153.ゼイレム到着
「…これがゼイレムかぁ」
「獣族多いな。ガレメナ以上だ」
「獣族領に近づいてるから、自然そうなるのだよ」
「ベルさんキョロキョロしないの」
「い、いや、つい、角のある種族を探してしまって…」
「節操無しじゃないですか。見かけ次第口説きに行ったりしないでくださいね」
「さすがにしないのだよ…」
予定通り、ゼイレムの町に入った。
ちなみにベルさんは今回「ベル」という名で町に入っている。
大抵似たような偽名というか略称なので、今僕たちに呼ばれてる名を使うことにしたようだ。
ちなみに今までの候補はフルネームの一部として「ベル」「ギア」「レイ」「ズデ」「イア」「ロス」を順番に使ってたらしい。
僕が言うのも何だけどひどい。何がひどいって「ズデ」が一番ひどい。名前と苗字分けろよ…
「まず冒険者ギルドに行く?まだカード失効の心配はないけど」
「それか商業ギルドに行ってベルさんの金策かな?」
「色々採取してましたもんね」
「そうだな…資金尽きかけてるから換金したいのだよ」
なお、ベルさんはマジックバッグを持っている。時間停止機能つきのすごいやつだ。初めて見た。
そういえば、この人は王子みたいなものだった。
収納系のスキルないのに魔晶石いくつも持ってたり木工や細工の道具持ってるな、と思えばそういうことだったらしい。
僕たちはある意味マジックバッグよりすごいものを持ってるので、バラしたところで問題ないだろうと教えてくれた。
そんな物を持ってるので、換金のために薬草関係やら何やらを新鮮なまま大量に持ち運べる。
なので採取できる時にガッツリ採取して売ってたのだという。
まあ、普通は新鮮なまま運ぼうと思ったら直前で採取するか、冒険者ギルドで依頼受けて依頼物保管用のマジックバッグ借り受けるか、だもんな。
時間停止機能付きの上に大容量のマジックバッグはめちゃくちゃレアなのである。
そのレアなのをベルさんは持っているわけで。端的に言ってヤバいだろ。
…そう言ったら、お前達ほどじゃないと言われた。解したくないけど解した。
「…商業ギルド、初めてだ」
「まあ冒険者だとあまり用はないのだよ」
ちょっと珍しそうにチラチラ見られてる。
多分、僕たちは見た目だけなら全員冒険者だからだ。
ベルさんはフードつきマントだから、冒険者にも商人にも見えるけど、僕たちと一緒にいることで冒険者集団に見えてしまっている。
武器(鈍器)も見えてるしな。と言っても商人だって護身用の武器を持ってる人は珍しくない。
そしてさっきベルさんが言ったように、冒険者はあまり商業ギルドに来ない。
だから物珍しさで見られている。あ、従魔が複数いるのも珍しいのかも?
けど商業ギルドの扉を潜っても何も起きない。犯罪者として登録されてるわけもないので魔道具も当然反応しない。
それが示すのは、多少珍しくて怪しく見えたけど犯罪者じゃないということ。
それがわかったのか、自分の持ち込んだ商品の方が重要と頭を切り替えたのか、すぐ僕たちへの視線は無くなった。
「ちょっと換金してくる」
「行ってらっしゃい」
どのくらい換金するのか、そういうのは興味ないので窓口からは離れた場所で待機する。
もしかしたらこれで「商人とその護衛の冒険者」に見えるかもしれないし。
まあ、別にどう思われたっていいんだけどさ。
従魔のみんなも大人しくしてるし、特に問題無さそうな集団と思われたらしい。もう誰もこっちを見ちゃいない。
…アキ兄さん、ずっとラムをぷにぷにたぷたぷしてるけど。
勝手にどこかに行ったりしないようにちゃんと面倒見てますよ、というアピールのために従魔はそれぞれの主と一緒にいる。
ラムは抱っこされてるし、スーは僕の肩にとまってるし、ラテはナズの頭の上でまったりしてるし、サンもハルの首にゆるく巻き付いている。
大きな従魔だとさすがに中に連れて入れないけど、形状変化で小型の魔物に扮しているので問題はない。
あとギルド印も見えてるだろうしな。
むしろ小型の魔物だと外に放置しておく方が危険である。種類にもよるが、下手したら踏まれるので。
なので施設内に従魔を連れて入るのは違反でも何でもないのである。
従魔が何か壊したとしたら、それは主の責任になるけど。
「すまん、待たせたのだよ」
「お帰り。どうだった?」
「ああ、高く買い取ってもらえた。数日は宿でのんびりできるくらいにはなったのだよ」
実際は、宿じゃなくてカーくんで寝泊まりだけどな。
でも大体の金額は察せられる。高くもなく安くもない、絶妙な金額だ。
まあ大金稼げた、なんてこんな所で言ったら嫉妬くらう可能性もあるかもしれないしな。
「宿でのんびりできる」程度の金額なら誰も気に留めないだろう。
「付き合ってもらったし、屋台で何か奢ろうか」
「やったね」
「いいですね、屋台のご飯」
「うわ嬉しい。何にしようかなあ」
「来る時に屋台通りあったし、そこ行ってから考えよう」
「ああ、賛成なのだよ。串肉があればいいな」
「あー、いいなそれ」
たまにはジャンク飯が食べたくなる…というか、この世界の食べ物はアキ兄さんも興味津々なのである。
今まで町に行ったら屋台突撃とかしてたもんな。
同じ肉が使われてても調味料が違ったり、町によって特色があったりする。
そしてこのクラーフ独自の味付けは、アキ兄さんにとって未知の領域。そういうのもあって勉強がてらよく食べているらしい。
あれだ、目玉焼きに何をかけるか、みたいなやつだ。トランタは塩派、ガレメナは胡椒派、ゼイレムはソース派、そんな感じの。
なので同じオーク肉の串焼きでも、町によって全然味が違ったりするそうだ。
自分でも美味しい味を研究はしてるが、クラーフで使われている調味料はあまり詳しくないので、屋台などを参考にするのだとか。
うん、つい使い慣れた調味料…塩とか醤油とか使っちゃうって言ってたもんな、アキ兄さん。
僕たちにとってはそれで充分美味しいけど、クラーフ風の味付けも挑戦したいらしい。向上心すごい。
クラーフはあまり料理発展してないみたいだけど、食材(例:魔物の肉)が美味しいから、クラーフの人もそれなりに満足してしまってるんだろう。
そのせいか、あまり調味料を使わない素材の味で攻めるという方向に進化したのが今のクラーフの料理事情だという。
まあ、味付けは物足りない感じするけど焼き方とか加工に関しては凄いらしいよ。アキ兄さん曰く。
あとは、調味料があまり知られてないそうだ。胡椒とかハーブとかを料理に使わなかったり、マヨネーズみたいな加工品が無かったり。
そのくせ、土地限定の味があったりするという謎仕様。
でもそういうのは大抵屋台にも使われてたりするから、アキ兄さんは屋台を利用したがるというわけで。
「串焼きあるぞ食おう!」
「肉の…肉玉か肉塊もあるぞ、これも食べよう」
「肉の塊って意味では間違ってないんですがリオ兄さんの言い方だと凄く不味そう」
「別のもの想像するよね」
「語彙力よ」
いや、唐揚げとかミートボールってこっちで何て言うのかなって…
多分これ日本語表現かなと思って口にしなかったんだけど、うん、僕の語彙力が酷すぎたな、ごめん。
ちなみにこういう所のはメニュー表なんてあるわけもなく、つまり決まった名前もないことが多い。
字が読めない人も多く利用するからだ。なので味付けなどは調味料(塩とか)が近くに置かれてたりする。
これはこの塩で味付けしてますよって知らせているらしい。
あとは何の料理か知りたければ店員に聞けばいい、ということだろう。
いくつか購入したけど見事に茶色い。肉祭りである。
客層も冒険者やら獣族が多い。安くて大量に食える、単純な味付けでいいと思った人たちが集まってるのだろう。
何だかムキムキがいっぱいパラダイスだ。当然ながら獣族は肉食獣が多い。草食獣の獣族も肉は普通に食べるみたいだけど。
「あの、………」
「…はい?」
「ん?」
周りに人がそれなりにいるので気にしてなかったけど、ハルが誰かに声をかけられていた。
そしてちょっと嫌な予感がした。…虎の獣族だったからだ。
いつかのクソガキを連想してしまった。大人の男だし、毛色も違うのでこの獣族はあの時のクソガキとは何も関係ないだろうに。
あいつは確かオレンジ系というのか、明るい茶系のような毛色だった。薄い色の茶トラかと思ったくらいだし。で、この人はどちらかと言えば白い。白虎かな?
けどハルに何の用だ?声かけたはいいものの、言葉が続かなくて押し黙ってるみたいだ。
側にいたベルさんも戸惑っている。
「ええと、その、以前、虎の獣族と何か…なかったか?何もなければ、それでいいんだが…」
「…何も…」
あのダンジョンで一方的な求婚はあったものの、バッサリ断っている。
なので「何もなかった」と言えば何もなかった。多少のやりとりはしたけど。
…これを、何かあったと見做すかどうか判断に迷う。ハルがどう答えればいいのかわからないのも無理はない。
が、あまりいい内容じゃないのは虎の獣族にもわかったんだろう。ハル、めっちゃ顔顰めてるしな。
「その、少し話したい、のだが…」
「…私たちの手元が見えてないんですか?」
「話なんかしてたら肉が冷めるだろ」
「冷めた肉は固くなるじゃん。せっかく買ったのに」
「成長期と成人男性の食欲ナメてんのか?」
「腹が減ってるのだよ。また後日にしてもらえないか」
この獣族、ハルを指定してた。つまり、ハル個人に用があるらしい。
ここで考えたのは、やっぱりあのクソガキの関係者では、ということだった。
考えてみればあいつ、確か長の子供と言っていた。この獣族、あのクソガキと同じ集落にいる獣族なのでは?
長の息子が所望してる女の子がハルだ、という情報が集落で出回ったのかもしれない。
もしかしたら似たようなことに思い当たったのか、ハルがあからさまに嫌そうにしていた。
そして察したアキ兄さんやナズも便乗して断る方向に話を持っていこうとしている。
ベルさんは事情は知らないだろうけど、僕たちがこの獣族と話すのを拒否したがってるというのは察してくれたらしい。便乗してくれた。
後日っていいな。何なら今すぐ町を出てもいいかもしれない。いや、ギルドカードの件を考えると一日くらいは依頼を受けたいかも。
「た、食べながらでいいんだ、少しだけ…」
「食べながらって…」
『ハルくん』
『ハルちゃん』
そんな行儀悪いことしたくないと思ってるんだろう。
思えば僕ら、話し合いはご飯食べた後とかにしてるもんな。食べてる最中はせいぜいご飯の感想くらいだ。
まあ、宴の席とか祭りとかバーベキューやった時とかはその限りじゃないけど。
話したくないからという遠回りな断りを聞き入れてくれそうにない。
どうやって断るか、虎じゃ逃げても追いかけてきそうだなと迷っていたら、ラムとスーが念話で話しかけてきた。
『…話、聞いてみるです。嫌な話だったら体当たりでもかまして気絶させて逃げればいいんです』
『お前が体当たりしたら死ぬのだ。…まあ、それはそれとして、このヒトの気配、少し気になるのだ』
ラムとスーが気になる?
ハルの従魔のサンは地味に威嚇しっぱなしなので、完全に敵対感覚のようだ。
ラテもあまりいい感情は持って無さそう…とすれば、魔力感知の類で察知したわけじゃない。
そしてこの二匹のこの反応、前にもあったなと思い至ったところで思い出した。
…これ、シェリルの時と同じ…?ってことは…
「あ、あの…?ええと…」
『多分、このヒト、オリジンの誰かの眷属です。虎の獣族なのでタイガですかね?』
『可能性高いのだ。シェリルちゃん一家に似た気配を感じるのだ。タイガもウルフと一緒で虎の獣族の集落に住処作ってたはずなのだ』
「あ、そっちですかー…うーん、これは…」
「…一応、聞くかぁ」
いきなり無言になった僕たちに不安になったようで、戸惑いながらも声をかけてきた。
うん、ラムとスーの声、届いてないだろうからな。
そして無言の後にいきなり態度を変えたようなものだから、この虎の獣族、びっくりしていた。
「…どこで話します?出来るだけ手短にお願いしたいですが」
「あ、ああ、もちろん!ええと、じゃあオレの泊ってる宿に。話し合うための個室を貸し出してくれるんだ。そこなら飲食しても怒られないから」
「…わかりました。全員で行っていいですよね?」
「もちろん。従魔も一緒で構わない」
もしかしたら、子供四人と大人一人、弱い従魔四匹、に見えてるのかもしれない。
何かあっても対処できると判断して、あっさり同行を許したのだろうか。
実際、オリジンの眷属ともなれば人間族五人と下位魔物の従魔くらい簡単に蹴散らせるだろう。
実態は召喚者四人と魔族一人とオリジン二匹と上位レベルの魔物二匹だけど。戦ったらぶっちぎりで僕たちの勝ちだ。むしろラムだけで勝負は終わる。
…あれ、もしかして外見詐欺か?いや、でも別に悪い事してるわけじゃないし…
案内された宿は近かった。というか、屋台通りが宿に近い場所にあるのだろう。
宿は『柄の糸』という、細長い糸状のものが絡んで植物柄になっているような看板だった。
ごめんな、一瞬ガラガラヘビか?なんて思っちゃったよ…
虎みたいに柄のある獣族が好んで利用しているらしい。何でかは知らない。
ガレメナの『牙磨き』みたいに、外部の人を招いて話が出来る部屋があるそうだ。ウルム一家と会った時に使ったみたいな部屋。
個人で宿泊してる部屋に案内されるより余程いい。
「水は自由に飲んでいいそうだ。まず食べてくれ。話は後でいい」
「わかりました。では遠慮なく」
「冷めてないかな」
「近かったからまあ問題ないだろう。むしろちょうどいいのではないか?」
「ああ、焼きたて買ったもんな。確かにそのまま食ってたら火傷したかも?」
屋台で買っただけのものなので、すぐ食べ終えてしまった。なかなか美味しかった。
ちょっと甘い塩だったのかな?確か岩塩が置いてあったので味付けはあの塩なんだろうけど。
この辺でとれる岩塩は甘味があるのかもしれない。アキ兄さんが研究者みたいな顔してる…
従魔組にもなかなか好評だったようだ。ラムがぷるぷるしてたので喜んでたんだろう。ちょっとぷる具合がアキ兄さんのご飯より少ないけど。
「ごちそうさまー」
「美味しかったな」
「タレのやつは味が薄かった気もする」
「肉自体美味しかったから濃い味を避けたのかな?」
「僕は結構好きな味だった」
「リオくんて薄味好きよな」
「老人と暮らしてたからな」
一通り感想を言い合って…現実逃避とも言う。
けれどこれ以上避けられないと覚悟し、虎の獣族に向き合った。
この人、律儀に待っててくれたよ。いい人だったんだな…
「ええと、その、何から話せばいいやら…」
「まず、あなたは誰ですか?」
「あ、そうだな。そこからだな。オレはディーン・ティグム。見ての通り虎種の獣族だ」
「ディーンさん…」
あのクソガキは確か、ティム・イェガーだったはず。少なくとも親子兄弟ではなさげか。
でも知り合いの可能性はあるからなあ…
「獣族領のとある集落の長でもある。今回、所用で人間族領に来ていて…用は済んだんだが」
「はあ、そうですか。さようなら」
「いや今すぐ帰るわけじゃないからな!?」
ん?長?あのクソガキは長の息子とか言ってたはずだから…違う集落の長か。
そういえば、この人は高確率でオリジンの眷属だったな。
あのクソガキはフェンリルの名前にビビってたから、少なくともあいつの周りにオリジンはいない。
そっか、じゃあ違う集落出身で間違いないのか。長同士で何かつながりはあるかもしれないけど。
それにしてもハル、話をさっさと終わらせたい願望むき出しだな。
「ええと、回りくどく言っても仕方ないな。君、ティム・イェガーという名前に覚えはあるか?」
「どこぞのドスケベクソにゃんこで馬の耳に念仏なクソガキですね」
「なんて???」
「猫なのか馬なのかわからんな」
「いや虎だが!?」
「罵倒のオンパレードじゃん」
「ハルがあのクソガキ嫌いなのはよくわかったよ」
「あ、あぁあ~…やっぱり嫌われてたかぁあ…」
…少なくとも、あのクソガキと関わりがあるのが確定か。
嫌な予感はしてたんだけど、的中したな。
あのダンジョンで、さっさとトンズラかましたのでクソガキからは逃げ切ったと思ってたんだけど。
ウルム一家と会って、追いつかれる可能性が浮かんだからな。そう、転移陣っていう。
徒歩でも馬でも自力で走るでも何でもいいけど、その程度ならカーくんに追いつけるはずもない。僕たちが結構寄り道してたとしてもだ。
でも転移陣を使うなら、その前提が覆る。
そしてあのクソガキは仮にも「長の息子」だ。転移陣を利用できる身分じゃないかという懸念があった。
…どうやら、嫌な方向に予感的中してしまったらしい。恐らくハルも同じことに思い当たっている。
これについてはグランツさんを責めるのもお門違いだろう。
彼が上手くやってくれたのは、きっと間違いない。けれど彼の手を離れてからの行動で、今の状況が出来あがっている。
「あのクソガキに泣きつかれでもしましたか。それとも私を攫って来いとでも言われましたか。受けて立ちます徹底抗戦です」
「…全力で嫌われてるのは理解した。いやもうこれオレが間に入ったところでどうにもならんだろ…」
「うげ、あのクソガキにマジで頼まれたのか?てか何で事情知ってるんだ?通信でもしたか?」
「アキ兄さん、多分あのクソガキ転移陣使ったんだ。獣族専用の」
「っあー!そういえば!」
「うわ忘れてた!そういやそんなのあった!」
「…よく知ってるな。その通りだが」
「狼種のウルム家にそんなのがあるって聞いたんだよ」
「…ウルム家…そういえば…」
ああ、転移陣のことはあまり公になってない情報なのかな?
転移陣を知ってることについて、警戒した表情になった。直後、情報元がウルム家と言ったところで納得したようだけど。
多分この人、ティムと会話して多少事情を聞いてるんだろう。シェリルというウルム家の子がいたことも。
そして僕たち四人は、そのシェリルとともにテントを出ていき、ティム視点ではそのまま姿をくらませたことになっている。
なのでシェリルと僕たちが行動を共にしているということは予想していたはずだ。
その関係で転移陣のことも知ったと、そう思い至ったんだろう。
「…ティムって奴に何を吹き込まれたかは知らないけど…まあ、それはいい。こっちが気になるのは、何でハルを探し当てられたかだ」
「そうですね。子供四人と狼の獣族という組み合わせだったならまだしも…今の私たちは子供四人と大人一人という組み合わせです」
「子供四人と従魔四匹って組み合わせで探し当てられたか?」
「いやでもピンポイントでハルに声かけたじゃん。女ってだけなら、あたしかもって思わん?」
「髪色じゃね?」
「その割には声をかけてくる言葉が妙だったのだよ。虎の獣族と何かあったか?という問いだったし」
「…そういえばそうですね」
あれ、そういえばそうだった。じゃあ最初は「あ、ティムが言ってた子見っけ」と思ったわけじゃないのか。
それとも、カマかけか?知っていながら知らないフリしてその問いにどう答えるかで見極めようとした?
具体的には、ハルがティムを好意的に見てるか、嫌悪感を持っているか。
どうなんだという思いを込めて全員でディーンを見ると、居心地悪そうにしていた。
「う、いや…それについては、獣族の秘密、というか…」
「まあそれならこれ以上聞きませんけど。では話は終わりです。さようなら」
「ま、待ってくれ!無理なら無理でいいが、一応こちらの言い分もちゃんと伝えたい。その上で断られたら仕方ないから」
「どうせアレの求婚を受け入れろとかふざけたこと言うんでしょう。聞きたくないです。お断りしますって何回も言いました私」
「あ、うん…そうか。やっぱりちゃんと断ってたんだな。あいつ、照れてなかなか受け入れてくれないとか何とか言ってたけど大嘘じゃないか」
「いや、ハル最初っからバッサリ断ってたぞ。むしろ受け入れる余地全くなかったぞ」
「そうか…なら、解除しとかないとな…」
「…解除?」
「ええと、これは獣族特有のものだから、悪いがこの子以外は外に出てくれないか?他人に漏らしたくないんだ」
「ハル一人にしろってことか?断るに決まってるだろ」
「悪いが僕たちはあなたを全面的に信用してない。二人きりになんてさせられない」
「う、それは尤もなんだが…」
『…リオくん、この部屋に『結界』張って欲しいです。で、中の声が漏れないように『防護』して欲しいです』
「ん?いいけど…」
「は?」
ラムの声はディーンには聞こえてない。だから疑問に思ったんだろう。僕が何に返事をしたか。
でも答えてやる義理もない。ラムの言う通りに『結界』を張った。部屋だから四角い形の結界だ。
障害物がある場合、そこに沿って張ればいいからちょっと楽になるんだな。今まで球形しか見てこなかったから初めて知った。
まあ、その結界を見て、ディーンは盛大に驚いていたけど。
「は…?これは、スキル…!?人間族が、結界なんて…」
「外に声が漏れないようにはしたぞ」
「は?」
『ありがとうです、リオくん』
「…は!?誰の声…」
「あれ、ラム、聞こえるようにしたんだ?」
『はいです。多分オリジンの話をしないうちは深い話出来そうにないですから』
「は?オリジン…?何故知って…」
ディーンめっちゃ混乱してる。
それを知ってか知らずか、ラムがぴょんとテーブルに乗ってきた。
そしてディーンを見つめて話し出した。
『初めましてです、タイガの眷属。自分はオリジンスライムのラムです。今はエレメンタルスライムですけど。ここにいるアキくんの従魔です』
「…は!?」
『そして、ここにいる四人の子供は、全員召喚者です』
「…はあ!?」
「あ、僕はただの同行者なのだよ」
『ベルくんは召喚者じゃないですけど、デーモンやシャドーの知り合いです。オリジンと関わりあるヒトです』
「…待ってくれ…ください…ちょっと、ついていけない…」
『しっかりするのだ。情報が多いとまずいと思ってわたしがオリジンバードってこと伏せてるのに』
「今言ったじゃん」
『しまったのだ』
「オリジン様が二体ーッ!?」
「あ、発狂した」
「え、ほんと?え、本物!?じゃあ召喚者様ってのも本当なんですか…?あんのクソガキ召喚者様に印つけやがったのか!?何て恐れ多いことを!」
「…ん?」
印…?
てかディーン大丈夫かこの人…あ、もしかして今リアルタイムでオリジンタイガと話してるのかな?
眷属なら話せるだろうし。ウルム家だってシェリル以外はそうやってフェンリルと話してたもんな。
それは合ってたのか、ちょっとブツブツ話し出した。小声だったので何を言ってるかはわからないけど…
「大変失礼しました。あの、全部話しますので、お願いですから聞いてください…」
「あ、は、はい…」
「改めて、ディーン・ティグムです。お察しの通りオリジンタイガ…ドゥン様の眷属です。この度は召喚者様にとんだ失礼を…」
『とりあえず、クソガキくんのこと、詳しく話して欲しいです』
「仰せのままに!」
態度めっちゃ変わってんじゃん。
ああ、でもオリジンの眷属だもんな。召喚者がどういう存在か教わってるんだろう。
そして多分、今召喚者がこの世界にいるってことも伝わってる。それが僕たちだとは思わなかっただろうけど。
で、恐らくはオリジンタイガ…ドゥンから、召喚者の足を止めるなとかそんな注意をされたんじゃないだろうか。
この態度から察するに、ティム寄りの立場だったけど今は僕たち寄りの立場に変わったと思われる。
なら、もうちょっと色々話してくれる、かな?
…それにしてもラム、ティムのこと、クソガキくんって。
お前もあいつのこと嫌いだったんだな。
オリジンタイガは誘拐作戦不参加組です
獣族領にいたので間に合わないと思ったため
参加したい気持ちはあったらしい




