169.お礼と合流
今日の予定は、昼にバッカスさんと会うこと。
夕方にシルバーを迎えに行くために町の外へ行くこと。この二つだ。
「はぁ…」
「まだ心配してるんですかリオ兄さん…」
「一体どういう奴なのだよ…」
「あ、お帰り、ハル、ベルさん。もう用意はいいの?」
この二人はさっきまで温室にいた。
多分ハルは植物の世話で、ベルさんはもしかしたら飛行の練習だったのかもしれない。
あとは森族の二人も温室がお気に入りのようで、昨日から何度も温室へ通っている。多分今も温室にいる。
「ええ、私たちはもう大丈夫です」
「隠密のスキル経験値稼ぎもやってたのだよ」
「あ、そうなんだ」
アキ兄さんはキッチンでごそごそしてるし、ナズはクロちゃんの中だ。
何着か作ってたらしいが、シルバー用の服を用意してるらしい。思えば、この世界に留まるなら服いるよな…
なお、トランクス派かブリーフ派かを聞かれたが正直知らんとしか答えようがなかった。
バッカスさんの予定次第ではあるけど、広場で合流した後に町の外へ出る。
森などの人目のない場所まで行ってカーくんへ乗り込み、そこでバッカスさんにお昼をご馳走する。
というのをアキ兄さんが考えてたわけだけど、バッカスさんが今日予定あるようなら、僕たちだけで昼食になる。
で、夕方まで採取しながらシルバーを待つ、と。
どうか…どうか平和に済みますように…!
『いらん心配するんじゃないのだ主。教わったポーズちゃんとやるから』
「ポーズって、スーにぶりっ子ポーズ本当に仕込んだんですかリオ兄さん…!?何してるんですか」
「打てる手は打っておきたいなって…」
『あとはぼくもヘソテンとかいうのやればいいんだよね?』
「こらっ!ダークくんにまで何仕込んでるんですか!へそ天ってネコマタ状態でですよね!?」
「打てる手は打っておきたいなって…」
「二回も同じこと言わなくてよろしい!完全に迷走してますからね!」
いや、普段ならユリちゃんを放り込めば機嫌は治るけど、ここにユリちゃんいないからさ…!
もう可愛いもので気を逸らす、くらいしか思いつかないんだよ…
なお、ユリちゃんの偽物を用意した場合は地獄の光景かと思うほどの怒りを見せるので、その案は廃案だ。
なので『形状変化』や『変身』スキルでユリちゃんそっくりの子を用意するという策はとれない。
何より、このスキルを持ってる従魔たちは、ユリちゃんがどういう顔かもわからないしな。
僕に絵心はないので、天使を描いても化け物しか生まれなかったのである。
それでなくても偽物案は無しだからな。ちなみにコレやったのはアルさんで、半殺しにされたとぼやいていた。ブラコンここに極まれり。
「ほら行きますよ、リオ兄さん」
「はーい…」
「ねえ、そのシルバーってそんなに怖い奴なの?」
「俺たちも少ししか話してないからなあ…」
いつの間にか全員外出の準備が出来ていたらしい。気づいたら揃ってた。
うん、じゃあ、行くか…
全員でカーくんから出て、待ち合わせ場所の広場へ向かった。
時間は昼としか言ってないので、バッカスさんを待たせないように早めに向かう。
「…あれ、バッカスさん、もういる!」
「え、嘘!?待たせた!?」
「おう、来たかお前ら。気にすんな、オレが早く来ちまっただけだ。つかお前らも早いな」
「う~、目上の人を待たせないようにってあたしらも早く来たつもりだったのに」
不覚。だってまだ11時とかだぞ。
待ち時間は情報収集でもするかって、その辺の建物に話しかけようかと思ってたのに。
まあ、早く合流出来る分にはいいけど。
「バッカスさん、今日時間ある?」
「あん?まあお前らと会う以外に用事はねえから、ギルドに顔出すか、くらいしか考えてなかったな」
「そういえばバッカスさんのパーティメンバーはどうしたのだよ?合流しなくていいのか?」
「まだあのダンジョンにいるだろうさ。脱出したらゼイレムの宿に集まることって決めてたからな。まだ誰も戻ってねえ」
「あー、バラバラに行動するのがわかってるなら、確かに集合場所決めとくか」
「そういうこった。てことで数日はまだこの町にいるな。ソロで依頼受けんのもアレだし、のんびりするさ」
「じゃあ予定ないんだな!」
「ん?ああ、そうだが…」
よし、じゃあ連行だな。町の外まで行こうかバッカスさん。
お昼ご馳走するよーと言って、門まで引きずって行くことにした。多分バッカスさん「???」状態だろうな。
普通ご飯出すなら町の中のはずだし、何で外?って思ってるはず。
でもここで細かい説明するわけにもいかないなってことで、若干強引に連れ出した。
バッカスさん、半分諦めてた。ごめんな…
そして町から出て森に入り、しばらく。
開けた場所があったのでここにカーくんを出すことにした。
カーくんを見たバッカスさんからの一言はこちら。
「………召喚者、意味わからん…」
「まったくよね。昨日見てびっくりしたもの」
「まあまあ、中へどうぞ。これが僕たちのテントというか寝床というか宿だよ」
「正体は車なのだよ」
「まったく理解出来ん」
呆然としたままだけど、中に連れ込んだ。
空間拡張されてることは驚いてなかったけど(自分のテントもそうだから)内装には驚いていた。
やっぱりクラーフの人にとっては見慣れない風景なんだろうなあ…
「なるほどな、異世界だわ」
「ね、私たちも使い方サッパリわからなかったわよ」
「これは…椅子、なのか?ソファ…?」
「座席の椅子だね。ベッドにもなるよ」
「は???」
ソファベット、この世界にないのか…背もたれを倒せば寝台になると説明すると微妙な顔をされた。
そしてアキ兄さんがいつもの指定位置にドリくんを出したのを見て呆れ返っていた。一度見たとはいえ、見慣れないものだからだろう。
それに、いつも出す場所ということで、サンを含めた従魔用のスロープ付き階段が近くに放置されてる。僕が前に出したやつだな。
手慣れた様子でそれをドリくんの側面に設置していたので、もう何を言えばいいのかわからないという状態だという。
僕たちにとってはもうこれが「当たり前の光景」になってるけど、バッカスさんにとってはわからないことだらけという状態のようで。
「便利っちゃ便利なんだろうが、何だ…オレの中の常識が壊れる音がする…」
「コツを教えてあげる。理解せずに慣れるのよ。こういうものなんだって受け入れるの」
「というか、これだけ常識が違うのであれば、この子たちがこの世界で行動する時、うっかり何かやらかしそうって心配する気持ちがわかりますぅ」
「そうよね。正直、私たちいらないじゃないって思ったけど…ちょっと見てないと無意識にやらかしたり口を滑らせそうだもの」
「それは僕も思ったな。幸い、みんなこっちの習慣などを学ぶ意欲はあるから、気づいたら教えるだけでいいと思うのだよ」
「教えられても改善しようとしない奴っているものね。そうじゃないなら、こっちも手助けの手間は惜しまないわ」
「なるほどなァ…それでこの世界の人間と共に行動、か」
「現地人の案内があると楽ですからね。ただ、その相手を闇雲に探しても利用されるだけと思って、深く接触しないようにしてたんです」
「だから最初の方は本当に僕たちだけだったよ。初の加入者は獣族のシェリルだし」
黒の鉄槌やグランツさんと会って、クラーフ人も信用出来そうな人がいると知った。
けど、まず異世界人という所から説明する必要があるので、それが面倒と思ったのもある。
シェリルはオリジンウルフであるフェンリルの眷属だったので、最初から深く関わっても問題なかった。
まあ、シェリルの同行はフェンリルから依頼された形ではあるけど。
そしてベルさんもリーゼもシャルもオリジンに関係が深い。
だから共に行動しても、僕たちを利用するとかそういうこと考え無さそうと思ったという理由もある。
シェリルと一緒にいることで、オリジンに関係が深い人は大丈夫だと思うようになったからだ。
これはオリジンが、いつ現れるかもわからない召喚者について眷属に話していたというのも大きいだろう。オリジンに感謝。
「フェンリルの眷属たあ、またえらい奴と知り合ったな…」
「八歳の女の子でしたけどね。まあご家族のウルム家全員と知り合いましたけど」
「雑談でオリジン様やその関係者がポンポン出てくるって凄いわね…」
「オリジンタイガ様の眷属にも会ったんですよねぇ。まさかゼイレムにいたなんて」
「今頃ビスムズにいるんじゃないかな?」
今まであったことをざっくり説明してたらクラーフ組がシワシワな顔してた。
改めて考えると結構オリジンの知り合いいるな…?下手したらヒト族より魔物の知り合いの方が多いぞ僕たち。
雑談してると、アキ兄さんがご飯の準備出来たぞーと声をかけてくれた。
全員で食器出したりドリくんから飲み物注いだりしてテーブルに並べていく。
「これは…異世界の料理、か…」
「わぁ~、美味しそうですぅ」
「まさかのピザ」
「シチュー何種類あるんだ。パンも何種類あるんだ」
「パンにシチューつけて食べると美味しいから…つい、食べ比べをと思って…」
「ラムの顔めっちゃ輝いてるんやけど」
「ホワイトシチューとロールパンの組み合わせが至高だと僕は思います」
「ほぉ?どれだ?食ってみるわ」
「私も私も!」
「よし、たくさん食べるのだよ!いただきます!」
「いただきます!」
「森と自然の恵みに感謝を捧げます」
最初これ聞いた時、何事かと思って聞いたら森族流のいただきますの挨拶だそうだ。何か丁寧。
ピザの理由は、冒険者だから手づかみに忌避感なさそうという理由とバリエーションが豊富、そしてアキ兄さんが作ってみたかったという理由だそうだ。
サラダも美味しい。幸せ。
「絶対これ本来は大金払わねえと食えねえやつ」
「お世話になったお礼だから気にしないで欲しい。俺のスキルで作ったもんだし」
「…太りそうだわ」
「魔物狩らないとまずいかもですねぇ…森族、身軽なのがウリなのに~…」
「なら食べる量を抑えればいいのだよ」
「嫌よ!美味しいもの!」
「お、おう…」
「まあまあ、腹休めをした後、シルバーさんが合流するまで採取がてら森を回りますし」
「それもそうね」
「あー、確か『自力でこっちに来れる異世界人』だったか。そいつ、冒険者登録すんのか?」
「した方がいいとは思ってる。たまにしか来れないだろうけど、ギルドカードあれば町に無料で入り放題だし身分証になるし」
「ギルドカード失効にだけ気をつけんとなー」
シルバーが嫌がれば登録しないでも問題はないだろうけど…
でもダークを連れ歩くことを考えれば、従魔登録も併せてやってしまいたいのが本音だ。
それならダークもネコマタ状態で町をうろつけるし。ギルド印があればいらないトラブルは避けられる。
そのダークはテリヤキピザが気に入ったらしく、おかわりまでしていた。今へそ天状態で転がってるけど。野生どこ行った状態の猫である。
ご飯食べる時はネコマタ状態が便利と学んだらしい。とても可愛いので文句はない。
食後に飲み物飲んでまったりしつつ雑談してしばらく。
「そろそろ外に出て動くかー」
「…ハッ、まずい、のんびりし過ぎた!勘が鈍る!町の中でもねえのに!」
「カーくんには隠密かけてるので危険はないですよ」
「これに慣れたら冒険者としてヤバイ気がする!異世界、何て恐ろしい…!」
「何か想定してない方向に危機感持たれてる」
「今更やけどキャンピングカーがやばすぎるんよ…」
「だって異世界に放り込まれただけの平凡な14歳の女の子を三人も守らないとって思ったら、これくらい必要かなって」
「リオ兄さんが勘定に入ってません、やり直し」
じゅ、14歳の女の子じゃないから…24歳だから…
三人にジト目で見られてしまった。なぜだ。
居心地悪いままカーくんから出て森をうろつくことになった。
バッカスさんも付き合ってくれるらしい。というか、シルバーが気になったみたいだ。
「大人の異世界人だろ?お前らよりしっかりしてるか見ておきたい」
「でもこの世界にいたのはまだ数時間というなら、一番この世界に慣れてないと思うのだよ」
「それでもガキの面倒見ろって一言くらい言っておきてえ」
「あいつ、人の面倒見るの絶対苦手だぞ。僕なんか五歳児を相手にするような扱いされてるからな」
「…不安になってきた。そいつ呼んで大丈夫なのか」
「で、でも、ヒャッハー組の回収を考えるとシルバーさんは必須の人材ですから…」
「あー、野放しの異世界人は確かに危険だな。しかも攻撃スキル持ちで善人とは言い難いっつーなら確かに連れ帰って欲しいが」
「あと11人いるんだよなあ…うち一人は鉱山奴隷だから何とでもなるけど」
他に、ラージフールに連れ帰られた奴らもダークのおかげで何とかなりそう、と。
かと言って、シルバーが連れ帰れるのにも人数制限がある。前は二人で精いっぱいだった。
一度でどのくらい連れ帰れそうか確認しないことには、『配達』でのマーカー作戦(ダークの分裂体が目印)も出来ない。
けど目途は立ってるようなものだから、バッカスさんも安心して欲しい。
「まあ、これ以上はオレが役立てるモンでもないしな。悪いが、頑張ってくれ」
「はーい」
「ギルドで探してるであろう『黒髪の子供』の件を無視してもらえるだけでありがたいよ」
「それもあったな。聞いてると、逃げ出して当然の環境から逃げた召喚者をどうにか連れ戻したがってるラージフールの悪あがきってこったな?」
「だと思います」
「…信用できる奴にゃあ伝えとくか。ウチのパーティの奴とか、全員ラージフール嫌いだしな。これ知ったら絶対探すのやめるし下手すりゃ邪魔するかもしれねえ」
「おお、ありがたい」
「邪魔ってどうやるのよ?」
「ラージフールがそいつら探してんのは『黒髪の子供が大好きな特殊性癖だから』なんつー噂流したりな。絶対笑い物にされるぜ、ラージフール」
「ロリコンショタコンかぁ…冒険者に変態の巣窟って認識されると色んな人に『近づいちゃいけません!』って言われるな。僕らにダメージないし、いい案じゃね?」
「正義感強い人だと、逆に守らなきゃ!って思ってラージフールから隠そうとするかもね」
「正しく『邪魔』ですね。いいぞもっとやれ案件です」
「召喚者が誰にも見つからないに越したことはないけど、間接的にも味方してくれる人が増えるかもしれないなら、やる価値あるのだよ」
「味方になんなくても、ラージフールってやべー、みたいに思われるだけで俺らの得になる気がするな!」
「ろり…って、何ですかぁ?」
「ごめん、通じてなかったか。小さい子が大好きな奴ってこと」
実験台とか隷属とかの噂が流れたとしても『国規模ならそのくらいやるんじゃないか、胸糞悪いけど』くらいの認識だろう。
でもロリコンショタコンって噂される方が大多数の人に「うわ、近寄らんとこ」って思われるはずだ。
まず間違いなく全国の母親の大多数が嫌悪する。まともな感覚の人も嫌悪する。こっちの方が生理的に無理って思われやすい。
もしかしたらラージフールから人材の流出(夜逃げ)とかするかもしれない。特に冒険者なんか移動しやすい職業だし。
そこまで噂が広がらなくたって、一部で噂されてラージフールが避けられるようになれば万々歳だ。
火の無い所に煙は立たないけど、燃料をラージフールがばら撒いてるもんな。これは火どころか大炎上待ったなし。
うわ、そういう意味で探してんの…?と思われると。なんてひどいんだ。(棒読み)
「うっし、やってみるか。パーティメンバーと合流したら提案してみるわ」
「今さ、掲示板でこういうことやるかもって書いたら冷遇組のみんな大体『いいぞもっとやれ』って意見だった」
「マジかリオくん。書いたの?…掲示板草まみれじゃん。植物園か」
「除草せんとヤバイなこれ」
「みんな爆笑してるじゃないですかー」
「当事者たちに反対意見無さそうならやってみる価値ありそうですねぇ」
ラージフールの評判が下がるだけだもんな。
建物から聞いたけど、探してる理由はギルドに話してない。いいから探せという高圧的な命令のみだ。
だから、趣味趣向がそっちだという噂が流れたとしても否定出来る要素がない。悪魔の証明である。
やったことを立証するより、やってない(存在しない)ことを立証する方が難しいというアレだ。
かと言って、探してる理由は『自分たちが召喚した勇者だからだ』と大々的に話すかという話である。
冒険者の中には勇者召喚したと察してる人もいるかもしれないけど、同時にこうも思うはずだ。『召喚した人が何でいなくなったんだ?』と。
勇者をラージフールがどういう扱いで滞在させているか。さすがに外に大っぴらに話せないとは認識してるだろう。
つまり、ラージフール側にやましいことがありまくるわけで。
その理由が『ロリコンショタコン趣味です!という疑い』に認知されてしまうと。実際の趣味はどうかは知らんけど。興味もないし。
これがラージフールから『黒髪の子供を探せ』という命令が下ってなければまだ誤魔化せたかもしれない。
そして探している理由を最初に『いい待遇で迎えていたのに何故か逃げた。保護したいから探して欲しい』とでも言ってれば弁明は可能だったかもしれない。
でもそうじゃないからな。理由も話さず命令していたところに、それらしい(笑)理由が飛び込んできたら、それを信じるのも無理はないだろう。
その理由が面白おかしかったら尚更記憶に残る。信じなくても、だったら面白いなと思わせられれば成功だ。
元より嫌いな奴が相手なら変な噂が流れれば尾びれ背びれ他諸々がくっついてトンデモ噂に昇華されてもおかしくない。
…どうなるか見ものである。
「さすが、採取依頼受けまくってるだけあって手慣れてんなあ」
「ご飯にも出来るからな!」
「私とアキ兄さん、栽培スキルもありますからね。いいものは育てます」
「いいことね!あの温室なら育て放題よね!」
「私たち、育てる場所がないので諦めてましたもんねぇ」
「温室の一角で育ててみるか?」
「ううん、期間限定の同行だもの。リオが元の世界に戻るとカーくんも無くなるんでしょ?そうなると途中まで育ててもそれ以降世話出来なくなるもの」
「あ、それもそうか」
「なので、お手伝いだけさせてください~。水遣りとかやりたいですぅ」
「大歓迎です」
近くに来た魔物はバッカスさんが倒してくれている。
なので、僕たちは採取に専念出来ている。討伐を手伝うと言ったらいらないと言われてしまった。
まあ、従魔組も協力してるしな…むしろ過剰戦力か。
逆にバッカスさんに採取お願いしたいんだが?ギルドの採取依頼の不人気さは採取の方法をよく知らないのも原因だろうし。
と言ったら思いっきり逃げられてしまった。割に合わない依頼だからやりたくないそうだ。
…それに『斧技』という攻撃スキルを持っているバッカスさんを魔物討伐ではなく採取で遊ばせたくはないというギルド側の思惑もあるらしい。
言われてみればそうだな。適材適所じゃないにも程があるか。個人的にやりたくないという思いもありそうだけど。
「…そろそろ陽が落ち始めるな。もうすぐ来るか?」
「夕方って言ったから、確かにそうかも?ゆずが伝えてくれてればだけど」
「いつでもいいって言ってたんならちゃんと来ると思うな。…機嫌損ねてなければ」
「どういう奴なんだよ…まあいい、忘れねえうちに渡しておくか。ベル、報酬だ」
「ん?…ああ、そういえばそうだったのだよ!忘れてた!」
「オレも突然町の外に連れ出されたりで忘れちまってた」
「すいません」
「ごめんなさい」
ベルさんは冒険者じゃないから強制指名依頼の報酬がない。
なので、バッカスさんは個人的にベルさんに報酬を払うと言っていた。
うん、言ってたな。忘れてたけど。そしてベルさん本人も忘れてたらしい。律儀だなあ、バッカスさん。
でもベルさんは大活躍だったし、確かにタダ働きは割に合わないか。何せ僕より役立ってた。
「おお、こんなにいいのか?嬉しいのだよ!」
「あら、聖銀と翡翠鉱石じゃない。結構珍しいわよ」
「持ってたのが鍛冶屋だからな。奴は加工方面はからっきしで持て余してたんだと。その割にはふっかけてきやがったが」
「え…金払った方がいいか?」
「夕方訪ねてったのに深夜まで酒盛りに付き合わされたんだよ。金は酒代以外かかってねえから気にすんな」
「あ、そういう意味ですか。というか、それ体調大丈夫ですか?」
「このくらいで沈むようなヤワな鍛え方してねえよ。ガキが気にすんな」
ベルさんの両手に余るくらいの袋が手渡された。どんだけ入ってるんだろう…
白銀色と翡翠色のものがゴロゴロしてるのはチラっと見えた。ベルさんが顔を輝かせているので相当だろう。
「ありがとう!これ、召喚者にも分けていいか?錬金調合と細工のスキル持ちがいるらしいのだよ!」
「あん?好きにしろ。これはもうお前にやったんだ。どう使おうがオレは知らん。てか錬金調合って何だ…初耳のスキルなんだが…召喚者って…」
「やっぱタークくんの錬金調合、レアスキルなんだな」
「召喚もありますしね。もしかしたら召喚リストに出るかもしれません」
「聖銀ってアンデッドとかに効きそう…」
「そうだな、属性としては光属性なのだよ。錬金調合の子、ルミナススライムをテイムしてるのだろう?多分うまく使ってくれるはずだ」
「ああ、なるほど」
「…さらっとヤベースライムの名前が…」
「あ、やっぱり強いスライムなんだな、ステラ…野菜横取りする子ってイメージ強いけど」
「ラム、何て子を紹介したんだ…」
『立候補してきたのステラの方なので、ラム悪くないです』
まあ、今日の夜にでも『交換』とかで送るか。三等分してもそれなりの量がある。
みんなでわいわいしてると、突然胸元が熱くなった。
「あ、やばい!」
「え、どうしたリオくん!?」
慌てて首から下げてた通信機とお守りを出して、誰もいない方向に向ける。
途端に光が溢れて、消えたと思ったら…そこにシルバーが立っていた。
「あっ」
「シルバーさんだ」
「鉱石にキャッキャしてて一瞬忘れてましたね」
「え、黒髪じゃない…」
「…おいリオ、これどういう状況だ。知らねえ奴多すぎなんだが」
「やべ、バッカスさんの話はしてなかったな…ぐえっ」
「会って数秒でアイアンクローしなくても…」
え、何で攻撃されてんの解せぬ。
ひとまず予定通りに合流は出来たけど…大丈夫かこれ。




