167.強制指名依頼、完了
結論から言えば、銅級据え置きのままで済んだ。
あ、危なかった…
バッカスさんやリーゼ、シャルと口裏を合わせて貢献を低く見積もってもらったためである。
討伐数が足りてない?ダンジョンでアホほど戦うなら大丈夫でしょ?みたいな風潮があるらしい。
実際、モンスターハウスとかでかなりの数の魔物を倒してるからな。
…僕たち、ダンジョンクリアしたってことをギルドに黙ってるから、その分が反映されてないわけで。
バッカスさんが言うには、あれだけ立ち回れたなら普通に銀級を名乗っていいと言われてしまった。
が、スキルありきの立ち回りなので、スキル持ちであることや召喚者であることを隠してるなら報告しない方がいいと助言された。ですよね。
なのでアキ兄さんがバッカスさんの指示を聞かず突っ走ったこと、モンスターハウスにはかち合わなかったこと、メイン火力はバッカスさんで僕らは補助。
そんなあることないことを報告したことにより、銅級のままで許されたのである。
「上の級の人の指示には従わないと駄目ですよ、アキくん」
「ごめんなさい。肉は狩らないともったいないと思って突っ込んだんだ…晩ご飯にしてやるつもりで…」
「…あの、バッカスさん、この子、反省してます?」
「駄目かもしれねえ。何度言ってもコイツはオーク見たら突っ込んで行きやがる」
ギルドの受付嬢に注意されてもこれなので、本当に指示を聞かなかったんだな…と納得されてしまった。
うん、これに関しては何一つ嘘言ってないもんな…
受付嬢としては、アキ兄さんというか僕たち全員、ちゃんと話を聞く子なのに指示に従わないってことが信じられなかったらしい。
でもいざアキ兄さんに聞き取りをして、この返答だったので納得したようだ。
討伐依頼を受けないかという打診の時も「食えない魔物は嫌だ」と主張してたのも裏付けに一役買ったのかもしれない。
アキ兄さん、この件に関してはマジでブレないからな…
確認が済んだことで、強制指名依頼についての報酬が支払われた。いつもより報酬袋がずっしりしてないか…?
「ひえ、お金やばい」
「イロつけとく、とは言われたけど…何だこの金額…」
「お前ら、今までどんな依頼受けてきたんだ…?そこまで驚く金額じゃねえだろ」
「バッカスさん、彼ら、ほぼ採取依頼と常設討伐依頼しか受けてませんから…」
「安くてほとんどの冒険者が嫌がる依頼ばっかじゃねえか」
だって、宿代いらんし食費もかからんし…って考えたら、そこまで稼がなくていいやって…
そうか、もっと金の効率がいい依頼受けてたらここまで驚かないのか。
離れた村への出張討伐依頼とかだと確かに報酬高いもんな。出張費込みだから。
僕らの依頼歴が金策効率悪すぎるんだろうなあ…
「まあそんなわけで、多少割高ではありますけど何らおかしくない報酬額ですよ」
「そ、そっか…いや、ヤバイな、どうしようこれ。屋台巡りでもする?」
「楽しそうだけども、金の使い道が思いつかな過ぎてショボい案しか出ないんだよなあ」
「だってあたしら酒とか飲まんしね」
「未成年のうちからの飲酒は成長の妨げになります。身長が伸び切るまで絶対飲まない、絶対にだ」
「あ、うん…まあ酒は飲まんけど…」
「そうだったな、お前らガキだもんな」
「あらぁ、じゃあしばらく禁酒ですねぇ」
「いいことじゃない。お姉ちゃん酒乱だもの。絶対飲まないでって言っても飲むんだから。アキたちといる間は本気で禁酒してよね」
「うわぁ、リーゼさん酒飲みだったか~」
「てことは、酒に合いそうな味が好きってことか?」
「アキ兄」
「すいません」
なおベルさんはあれば飲むけど進んで飲まないタイプらしい。強さは本人曰く普通とのこと。
僕はほぼ飲まないので多分弱い。付き合いで飲んだ時は見事に寝たらしく、京さんにおんぶで家まで連れ帰られたと聞いた。申し訳なさすぎて外では飲まんって誓ったよね…
てことで、僕らと一緒に行くならマジでリーゼは禁酒になるけど、いいのか?
「まあ10年20年くらい飲まなくたってやっていけますよ~」
「長寿種、時間の規模が狂ってる!」
「旅を始めた頃は金欠だったから、本当に20年以上飲んでなかったし、大丈夫でしょ」
「あ、20年って例えじゃなくて経験則だったか」
ともあれ、これで依頼は完了した。
全員でギルドを後にする。
「今頃、黒の鉄槌さんも爆睡してるかなあ…」
「最後ちょっとバタついたけど、ちゃんとお別れ言えたからまあよかったかな?」
「金級のお祝いとかした方がよかったかな」
「いらねえだろ。もし暇な時に会う事があったらメシでも奢ってやれ。下の階級の奴に奢られんのもまた経験だ」
「そうですね、その時はご馳走しましょう」
「俺作るか?」
「…その辺の食堂で奢る程度に留めといてやれ」
ちなみにバッカスさんはまだ一緒にいる。
冒険者じゃないベルさん相手への報酬がまだ済んでないからだ。
ベルさんは別にいらないとは言ったけど、それだとタダ働きになる。
バッカスさんとしては、ベルさんの戦力はタダで借りていいものじゃないと思ってるため、何かしらで報酬を払いたいそうだ。
「…とは言っても、僕が欲しいのは宝石か鉱石なんかの細工のための材料くらいなのだよ」
「ああ、それなら確かに役立ちそう」
「ゼイレムの宝石店か鉱石取り扱ってる店を回ればいいんじゃないの?」
「んー…加工前のモンとなるとなあ…ああ、鍛冶屋の親方がたまにいい材料入ったって自慢してるな。聞いてみるか」
「おお、鍛冶に使えるものか?気になるのだよ」
「んじゃ、明日にでも持ってくわ。宿…じゃねえんだよな?どっかで待ち合わせるか?」
「なら明日の昼に中央広場とかで待ち合わせよう。もし暇ならお昼ご飯ご馳走するし」
「…お前の作ったメシか?それは金払わんと釣り合わんやつだろ」
「いや、そこまでじゃ…」
まあ、アキ兄さんの料理は美味しいからな…
バッカスさんは今日これから鍛冶屋に行って親方さんと交渉するらしい。
多分ふっかけられるか飲み比べで勝たないと譲ってもらえない気がすると言っていた。
あ、だから明日渡すってこと?すぐ手に入らないから?が、頑張って…
ひとまず、昨日の件で多少の疲れはあるので、今日と明日はオフにしようとまとまった。
森族姉妹もまだ疲れてるだろうし。
それに、掲示板への報告もだ。昨日のことについては報告したけど追加報告しないと。
森族姉妹が加わったことと、合流の魔道具について。朝の報告の後に起きた出来事だ。何だ忙しいな。
「…ゆずにも報告いるかな、これ」
「今夜、やりますか」
そういえば森族の術に探索系もあるとか言ってたし、どうにかすればヒャッハー組に辿り着ける可能性もある。
既に魔道具を貰っているのに追加で技術提供してくれと頼むのはちょっと気が咎めるけど、聞くだけ聞いてみようか。
広場付近でバッカスさんと別れ、僕たちもカーくんに乗り込むべく移動を始める。
森族姉妹にもカーくんのこと話しておかないといけないしな。
当の二人は宿なんて無さそうな場所を進んでいることに不思議そうにしていたけど。
人が少ない場所でハルが隠密を使い、どうにかカーくんへ乗り込めた。
森族姉妹びっくりしてたけど、スピードが大事ということで僕とアキ兄さんが口塞いで無理やり車内に連れ込んだのである。
傍目から見たら完全に誘拐だ。隠密で見られてないからセーフセーフ。
森族姉妹は僕たちの突然の暴挙に慌ててたけど、カーくんの中を見てそんな気持ちも吹っ飛んだらしい。
「な、…っによ、ここ!?」
「あらぁ~…」
「まあ最初は驚くのだよ。僕も驚いた」
「え、これが宿!?ここで寝泊まりしてるの!?凄くない!?私たちの寝床より凄いんだけど!?」
「どういう魔道具でしょうかぁ…?」
「あ、これ魔道具じゃなくてスキルだよ。僕、召喚のあるスキル持ってて、これ召喚物だから」
「あら、召喚のあるスキル。珍しいですねぇ」
得体の知れないものを見る目線だったけど、召喚物と聞いて腑に落ちたようだ。
僕たち召喚者はレアスキルを持ってることもある。それを思い出したのだろう。
…で、森族の二人の寝床だけど。
「元寝室の壁にでも入り口を設置してもらえれば」
「ああ、梯子上ってすぐの場所とかだと壁ですしね」
「奥は俺たちの部屋があるけど、確かに手前の方は空いてるよな」
「で、人数増えたからさすがにトイレ増やそう。ひとつじゃ足りないだろ」
「…確かに、それ大事ですね」
「え、え…?と、トイレ、って…」
「ちなみに今までどうしてた?」
「魔道具で処理してたわよ。これ言ったらその魔道具くれって言われるから言わなかったけど…あんた達ならいいでしょ」
「ふえー、そんな魔道具あるんや?便利ー」
「ちなみに僕は旅の間はその辺で済ませてたのだよ」
「ちょっと聞きたくなかったですね」
男だからというのもあるかもしれないが、適当か???
というか、七人いてトイレひとつってちょっとなあ…アイさんたちがいた時も若干争いが勃発することもあった。
でも別れが決定してたということもあり、追加するほどじゃないかと判断してたわけである。
今は期間限定ではあるかもしれないが、シルバーも一時追加することも考えると、ひとつじゃまずいと思ったわけで。
風呂?湯舟追加で一度広くしたし、最悪『洗浄』で済ませる方法もあるので、トイレほど重要じゃない。
なお、森族姉妹は僕たちのそれ系はラムが処理してると思ってたようだ。まあ普通はスライム連れてたらそう考えるよな。
従魔組のはラムが処理してくれてるみたいだけど。さすがにサイズの問題で人間用のトイレ使えないから。
まあそれはそれとして。
「追加機能でトイレ設置しよう。元寝室に。それなら自室から近いし利用しやすいだろ。温室にもつけたいけど…」
「温室は一旦いいでしょう。トイレふたつになると確かに助かりますね」
「ふたつじゃないぞ?追加機能のトイレは個室が四つと洗面台四つだな。広さは大体六畳くらい?」
「…確かにMP1000使って設置されるのがトイレの便器ひとつと洗面台ひとつじゃ割に合わん、か?」
「え、すご。実質トイレ五個になるやん」
「…ごめん、想像つかないんだけど、何か凄いこと起きかけてる?」
「異世界風のお手洗い、気になりますねぇ」
「ちょっと見てみたいのだよ。みんなの寝室のあたりに作られるなら多分僕は利用しないけど」
「あ、そっか、ベルさんは医務室もとい客室で寝てるもんね。こっち来んよな。梯子上らないとだし」
「設置した後のを一度見せてほしいな。いつも使ってるトイレとどう違うか興味あるのだよ」
「多分、使い勝手はあんま変わんないと思うよ。まあ見る分にはいいけど」
そして全員で元寝室に移動した。さすがに狭いな。
梯子上ってすぐ右側にトイレを早速設置する。森族姉妹の部屋は左側に設置してもらうということで話はついた。
順番にトイレに入って確認してみると、学校や店に設置されてるようなトイレだった。
入ってすぐは洗面台。大きな鏡が設置されており、その下に洗面台が四つ。蛇口に手を差し入れると勝手に水が出てくるセンサー式のやつだ。
個室は四つ横並びではなく、二つずつ対面に設置されていた。全部洋式だな。追加機能のトイレはこんな感じか。掲示板で報告しとくかな?多分みんなこれが出るはず。
見慣れたトイレなので使いやすそうだなと思ったけど、クラーフ組はそうじゃなかったらしい。
「…何これ、どう使うの…?」
「これ、トイレなんですかぁ?何かの座席じゃないんですかぁ…?」
「下のトイレの拡大版かと思えば何か想像と違ったのだよ…」
「ごめん、日本人、トイレに妥協しない民族だから…これ多目的トイレとかだったらクラーフの人使えないんじゃないか?」
「多目的トイレはあたしもよくわからんで!何に使うもんかわからんのがついてるからな!」
「乳児寝かせるための台とおむつ替えるためのやつがあるのは知ってる。使ったことないけど」
「家族に乳児がいないと使わないでしょう…私も使ったことありませんよ。お母さんは使ってたかもしれませんが」
「異世界こっわいのだよ!これより凄いのがあるのか!?それは本当に用を足すための施設なのか!?何でトイレに赤子!?」
「いや、人型なんだから異世界人って言ったってそう習慣変わんないでしょ、って思ってたけど、訂正しなきゃね。意味わかんないわ異世界人」
「これ、異世界では当たり前にある光景なんですかぁ…とんでもねぇですぅ」
まさかただのトイレでこんな騒ぎになるとは思わなんだ。
ていうか従魔組もポカーンとしてる。
ヒト族のトイレってこんなの?いやでも驚いてるってことはクラーフにはない光景…異世界やばい…みたいなこと言ってた。ごめんて。
とりあえず、森族姉妹は使うだろうから後で使い方を教えないとな。
ベルさんは居住区にあるトイレを普通に使えてるので問題ないだろう。そういえば最初騒いでたっけ。
「私たちの寝床なんて全然大したものじゃなかったわね、お姉ちゃん」
「ええ、本当に」
「それはそれで気になるので後で見せて欲しいんですけど」
「見せるのはいいけどガッカリしないでね!?」
「本当に、寝るだけのものですぅ。それでも旅だと便利なんですけどぉ」
「旅の最中に自分たちの空間でのんびり出来るのはいいよな、わかる」
「…あんた達の基準と一緒にしないでほしいわね、切実に」
「まあ、とりあえずカーくんの中、案内しましょうか?と言ってもあとは温室くらいですかね?」
「まだ何かあるの…?」
怖々とハルに案内されて行ったけど、温室で大はしゃぎだったらしい。
アキ兄さんが木とか育ててるせいかな?森族ってだけあって、畑や果樹園っぽい場所は興味津々だったようだ。
ハルが育ててる毒草系の一角には慄いてたらしいけど。
その間、僕たちは掲示板に報告していた。本当は夜に報告するのがいいんだろうけど、昨日の詳細も含めると報告内容が多い。
中級者ダンジョンの仕様とかはやっぱり初めて知ったらしい。
流されてとはいえ、中級者ダンジョンに入ったこと、変動という現象、強制指名依頼、バッカスさんに話したこと、森族姉妹のこと。
こう考えるとこれ一日に起きていいイベントじゃなくない?
スーが仲間になった直後アイさん救出イベントのち、タークくんとルートくん奪還イベントの時並の忙しさだ。
日を跨いでるので一日のイベントってわけじゃないけど…
あとやっぱり合流の魔道具にみんな食いついていた。
これを使って僕たちのいる場所に合流するかどうか、これは今からみんなで相談するそうだ。
どの道マナの登録という作業があるので、今日明日で出来ることじゃない。最短でも数日は先になる。
それに、折角だから異世界を見て回りたいという意見もあるにはあるし。積極的ではないけど。
…ラージフールの存在がなければ、もっと好きに旅をしたいという意見は多かっただろうな。
やっぱり滅ぼすべきでは…?
「戻りましたぁ」
「何なのこの家…色々充実しすぎじゃない?旅が楽になるどころじゃないわよ。私たちいらないじゃないの!」
「家じゃなくて車だよ」
「は?」
「これ、乗り物」
「…ちょっと待ってね、情報整理するわ」
「異世界人、恐るべしですぅ…」
「実際走らせてみないと納得は出来ないと思うのだよ。僕がそうだった」
「そっか、この世界キャンピングカーとかないもんね。荷馬車とかはありそうだけど」
「そこは荷を置く場所で、生活する場所じゃないのだよ」
「ごもっとも」
森族姉妹、もしかしたら僕たちの旅が快適になるように手伝おうとしてくれてたのかな?いい人かな?
そもそも現地人が一緒にいるって時点で色々助かるんだけど。
やっぱり習慣とかそういうの、僕たちにはわからないから。
グランツさんとかにも話してると違和感覚える、みたいなこと言われたし、そのあたりフォローしてくれたらめちゃくちゃ助かる。
この辺はベルさんもちょこちょこ助けてくれてたけど。フォロー面子増えるのは純粋にありがたい。
何より、冒険者ってのが大きい。黒の鉄槌の人たち、グランツさん、バッカスさん、色々教えてくれた先輩たち。
きっとまだまだ知らないこともある。そういうのを多少でも教えてくれる先生がいるのは安心できる。
ってわけなので、いらないなんてことはないのである。
一方的に面倒見てもらうのは申し訳ないって理由もあるし、召喚者云々の説明とか、信用できる人かとか、そのあたりがわからないからこの手段をとってなかっただけで。
森族姉妹、嘘らしい嘘言ってないし、人を騙すような性格じゃなさそうだからなあ…
オリジンをある程度身近に感じてるってのも大きいかも。
「で、これからどうするのよ?ゼイレムを拠点にして活動するの?すぐビスムズに行く?」
「数日はゼイレムにいて、それからビスムズかなあ…」
「そういえば虎がどうなったかもわからないのだよ」
「何よ虎って?」
「ハルに惚れたクソガキにゃんこをシメるためにオリジンタイガの眷属のディーンさんが出向いてるとこ」
「情報量が多くてその説明だけじゃ理解出来なかったから、詳しく聞かせてくれる?」
「オリジンの眷属にそんなに会ってるんですかぁ…?私たち、両親くらいしか知らないですよぉ」
多分連絡くれるはずだから、まだビスムズに向かわない方がいいだろうな。
並行して、ヒャッハー組を探せたらいいんだけど。ってことで少しの間はビスムズに滞在だ。
虎との出会いを森族姉妹に話してると、妹のシャルはみるみる不快そうな顔になっていった。
「迷惑なクソガキね!目の前にいたら引っ叩いてやるのに!」
「その気持ちだけで嬉しいです」
「でもぉ、確かにそれならすぐビスムズは行かない方がいいですねぇ。下手したら鉢合わせ…はさすがにしないでしょうか~」
「ハルの望みはもう二度と会いたくないということらしいからな。せっかくディーンさんが動いてくれてるんだから頼るといいのだよ」
「そうね、じゃあそっちはお任せね!となると…そのヒャッハー組を見つけないと、よね」
「う~ん…探索用の術も魔道具も、情報が少なすぎると使えませんしねぇ…」
「名前は判明してる。マナは…召喚者特有のものがある、とはいえ…うーん、情報少ないわねぇ」
「やっぱ『配達』かなあ」
「その権能を利用するのが一番な気はするわね!権能進化はしてるのかしら?」
「まだしてないみたいですね。レベル10になってないですから」
「紙状のもの…マナで編んだ紙なら多少の補助になりますかねぇ?」
三人寄れば文殊の知恵とも言える。
現状出来ることの再確認がてら、森族姉妹にも僕たちの持っている手札を説明する。
ああでもないこうでもないと言い合ってると、ダークが割り込んできた。
『紙状のものって、別に紙じゃなくてもいいんだよね?』
「ん?そうだけど…薄くても木の板とかは駄目だったぞ。しっかりした形状のは負担が大きすぎるみたいだ」
『布ならどう?』
「布?あー、布ならいけそうじゃない?まあ、紙と一緒で包んだり折ったりするのは駄目みたいだけど」
「二枚重ねでさえ無理ってマジで薄っぺらいものしか飛ばせないんだな、って思ったよね」
この辺りは坂下さんが事前に検証していた。
折ったり、というのは本来飛ばせるはずの大きさの紙を折り曲げるという意味だ。
質量は変わってないはずなのに、それでさえ容量オーバーのようだった。
関西人でもない坂下さんが「何でやねん!」って絶叫するくらいには不本意な結果だったのだろう。
となると、厚みはほぼゼロに近くないと飛ばせないというわけで。
『あと糸くらいなら大丈夫かな?』
「糸?布と糸ってこと?ほっそい糸ならもしかしたら…?坂下さんに聞かないと断言はできないかな」
『ナズさんって、派生能力で『刺繍』って覚えたんだよね?これ利用できないかな。魔法陣に似た形状の刺繍、もしくは糸と布の僅かな隙間なら、ぼく入れるかも』
『…それです』
「え、あたしの刺繍…!?」
「確かに、刺繍された糸くらいなら…?え、ちょっとこれ試してみるべきでは!?」
あまりに細い糸だと脆すぎて途中でブチっと千切れかねない。というか、布の質に糸が負けてしまうというべきか、布地に糸を通せない。
かと言って、丈夫な糸にすると布を切断してしまう危険性もある。ピアノ線がいい例だろうか。
けれど派生能力の『刺繍』は、どんな素材にでも刺繍を施せるものだ。布であれ木の板であれ鉄であれ。
本来なら材質のせいで出来ないものに糸を通して柄さえも作れる派生能力。
影が出来るとなれば、それなりの量の糸が必要になる。が、普通の糸でやろうとすると『配達』の容量オーバーになる。
限りなく細くした糸を布に施すとなれば色々工夫がいるわけで。
「布か糸にマナ伝導率がいい素材使われてれば、少量の影でもダーク様なら潜めるわね…!えっと、属性は?闇?闇よね?」
「…あたし闇属性持ってない…」
『土属性ならどうかな?ナズさんもラテさんも土属性は強いよね?ぼくも土属性に適正あるんだ』
『わたくしもお手伝いできますの!?』
「ていうか、ラテの蜘蛛糸と糸操作の力で使う糸の性質を考えないとナズだけじゃ多分難しいぞ」
「せやな。糸紡ぎもあたしの今のレベルじゃ微妙やろし。…これ、相談しよう!この方向で案出してみよう!坂下さんにも伝えなきゃ!」
「掲示板への報告は僕がやろうか」
どんな布を使うか、どんな糸を使うか、刺繍の模様や形状、規模は。
糸を使いすぎると規格オーバーになりかねないが、少なすぎてもダークが潜めない。
そういう内容の話し合いが加熱した。
まさか『刺繍』なんておよそ関係なさそうな派生能力が鍵になるなんて…!
うちの妹が最高ってことでよろしい!?
最初、変動って32人の召喚者たちの数が増減するぜって意味でつけた章タイトルだったんですよね…(いらねえ暴露)




