172.採取と討伐
「初依頼にしては上々じゃないか?」
「こんだけお膳立てされてりゃ誰でも出来んだろ…」
「…採取のプロフェッショナルがいますからね」
「でもシルバーもきっちり採取出来てるじゃない!全種ちゃんと採取方法覚えたんだから上等よ!」
「教えても覚えない冒険者はいましたからねぇ…」
森族姉妹は採取が得意ということで、ギルドに頼まれて冒険者連中に採取の手ほどきをしたこともあるようだ。
結果は…彼女たちの顔を見れば察せられた。駄目だったんですね、わかります。
「根を引き千切るなって何度言わせるってのよ…!」
「茎を鷲掴みにするから葉っぱも散りますしねぇ…」
「どんだけ雑にやってんだ。一応仕事だろうに。まあ俺も果物もぐ時に果実握り潰されたらブチギレる自信あるけど」
「手が汚れるからさすがにやらない…と思うけど…でも、何でやんねんそんなことって思うのは同じなんかなあ。これはギルド全体で悩みの種になるのもわかる」
「どこのギルドも、登録したてで戦力に乏しい子供の冒険者くらいしか採取依頼受けてくれないって言ってましたものね」
「その頃は1ガルドでも欲しいから、ちゃんとやるって話だったけど。でも討伐依頼受けられるようになったら、その頃の採取方法忘れるんだっけ?」
「普通忘れるか?そんなこと。自転車と一緒で一回覚えたら忘れねえタイプのもんじゃねえの?」
「ジテンシャが何かはわからないけど…討伐依頼繰り返してると、とにかく攻撃を重視するようになるのよ。小手先の技術より力を込める方がいいって学ぶのね?そのせいだと思う」
「あー、それで採取依頼の時も力いっぱいむしり取る、みたいな採取方法になっちゃうんですか…そんなことあります?」
「あるんですよねぇ、何故か」
それだと、魔物倒しまくってたらシルバーも採取のやり方忘れるってことにならんか?
こいつ割と中身は男というか、豪快というか…ザックリしてるしな。ありえる。
むしろユリちゃんの方が色々細かいところを気を付ける感じだ。
何ていうか、火の魔物とか出たとしたら、ユリちゃんは水ぶっかけて攻撃しようとするけど、シルバーだと知ったことかとばかりに拳繰り出すっていう。
物理で突き進むというか、脳筋冒険者の同類な気がするなあ…
「何か失礼なこと考えてんだろゴラ」
「ぎにゃー!」
「リオ兄、また変なこと考えたの?」
「あら、アイアンクロー好きですねシルバーさん」
「誰も助けてくれない!」
「リオは物理耐性あるし、シルバーはまだレベル低いからどうとでもなると思ってるのだよ」
「ひどい!」
「そうでした、シルバーさんレベル低いんでした。レベル5にはしたいですよね。権能覚えるレベルですし」
「確かに。俺たちよりHPとか成長率高そうだけど、さすがにレベル3は心配になるよな」
「依頼分は採取出来たし、ここからは自由行動でも問題ありません。ちょっと魔物探しましょうか」
「ネロが足止めしてシルバーがぶん殴れば従魔術スキルの経験値も溜まるだろ」
『そうなんだ?わかった、ぼくも頑張る』
「鞭術は足止めしやすいもんな!あたしもラムもよくやるし」
「そうか、じゃあそれでいくか」
シルバーの杖は、僕が出した木材をベルさんが木工スキルで作成したものだ。
今はとにかくスキルレベルを上げることと攻撃力を優先ということで、目潰しの杖と同じで魔法関係は考えない丈夫さ優先のものに仕上げたらしい。
ほんとに木材か?ってくらい硬かった。僕がスキルで調整するまでもなく鉄製並の硬度だった。
シルバーも気に入ったのか、しばらくはそれを使うらしい。
そういえばベルさんも武器は杖だもんな。今持ってるのも自作みたいだし、杖は作り慣れてるのかもしれない。
「じゃあみんな、ちょっと魔物探してくれるか?」
『はいです、ご主人様』
『ラテも見つけるですの!』
「すぐ見つかるとしたら、またカマキリやろか…この辺多いっぽいし」
この辺りに出る魔物をシルバーに説明してると、ラムたちが魔物を見つけてきた。
数が多いということだったので、やっぱりフォレマンティスか。あいつら群れで襲ってくるからな。
ならシルバーだけに任せず、僕たちも参戦するかと思ったところで。
「ゴブリンじゃねーか!」
「あ、これフォレホブゴブリンですよ!」
「アキ兄さんが受付嬢に押し付けられそうになった魔物じゃん!うわ思った以上に繁殖してんじゃないかこれ!?」
「ちょっとまずいわね、数を減らしておかないとゴブリンは面倒よ!」
「100匹単位でいそうだ。仕方ない、全員でフルボッコにするのだよ!」
「ふるぼっこって何ですかぁ?」
「全員でボコボコにすること」
「間違ってないけど適当やなあリオ兄!」
「いいですね~フルボッコ!やってやりましょ~!」
「大丈夫ですか?シルバーさん。初戦闘でいきなり人型の魔物ですが」
「頭砕けば倒せるか?」
「物騒な返事来ました!それでいいですけど!」
そういえばアイさんたちも戸惑ってたな。ハルはそれを思い出したんだろう。
でも、気遣ってくれてアレだけど、そいつグロ系ものともしないんだ。
僕がグロ系に耐性ついたの、シルバーが平然とグロ集団蹴散らしてって一切表情変えなかったのも理由なんだ。
ほら、誰も怖がってなかったら「あれ、これ実は怖がるようなものじゃないというか、大したものじゃない…?」って思うようにならん?
そんなこんなで慣れた後にユリちゃんとグロ系に出くわして、ユリちゃんが顔顰めたのを見て「あ、不快に思っていいやつなんだ」って再認識したというか。
あとシルバーは自らスプラッター生み出すからな。グロいヘドロが出た時なんか机で叩き潰してたし。
触るのは嫌でも潰すのは躊躇なしっていうな。
だから鈍器なんて装備させたらマジで撲殺していくはずだ。躊躇いもなく。
心構えや立ち回りって部分では問題ない。あとはステータス差で押し切られないかが問題か。まだレベル3だからさすがにな…
ちょっとフォローを意識した方がいい…
「―――ギョギャァ!」
「お前今ハル見てニヤけやがったなクソ小鬼野郎が!」
「り、リオ兄さんー!?」
「まあ、ゴブリン系なら女を狙うのはおかしくないのだよ」
「って、あの子飛び出してっちゃったけどいいの!?」
「スーが近くにいるから大丈夫大丈夫。俺とリオくん男に見えてるのか、あんま狙われないし」
「確かに女性陣に視線向けてるから僕ら男は眼中になさげなのだよ。つまり殴り放題だ!」
『やっぱりベルくんも魔族です。好戦的です』
そこからは総力戦でボコった。
これだけのメンツがいれば数で圧倒されてようが負けるなんてまずないし。
どうやらシルバーもそこそこボコったらしい。何故か正面から突っ込んでくるのが多かったからやりやすかったと。
お前、女に見做されてるよそれ…と思ったけど、まあ、言えませんでしたよね。
「レベル5になったぞ」
「マジかお前。異世界二日目だぞ?まあ、この辺の魔物は経験値多いけど」
「権能覚えました?」
「ああ、覚えたみたいだ」
「おおおやったで!ネロくんのおかげやでー!」
『え、ぼく?』
『今シルバーくんに同行してるオリジンはネロだけですから』
『わたし達はもう主たち四人で設定してしまってるのだ』
『あ、そっか、そうだね。…ぼく、いる意味あったね、嬉しいな』
「何を言う、ネロ様。いる意味がないなんて誰も思ってないのだよ」
そういえばネロってたまにネガティブなこと言うな?
影って魔物の特性上、あんまり好かれないのか?闇っぽいイメージあるから?
…ぽいも何も今の種族がダーク(闇)か。
「ところでシルバーさん、権能何でした?」
「時間作用、らしい」
「ヤバ気な予感がするやで!」
「それ時間操るとかそういうやつじゃないですか!?」
「弟の能力覚えてんじゃねーよ!」
「んなこと言ったらお前の『空間作用』ってのも俺の能力じゃねえのか」
「そういえばそうだったかもなー!?」
「え、そうなの?」
「…思えば、シルバーさん、空間に道作ってこの世界に来てるわけで…?確かに空間系の能力者じゃないですか…?」
「何?てことは、才能者たちは知り合いの能力が権能になるの?リオくんの能力も誰かの権能で出る?」
「しらん………」
「まあ、才能者、二人しかおらんから検証のしようがないよな…」
ソウダネ…
ちなみに、僕たちが10年前の時代に渡ってるのはシルバーとユリちゃんの複合能力によるものだ。
ユリちゃんて他の人の能力と組み合わせるとかなり凶悪なんだよな…
メイちゃんの映像化能力と組み合わせると過去の映像引きずり出したりするし。
とはいっても、権能と才能者の能力が全く同じわけじゃない。実際、僕の空間作用だってシルバーの能力とは似て非なるものだ。
さすがのシルバーも、記録した場所にワープなんて出来ない…はず…
「そっちの世界、そのサイノウシャ…ってのがいるわけ?どんな世界なのよ」
「少数派!めちゃくちゃ少数派!ほとんどの地球人は平々凡々だから誤解しないで!ほら俺見て!こんなに普通!」
「ご飯についてうるさいのが普通なんですか~…」
「あ、そこは普通じゃないです。食材バーサーカーも希少な存在です」
「才能者と並べないで欲しいなー!?」
「はー!?僕だって普通ですし!?」
「リオは普通じゃないのだよ。というか召喚者全員何かしらおかしいのだよ」
「嘘やん巻き込まれた!?」
「遺憾の意。不本意です」
「俺だってそこまでおかしくねえだろ」
「ダントツおかしいんだよ、お前は!」
「は?」
「ぎにゃー!」
「またアイアンクローですか。リオ兄さんも懲りませんね」
「あれ、僕が悪いのこれ!?」
嘘だろ…?事実を言っただけなのに…?
ていうか物理耐性に経験値入ってるってことは結構な攻撃力だろこれ。手加減してくれ。
「なあ、俺レベル上がって21になったんだけどさ。俺が上がったってことはみんなも上がるんじゃないか?」
「…確かにそうですね」
「実は僕もレベル上がったのだよ。大したことじゃないけど」
「え、おめでとベルさん。アキ兄もおめでと」
「そういえば私、短剣術がそろそろ上がるはず…」
「あらそうなの?なら時間はあるし、もうちょっと戦いましょっか。もうゴブリンは嫌だけど…」
「あのニヤ~ってした顔、嫌ですよねぇ」
「僕とシルバー以外女だし、いっそフォレマンティスの方がいいかもしれないのだよ」
『ふむ…しかし、近くにいる魔物が何かまではある程度近づかぬとわからんな…』
『群れだとゴブリンかマンティスか、わからないですのー…』
「…近くにいる魔物片っ端から片付けりゃいいんじゃねえのか?」
「蛮族の思考回路だなあ」
「もっかいアイアンクローいくか」
「嫌です!!!」
ひとまず、まだ魔物と戦うということで意見が一致したので、しばらく森を回ることが決定した。
が、その前にやることがある。これは討伐依頼じゃないけど、かと言って放置するわけにもいかない。
「シルバー、魔物を倒した後にやらなきゃいけないことがある」
「は?」
「あー、そっか、これ教えないと駄目だよな」
「そうね、このまま魔物の死骸を放置したらアンデッドになっちゃうもの」
「あー、なるほど…?そりゃゲームじゃねえもんな。死骸、残るよな」
「ダンジョンの魔物は倒したらドロップ品に変わるんですけどね。それ以外の場所だとそうもいかないので」
依頼を受けてないので火の魔石なんかは貸し出されてない…が、ここには魔法スキル持ちが大量にいるので問題はない。
むしろスキルレベルの経験値稼ぎが出来ると考えてもいいくらいだ。
まずやることは死骸の処理。幸いというべきか、ゴブリン系は素材らしい素材はないので丸ごと廃棄でいい。
穴を作るための土の魔石もないけど、穴を空けるだけなら簡単だ。
今回はラテが地面に穴を空けてくれた。そしてその中にどんどんゴブリンの死骸を放り込む。
「とりあえずここまでで」
「まだ大量に残ってるぞ?」
「この死骸燃やしてからな」
「…ああ、なるほど」
「スキル経験値稼ぎのためにアキ兄さんとシルバーさんにお願いしましょうか」
「俺『灯火』しかないが、いいのか?時間かかるぞ」
「MP有り余ってんだから乱打すればいいじゃないか」
「スキルレベル5で『火球』覚えますし、これ覚えたらかなり楽に燃やせますよ」
「俺は『火球』で行くぞー。『火炎放射』は穴に向かって放つのはアレかな?」
「直線上を燃やすやつだからなあ…『火球』の方がよさそう」
「燃やし尽くしたら残りの死骸も放り込んで第二弾行くのだよ」
「よし、じゃあやるか」
「おー!頑張ろうなシルバーさん!」
そうして焼却が始まったわけだが…
シルバーの『灯火』、アキ兄さんの『火球』と同じくらいの大きさじゃない???
どういうこと???
『多分、魔法攻撃力の差です。シルバーくん、魔法攻撃力高いですから』
「チート、シルバーさんマジでチート」
「レベル5のシルバーがレベル21のアキ兄さんの魔法攻撃力超えるのか…やばいな…?」
「まあでもアキ兄さんは物理攻撃力の方が優秀ですからね」
「物理も負けてそう!」
「さすがに剣と杖なら剣に分があると思うなあ…」
「杖技や杖術には物理攻撃の遠距離がないのだよ。衝撃波のある剣術や蹴術の方が立ち回りやすいと思う」
「あー、そっか、シルバーって遠距離が魔法しかないのか」
「『投擲』スキル、欲しかったな俺…溜め無しの遠距離攻撃がねえ」
「ほんまや。魔法は詠唱があるからな。シルバーさんにも弱点あったか」
僕の体術もどきはシルバーの教えみたいなもんだから、蹴術と護身術のどっちかは覚えると思ってたんだけどな。
実際取得テストはしてみたものの、覚えなかったのである。蹴術の派生に衝撃波あるから、覚えてたらタメなし遠距離あったのにな。残念。
ああ、でも、僕が立ち回るなら足の方がいいって言われたんだっけ。腕力より脚力の方が、ってことで。
…腕力がしょぼすぎただけとも言う。あと、そこそこ足が速かったから、それなら脚力の方がマシと判断されたにすぎない。
あと護身術は半分くらい京さん仕込みだ。あの人、殴ろうとしても蹴ろうとしても攻撃いなしちゃうんだよ…優しげな見た目に騙されてボコられた奴は結構多い。
僕としては、京さんに害意を持った時点で許し難いので、京さんの元に辿り着く前に僕の手で排除したい気持ちでいっぱいになる。
やったら京さんに怒られたけど。何故…
なので、それ以来大人しくすることになり、実戦らしい実戦はこのクラーフに来てからがほぼ初である。
…ともかく、シルバーは足での攻撃よりも杖のような鈍器での攻撃の方が向いているということだろう。あと魔法。
「よーし、燃やし尽くしたぞ。第二弾行くかー」
「全部落とすのだよー」
『主さん、アキさん、MPは大丈夫?』
「問題なし!」
「余裕」
「くっ、余裕とか言ってみたい…ッ!俺、一番MP低いからな…!」
「ところで、燃やし終わったら次の獲物探すのか?」
「そうですねぇ。その前にこの辺りを土属性に染めないとですけど~」
「染め…?」
「大量の魔物の死骸が溢れたことで、闇属性に偏っちゃってるのですよぉ。これ放置すると、霊体系の魔物が発生しますぅ」
「ああ、死骸処理だけじゃ駄目なのか。めんどくせえな。俺、土魔法は『乾燥』しかねえぞ」
『大丈夫です。ラムがやるです』
『闇属性のマナはぼくが吸っちゃうよ』
『あ、それだとすぐ終わるです。助かるです』
このあたりは土属性と僅かな火属性の土地らしい。
なお火属性はさっきアキ兄さんとシルバーが焼却作業で大量にばら撒いたので、あとは土属性を足せばいいそうだ。
「魔物討伐ってのも案外面倒なんだな」
「大量にやっつけたら必要なだけで、数匹とかなら死骸燃やすだけでいいんだって。周りのマナが勝手に調整するから」
「ああ、さっきみたいに大量に出たら、か。そういや前の山も結構な数の魔物いなかったか?」
「あそこは死火山だから火属性のマナが溢れてるし、倒したのがスーとフレムバードっていう火の鳥だから大丈夫なんだってさ」
『闇属性が入る余地がないのだ。わたし達も大半燃やして倒したし』
「そうなのか。ならよかった」
『こっちも調整終わったです。もう大丈夫です』
「お疲れラム!」
「ネロもありがとな」
『う、うん』
シルバーにお礼言われてしっぽがハリケーンに…犬より顕著な感情表現だなあ。
猫って本来こんなことにならないんだろうけど、中身猫じゃないしな。溢れた感情がこんなことになってるだけかな?
とにかく、これで移動できる。あとちょっと魔物倒して、レベル21に上がればいいな。
そこまでやったら町に戻ろう。
…と思ってたら、僕たちより先にシルバーがレベル6になった。貴様。




