164.訪問者のお礼
「とりあえず、掲示板に昨日のこと書いといたよ。『交換』出来なかったし心配かけちゃったみたいだ」
「あ、そういえば。集中してて掲示板のこと頭から抜けてたな…ありがとう、アキ兄さん」
「ハルが昨日『ちょっと忙しくなりそう。落ち着いたら報告する』って投稿しといてくれたから大丈夫だったみたい」
「ああ、心配はしてたけど対処できるレベルのものって思ってくれてたんだな」
「バッカスさんにも私たちのこと多少話しちゃいましたしね、共有しておかないとですよね」
「まあ多分あの御仁なら黙っててくれるのだよ」
「うん、俺もそう思った。何せ咄嗟とはいえ身を挺してナズを庇ってくれた人だし」
「真偽スキルで引っかからなかったから、特に嘘は言ってないしな」
あとはバッカスさんが戻ってきたら、ゼイレムに引き上げるくらいか。
さすがにこのダンジョンを攻略する気にはなれないし…経験値はガッツリ稼げたけど多分攻略は無理だ。
途中までならいけるかもしれないけど初回報酬が無理となると、旨味無いんだよなあ…
掲示板でも、中級者ダンジョンに突撃してレベリングしようという意見は出なかった。
さすがにみんな危険すぎると判断したんだろう。オリジンがいるから強行軍は出来るだろうけど、やりたくないらしい。
ということで、僕たちの方でも全員ゼイレムに戻るという意見で一致したのである。
救出対象者は全員行方がわかっているようだし、脱出も問題なさそうと昨日聞いたので僕たちはもうお役御免だろう。
「オークは魅力だけどな」
「アキ兄」
「ごめんなさい」
なお、生肉を齧るのはハルが禁止したため、オーク肉は未だにアキ兄さんのアイテムボックスにはしまわれていない。
が、悪くなるのも嫌ということで、拝み倒してベルさんのマジックバッグに保管してもらってるのである。
ベルさん自身は全然オッケー!というスタンスだったけど、大量の生肉を押し付けてしまって申し訳ない。
今後の方針も固まったところで、バッカスさんが戻ってきた。
「おう、待たせたな」
「あ、お帰りなさい」
「お前らに客がいるぞ」
「…へ?俺たちに?」
「おはようございますぅ」
「おはよう!ちゃんと眠れたの?」
「あ、森族の二人!おはよう!」
二度救出した森族の二人だ。どうやら僕たちを探していたらしい。
改めてお礼を言いたいとのことだった。流れでそうなっただけだから気にしなくていいのに…
「いえいえ、さすがにちゃんとお礼しないと申し訳ないです~」
「受けた恩は返すものって教わったもの。何でもいいわよ。私たちが持ってるものなら道具でも術でも授けるわ」
「も、森族の術っつったらえらいもんだろ。そんなポンポン渡していいのか?昨日も隠蔽術授けたって話じゃねえか」
「昨日のは緊急事態でしょ!出し惜しみなんてしてる場合じゃないわよ!」
「まあ、そのおかげであいつらも助かったっつってたからな。改めてありがとうな」
「昨日の連中から嫌って程お礼言われたから、そのことはもういいのよ!」
昨日の隠蔽術は使い捨てのようなものなので、もう使えないらしい。
また魔石に隠蔽術を施せば同じものは作れるようだが。
でも隠蔽術は僕たちいらないからな…ハルの隠密スキルがあるから。
でも森族の術とか道具って凄い気がする。…ヒャッハー組を探し当てるのに、何か役立つ手段があるだろうか?
「うーん、でも思いつかないしなあ…」
「あたしも。ハルとリオ兄は何かある?」
「…どういうものがあるか知りたいですね。具体的には探索系のものがあればありがたいです」
「だよなあ」
「探索系、ですかぁ」
「道具?術?どっちでもいいの?ちょっと待ちなさい」
バッカスさんに案内されて、森族の二人もテントに入ってきた。みんな揃ってカーペット(仮)に座る。
アキ兄さんがドリくんを再度出すか迷ってるのを察知したバッカスさんがアキ兄さんを止めてた。
うん、あれはホイホイ出しちゃ駄目なやつだよな…アキ兄さん、おもてなしの心は大事だけども…!
ほら、飲み物ならバッカスさんが出してくれたから。水だけど。テントの持ち主が出したやつだから。
ていうかバッカスさんにこそお礼を渡した方がいいんじゃないのか?僕たちじゃなくて。
そう言ったら、バッカスさんは依頼をこなしただけでお礼されるようなことじゃないという主張だった。
バッカスさんは報酬がギルドから出るし、とのこと。それ、僕たちもでは…?
あ、ガレメナで助けた件のお礼もロクに出来てないから今度こそはってこと?
まあ、あの時は奴隷にされてた人全員ケイロスさんに預けて、そこから僕たちはノータッチだったからなぁ…顛末くらいは聞いたけど。
そっか、都合二回助けたことになるから、何かしらのお礼をしないと落ち着かないってことか。
…これは、大人しくもらっといた方がいいやつかもしれない。ありがたいし。
「うーん、探索系は…探索対象の情報をどれだけ持ってるかによるわね。実物があれば結構遠くまで追えそうだけど」
「あ、道具前提のものですか。私たちが探したいの、人、なんですよねえ…」
「抜け毛とかないと駄目なやつか。ハゲだと探せないな…」
「あんた達、ハゲを探してるの?」
「…いえ、毛はふさふさ…のはずです。そもそも毛があれば探せるんですか?」
「毛だけじゃ無理ね」
「マナを登録でも出来れば追えますけど、抜け毛じゃせいぜい1km以内ですねぇ」
「そもそも毛を持ってないんだよな」
駄目か。ぶっちゃけ、僕たちが最後に会ったのは城を抜け出す前…下手したら実地訓練の時にすれ違ったのが最後だ。
わかるものなんてせいぜい名前と容姿くらいか…
「まったく知らない人じゃないんですよねぇ?」
「噂に聞く誰か…とかじゃさすがに無理よ?」
「何ヶ月か前に会ったことがある、程度だなあ。名前くらいならわかるけど」
「ああ、名前はわかるんですねぇ。うーん、でもそれだけだと難しいですねぇ…」
「そっかー」
「いえ、もしわかれば、と思っただけですので気にしないでください」
「何でその人を探してるの?」
「とっ捕まえてしかるべき所に引き渡すためだな」
「…犯罪者なの?」
「犯罪者予備軍ですね。ほっといたらロクなことしません」
「そんなヤバい奴、ギルドに依頼とかしてすぐさま捕縛しないとマズイでしょ!」
「ちょっとそれは…」
「身内の不祥事みたいなもんで、出来れば僕たちで始末つけたいんだよな…」
「…ああ、そういうやつね」
さすがに召喚者の捕縛にギルドを使うわけにはいかない。
そもそも情報提供出来ないし、下手したらラージフールに情報が漏れる。
既にあっちから「黒髪の子供を探せ」なんてギルドに依頼されてるわけだし。
僕たちが探してるのも同じ奴だから、同じ奴探してる冒険者がいるぞ、なんて報告でもされたら。
…って考えると、ギルドに依頼って手は『無し』になるわけで。
「…逆に、そいつらがお前らを探してるってこたあねえのか?それならこっちから出向かなくても、待ち構えて捕まるって手が使えるだろ」
「え?」
「あー、どうだろう…?あのクソバカは僕たち、ってより、ハルを探してたけど、あいつ(芝)はとっ捕まえたし…」
「は?私ですか?アキ兄さんを探してたものとばかり」
「うわー…何か想像ついたな。あれでしょ、多分あの引きこもり野郎と同じような理由でしょ?」
「ナズ正解」
「うげぇえ、それ考えるとあの追いかけてきたの、最低な意味になるのでは…逃げられてよかった…」
「逃げた先に引きこもり野郎(眞壁)がいたけどな」
「私にみんなの近く以外の安息の地はないんですか」
「な、何か大変なのね…?」
「いらねえこと思い出させて悪かった。そんなつもりはなかった」
「いえ、バッカスさんは悪くないです。全てはあのクソ野郎と引きこもり野郎が悪い」
改めて考えると、ハルのモテ具合が凄いな。てか虎も含めてロクなのから好かれてないぞ。
あ、タークくんは大丈夫なやつか。もうハル、タークくんと付き合ってしまえばいいのでは。
まあ、ハルの中ではクラスメイト兼仲間、くらいの認識だろうけど…結構いいポジションじゃないか?
…いや、ハルは将来結婚を考える相手が出現するわけだし、僕は口出ししない方がいいな。黙っとこ。
「探索系は人じゃなくて道具やアイテムを想定したものが多いので、力になれそうにないですねぇ…」
「人探しも、仲間っていうかよく知る人と合流しやすい程度のものはあるけど…」
「…それ、ちょっと気になるな。前に、いきなり別の場所に飛ばされたことがあるから」
「リオ兄だけ取り残されたんだよね」
「実にすみません」
向原の時と芝の時の二回だな。ほんとだ、僕だけ残されとる。あ、スーもいたから単独じゃないか。
転移系の道具とか罠とか、僕効かないからな…ラムやスーの空間魔法とか僕自身の『空間作用』はさすがに効くけど。
そうなると、森族の効果高そうな術や道具でも僕には効かない、のか…?
「合流しやすいって具体的にどういうものなんですか?」
「そうね、パーティリーダーの元に集まるものかしら。ダンジョンで転移系とか惑わし系の罠に引っかかった時、仲間の一人の所に合流するの」
「先に合流したい人のマナを登録しておいて、そのマナを持つ人たちを、魔道具の持ち主の所に集める感じですねぇ。短距離転移です~」
「ダンジョンでめちゃくちゃ便利なやつじゃねえか!特に迷宮系ダンジョンだとみんな欲しがるぞそれ」
「でしょうね。そういう対策のために作られたようなものだから。でもこういうのは私たちの術を頼らなくてもあるでしょう?」
「あるにはあるが、希少なんだよ」
「でもその手の術や魔道具はMPめちゃくちゃ使うのだよ。転移系となれば仕方ないのだろうが」
「…そうね。それが一番の問題かしら。まず獣族は使えないと思っていいわね」
「ああ、保有マナの多い森族だからこそ使えるやつだな。オレら人間族が使うのも難しいんじゃねえか?」
ハルが「リオ兄さんが使うならイケるのでは…?」みたいな目でこっち見てる。
うん…てか、使うなら僕だろうしな。僕自身に転移系が効かないから、パーティリーダー役を僕に据えれば問題ないと思ったんだろう。
みんなが僕の所に集まる、って形だな。
となると…結構いいやつか?向原の時も芝の時も僕単独(?)だからこそ立ち回れた部分もあるけど、今後がそうだとは限らない。
しかもヒャッハー組に会うことを想定すると、奴らが転移玉を持っている可能性もある。
前は芝を僕の所に留めておけたけど…僕が触れてなければ、アキ兄さんたちとヒャッハー組だけ転移して、僕が取り残されるって事態もありえたわけで。
そんな時に、森族の合流の術だかがあれば、アキ兄さんたち「だけ」を僕の元に呼ぶことも出来ると。ヒャッハー組は放置して。
…いや、放置しちゃまずい。捕まえてシルバーに引き渡さないとだから…捕縛の方がいい、のか?
「合流も魅力的だけど、相手を捕縛とか気絶させるとか無力化させる系の術ってないか?」
「物騒な方向性で来たわね!でもその探し出したい奴をってことかしら?まあ見つけたとしても逃げられちゃ意味ないわよね」
「うん、しかも複数人いるから。単独なら囲んで気絶させることも出来るけど、複数人いたら、何人か逃がしちゃう可能性あるんだよな」
「あー、確かにその可能性もある…か?」
「まとめて頑丈な紐とかで縛り付けてその場に拘束とかさせられたら…うーん、引き千切られるか?」
「睡眠か麻痺のポーションでもぶっかければいいんじゃないですか?タークくんから貰ってるじゃないですか」
「そうだった」
「えらいもん貰ってるな。薬じゃなくてポーションって結構な代物だぞ。ちゃんと礼してんだろうな?」
「アキ兄さんの料理とか道中で見つけた薬草鉱石なんかは渡してますが…というか、材料になりそうなもの、ですね」
「ああ、そういう取引してんなら問題ねえな。ポーション作れる奴は結構希少だからな」
やっべ、タークくんかなりのレア人材っぽいな。
『錬金調合』ってスキルもレアみたいだし…気軽に色々頼んでるけど、本当はなかなか出来ないことなのか。
うん、初見の鉱石とか見つけたら全部渡してるし、大丈夫だよな…?
「現場が森の中なら木の根とかが拘束、ってのは出来るけど…町の中だとそうもいかないわね」
「さすが森族の術!」
「どうでしょうね…今までは森の中と山でしたから」
「山なら木はありますねぇ」
「あ、火山でした」
「そういやお前らゼイレムにいたな。近くの火山か」
「うん、現場はそこだった」
ああでもない、こうでもないと意見を出し合い、結局『合流』の術か道具をもらうことにした。
うまくやれば、冷遇組をこちらに呼べるんじゃないかと考えたのもある。
今一番魔の森に近づいてるのは僕たちだし、僕たちの所に呼べるなら大幅なショートカットになる。
…とはいえ、そううまくはいかないようだけど。
「言っておくけど、森族領や獣族領にいる人を呼び寄せる、なんてさすがに無理だからね!ある程度近い距離じゃないと」
「デスヨネー」
「あときっちりマナの登録もしないとですからぁ、登録に時間かかりますし、大人数も無理です~」
「数人程度なら問題ないわよ!あんた達、五人パーティ?そのくらいなら大丈夫ね!」
「従魔は含みますか?」
「テイムしてて信頼関係があるなら主人と一緒に転移できるはずよ。近くにいればね」
「つまり、テイムしてなくてただ一緒にいるだけというのは駄目だということか」
「そうよ。だから魔物を捕縛して、依頼主に引き渡すから連れてるだけ、ってのは無理ね!」
「なるほど、そういう…」
つまり、ダークくんは駄目ってことだな。
さっさとシルバーにテイムさせた方がいいかこれ?いや、シルバーがいないと駄目なのに変わりはないのか。
…とはいえ、空間魔法に長けたダークくんだ。あまり心配はいらないか。影さえあれば合流できるはず。
それに、ダンジョンへ転移してきたみたいに道具扱いで一緒に転移できる可能性もある。
「じゃあ、合流の魔道具でいいのね?」
「はい、お願いします!」
「てか本当にそんな貴重品ポンと渡して大丈夫なのか…お前ら、変なのに粘着されねえか?」
「今まで跳ねのけてきたからきっと大丈夫よ!この子たちに関しては、魔道具を渡したってこと、ここにいる人しか知らないし!」
「そうですぅ、何とかなりますよ~」
「………オレより年上なんだろうが、どうにも心配になる二人だな、オイ」
「前、奴隷商会に捕まって『まあこんなこともあるかー』で済ませてた二人だからな…」
「大問題じゃねえか!保護者どこだ保護者!」
「親ですかぁ?森族領にいますよ~」
「何か旅して経験積めって放り出されたのよ!だから冒険者になって色んな場所旅してるの」
経験積む前に人生詰まんか?
バッカスさんが言うように何か心配になる二人だな…
てか、森族に伝わる術や道具をポンと渡すのも本当は駄目なんじゃないのか?
それ言ったら貰えなくなるから言いづらいけど。
ちょっと視線が「どうしようもない子」を見るような視線になってしまった自覚はある。
そしてアキ兄さんとナズとハルも似たような視線で二人を見ていた。
ベルさんだけは普通にしてたけど…ああ、この人も何か心配になる系の人だもんな。同類か。
「じゃあ、はい、これが合流の魔道具よ。マナを込めれば何度でも使えるわ。術だと強力だけど一回きりだから」
「うわ、ありがとう!」
「う、うおおお!凄いのだよ!見事な細工なのだよ!本当に魔道具か!?装飾品みたいなのだよ!」
「うわびっくりした!ベルさんいきなり大声出さないで!」
「す、すまん」
「…そう?まあ、頑張って作ったからね」
「君が作ったのか!?す、素晴らしい腕なのだよ!」
ベルさんの職人魂に火がついたらしい。
確かに差し出された魔道具は綺麗なものだった。コンパクトのようと言えばいいのか、懐中時計にも似てるか?それの蓋に刻まれてる紋様が綺麗だ。植物柄かな?
中を開くと魔石が中央に埋まっており、マナの登録はこの魔石に触れて行うものらしい。
要はこの魔石に触れてマナを送り込めと。中央以外に配置されている小さな魔石は透明で、登録者を表しているようだ。
登録が済むと魔石の色が染まる。そしてそのマナを込めた相手をこの魔道具の近くに転移させると。
一度転移させるとマナは霧散し、再度同じ人が使いたい場合は、もう一度マナの登録が必要と。一回につき一度の登録か。
形を見ると時計が近いな。登録者は最大で12人。円形のコンパクトの中央に動力の魔石、登録者の小さな魔石はその周りに等間隔で配置されている。
そのせいで時計のように見えてしまう。
しかし12人か…僕が使うとすれば、まずアキ兄さんたちの三人を登録。あと九人…
ベルさんも入れるとすれば八人だけど、冷遇組を呼ぶと考えると、一チームずつなら大丈夫かな?
いいもの貰ってしまった。
張本人の森族はというと、妹は未だベルさんに褒められまくって赤面してるし、姉はドヤ顔していた。
妹が自慢なんですねわかります。バッカスさんは呆れてたけど。




