った時点で無効化されるという。
このバフは、マナによるものだからだ。あちらの世界にマナが存在しないため、何もしなくても勝手に効果が消失する。
ナズが作った作品も、防御や修復のバフがあるが、そういうものは地球に行くと消え、ただの布地になるそうだ。
なのでぬいぐるみを作ってシルバーがそれを持ち帰っても、ただの可愛いぬいぐるみとなる。
今回証明したいのは、動画で作成されたものが実在しているかどうかなので、バフ効果が消えてても問題ないだろう。
ふ…ナズの被服スキルを目の当たりにして腰抜かせばいい。
ギックリ腰にならんように気を付けるんだな…!
「湿布の慈悲くらいならくれてやってもいい…」
「何言ってんだお前」
「リオくんまた変なこと考えたの?」
「ああ、たまにあるやつか」
「シルバーさんも知ってるんや…」
「リオ兄さんホント…」
「呆れた目で見ないでごめん!!!」
ナズの妙技とぬいぐるみ(仮)の出来栄えに腰抜かせばいいと思ったことを伝えたらしょっぱい顔された。
何故だ。
「そうだな、一応湿布も同時に提出するか。あいつら腰痛になったら数日回復しねえだろうし」
「本当にやる気なの!?」
「まじでおじいちゃんやんそれ!」
「いや湿布いらないでしょう…」
「湿布提出されても上の人困らないか?」
「でもアキが料理してる動画も同時に提出するからな。蓄積ダメージあるだろ多分」
「あるかなあ!?」
「ハルだけは隠密の仕様上、動画に撮れねえのが悔しいな」
「悔しがるとこですかね?」
「カーくん走らせてるとこ撮ればよくないか?隠密スキルの効果で目の前の木とか岩とか全部すり抜けるぞ」
「それだ」
「それですかね!?」
「まあシルバーはみんなの凄いところを撮りたいのだろう?いいと思うのだよ。あの光景は確かに凄いからな!」
「そんなに凄いんですかぁ?私たちはまだこれが走るところ、見てないからピンとこないです~」
「そうよね」
ああ、そういえば森族姉妹は『停車してるカーくん』しか知らないのか。
ビスムズに向かっても問題ないし、その道中、カーくんが走るところは問題なく撮れるだろう。
問題は、いつゼイレムを出るかってことだけど…
「ぶっちゃけ今日にでも出ていいんだよな」
「なら最後にバッカスさんに挨拶したいのだよ」
「あ、せやな。めっちゃお世話になったしな」
「ああ、あの登録の時助けてくれた冒険者か。俺も礼言いたいな」
昨日、ギルドで依頼はこなしてるし、シルバーも含めてギルドカード失効はしばらく先だろう。
ビスムズに半月くらいで辿り着けば問題ないだろうし…
そうだな、もう発っても問題ないな。
「獣族の足とか、馬なんかの魔物に乗って移動することを考えれば半月以内にビスムズに着けるのだよ」
「そうね、普通の馬車だと一ヶ月以上かかるけど、短縮する方法はいくらでもあるわ」
「私たちも、森の中を短距離転移駆使して早く移動してますし~」
「ヤバイ方法聞いてしもたで!それ人前で言ったらあかんやつやろ!」
「でもあなた達なら問題ないですし~」
「空間魔法使いが既にいるものね…私たちの持つ転移系の術や魔道具欲しがらないでしょ」
「ま、まあ、そうだけど…」
「ちゃんと言う人を選びましたよぉ」
シルバーはスキルレベル低いから問題外として、確かに空間魔法使いが三匹もいるのか。ラムとスーとネロ。全員オリジンである。
…僕?僕は使い勝手そこまで良くないし含まなくていいだろ。
でもこれだけ空間関係の能力持ちがいれば、確かに欲しがらないか。
一応ちゃんと考えてはいる…のか?
「バッカスさんを探すならまずギルドね。そういえばどこの宿に泊まってるかは聞いてなかったわ」
「そうでしたね。じゃあギルドに…」
「私とお姉ちゃんで行ってくるわ。あんた達はギルド行くとまた討伐依頼とか頼まれるでしょ?こんな時間だから今日は依頼受けに来たわけじゃないって察してくれるとは思うけど」
ああ、うん、基本的に依頼受ける時は朝に行くもんな。今は昼食も終わってるし、13時過ぎだ。
こんな時間から依頼を受けるのは特殊なものでない限り、ないか。夜にしか出ない魔物の討伐とかがそれだ。
でもこういうのは事前に指名依頼なんかでスケジュールを決められてるらしい。
なので、常設依頼や依頼ボードに貼られてる依頼票には無いのである。
そういう事前招集とかも無しにギルドに訪れる冒険者は、依頼をする側であるとか資料室の確認とか、訓練室の予約とかが多いらしい。
あとは単純に食事目的か。冒険者はハラヘリも多いのでそういう食堂が併設されている。
が、このくらいの時間は利用者も少ないので、受付嬢が暇になる…つまり、雑談とかしてくる場合もある、と。
うーん、アキ兄さんが前に捕まったし、確かにやめた方が良いか…?
「それにぃ、黒髪の子供を探せってギルドの通達もありますぅ。依頼なんかの用事以外で近づかない方がいいですよ~」
「…言われてみればそっか」
「なら私たちはどうしましょう?買い出し…するほどの物もないですしね」
「旅の前に補給いらねえのか。自給自足出来すぎだろお前ら…」
「まあ僕はそういうメンツを勧誘したからなあ。大成功しすぎて怖いよね。…僕らがやるとしたらやっぱ情報収集?」
「中央広場に屋台いっぱいあるから、そこ回りながら聞き耳立てないか?ネロくんもいるし、ハルとリオくんがいればそこそこ情報集まりそう」
「いいなそれ、中央広場とか人が多いから、あたしらが纏まってうろついてても不自然ちゃうし」
「ダンジョンのやつの報酬あるから、金には余裕がある。ってことで食べ歩きしよう」
「いいわね、ギルドと中央広場で情報収集ね!」
「私たちはバッカスさんの件がわかったら、中央広場に行けばいいんですね~?」
一旦それで行くかということでカーくんを出ることになった。
出来ればおやつを食べたいらしいので、長くても二時間程度か。食べ歩きするのにおやつ食うの…?むしろおやつは屋台でいいじゃん…?
こっちに感知持ちが大量にいるので、森族姉妹が中央広場に来たら、こっちから合流に乗り出せばいい。
ということで解散になった。
「中央広場の東側の屋台に突撃するのだよ!あっちはまだ未開拓だ」
「よっしゃ行こうベルさん!」
『食べるです!』
「おい、唯一の現地人が一番はしゃいでねえか?」
「むしろ屋台まみれの所で一番正しい反応してる気もするけど」
「西側はガッツリ系が多いみたいなので、軽食系が並んでるといいですよねー」
「ふかし芋っぽいのあったよ」
「バターが欲しいやつ」
「いいな、じゃがバター…多分この世界にないけど」
そもそも芋も地球のものとは違う。似てはいるみたいだけど。
アキ兄さんはそういう小さな違いを見つけるのも楽しいらしい。
それはそれとして、じゃがバターはアキ兄さんも食べたくなったので後で作ってくれるそうだ。やったね。
「甘っ!この赤いの甘い!」
「黒いやつ苦い!」
「黄色いの酸っぱい!」
「はっはっはっはっは、いい反応するなあアンタら!」
「青いのめっちゃ辛いのだよー!」
グミみたいな見た目のおやつらしきものを買ったらえらい目に遭った。
元より、色で味が違うため、気を付ければいいだけの話だけど。
それにしたって想定以上に突き抜けた味だ。罰ゲームに使えそう。
僕らの反応が顕著だったのか、屋台のおっちゃんは爆笑している。ちくしょうめ。
「あ、この苦いの結構クセになります。私これ食べれそう」
「あたし甘いの食べれそうー」
「森族姉妹、辛いの得意っつってたから後で食べさせてみよう」
「酸っぱいのどうする?みんな無理そうなら僕が食べるけど」
「苦いやつなら俺も食えそう」
「…大抵の奴はこんなん食えるかって捨ててくんだがな」
「食べ物を捨てるなんてもったいない…!」
ちなみにラムは全部食えた。さすがスライム。
屋台のおっちゃんは、想像通り罰ゲームみたいな目的で使うために販売してるらしい。
ここ、ギルドからも酒場食堂からも離れてないし、飲みながら罰ゲームに発展することもそこそこあるそうだ。
なので需要があるんだろう。むしろ僕たちみたいな食べ歩きで買ってく方が珍しいのか。
ひとまず食べれそうなやつを手分けして処理することにした。駄目そうならラムが食べるだろう。
「甘いの好きなら、あっちの赤い看板のパン屋に行きな。甘いパン売ってるぜ」
「そうなの!?ありがとうおっちゃん!行ってみる!」
「ナズまだ甘いの食うの?」
「俺はまださっきので口の中甘ったるい…」
「苦いの食って相殺しとけ」
「相殺しきれねえのが残ってんだよ…」
「でも甘いパンは気になるので行きましょう」
「そうだな!てか全屋台制覇したいからな!」
「僕はもういい…晩ご飯入らなくなりそう…」
「確かにここまで結構食べたのだよ。だが僕はまだいけるぞ!」
凄いなみんな…僕は腹いっぱいになってきたし、周りの建物からもこれといった情報得られなくて心折れそうだよ。
ハルもちょっと無理して食べてないか。大丈夫か。
「…ここで食べた肉が、身長に化けると思えばこのくらい…ッ!」
「普通に腹について終わると思うが」
「乙女に向かって何てこと言うんですかシルバーさん。お詫びとして身長ください」
「乙女の言い分か?」
「僕の知ってる乙女と違うな…」
「ただのハルの特性なのだよ。僕も身長を強請られたことがある」
「デカいんですからちょっとくらい分けてくれたっていいじゃないですか」
「分けられる類のもんじゃねえから諦めろ」
「くっ、未来を信じるしかないんですね…!」
というか、アキ兄さんのご飯食べてるんだから栄養面とかは問題ないだろうに。
あとは個人の資質だと思う。
「リオ兄さんは大きくなるからいいですけど…!」
ぼそっと呪詛吐くみたいに言われた。いや、そこまでじゃなくない…?
哀れに思ったのか、シルバーがハルの頭を撫でていた。やっぱりこいつの表現って五歳児に向けるような対応なんだよなあ…
「あ、あまり力を入れないようお願いします。縮む…!」
「気にするのそこかあ」
「慰めようとしてくれてるのはわかるし、その気持ちは嬉しいので。実際私の方が年下なので気になりません。それはそれとして押さえつけられて縮んだら嫌なので…」
「人間は簡単に縮まねえだろ…」
「少しでも可能性を排除したいなって」
「…そうか」
謎のこだわりである。シルバーも何とも言えない顔してる気がする。目元見えないけど。
何だかんだで結構楽しい時間を過ごしてしまった。
気づけば、入り口付近に森族姉妹がいると従魔組から報告があった。
用事が済んだので、こっちに来たんだろう。
中央広場という名前なだけあり、ここは広いし人が多い。恐らく姉妹に僕たちがどこにいるかは把握できないはずだ。
けれど、こっちに感知力に優れた従魔がいるので…むしろ感知力高い子しかいないので、僕たちから合流するとあらかじめ伝えている。
なので今から全員で森族姉妹の元へ移動だ。食べ歩きは終了でもいいし、彼女たちと合流してから続行でもいい。
「とりあえずリーゼたちと合流しよっか」
『はいです、ご主人様。あっちです』
人が多いとはいえ、移動に難があるほどじゃない。
移動を始めて数分で合流は出来た。
「リーゼさん、シャルさん!」
「あら~、ナズさん」
「よかった、皆いるわね!」
「ああ、皆で食べ歩きしてたからな。二人もどうだ?甘いパン紹介してもらって、食べたら美味しかったんだけど」
「気になるんですけどぉ、ちょ~っと先にお話ししたいですねぇ」
「オススメいくつか買って、戻るわよ」
「…わかりました。そうしましょう」
僕たちに早く共有しておいた方がいい何かがあったのかもしれない。
バッカスさんはいないので、会えなかったのか、あえて連れて来なかったのか…
ひとまず、美味しかったものを中心にいくつか買って、カーくんへ籠ることにした。
この町は獣族も多い上に僕たちの方も人数が多い。
でもハルの隠密スキルや森族姉妹の隠蔽術もあるので、誰にも見られずカーくんに籠ることが出来た。
今更だけど、森族姉妹を仲間にして本当に良かった。今までハルだけに負担かけてたもんな、これ…
シルバーもいるので、ぶっちゃけ当初の二倍の人数になっている。
ハルたちがいなければカーくんに入るところ、絶対誰かに見られてるだろうなあ…
「ただいまやでカーくん~…」
「カーくんがおかえりだってさ」
「まじで?返事返してくれたの?カーくん、好き」
「…まだおやつの時間ですね。今日はもう活動は終わりの方がいいでしょうか?」
「そうね…」
「何かあったのか?」
ベルさんの問いかけに、姉妹は顔を見合わせて微妙な顔をした。
どう説明すればいいかわからない、という雰囲気だった。
「何か…何も、ないんですけど~」
「バッカスさんには、絶対あんたたちに伝えろって強く言われたからね。私たちはよくわからなかったんだけど」
「おっと、何か不穏な予感。屋台の食べ物つまみながら聞くか」
「気を逸らすものが欲しいんですね、わかります」
姉妹も戸惑いはあったものの、ものを食べることでうまく別のことに気が逸らせたのか、気負わずに話してくれた。
結論から言うと、バッカスさんはすぐにでも僕たちをゼイレムの町から脱出させたいようだ。
それこそ、今からでもということだった。
「明日でもなく、今日ですか…確かに急ですね。出来ると言えば出来ますが」
「何かまずい話でも聞いちゃったのかな?それともあたし達が異世界人ってバレた?」
「いえいえ、そういうことではなさそうでしたぁ。何でも、明日には変動に巻き込まれた人が全員戻るだろうってことでしたねぇ」
「バッカスさんのパーティメンバーが全員戻ってきたらしくてね。そこでそう聞いたんだって。脱出出来てないのはあと一組だけだって」
「それも、明日には脱出できる階層まで移動できたって報告だったみたいです~」
「…それはめでたいことじゃないか?僕たちが町を脱出する理由にはならないのだよ」
「まあ俺は今から町を出てもいいっちゃいいが。補給はいらねえんだな?」
「うん、食料はアキ兄さんが出せるし服もナズがいる。カーくんでの移動だから体力面も悪天候も大した心配はいらない」
ダンジョンの変動が落ち着くことと僕たちに関係があるか?
まあ脱出できてない人たちが外に出れば、そのダンジョンはいつも通りに戻るだろう。
攻略したい冒険者や欲しいドロップがある冒険者が押し掛けるくらい…?
「バッカスさんのパーティの人もその場にいたんだけどね。まあそこで私たちやあんたたちの話にもなったわけよ」
「あ、もちろん勇者や召喚者や異世界人やオリジンなんて単語、ひとつも出してないですよぉ」
「まあ、バッカスさんがパーティメンバーと別行動中に何してたか、って話をするのは不自然じゃないな?」
「森族姉妹ともどうやって知り合ったか、なんて話題もおかしくないな。元々知らない人だったって言ってたし」
「そうなんですよぉ。なので私たちはバッカスさんに助けてもらった冒険者ですって紹介しました~」
「あんたたちのことも、ゼイレムのギルドにいた銅級冒険者って紹介したわ!ベルはただの同行者ってのも伝えたわね」
「うん、間違ってないのだよ。僕は冒険者じゃないからな」
「…おかしいこと、なくないですか?」
「そうよね?まあ笑い話であんた達がいれば地図作成が楽になりそうとか協力してくれたら銀級への昇格の口利きもしてやろうとか冗談言ってたけど」
「それだろ」
「それじゃね?」
「絶対それ」
「巨大なお世話」
それ、ほぼ強制的に中級者ダンジョンに連れてかれるってことじゃね?
だってバッカスさんのパーティメンバーってことは金級だろ?断れなくね?
『コイツらに会う前に脱出しろ!見つかったら捕まると思え』ってことでは。
だってハルの地図作成はバッカスさんも褒めてたし、その地図を見た他の冒険者もめちゃくちゃ褒めてたらしい。
話によると、あの地図を利用して続きの地図作成をしようとかいう話もあるそうだし。
それ聞いた時はハルは凄いだろって自慢に思ったけど…これ、ハルに地図作成の依頼とか下手したら出るんじゃ…
一階層だけならそこそこ動けたって報告は既にされてしまってるわけだし。
「ハルが利用される可能性あるってことじゃね!?絶対駄目だからな!」
「アキ兄さんに同意。これは本当にすぐに町出た方がいいかも」
「え?そ、そこまで…?だって、酒の席の冗談よ?」
「本気の可能性もあるだろ。上の級の奴に命じられりゃ突っぱねるのも一苦労だ。見つかる前に逃げるのは賛成だぞ。俺は無関係だろうが」
「…シルバーさんがいるから、新人教育を優先したいって言えば…いえ、他の誰かに任せるとか言われる可能性ありますね。それも絶対駄目です」
ああ、僕たちは銅級だからな。知り合いだから僕たちが教えてるって理由は有効だろうけど…
むしろ僕たちはダンジョンへ送り出して、シルバーはベテラン冒険者が教育にあたる方が効率は良い、なんて言われたら。
シルバー単独で放置なんて絶対出来ないし、僕たちだって中級者ダンジョンに再度行けなんて言われても行きたくない。
強制はされないだろうけど、何で断るんだって言われたら良い言い訳が思いつかない。
ギルド的には銀級への昇級は冒険者の望みと思ってるだろうし、金級冒険者と一緒にダンジョンへ行くなんて経験もいいことだと思ってる。
普通の冒険者ならきっと願ってもない提案なんだろうけど…
一刻も早く元の世界に戻りたいこっちからすれば、本当にいらないお世話ということになる。
ヒャッハー組の捕縛っていうやるべきこともあるし、ダンジョンなんかで時間をとられるわけにはいかない。だって絶対数日で終わらんやつだろ!
全てを知ってるわけじゃないバッカスさんでも、僕たちはダンジョン行きなんて望んでないと察してくれている。
だからこそ逃げろって提案になったんだろう。
「…出るか、ゼイレム」
「そうですね」
「バッカスさんもすぐ出ろって意見みたいだし」
「下手したら明日そのパーティメンバーが僕らを探しに…なんて…宿屋総当たりとか、門番に話して門で見つけたら連絡しろとか、そんな…」
「即出るぞ」
「ええ…本当にやるかしら…?まあ町を出るなら出るでいいんだけど」
「まさか銅級の子を連れ回すなんて、しますかね~?」
「ええい、こういうとこがぽやぽやなんだこの姉妹!」
「まあバッカスさんの助言なら聞いておいた方がいいのだよ」
「…それもそうよね」
「感謝、バッカスさん圧倒的感謝!最後に挨拶したかったけどしゃーない!」
「ええ、せっかくの厚意です。きいておきましょう」
全員で脱出に賛成という意見になったので、もう即町を出ることになった。
もうすぐ夕方?知ったこっちゃない。夜になろうが何だろうがカーくんの中にいるなら森の中だろうが安全は確保されてる。
出来るだけギルドや宿のある方は通らずに門を目指した。
門番には今から出るのか?と聞かれたけど、欲しい素材があると言ってさっさと町を出た。
実際、夜でないと採れない素材などが幾つもあるので、そのうちのどれかだと勘違いしてくれたんだろう。
僕たちは採取依頼ばかりこなしてる実績があるし、今回も依頼だと思ってくれたのかもしれない。
…よかった、今の時点で門番に話が行ってるなんて最悪の事態はなかった!
君たちを探してる人がいるからちょっと待機してて、なんて言われたら詰んでた。うまい断り文句が思いつかない。
「っしゃ、森まで行って人目が無くなったとこでカーくんに乗り込も…ライビツだ!」
「アキ兄自重して!」
「言っても無駄です!今日の晩ご飯はウサギ肉ですよ!」
「昔食ったな、ウサギ」
「お前の昔の食生活、怖いから聞きたくないな」
リアル兎食ったのかシルバー。
まあ、海外の童話で兎をパイにしたとか何かあるし、おかしくない…か…?
てか兎が火に飛び込んで自分の肉を差し出すみたいな話も聞いたことあるし…食料としては…有り…?
個人的に魔物じゃない兎は食いたいと思わないけど。
アキ兄さんの特攻でライビツは即肉塊になった。料理スキルの派生に『解体』があるから…
そんなわけで、若干一名と一匹がホクホクしながらカーくんへ乗り込むことになった。
中級者ダンジョン攻略しないのかって?
でもタイトル、逃亡旅だから…(?)




