168.冷遇組の協力体制
「いいわね、付与魔法の属性付与が使えるなら何の問題もないわ」
「土属性を付与した糸が使えますねぇ。出来るだけ細いものがいいですぅ」
「やっぱこれはあたしの糸紡ぎよりラテの糸がいいな。蜘蛛糸レベル50だし」
『頑張るですの!作ってみせるですの!』
「糸の問題は解決、じゃあ次は布だな。ナズの召喚がいいかな?」
「ナズとラテが使うならその方がいいとは思うけど、あんまりにもナズのマナが濃いと坂下さんが『配達』出来るかどうか」
「ああ、『人の物』は凄くMP使うって言ってましたものね。自分のものなら消費MPが少ないとも」
「こればかりはなあ…僕もアキ兄さんも自分で召喚したものなら扱いやすいけど、他人のは負担あるから、坂下さんの言い分も理解できる」
「そうだった。俺も倍化とかでも自分のもの以外だと消費MP増えるんだ」
「ナズが召喚した布を、誰か別人が加工すればいいのではないか?付与魔法でも、染め物?みたいな感じでも…」
「坂下さん、付与魔法ゲット出来なかったんだよなあ…」
「掲示板に書いてみよう。付与魔法持ちとか、何か手段がありそうな子がいるかもしれない」
こういう場合、消費MPが少なくなるのは「自分の物<誰のものでもない物<他人の物」となる。
誰のものでもない物というのは、早い話自生してる草とか転がってる石とかだ。あと、誰かに譲られた物も同じ扱いになるという。
個人の気配やマナが薄まっていて、所有者がよくわからない状態、これでも「誰のものでもない物」となるそうだ。
なので、糸はナズやラテのマナが強い、布は別人のマナが強いとなれば、「誰のものでもない物」と見做せると。
坂下さんはレベリングを集中的にやるとは言ってたが、現在レベル8だそうなので、10は少しかかりそうだ。
となれば、現時点の能力値でやるしかない。レベルアップして権能進化すれば儲けもの、くらいの気持ちでいいだろう。
今の状態だと、ナズのマナに染まった小さな布一枚でさえMPのほとんどを使ってしまうという。
ラテはナズの従魔なので、ナズのマナに紛れてしまうそうだ。
これが「誰のものでもない物」だと、半分以下となる。なら「誰のものでもない物」にしようと考えるのは至極当然というやつで。
「このMPの消費量だと、一日に一人ですね」
『ぼくの分裂体が送り込めるなら、何日か潜むくらい楽勝だよ』
「一旦二人くらい連れ帰ってもらえば成功みたいなもんかな?」
「ラージフールに捕まってるのは後回しで、行方の知れないヒャッハー組を優先するのよね?」
「ええ、ラージフールにいる人たちは生命の危険は無さそうですから。精神的には…わかりませんけど」
「行方不明者はぶっちゃけ一秒後に死んでてもおかしくないからなあ…」
「あと、ラージフールから突然召喚者が消えたらラージフールが騒ぎそうだから、ギリギリまで手出ししたくないって思いもあるよね」
『今も、毎日様子見くらいはしてるね。いなくなったら騒ぐと思う』
「そっか、じゃあ一旦そっちは放置だな。行方不明の方を片付けたら回収ってことにしよう」
もうシルバーもいつでもこっちに来れる状態ではある。
ナズは今日『伝達』をするつもり、ということなので、そこでシルバーにこっちへ来てくれという提案をするそうだ。
それが、道を繋げっ放しで、即とんぼ返りか、一時的にこっちに数日滞在なのか。これはまだわからないが。あ、まだ返答もらってないんだっけ?
まあ、滞在時間をどうするか、それを決めるために今話し合ってるわけで。
お?掲示板に意見が…
「あ、タークくんの提案がいいやつかも」
「え、どれだどれだ。19人スレの方か」
「…あー、香水ふりかけて布にしみ込ませるっていいかも?タークくんが作った香水ならタークくんのマナやもんな」
「加えて、アイさんが付与魔法でその香水に土属性を付与してくれる、と。これならナズ姉とタークさんとアイさんのマナが混ざりますね!」
「そのタークとやらが付与魔法使えばいいんじゃないの?」
「タークさん、付与魔法は持ってるんですが、土属性に適性がないみたいなんですよ。従魔のステラも光と火ですし」
「ああ、そういうことね」
錬金調合の派生能力に『乾燥』があるのに、使っても土魔法は生えなかった。
ということは、タークくんに土属性の適性が無いというわけで。あの子、今は水魔法しかないんだっけか。
そしてアイさんはほぼ毎日矢尻に状態異常を付与しているので、付与魔法もレベルが高く、5の派生『属性付与・微』もとっくに習得済みだという。
前に土魔法も覚えたと言ってたし、土属性を付与するのに何の問題もないだろう。
「…一度、これ試してみようか。坂下さんもやってみないとわからないって言ってるし」
「そうですね」
「ええ、駄目なら他の方法を考えればいいのよ!私たちも土属性の適正あるし、何か方法あるでしょ!」
「っし、ちょっと早いけど『交換』の準備するか。そこに布も入れちゃおう」
「オッケー小さい布出すわ!」
こうして『交換』で布がアイさんたちに送られ、程なくしてステラからラムに布が返却された。
僕にはわからないが、布にアイさんやタークくんのマナが感じられるらしい。ラムと森族姉妹からのお墨付きだ。
そしてその布に、ナズがラテと協力して『刺繍』を施す。お試しということで、簡単な模様だ。
波のように曲がりくねった紋様で円を描いているだけの簡単な…簡単かこれ…?僕がやろうとしたら一日かかっても出来んぞこんな刺繍。
ナズの腕がヤバイ。
ちなみにクラーフでよくある紋様のひとつだそうだ。前にルートくんから貰ってた模様の書かれた布にあったやつだとか。
僕たちには見慣れない模様なので、もしヒャッハー組がこれを見ても僕たち(日本出身者)の仕業だとはすぐに結びつかないだろう。
これが日の丸やらユニオンジャックとか校章とかだとすぐ僕たちに結びつくだろうけど。
クラーフの人による何か、と誤解してくれればいい。しなくてもすぐ僕たちに結びつかなければそれで充分。
「…どうかな、ダークくん。潜めそう?」
『いけそう!えーと紛れればいいから…土魔法も譲渡すれば…うん、これでいいよ』
「よっしゃ、ありがとう!」
「…ただの刺繍された布にしか見えない」
「まさかこれにオリジンの分裂体が紛れてるなんて想像も出来ないでしょうね」
「よし、じゃあラム、岸見さんのアクアスライムに送ってくれるか?」
『はいです!』
物資のやりとりが出来るって、ヤバイな。
岸見さんに渡せば坂下さんの所に届くだろう。もし宿にいたって、同性だから同室だろうし。
…結果。
「MPの七割以上使ったか…」
「ダークくんが紛れてるのが、消費量増えた理由っぽいな」
『ご、ごめん…』
「いや、必要経費だろ。てかナズのマナしかなかったら坂下さんのMP全部使っても出来なかったんじゃないか、これ」
「試してみてよかったのだよ。ところでそのサカシタって子の意見はどうだ?」
「やったらあ!って言ってますね。やる気に満ち溢れてて素敵です」
「マナ酔いにもなってないみたいだな。よかった」
ちなみに今回の配達先は宿の別室にいた桜庭くんだそうだ。
桜庭くんは問題なく受け取れたらしい。掲示板や交換と同じで、配達も距離は関係ない。
となれば…実験は成功というわけで。
「…この方法で、行方知れずのヒャッハー組に接触できそうだな」
「ダークくん、分裂体、いけそう?」
『もちろん。あ、さっき作ったのはもう消したよ。ばいばいって言われた。ばいばいって何?』
「売買…ですかぁ?」
「別れの挨拶だよ。さよならとかじゃあねって意味」
『そっか…じゃあまた会うことがあったらぼくも別れる時ばいばいって言おうかな』
「ああ、いいんじゃないかな」
通じたり通じなかったり曖昧だな?バイバイ駄目なのか。
ひとまず、これは使えそうだ。ダーク曰く、配達で届きさえすれば、ヒャッハー組の近くや影に潜めるとのこと。
これなら届いて即捕獲しなくても、多少放置できる。
何人連れ帰ることが出来るかはシルバー次第だけど…
「明日から坂下さんの『配達』が始まるとしたら…二日後か三日後に来いって言えばいいかな?」
「こっちに滞在するなら明日でも構いませんけどね。その場合、来るなら夕方とかにしてもらわないと」
「あー、町から出ないと面倒だよな。町の中でコンニチハしたら『いつ入ったお前!』ってなっちゃうし」
「今日の伝達の内容次第で、坂下さんにも開始時期を調整してもらいましょう。もしかしたら権能進化して消費MP減るかもしれませんし」
シルバーがこっちに滞在するなら、数日は地球に戻れなくなる。
となれば、ヒャッハー組を回収するのも地球に戻れるようになってからじゃないと、僕たちでヒャッハー組の世話をすることになる。
地球に戻るまでとはいえ、奴らと一緒に行動なんてしたくない。カーくんにも入れたくない。
回収のためだけに来るとしたら、ヒャッハー組を捕縛する日を決めて、その日に合わせてこっちに来てもらう必要がある。
クラーフへの滞在とかどう?という提案、あいつどう思ったかなあ…既に弟くんはその返答を聞いてるだろうけど、僕たちはまだ知らない。
せめて、ブチギレてませんように…
でも、ヒャッハー組へ接触する目途が立ったという報告はシルバーにとってもありがたいはずだ。シルバーというか、才能者界隈で、だけど。
「一旦ここまでにして、晩ご飯にするか」
「待ってたのだよ!」
「私も。ちょっと楽しみなのよね、料理スキルと異世界の料理」
「うふふ、なかなか出来ない体験ですよぉ」
話し合いやら何やらをしてたら結局こんな時間になってた。
まあ、明日はバッカスさんと会うくらいしか予定はないからので多少のんびり過ごしてもいいだろう。…検証してたんだからのんびりじゃないか。
順番に風呂入って(森族姉妹が遠い目してた)晩ご飯を食べる。森族姉妹、感動してたよ。
山の幸とかの方がいいかと思って、山菜ごはんとかにしたらしい。美味しかったです。
普通に肉も食べるみたいでよかった。菜食主義者とかだったらどうしようかと。
「いや普通に森に出る魔物の肉とか食べるわよ」
「森の糧みたいなものですしねぇ」
「それもそうか。ライビもオークも森に普通にいるよな」
「そういうことよ!…てか本当に美味しいんだけど。びっくり…」
「初めて食べる味でしたぁ…」
「こっちの世界ってお米ないのかな?」
「今のとこ見かけないよな。でもパンはあるし小麦文化っぽい」
ご飯について感想を言い合いつつ、腹休めでまったりする。
座席は八つだから、割とギリギリだな。シルバーが来たら全席埋まるぞこれ。
うーん、七人プラス従魔…そろそろ居住区の拡張も考えた方がいいかな?二回目の拡張でどれだけ広くなるかはわからないけど。
「そうだ、リーゼさんとシャルさんのステータスって…いや、知らない方がいいかな?」
「…もしかして鑑定スキル持ってるの?」
「スキルじゃなくて道具ですね。リオ兄さんや私の眼鏡と、アキ兄さんのゴーグル、ナズ姉はルーペ持ってます」
「リオくんが無機物干渉スキルで鑑定能力発現させたんだよ」
「…あんた…」
「信じられないって顔で見ないで…」
「本当に規格外ですねぇ。まあ見る分には構いませんよ~…というか、私たちも見てみたいですぅ」
「そういえば今のステータスってどうなってるのかしらね。鑑定スキルがないと確認出来ないからちゃんと把握してないのよ」
「わかる。レベルとスキルくらいなら覚えてるが、HPやMPの数値やスキルレベルとなると曖昧なのだよ」
「レベルアップした時に、ああ今このくらいのレベルかって再確認する感じだものね」
「…そっか、鑑定スキルないとそういう感じなのか」
「そうなんですよ~。なので私たちも見てみたいですねぇ」
「じゃあ、見てみるか。リーゼから」
「は~い」
名前:リーゼロッテ・ツェレル
種族:森族
年齢:145歳
性別:女
LV:88(あと5143)
職業:世界樹の守り人
HP:7120/7125
MP:11131/11812
スキル:弓技LV42 水魔法LV38 土魔法LV34 風魔法LV31 回復魔法LV28 付与魔法LV40 木工LV42 魔具精製LV22 隠形LV12
「スキルめっちゃ多いのだよ!しかもレベル高いぞ!」
「うわホントだ。あ、でもHPとMPはベルさんの方が高いな」
「そうなのか?まあ僕は魔族だから基礎能力は高いのだよ」
「魔族は力、森族は技術って感じかしらね」
「なるほど。てか魔具精製って初見のスキルだな」
「魔道具を作る能力ですよぉ。森族は半数が持ってるスキルですぅ」
「私たちが持ってる魔道具の大半はお姉ちゃんが作ったのよ!」
「すっご!」
「素晴らしい技術なのだよ!」
「ベルさん、私に求婚は許しませんよ~?」
「してないのだよー!」
「つ、次、シャルのステ見ようか」
「いいわよ!来なさい!」
名前:シャルロッテ・ツェレル
種族:森族
年齢:140歳
性別:女
LV:82(あと8144)
職業:世界樹の守り人
HP:7203/7210
MP:11041/11143
スキル:弓技LV37 水魔法LV34 土魔法LV37 風魔法LV30 浄化魔法LV22 付与魔法LV31 木工LV44 細工LV21 隠形LV15
「職業は二人とも世界樹の守り人なんですね」
「三番樹の集落の長の一族ともなれば、そうなるのだよ」
「二人とも弓使いなんだ。まあエルフって弓のイメージあるしなあ」
「魔具精製が無い代わりに細工スキルがあるんですね」
「…お姉ちゃん、魔道具作る能力は高いんだけど、見た目がね…それ整えてたら何か覚えたのよね…」
「うふふ、両親には見た目どうにかしてくれって絶叫されましたぁ」
「相当だなそれ!?」
「姉が回復魔法、妹が浄化魔法…補うような能力なのだよ。いい姉妹だ」
「二人とも隠形スキルがありますね。森に潜む感じでしょうか?」
「それもあるわね。種族的に覚えやすいのよ、弓技も隠形も木工も」
「獣族は大半が爪技持ってるしな。種族で覚えやすいものがあるのは間違いないのだよ。唯一、人間族がこれといった特徴がない」
「逆に言えば何を覚えててもおかしくない種族ですね~。私たち森族はほぼ火魔法の才がありませんが、人間族は特にそのあたりの制限がないですぅ」
「へぇ…スキル取得しづらいけど、覚えるスキルの種類の制限ってないのか」
ある意味器用貧乏な種族だな、人間族。
だからこそ、僕たちも統一性のないスキルを覚えてるんだろうけど。
何を覚えててもおかしくない種族、ではあるらしい。
僕に魔法系の才が皆無ってのも、逆に魔法の才に溢れたアイさんみたいな人も「人間族ならありえる」と思われるようだ。
「いやでもすっごいな、HPが四桁!MPも五桁!俺たち最初二桁だったのに」
「リオ兄さんのMP四桁が大したこと無く見えてきましたね…」
「人間族でMP四桁はだいぶおかしいのだよ。しかもリオ、まだレベル20だろう?召喚者はステータス高めだとはいえちょっと逸脱してるのだよ」
「数十年で寿命が尽きる種族とは思えないわね。マナを内包する能力に乏しいから人間族ってステータス低いのに。その代わり出生率が高いんだけど」
「そうですねぇ、私たち長寿種は出生率が低いから一人の能力とステータスが高いのですよ~」
「え、そうなんだ?」
…長寿種はステータスやHPとMP高いってこと…?才能者のMPが高い理由が垣間見えた。いや、関係ないかもしれないけど。
ほら、僕なんてMP以外に特筆するものないからね…
あー、でもシルバーもHPとMPめちゃくちゃ高いんだよな…MP四桁だし。あいつまだレベル3なんだぜ…?
「…HPとMPの数値ももうちょっと考えて低く改竄すべきですかね…」
「ん?どういうことなのだよ?」
「ハル、隠密スキルの派生『偽装』で僕たちのステータス誤魔化してくれてるんだよ。スキルなしって」
「鑑定スキルとか滅多にないって聞くけど、万が一をと思って」
「ああ、見られても問題ないステータスにしてるのね。いいことだと思うわ」
「どこから正体がバレるかわかりませんからね~」
あ、やっぱり対策してた方がいいのか。
もしかしたら、今まで気づいてなかっただけでステータス盗み見られてた可能性もある…か…?
いや、鑑定なんかは使われると違和感がある。今までそんな感覚になってないから、無いか。でも今後はわからない。
「ついでなのでベルさんも隠しますか。私のスキル経験値になってください」
「めちゃくちゃありがたい申し出だけど経験値扱いでスンってなったのだよ」
「あ、そっか。今だと魔族ってバレかねないもんな。ステータス、バカ高いし」
「シルバーさんも隠さないとですね。シルバーさん、早く来ないでしょうか…私の経験値…」
「ハル?こら、めっ」
「はい」
隠密スキルもちょっと上げづらい部分があるみたいだからな。無理をすると一気にMPを消費するので、調整が難しいそうだ。
それでもかなり使い慣れてきたみたいだけど。
そんな話をしてると、いつも『伝達』している時間が迫ってきた。
森族姉妹は初参加というか、初めて見るのでちょっとソワソワしてるようだ。
話すべきこと、聞きたいことをまとめて、いざスタンバイ。
「グッドイブニングゆず!今日は聞きたいことと報告があるで!」
「ぐっど…?」
「こんばんはって挨拶だよ」
最初に宣言することで、今日は雑談ターンじゃないと知らせたんだろう。
うん、ほっとくとすぐ雑談になるからな…内容は聞いてて楽しいんだけど。
「まず前に聞いたシルバーさんのこっちへの滞在についてどうだった?やっぱとんぼ返りがいい?こっち留まってもいい?」
おお、真っ先にそれ聞いたか。大事だけども。
これを話さないと次の話が出来ないけども。
でもどうせこっちへの滞在は駄目だろうな。ユリちゃんと連絡出来ないの嫌だろうし。
となると…次の指示は、四日後くらいにこっちへ来て欲しい、になるか。
そうすれば最低でも二人は連れ帰ってもらえる。うまくいけば三人だ。
坂下さんには二~三日連続で権能使ってもらうことになるから、ちょっと負担かけちゃうけど。
「あ、滞在オッケー?いつでもいいの?わかった、…じゃあ明日の夕方とかにこっち来てもらうよう伝えてくれる?その時間あたしら町の外で待ってるから」
「………え?」
「信じられないって顔しないの、リオくん」
「多分リオ兄さん以外が予測してましたよ、この展開」
「おー、ちょっと楽しみなのだよ。男が増える」
…ウッソだろ!?
え、絶対来ないと思ってたよ!ヒャッハー組だけ回収してすぐ帰ると思ってたよ!
それとも、こっちの世界のこと少し見て来いとでも命令されたのかな…?聞くタマか?
もしかしたら京さんに頼まれちゃったかなあ…?
「あとねえ、事後報告で申し訳ないんだけど、同行者二人増えたんよ。森族の姉妹。エルフやでエルフ!超美女!」
「…はっ?え、び、美女って、私たち…!?ちょ、何言うのよナズ…!」
「あらぁ、嬉しいです~」
「ごめんやけど、これシルバーさんに伝えといてくれる?何かぽやぽやして放っておけない系の人!知らん人増えて申し訳ないって謝っといて!」
「上げて落とされたんだけど!」
「これでもしっかりしてるつもりなんですけど~」
「嘘だろ?無自覚?」
「アキ兄さん、オブラートに包んでください」
…ちょっとまだシルバーが滞在するってとこから思考が進まないんだけど、僕。
ええ…?何でみんな受け入れてんの…?よく知らない人だからかな?
人見知りのシルバーが数日とはいえ知らない人と生活するなんて全く想定してなかったよ。絶対嫌がると思ったもん。
大人になったのかな…?感慨深いね。…遥かに年上だけど。
森族姉妹、ナズの言葉にちょいちょい反応してるな。ナズは聞こえてないだろうけど。
「そう、前に話した坂下さんの権能でうまいことヒャッハー組を捕まえられそうでな、せやからシルバーさんに回収お願いしたいんよ」
「シルバーさんがこっちに留まるってことは、無理に明日から行動する必要ありませんね」
「そうだな、坂下さんには権能の熟練度溜めとレベリングに集中してもらおっか」
「え?…ああ、さっさとヒャッハー組捕まえちゃっても向こうの世界に戻れない以上私たちが面倒見なきゃいけなくなるものね」
「拘束くらいなら出来ますけど、ご飯の世話とか面倒ですよねぇ…あの美味しいご飯を罪人どもに食べさせたくないですぅ」
「そうだな、向こうの世界に帰る前日とかに一気に捕まえるのだよ。ダーク様の能力なら可能のはずだ」
『頑張るよ』
どのくらいで再度地球へ渡れるかはシルバーに聞かないとわからないから、ここはまだ不透明だ。
でも前回の件を踏まえると、一週間から10日くらいか?
短期間に何度も『道』を作ると、再度安定するのに時間がかかるとか言ってたっけ?逆に短時間で出来るんだっけ?
どっちだったかな?こっち来たら聞いてみるか。
若干早足の報告になってたけど、シルバーへこちらに来るよう依頼、森族姉妹が増えたこと、ヒャッハー組を捕まえる方法がほぼ確立したこと。
話そうと思ってたことは全部話せたようだ。伝達を終えたナズがオッサンみたいな「あ゛~」という声を発して脱力していた。
やめなさい、嫁入り前の女の子が発していい声じゃないぞそれ。
「ナズ、お疲れ。何飲む?」
「ココアくださーい」
「あいよー」
「お疲れ様です。報告は全部出来ましたね。弟くんは何て?」
「んー、あっちから新しい報告はなかったっぽいから、こっちからの報告聞くよって言ってくれてたな。ヒャッハー組のことは喜んでた」
「方法が不透明だったもんな。事態が動いた感じがするから、それに喜んでくれたのかな?」
「うん、ていうかちょくちょく京さんから進捗どうですかって聞かれて、何も新しい報告出来ないの申し訳なく思ってたっぽい?」
「えええ京さんが?何かごめん…」
「急かしてるってより、会いに来るたびにお土産持ってくるから、おやつ貰いすぎてることに恐縮してた感じ?」
「ごめん、京さん老人だから…若い子に貢ぎたいお年頃だから、何も言わず受け取ってあげて…」
「お、おう…」
ていうか才能者は全体的にそんな感じだ。アルさんやシルバー、ユリちゃんだって似たようなことをする。
特に新しく加わった才能者とか、めちゃくちゃ面倒見ようとするんだよな。そして貢ぐ。
何で知ってるかって、僕がそれやられたからだよ。
で、メイちゃんも昔似たようなことやられたヨーって愚痴ってたんだよ。
だから古参の才能者はそういうことをしたがる習性があるのだと思われる。
ディオさんは一緒に遊びたがるけど、奢ってもらうことが多いからやっぱり彼も貢ぐ系の人だ。童顔だけど年齢は上の方らしいからなぁ。
「デートなんだから男が奢るのは当然!」ってふんすふんすしてたけど、見た目を考えると年下に金出させてる大人なのである。
ちょっと気まずかったよね。嬉しかったけど。
ディオさんの中では二人で出かけることがデートになるらしい。
食事も映画も美術館もゲーセンも泥んこ遊びも全部デート扱いだ。泥んこ遊びはデートじゃないだろ。
大型犬のドッグランに付き合った後で柔らかい土に思いっきりダイブし、ディオさんも犬と一緒になって土塗れ泥まみれではしゃいでいた。
見てて楽しそうだったので僕も加わった。…今考えてもこれデートじゃないよな。
ちなみに大型犬の飼い主(一緒にいた。才能者。やっぱりデートじゃないだろ)にはめちゃくちゃ怒られてディオさんと犬は家に帰って速攻庭に案内されて水ぶっかけられていた。
僕?着替えとタオル持たされて風呂場に放り込まれましたとも。何かごめんな…
…お世話したがりが多いな?
「ってことで、明日の夕方、町の外でシルバーさんと合流しようと思うんだけど」
「そうだな、昼にバッカスさんと会って、それから町の外で…どうせなら森で採取でもするか」
「いいわね、森なら私たちの領分よ。そうじゃなくてもこれだけの面子がいるなら危険もないでしょ」
「浅い部分だと大した魔物もいませんしね~」
「怖いと思ってるのは僕だけかな…」
「怯える要素あります?」
「森族姉妹のこと聞いてねえぞってアイアンクローされる未来を幻視した」
「あ、私たち?ごめんね…?」
「す、すぐ引き剥がしますから…それに、ナズ姉の弟くんが伝えてくれてるはずですから」
「リオ、もう会う直前に『結界・微』を使っておくのだよ」
「それ攻撃される前提の提案やん」
ヒャッハー組を地球側に連れ帰りたいのは才能者界隈でも一致した意見だ。
だから、シルバーがこっちに来て奴らを回収する、ということについてはシルバーも納得している、はず。
でもそれはそれとして不満はあるだろう。だってこっちにユリちゃんがいない。
で、そうなったら八つ当たりはどこに向かうか…十中八九、顔見知りの僕だ。
あいつ気に入らないことがあったら九割の確率でアイアンクロー繰り出してくるからな。一割?締め技か関節技かローキックだ。
改めて思い出しても攻撃されすぎである。
若干の不安と恐怖心を覚えつつ、その日の夜は(僕以外)平和に過ぎることになった。
あとシルバーに会えるということで、ダークがわくわくしてた。




