174.才能者と只人
ゼイレムを発ってビスムズに向かうのも選択肢に入ったその夜。
ご飯もシャワーも終わって、それぞれが自由に過ごす時間のことだ。
アキ兄さんは料理をして、ナズもクロちゃんに籠って何かを作成、ハルも温室へ。僕は短距離転移の練習でもするかと考えていた時。
深刻な顔で話があると言うので、シルバーを自室に招いた。多分内密な話だろうと思ったので。
全体的に和室もどきのため、ちゃぶ台と座布団だ。
シルバーは大人しく僕の向かい側に座った。スーはちゃぶ台の上、僕に近い場所に座っている。
和室もどきを見て京さんの家を思い出したのか、ちょっとほっとしたらしい。
最初は自室…?キャンピングカーに…?って怪訝そうな顔してたのにな。
「…で、話って何だ?僕にってことは、未来の話か才能者の話か…」
「どっちかっつーと、才能者の話、だな」
「そっちか。スーも聞いてていいのか?」
「そいつなら…まあ、いい」
若干気まずげな顔をしながら、言葉を探してるようだった。
言いづらいことか…?
「前に、この世界に来て、帰った後の話だ」
「ああ、芝と眞壁を連れ帰ってくれた時のことだな」
「そうだ。まあ、報告があったからな。俺だけ元の時代に戻って…お前から聞いた話を報告したんだ」
「うん、そうだな」
「それで…俺の、説明が、悪かったのか…」
「…ん?」
『上』が何か文句つけてきたか?
とはいえ、再度シルバーがこっちに来てるわけだから、この件について撤退、みたいな内容じゃないはず。
「あんま信じてくれなかったっつーか」
「え、異世界転移を!?あるわけないって言ったとか!?超常現象を身近に感じてるくせに信じなかったってこと!?」
「いや、違う。それ自体は信じた。そもそも俺と弟が育ったのは異世界に等しい妖精界だし、他にも似た境遇の奴はいるから」
「あ、それもそうか。ええ…?じゃあ、何を信じなかったんだ?」
「………多分めちゃくちゃ不快になると思うが」
「え、お、おう…?」
「…只人が、才能者と同等…それ以上に重要な能力を持ってるってことに、納得しなかった」
「はあ?」
「オリジンっつー、異世界にとって重要な存在が仲間になったのは、アキのスキルあってこそ、なんだろ」
「うん、そうだよ」
「世界を隔てた場所と連絡がとれるって重要な能力を持ってるのは、ナズだろ」
「うん」
「それが、リオじゃなくて、只人がそんな能力持ってるってことが、納得出来ないらしい」
「何でだよ!?」
え、意味わからん。
アキ兄さんとナズが素晴らしいって話じゃないのか。もちろんハルだって素晴らしいですけど???
この旅がここまで上手く進んでるのは三人の力あってこそだ。そこにケチつけようってか?よろしいならば戦争だ。
『主、一旦深呼吸するのだ』
「すー、はー…うん、ありがとうスー。ちょっと落ち着いた」
「…多分、だが」
「え?うん」
「劣等種、とまではいかねえが、才能者ってのは只人より上位の存在っつー認識が根幹にある」
「ええ…?」
「だから、只人がリオより凄いことが出来るってことに、納得してなかった」
「いや、僕なんて才能者って言っても新参だし大した能力じゃないだろ」
「それでもクソジジイどもは『只人』と『才能者』を明確に分けてんだよ」
クソジジイて。
まあ、僕はほぼ関わりがないからよく知らないけど、シルバーは直接依頼されたりもするみたいだし、身近な存在なんだろう。
だからってクソジジイ呼ばわりはどうかと思うけど。
「何でんなことがわかるかって…俺が、そうだったからだ」
「おお、とんでもねえカミングアウト」
「でもそう思った理由はわかる。只人をよく知らなかったからだ」
「…知らない?」
「前にちらっと話したが、俺と弟は妖精界で育った」
「言ってたなあ」
「人間界に来るまで、只人ってのを見たことがなかった。いや、見たことはあったかもしれねえが覚えてなかった」
「物心つく前に妖精界にいて、ずっとそこで過ごしてたんだっけ?そりゃ覚えてなくても仕方ないだろ」
『壮絶な人生なのだ…』
「で、まあ、色々あったが…才能者の連中に会ってからは安定した生活が送れるようになった」
「…つまり、才能者に会うまでに会ったであろう複数の只人からは安定した生活が得られなかったと」
「…ああ」
「しかも人間界に来てから自分の容姿が舐められやすいって理解したってことは…うわー、ロクな目に遭ってないやつ」
「まあ、それは才能者連中にも言えることだから、只人だけってこたあねえだろ」
「余計酷い結果だったわ。人が信じられなくなりそう」
まあそれで、シルバーの言い分としては、だ。
安定した生活を送れるようになってからは当然才能者と接して過ごすことになった。
自然、才能者だらけの中で過ごし、只人と絡む機会が殆どなくなった。会うくらいはあっても、深く関わることは皆無だったと。
これは才能者になった人たちの大半がこうなので、シルバーだけが特殊というわけじゃない。
事実、僕だって京さんの家にお世話になるようになってから、ほぼ才能者としか絡んでいない。
むしろ今回の任務で、久々に只人まみれの中で過ごすなあ、と思ったくらいだ。
もちろん、才能者界隈に只人がまったくいないという訳じゃない。が、殆どが取引先などだ。
あとは才能者の身内がいるとか、とにかく才能者という存在に理解を示してる人たちだ。
けれど絶対数は多くない。才能者は集まって行動することが多い。
異端だと蔑まれ、遠巻きにされる。だから才能者は自覚したら能力を隠す。只人の中では息を潜めて生きる。
自然、才能者と出会えばそちらと行動するようになる。自分を偽らず殺さず、ありのままに生きられるから。
そうして生きていれば…当然、只人と接する機会が少なくなる。そしてそれは相手を知らないということにもなる。
敵対してるわけじゃない。ただ、自分たちに関わりのない存在と認識している。するようになる。
シルバー曰くのクソジジイ連中も、昔…それこそ自分たちが才能者に目覚めた当初は只人と接していただろうが、今はほぼ皆無だという。
クソジジイという単語が示す通り、接していたのはかなり昔ということで。
「今を生きてる只人のことなんざ、ほぼ知らねえだろうさ。存在は許容しても、関わりがないから…無関心だな」
「あー、興味もないってことね」
「俺もそうだった。只人なんて、そこら辺にいる大多数の人間としか思ってなかった。一括りにしてたな」
「シルバーは只人と深く接した経験皆無っぽいし、仕方ないっちゃ仕方ないこと、か…?」
「…かもな。けど、今は知った。能力がねえだけの、俺たちと変わらねえ人間ってのを、初めて知った」
「そうだね」
「兄弟を心配するのは、才能者も只人も関係ねえ。同じなんだと思った」
「…なるほど、切欠はナズの弟くんとハルの弟妹か」
「そうだ」
シルバーにも溺愛してる弟がいる。兄弟に何かがあったら心配するのは当然。
そしてそれが、才能者とか只人とか関係がないことを、初めて実感して知った。
恐らくここで『その他大多数』から『個人』に変わったんだな。
「任務とか関係なく、姉に会わせてやりたいと思った。姉たちに…あの三人に会って、元の世界に戻してやりたいと思った」
「そっか」
「リオと一緒にいなくなった生徒じゃなくて、アキ、ナズ、ハルっていう、ひとりの人間だと思うようになった」
「…うん」
「クソジジイどもが、アキたちを格下みたいに思ってると知って、ぶん殴ってやろうかと思った」
「それはやめな?やめたんだよな?やってないよな?」
「ギリギリ堪えた」
「えらい」
「…でも、そう思った後で気づいた。クソジジイの認識は、ちょっと前までの俺と一緒だってな」
「まあ、会ったこともない人たちより会ったことのある僕を優先したくなるのは、わからなくもないよ」
「…そういうもんか?いや、そうだな。俺も、知る前はそうだったんだから」
知らないからこそ、軽く見る。
テレビとかニュースで「災害で千人が死亡」なんて流れても、大変だと思うことはあってもどこか他人事だ。
それが知り合いの住んでる地域の近くならまだしも、行ったこともないような場所だと「募金とかあったらするかー」くらいの熱量だ。
仕方ないと言えば仕方ないだろう。上層部がアキ兄さんたちを軽視してること、個人的に僕はイラっとするけど、それだけだ。
「だから、せめて…少しでもあいつらを知ればと思って」
「ん?変な方向に舵切らんかったか今」
「あいつらをスマホで撮影してやろうかと」
「何でそうなった」
「口頭や資料の文字でしか知らねえより、ちゃんと顔とか見ればと思った」
「そうかもしれないけど、見たがるかなあ!?」
「それはちょっと考えた。アキが料理してるとこか戦ってるとこ、ナズが服作ってるとことか、そういう場面を撮影すりゃいいかと思った」
「あー、なるほど?只人だけどこんなに凄いことが出来るよって伝わるから?あとスキルってものを見せる意図があるか」
「ああ。いっそ動画でもいいな。…って考えたところで」
「ん?」
「何て言って撮影許可貰えばいいかわからなくなった」
「…ちゃんと許可得ようとしてたんだな、偉い」
「今、お前に言ったような内容だと、絶対不快にさせるだろうし。かと言って、それ以外に理由も思いつかねえし」
「…その相談に来たってことか?」
「………」
無言で頷かれた。…なるほど。
でも案としては良いような気がするな。
上の連中も、信じてないというよりは『才能者より只人の方が凄いなんてそんなはずない!』と意固地になってる感じだし。
事実、ラムが仲間になってくれたのはアキ兄さんのおかげで、『伝達』って権能はナズの力だ。
ハルだって安全地帯をずっと作ってくれている。カーくんがここまで森も何も関係なく爆走出来るのは間違いなくハルのおかげだ。
「別に正直に言っちゃってもいい気がするけどなあ」
『クソジジイちゃんの言い分がシルバーちゃんは気に入らないってことなら、そう言えばいいのだ』
「それにちゃんづけせんでいいだろ、スー」
「今笑いそうになった」
「笑って良かったんじゃないか?」
「そうかもな。…でも、あいつらを不快にさせたくねえ。今日も、俺のステータスがあいつらを超えたってのに、あいつらおめでとうしか言わねえし」
「桁違い過ぎて妬む気にもならないんだよ。レベル7で僕らのHPとMP超えたって凄すぎるもん」
「…俺は、結果出したら妬まれてばっかだった」
「ただ『おめでとう』って祝われるだけなのが初めてで戸惑ったわけだ」
「初めてじゃねえけど…何か、当たり前みたいにそう言われて…少し嬉しかった」
「少しじゃないだろ。めちゃくちゃ嬉しかったんだろ」
「うるせえ」
ああ、でも、だからこそ。不快に思われるのが怖くなったのか。
人付き合いってジャンルに関してはこいつ本当に自信がないみたいだからな。
自分の言葉が他人をどれだけ傷つけるか、その塩梅が良くわからない。
ユリちゃんで失敗してるらしいから、慎重になってるんだろう。
今は周りにいる連中が、多少失礼なこと言っても大らかに受け止めるかその場で反発して殴り合って発散させて終了か、そんなのが多いらしい。
てか後者は絶対アルさんだろ。引きずらないならそれでいいけど。…ん?僕もそうか?失礼なこと言うなってその場でビンタしようとしたことあるし。
「でも、頭の固い連中に示すために撮影したいって言えば写ってくれるんじゃないか?」
『そいつらにアキちゃんたちが凄いって伝えたいんだから間違ってないのだ』
「まあ、そう…か?」
「明日みんなに提案してみよう。ついでにベルさんや森族姉妹も撮ろう」
「ああ、その三人も撮りたいな。人間族以外もいるって伝えたが、半信半疑だったし」
妖精や妖怪や怪異がいる界隈にいながら、何故信じないのか…
ああでも、あっちの基準じゃ簡単に協力してくれる存在じゃないんだっけ。妖精だってシルバーとユリちゃん兄弟以外は拒否ってるらしいし。
二人のお母さんも締め出されてるらしいって聞いて笑っちゃったよ。何でだ。
妖怪も、ほんの一部が京さんに気まぐれに協力してくれるくらい。
クラーフのように、当たり前のようにそこらをうろついて生きている存在じゃない。
選ばれた人しか会えない存在。そういう認識だからこそ、こっちの魔族やら獣族やらが信じられないのか。
あいつらの中では、特定条件がないと姿も見られない存在、と認識されてるから。
…頭固すぎるだろ。ここ、『異世界』ぞ?常識が違う世界だぞ?
「協力するから、あの頭でっかちどもの鼻明かしてやろう」
「そうだな。年取るとどうも固定概念から抜け出せねえみたいだからな。俺もそうだが」
「…お前さあ、マジで何歳?」
『わたしよりは…年下なのだ?』
「さすがにスーよりは下だがマジで年覚えてねえ。妖精界にいたから、人間界でどういう出来事があったかも知らねえし」
「あー、そうだよな。さすがに百年戦争真っ只中とかルネサンスとかなんちゃら革命とかが起きてればわかっただろうけど…妖精界じゃなあ」
「お前俺を何歳だと思ってんだ…別にいいけど」
三桁くらいいってんじゃないかなって予想してるけど、マジでわからん。
まあ、それはそれとして。
シルバーが他人への歩み寄りを見せたってのは、結構な進歩じゃないか?
ユリちゃんに報告したら喜びそう。もしくは歩み寄ろうとしてる相手に嫉妬するかな?
「じゃあ、明日だな。てかスマホで撮影した画像って向こうで見れるのかな?」
「駄目でも花娘に頼めば何とかなるだろ」
「ああ、メイちゃんか」
映像関係の能力持ちだもんな。
それはそれとして名前酷いけど。エリさんが花女でメイちゃんが花娘って。
確かにどっちも髪に花飾りつけてるけどさあ…
これは京さんが二人にお揃いの花飾りを贈ったものでもある。僕は戦輪になるお守りだったけど。
何か二人には女の子らしい贈り物じゃない!?いや、京さんから貰えるものなら何でも嬉しいけど!
そして京さんが贈ったものである以上、普通のものであるわけがない。
僕は知らされてないけど、何かしらの効果が付与されてるものだと思われる。
京さん自身に何かをした自覚は無くても、力が強すぎて何かが籠ってる可能性は高いのである。
例え、老人会で聞いた手慰みの造花作りを試してみたかったという理由だとしてもだ。老人会とか行ってたんだ、京さん…?
そんなわけで、エリさんもメイちゃんも京さんから貰った花飾りをいつもつけてるのである。
生憎、僕には可愛いことしかわからないけど。
なお、エリさんは美人系でメイちゃんが可愛い系のため、シルバーはメイちゃんを娘なんて言ってるのだろう。実際メイちゃんの方が年下らしいし。
…他の呼び方あるやろ、と思わなくもないけど、ネーミングセンスの話題になったら不利なので黙っておく。
「…まあ、このスマホは市販品じゃなくて研究室が作った記録用のやつだ。問題ねえだろ」
「あー、才能者しか扱えない系のやつか」
僕が持ってる通信機と同じタイプのやつだな。動力が才能者の力っていう。
え、シルバーの力が動力ってことはほぼ電池切れ考えなくていいスマホってことじゃ…?
「…ネットとかは見れねえぞ」
「心読んだ!?」
「顔に全部出てる」
「何てこった!」
「これはさっき言ったように記録用だ。画像保存、動画保存、録音機能。そっちに特化してるからな」
「じゃあスマホじゃないじゃん」
「元の世界なら普通にスマホとして使える。こっちにゃネット回線も通話する相手も皆無だろ」
「…それもそっか。んじゃこの話題終わろうか。スーが?マーク飛ばしてる」
「…そうだな」
『異世界、わけわからんのだ』
「ごめんて」
「…じゃあ、俺は部屋に戻る。話したいことは終わったからな。じゃあな」
「あ、うん」
さりげなくスーの頭撫でてからシルバーは出て行った。
スーは撫でられるのが好きなので気持ちよさそうにしてたから、まあいいか。
「スーたちも撮影対象だからな」
『えっ!?』
「オリジンも記録しといた方がいいだろ。嫌ならいいけど」
『…いや、構わないのだ。アキちゃんたちを侮る相手の鼻を明かすためなら何だってするのだ…!』
「おお、それが理由か…何でもいいけど」
この日はそのまま寝て、翌朝、朝ご飯を食べた後にみんなに写真撮影をしたいと伝えた。
ネロと森族姉妹は何のことかよくわかってなかったみたいだけど。
百聞は一見に如かずということで、従魔組から撮影することになった。
掲示板の件でどういうものかは伝えてるので、理解が早かったのもある。
ただ、掲示板は見れないので、想像の域を出てなかったのだろう。
実際にシルバーが撮った画像を見せると盛大に驚いていた。
「ラムが可愛い!この画像ください!」
「…スマホねえだろ…送り先がねえよ」
「そうだったー!」
「くっ、私のスマホ、充電切れなんですよね…!」
「えええすご…!これ、『投影』…?」
「はー、思ったより綺麗に写ってるのだよ。写真というのは聞いたことがあるけど」
「ベルさんのへっぴり飛行もこうやってバッチリ写ってましたよ」
「ギャー!思い出させないでほしいのだよー!」
「ってわけで、これで撮影したいんだが…」
「いいわよ!きなさい!でも後で見せてね!」
結構あっさり撮影許可が取れ…撮影大会になった。
でもな、シルバー、ネコマタ状態のネロのへそ天はいらないだろ…それ、『上』に見せる気ないだろ…!
Q.シルバーさん、何でリオの部屋にネロ連れて行かなかったの?
A.その時、ネロはベルが温室で飛行練習してるのを見学してた
「うまく飛べるようになったのだよ!」「よかったね(親の気持ち)」みたいな
シルバーはその様子を見て、楽しそうだからそのままにしておくかと思った




