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162.8/10


「…勇者…オリジン…嘘だろお前ら…オレは何て奴らを連れて来ちまったんだ…」

「俺ら最初断ろうとしたじゃん。絶対めんどくさいことになると思ったんだよ」

「…そうだな、無理やり連れてきたオレが悪い…のか…?」

「バッカスさん大丈夫ですか?もう少し休みます?」

「…いや、説明でかなり時間使った気がする。早く向かわねえと」

「いうて軽い説明だけやったし15分くらいしか経っとらんで」

「時間が計れるモンがあるのかよ…しかもお前さっきから妙な言葉遣い…いや、異世界の言葉なのか?」

「あ、ごめん、これただの訛り。気を付けてるつもりなんだけどたまにポロリするー」



バッカスさんは御伽噺程度ではあるけど、勇者召喚について知っていた。

まさか僕たちがその勇者だとは思わなかっただろうけど。

けれど、戦いの後半、ガンガンスキルを使ってたことについては納得したようだ。

そしてスキルを使うといらない騒ぎが起きるから極力隠していたことも理解してくれた。

こんな状況なら最初から使えと言いたかったんだろうが、事情が事情なので仕方ないと飲み込んでくれたらしい。

異世界については、話がてらアキ兄さんがおにぎりを出したことで納得していた。

見たことない食べ物だっただろうしな。そして僕たちが携帯食に微妙な反応をしてたことについても納得していた。

軽い説明と腹ごしらえが済んだので、先に進むことになった。



「アキ、さっきモンスターハウスってわかったのは、そのオリジンってやつのスキルか?」

「そう、でもさすがにスーやダークくんが判別したって言う訳にもいかなかったから、俺が」

「なるほどな…てことは、あと二つモンスターハウスがあるわけだが、外から判別できるのか?」

『出来るのだ』

『出来るよ』

「…なら、モンスターハウスについては悪いが教えてくれるか。今度は入らねえ」



そうだな。わかる危険は避けるべきだろ。

ちなみにモンスターハウスでも魔道具は反応しなかった。

少なくともここに迷い込んで隠れてる可能性は無くなった。よかった。


バッカスさんはオリジンについては知らなかったそうだけど、フェンリルなんかと同格と話せば多少察したらしい。

グランツさんと同じパターンだな。そういえば元気かなグランツさん。



「しかし、魔族か。そりゃ冒険者になるとバレる可能性高くなるよなあ…」

「いや、職人を目指してるのは本当なのだよ。この装飾を作ったの僕だし」

「職人って嘘じゃなかったのかよそれ!?つかすげえな売りモンじゃねえのかこれ!?」

「ふふん、僕は細工スキルを持っているのだよ」

「はー…なるほどなァ…オレは一応『斧技』スキル持ちだが」

「え、バッカスさんスキル持ってたんだ、すごい!」

「…お前らに言われてもなあ…」



いや、この世界の人でスキル持ってる人間族、あんまりいないからさ。

そういやシェリルと会った時にシェリルにやられてた冒険者の中に調薬だか何かのスキル持ちがいたっけ?そのくらい?

まあ、スキル持ってても黙ってるだけの可能性あるけど。僕らだって黙ってるしな。

ともあれ、バッカスさんは魔族に対して思うところはない人だったようだ。安心した。

ダークのことも説明したけど、ひとまずネコマタ状態のダークは紹介した。本当はオリジンシャドーということも伝えたけどピンときてないらしい。



「てかさっきのモンスターハウスでレベル上がったよな、みんな。僕『咆哮』スキル覚えたんだけど」

「マジかリオ兄、マジか。マジで言ってる?」

「魔法が苦手なのは知ってますが、何か謎ラインナップですね、スキル構成が。リオ兄さんはどこを目指してるんですか?」

「僕が一番知りたい!」

『もしかしたらスーに影響受けたかもです。スー、咆哮スキル持ちですから』

「そういえばサンも私の影響で『隠形』スキル習得してましたね。ラテちゃんだって『念話』すぐ覚えたし」

「あー、それでか。まあ役立ちそうなスキルだからありがたいけど」

『でも主、あんまり叫ぶイメージないのだ。たまにアキちゃん達に向かって愛は叫んでるけど』

「ほう…?つまりスキルレベル上げはみんなへの愛を叫べば…?」

「やめてリオ兄」



全員で確認したところ、全員基礎レベルは20になっていた。権能強化されてるじゃないですかやだー!

あと初期スキルが15になってたり、細々と上がってましたよ。今の状況じゃちゃんと確認出来ないけど!



「レベル低いと嘆けばいいのか、スキルの多さに慄くべきか。どういう反応すりゃいいかわかんねえ存在だなお前ら」

「そう言われても…この世界に来たの、数ヶ月前とかだし…」

「もう三ヶ月くらいは経ってるよね多分」

「進級してるじゃないですかやだー」

「大変なのだな…っと、魔物か」

『オークですのー』

「肉かッッッ!」

『おかずです!』

「馬鹿なオークだな、アキ兄さんとラムの前に出るなんて。余程豚肉料理になりたいらしい」

「…リオ兄さん、疲れてますね?」

「うん」

「あー、悪かった悪かった!あとでしっかり休んでくれ!行くぞ!」



オークの掃討は、特筆すべきこともなく終わった。

アキ兄さんとラムがハッスルしてたくらいだな。ドロップ回収はやっぱり一分。まだ救助対象者が見つけられてないので時間を割けない。

それでなくてもモンスターハウスで30分近く消費してる。説明込みだけど。

出来るだけ急ぎたいのに変わりはない。じゃあ拾うなって?アキ兄さんとラムにそれは通じないんだ…



「…スキル解禁した途端に強くなりやがって…いや、当然っちゃ当然なんだが」

「あー、攻撃くらう回数も減ったのだよ。物理壁が凄すぎる」

「ほんとにね。もー、リオ兄の物理壁無しだとめっちゃ攻撃くらったもん。『結界・微』のおかげでダメージ少なく済んだけど」

「糸紡ぎと糸操作のありがたみも沁みますね。ナズ姉の牽制の凄まじさを再確認しました」

「アキ兄さんの倍化使っての衝撃波もやばいな」

「そうか?ハルの分身苦無こそやばいぞ、何の状態異常だ…?」

「色々ですね」

「勇者って…異世界人って…」

「いや、俺らこれでも召喚直後は役立たずって言われて冷遇されてたからな」

「これが役立たず?節穴にも程があんだろ。どこの誰が言ったよ」

「ラージフールの王族」

「あのクソ共…ごほん、ウチの国の一番偉い奴がかよ。やっぱ駄目だなあの王家…ゴホン、今のなし」

「別に不敬罪とか気にしなくていいぞ。俺らも漏れなくあいつら嫌いだからな」

「僕は魔族だから人間族の王族はむしろ嫌いなのだよ。長年いらん因縁つけてきてるから」

「…そうか、助かった」

「てか、やっぱラージフールの王族って嫌われてんねんな」



というか、奴らは冒険者を見下してるそうだ。それが態度や口調に表れてるので、冒険者側も不快に思ってるらしい。

その割には希少なものを採って来いと無茶振りされまくってるとか何とか。

ええ…?見下してる相手にものを頼むのか。しかもやって当然、みたいな態度で依頼してくるのだとか。

冒険者ギルドも「見つかりません」とほぼ突っぱねてるが、それでもどうしても受けなければならないこともあるらしい。

そんな感じなので、暗黙の了解として冒険者ギルド全体でラージフールの依頼はほぼシャットアウトしてるとか。

てか、ドラゴンの鱗や爪とかを100ゴルダの報酬で受けろ、なんてふざけた依頼をするらしい。

串肉二本分の値段じゃないか。ナメてんのか?ナメてんだろうな。

…そりゃ嫌われるわ。黒髪の子供を探せって頼みだってロクに聞こうとしねえわ。



「まあ、ドラゴンさんの爪くらいなら頼めば手に入る気はするけどもー」

「ああ、頼んだらくれそうだよな」

「…オレはもう何も聞かねえぞ」

「オリジンドラゴン様の爪などそうそう表に出せないのだよ」

「聞きたくねえって言っただろうが」

「まあ大抵タークくんが使ってゴミにしちゃってるっぽいけどね」

「何てことしやがる!どこの馬鹿だ!」

「あ、私のクラスメイト…友達です。召喚者…勇者ですね。スキルで使ってるんですが、素材ランク高すぎて失敗しちゃうそうです」

「そういうことかよ。ならいいわ」

「いいんだ」

「調合でも細工でも鍛冶でも作業に失敗してゴミにしちまうのはよくあることらしいからな。材料はもったいねえが仕方ねえ」



作業系スキルあるあるだそうだ。その割にはアキ兄さんもナズも失敗作ないな?すごいな???

多分うろ覚えで作ったりとか分量間違えたりとか歪んだりとか、そうなったら失敗するんだろう。

タークくんは必要レベルに全然足りてないらしくて、ドラゴン素材のものは未だひとつも成功してないらしい。

成功したらどえらいもんが出来そうだよなあ…

タークくんは既に精霊作り出したりと色々成果を出してるので、そのうち凄いもん作りそう。

もっとも、精霊は栽培スキルの成果だけど。やっぱり農家かあの子…?


いくつか部屋は見たけど、未だ見つからない。

森族の二人も、囮として八人から必死で離れたのもあるだろう。

既に死んでしまって、ダンジョンに飲み込まれてしまったなんて考えたくはないけど。



『げっ、またモンスターハウスなのだ』

『しかもまたマウス系だよ。マウスズかテソかはわからないけど』

「スルーしよ無視しよバッカスさん!もう嫌だ俺!」

「あ、ああ、そうだな。もうごめんだ」

『ぷ…オークなら魔法叩き込んで即殲滅するですのに…』

「こらラム、めっ」

『はいです』

「いいか、ラム。オーク殲滅をするなら、救助対象者を見つけて全ての憂いが無くなってからだ。それならドロップだって全部拾えるからな」

『なるほどです!』

「なるほどじゃねえ!」



…今だとドロップ拾う時間が一分しかないもんな。

そういう問題かな?

バッカスさんが勘弁してくれと呟いていた。ウチのアキ兄さんがすみません。



『…ん?』

「どうしたのだダーク様?」

『えっと、声が聞こえて…魔物じゃないな。人間かな…?』

「何っ!?てことは、あいつらか!?」

『…急いだ方がいいかも。怒鳴り声みたいだ。ぼくに聞こえるくらいだから相当の声だよ』

「…言い争ってるのかな。自棄になってるかも」

「どこだ!?すぐ行かねえと!」

『そこの部屋だよ。聞こえる声は三人分。他にいるかは近づかないとわからない』

「あそこか!行くぞお前ら!」

「わかった!」



ダークは影をにょーんと伸ばしてひとつの部屋を指していた。矢印ってこの世界でもあるのか?召喚者に聞いたか?

100メートル以上先にある部屋から声が聞こえたらしい。結構遠いな。

ダンジョンだと部屋の中は探れないし、千里眼でも地獄耳でも近づかないとよくわからないと言っていた。

それなのに聞こえたというのは、相当だろう。隠蔽が剥がれてるのかもしれない。


全員で走り、扉を蹴り飛ばすようにして部屋になだれ込んだ。

怒りと悲しみで泣いているらしい男が、屈強な男の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとしていた。

そしてそれを止めようとする細身の男と、周りでどうしていいかわからなくなってる人が数人。倒れてる女が一人。

全員が扉の方を驚いたように見て、僕たちを見て動きを止めていた。



「何してんだ馬鹿野郎!!!」

「わー!仲間割れー!?」

「そ、そこまでー!止まってー!」

「一旦冷静になりましょう!茹った頭で考えても仕方ありません!何なら水ぶっかけますよ!」

「いや待ってハルそれは風邪ひくやつ!」



割とグッダグダな発言ぶちかましたせいか、言い争っていた人たちは冷静になったらしい。

特に何もしなくても見えたので、隠蔽は完全に無意味になって…いや、七人しかいないな?

まさかと思って魔道具を使うと、少し離れたところで反応が。…すっかり怯えて縮こまってる人、発見した。



「えーと、大丈夫…?」

「ひっ…!こ、声が、怒鳴り声が、怖くて…!」

「ありゃ、君、獣族か。耳いいのか」



どっちかと言うと鼻の方が良さそうだけど。

多分、犬の獣族、かな?こげ茶の毛色の、犬人間みたいな見た目だ。獣化してるのか?それとも元々?

ずっと耳を塞いでいたようで、頭の上にある耳と一緒に頭を抱え込んで蹲っていたようだ。

僕たちが来たことも気づいてなかったのかな。あぶなっ、魔道具なかったら置いてってたかもしれない。



「わ、リオ兄、その子誰?」

「そこの端っこで蹲ってた子。多分五人パーティの一員」

「モッフモフじゃないですか」



バッカスさんは喧嘩してたらしい二人をまとめて叱り飛ばしていた。

こんな時に戦力を削ぐ真似をするなんて何事か、という感じで。

まあ、精神状態がやばかったのは明白なのですぐに理由の聞き取りに入っていたが。


どうやら、倒れてる女の子が毒矢にやられたらしい。やったのはオークのアーチャーかな…

このままだと女の子が死んでしまうと思い、毒消し草を探しに行こうとしたらしい。

そしてそれを止めたために争いに発展したと。

毒消し草を探そうとしたのは、五人パーティのリーダー。止めようとしたのは救助隊の三人のうちの一人。

運よく宝箱に毒消し草があるかもわからない、下手をすれば全員を危険に晒す、救助を待とうと主張したのが救助隊の人。

いてもたってもいられず、単独でも飛び出そうとしたのが五人パーティのリーダーらしい。

わからなくもないけど、悪手だよなあ…ポーション類も尽きたので、本当にどうしようもなくなったらしい。

それまではポーションを使って減るHPを回復させる形で、何とか凌いでたらしいけど。



「まさか、バッカスが来てくれるとは…」

「す、すみません、妹が、死ぬかもって思ったら…!」

「ああ、わかったわかった。解毒ポーションがあるから使え。慌てるなよ、ゆっくりやれよ」

「は、はい!ありがとうございます!」



ああ、妹だったのか。それは冷静になれないかもなあ…

よく見たら髪色とか一緒だ。顔色はひどく悪いけど。



『っ!魔物です!』

『オークだ!』

「肉!!!」

「えっ」

「えっ」

「は?」



ダンジョンの部屋には魔物がいることもある。そして倒したとしても一定時間でリポップする。

…あ、このオーク、今リポップしたとこだったのか。そして即、食材バーサーカー…もといアキ兄さんに仕留められたと。合掌。

そうか、リポップするまでは一応安全圏になるのか。とはいえ…



「あんま長くいるわけにもいかねえな。すぐ移動出来るかお前ら?」

「い、妹を背負えば、何とか、歩くくらいは…」

「戦闘はオレたちで請け負う。自分の足で歩いてくれるだけで助かる」

「…ここ、結構奥ですね。入り組んでるのもありますが…」

「えっ、まさか、地図を作りながら来たのか!?凄いな!?」

「ああ、入り口のセーフティエリアからここまで…描けてるよな?」

「目の前の廊下のあたり…二つ目のモンスターハウスの所まで描いてます」

「ああ、ならすぐ側だな。じゃあ迷わず戻れるか」



部屋にいたのは、事前情報通り、八人。全員、怪我はしていたものの生きていた。

バッカスさんが通信の魔道具で全員見つけたことをセーフティエリアにいるシーラさんとセリーヌさんに報告していた。

その間に八人は持ってきた水と携帯食で体力補給。いつでも行けるとのことだった。

毒にやられた女の人は意識はあるものの、体力がほぼ尽きているようで歩けないそうだ。こればかりは仕方ないだろう。

なお、水や携帯食が入ってた袋や容器はラムが処理していた。そういや本来スライムってこういう役割の魔物だっけ。

みんな普通にラムに向かってゴミを渡そうとするから何事かと…ラムは喜んで消化してたけど。

僕ら、ラムを普通のスライムとして扱ってなかったもんな。そうか、これが普通のスライムに対する対応なのか…


単純に戦力が増えたので、僕たちは再度スキル封印で進むことにした。

というか、僕たちが銅級と知って、救助隊として来ていた三人が前に出ると言ってくれたのだ。

それに甘えさせてもらった形になる。

まあ、オークを速攻仕留めたアキ兄さんを見てるので、銅級にしては腕は立つ、みたいな評価してくれてるみたいだけど。



「いや、地図作成してくれてたの本当にありがたいな。しかも見やすい」

「うう、入り口遠いですわん…思ったより入り口に近づいてなかったわん…」

「そうだな…ああ、今一体何時なんだろうな…もうどのくらいここにいたか、わからなくて」

「大体深夜ってとこじゃねえか。日は跨いでねえはずだが」

「そのくらいでしょうね…もう眠くて…」

「体内時計の正確さが憎い…」

「規則正しく生活しすぎなのだよ皆…」

「は?規則正しい生活が成長を促すんですよ。身長が伸びなくなったらどうするんです」

「あっはい」

「冒険者やってると夜中に依頼の魔物探すとか当たり前だからな…」

「何ですその鬼畜依頼。絶対受けません」



まあ、僕たちが受けてる依頼、ほぼ常設の採取依頼だからな。

そういう時間が限られてるような依頼は受けないだろう。

そんな依頼があってもアキ兄さんのことだから選ばないはずだ。この人も三食おやつを守りたい派なので。


出来るだけ急いでセーフティエリアまで進んだ。道中何度か戦闘は起きたが、バッカスさんと三人の冒険者強すぎた。

僕ら、ほぼ置物になってるんだけど…怖。これが金級冒険者か。

あ、三人の冒険者は金級で、五人の冒険者は銀級だそうだ。わあ僕らが一番下っ端。

でも、ラテとかサンは活躍してるから。熱感知(本当は魔力感知込み)で魔物を察知してたり活躍してるから…!

そして歩くことしばらく。ようやくセーフティエリアに辿り着いた。



「着いた…!」

「お帰りなさいバッカスさん!みなさんも!」

「1、2、3…全員いますね!よかった!」

「あらぁ~お帰りなさい、お疲れ様です~」

「無事だったようね!まあ、当然よ!私達の隠蔽術があって、見つかるわけないものね!」

「…何だ、お前ら全員起きてたのか。寝ててよかったんだぞ」

「救助対象者を発見したって連絡がありましたから、眠れなくて」

「あ、入り口で状況を取りまとめてる人たちには既に伝えてます。というか、戻ってきたって報告しないと!」



何か、元気な人たちを見てるとこっちまで元気になるな。

やっと着いたって思って脱力したんだけど、ちゃんと立って移動するかって気になった。

もうここで寝てやろうかな、なんて考えちゃってたよ…

それにしても、森族の妹さんの方も目が覚めてたんだな。一言目でツンデレ発言っぽいのかましてたけど。

五人のパーティはちょっと気まずそうにしてた。うん、隠蔽術借りたのにそれを無駄にする行動取ろうとしてたもんな。



「あ、これ返すよ。隠蔽察知用の魔道具。ありがとう、役立ったよ」

「あらぁ、よかったですぅ。面倒な役目を任せてごめんなさいねぇ」

「見るからに疲れてるじゃない!子供なんだからもう休みなさいよ!そっちの五人もよ!無事を喜ぶのは明日でもいいんだから寝なさい!」

「あ、ああ…いや、その、ありがとう、隠蔽術…」

「私達は自分のやれることをやったまでよ!でもお礼は受け取っとくわ。どういたしまして」



そっぽ向いて突き放すような口調ではあるものの、言ってる内容は優しいなこの子。

そういや前に助けた時も喧嘩腰にお礼言ってきたっけ…?



「ともあれ、一階層の探索や救助活動はこれで終わりだ。全員お疲れ。もう休め!」

「はーい」

「やっと休める~。ねむねむ…」

「ちょっと、あんた達。テント張る前に寝るんじゃないわよ!?」

「…テント」



あ、そういえば。…全員で顔を見合わせる。

もしかして今日、カーくんで寝れないのでは…?

ダンジョンを出ると、大量のテントで溢れかえっていた。

恐らくこれのいくつか…もしかしたら半分以上は、救護用テント扱いになってるのかもしれない。

とてもじゃないけどカーくんは出せないなこれ。どうしようか。

皆で顔を見合わせてると、冒険者の一人が声をかけてきた。今回の変動の救出隊を取りまとめてるパーティの人らしい。



「お疲れ、一階層を探索してくれたんだって?よくやってくれたな。もう休むか?」

「あ、休んでいいのか?もう巻き込まれた人は無事救出された?」

「まだだが…今こっちに帰還中だから安心しろ。見つかってはいるんだ。ただ、こんな時間だからセーフティエリアで休むって連絡があった」

「そうなの?」

「ここの帰還陣は五階層ごとにしかなくてな。つまり…12階層にいたり、23階層にいたりしたら上層か下層の帰還陣に行かないと戻れないんだ」

「あー、それで今日のところは12階層とかのセーフティエリアで休んでる、と」

「そういうことだ。居場所も無事も確認出来てるから、あとはもう大丈夫だろう」



全員安全圏…セーフティエリアまで辿り着いたという知らせ自体は受けてるそうだ。

これはもう明日以降になるだろうな。

つまり、ここに戻って来てるのは五階層ごとの帰還陣でダンジョン外まで出られた人たち、ということか。

なお、スペースがギリギリのため、何組かは一階層の入ってすぐのセーフティエリアも休息スペースにすることに決まったそうだ。

森族の二人や、救出された五人パーティはそこで休むらしい。



「休んでいいらしいけど…どうする?」

「うーん…」

「おい、お前らこっち来い!」

「あ、バッカスさん」

「宿泊の用意なんざしてねえだろ。来な」



あ、そういえば依頼後に無理やり連れ出された感じになったのもあって、テントとか持ってないって思われてるのか。

そういうのは宿に置いてきた、みたいな嘘ついちゃったしな。実際は全部持ってるけど、カーくんの話とかしてないからわからないのか。

来いと言われたので、一応着いて行く。どうやらバッカスさんは一人らしい。パーティとか組んでないのかな?

そしてひとつのテントを示した。



「オレのテントだ。お前ら今日はここで休め」

「え、これ一人用じゃ…」

「魔道具のテントを見るのは初めてか?中はそれなりに広いぞ」



グランツさんのテントを一回見たことあるくらいかな?あれも結構広かったけど。

そう思ってたら、想像以上だった。バッカスさんのテントの中はまるで家だった。

入ってすぐにリビングのような場所が広がっている。数人はここで食事が出来そうだ。さすがにキッチンはないけど。

そして奥の方にテントの入り口のような仕切りというか暖簾のような布がかかっている場所が四つ見えた。



「奥が寝床になってる。オレは四人パーティだからな。今日は三人は戻らねえから使え」

「え、いいの?」

「…勇者っつか召喚者か?それだっつーなら、お前ら黒髪のはずだろ。…晒せねえだろ」

「あ…」

「つか、最近ギルドから回ってきた黒髪の子供を見つけたら報告しろっての…お前らだろ多分。これ王都からの依頼…脅しらしいからな」

「やっぱり脅しなんですね。ゼイレムはあまり乗り気じゃ無さそうでしたが」

「どこのギルドも乗り気じゃねえさ。言ったろ、ラージフールは冒険者ギルドを都合のいい小間使いとしか思ってねえんだ。しかも報酬もねえときた」

「頼んでるのに報酬ないの!?」

「そりゃ誰もやりたがらないのだよ…」

「まあそれでも、王都ってのはデカい。繋がりが欲しくて探す奴はいるかもしれねえ。いたらただの馬鹿だが。が、オレは恩人を売る真似はしたくねえ」

「恩人?」

「モンスターハウスで下手うった時、助けてくれたろ。そうじゃなくても強制指名依頼に付き合わせた負い目もある。お前らを危険に晒したくねえ」

「でもそれは、あたしを庇ったからで…」

「金級冒険者が銅級冒険者を庇うのは当然のことだろ」



バッカスさんの中では、そういうことらしい。

というか、変動で行方がわからなくなってる人の救出に乗り出すあたり、この人は面倒見がいい人なんだろう。

パーティの他の三人は、今ダンジョン内にいるそうだ。さっき聞いた『今夜はセーフティエリアで休む』という人たちの中にいるのかもしれない。

バッカスさんはゼイレムに救援依頼に来たけど、他の三人はそれぞれ近隣の別の町のギルドに乗り込んで冒険者を引っ張ってきたそうだ。

他にもバッカスさんたちのように近隣に救助を求めに行った冒険者もいるらしい。

幸い、ダンジョンに慣れた人たちが多く取り残されていたようで、迷子になってるだけで魔物にやられた人はいないそうだ。ケガはしたそうだけど。

冒険者…強いな…いや、中級者用に挑むくらいだ。ベテランばかりなんだろう。

むしろ一階層にいた五人のパーティの方が珍しいのかもしれない。初・中級者ダンジョンだったらしい。



「それに、お前もただの寝袋とかで寝て正体バレたら騒ぎになるかもしれねえ」

「…僕か?魔族だからか?」

「ああ、オレは何とも思っちゃいねえが、魔族って種族に忌避感持ってる奴がいねえとも断言できねえ。こんだけ人数がいりゃそんな奴の一人や二人いるかもだしな」

「確かに、いらん騒ぎを起こすのは本意じゃないのだよ」

「このテントは許可した奴しか入れねえようになってる。防音もされてる。パーティの奴らは今夜戻らねえ。一部屋はオレが使うが、残り三部屋、好きに使え」

「あ、ありがとう…!」

「無理やり付き合わせたんだ。このくらいの面倒は見て当然だ」



そうかなあ?

当然って言いきってしまえるあたりがバッカスさんがいい人だって証明だと思う。

面倒臭がって関わりたくないって放置する方が普通な気がするんだけど?

この人の言葉に嘘がないのが『真偽』スキルでわかってしまうだけに、なあ…



「…お言葉に甘えましょうか?外にはカーくん出すスペース、ありませんしね」

「そうだな」

「…カーくん…?いや、聞かねえ、これ以上ヤバいことは聞かねえからなオレは…!」

「バッカスさんのためにもさっさと寝てしまう方がいいのだよ。部屋はどう分ける?僕はダーク様と一緒でいいな?」

「いいよー。さすがに四人一緒は無理やな。二・二で分けよっか」

「どう分ける?じゃんけん?」

「は…?男女で分けりゃいいだろ、何言ってんだ…?」

「あ、ごめん、俺とリオくん女だから」

「はあ!?いや、ガキだとは思ってたが…嘘だろ、お前ら…」

「いやあ、子供の女四人って絶対舐められるやつだと思って、それで男装を」

「…ああ、なるほどな。いや、こんな寝る直前に驚かされるとは思わなかった。頼むからもう寝ろ」

「あっはい」



心なしか、部屋に入って行くバッカスさんの背中に哀愁が漂ってるように見えた。

な、何か、ごめん…



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