閑話18.陽の射さない場所から(シャドー視点)
はあ、いつもいつもいつもそうだ。
どうしてぼくばっかり。
ぼくだって召喚者と一緒がよかった。
テイムとかしてもらって一緒に旅とかしてみたかった。
なのにどうして。
『お前は人間族の王族と悪の召喚者の監視役に向いてるの。影に一部を潜ませて監視して何かあれば連絡してくれ』
クラフェル様の一言で、ぼくの役割が決定してしまった。
シャドーという、影の魔物。能力を考えれば確かにそうだ、向いている。
でもぼくは召喚者と一緒がよかった。
それを言い出す前にその意見を黙殺されたようなものだった。
いつもこうだ。
ぼくがやりたいことは他のオリジンがやるんだ。
わかってるよ、それが一番いいんだってことはさ。
でも、たまには、ぼくだって。
誰かと会話なんてほとんどしてないから、言いたいこともすぐ言えやしない。
言葉に詰まってる間に話が進んでしまうことも多い。
魔法を教えるとか、そういうことだと普通に話せるのに。
さみしい。
雑談、っていうのをしてみたい。
そう思ってはいても、与えられた仕事はちゃんとこなさないと。
やりたくないけど、見たくないけど、それは許されない。
ああ、悪に染まった心って闇に塗れて嫌なんだよなあ。
でもぼくはそういうのに影響されないから、いっつもこういうの任せられるんだよなあ。
ぼくだってたまには綺麗なものばっかり見たい。
綺麗な心に触れたってぼくが消えたり弱ったりするわけじゃないのに。
ぼくが弱いのは普通に『光るもの』だけなのに。
勘違いされてるのかなあ。まあ、弱そうって思われても仕方ない種族だけどさあ。
「…クソッ、自分だって失敗してるくせに、人の失敗ばかりネチネチと…!何度同じことを言えば気が済むんだ!」
ああ、また愚痴言ってるや、この王子。
あれから…ダンジョンから戻って来て、ずーっと文句言ってる。
善の召喚者の誘拐は成功した。この人間族の王家に残ってる召喚者はドッグが悪と断じた召喚者だけだ。
作戦はこの上なく成功。もっともそれはぼく達の言い分で、この王家にとっては大失敗になるんだろう。
そりゃあ20人以上いた召喚者が数人になれば大損害だろうね。知ったこっちゃないけどさ。
そのことについて、この王子は父親である王にめちゃくちゃ怒られたってだけの話。
でも、こっちからすれば元々召喚者を利用しようとしてる時点で間違いだって言いたい。
まあ言わないけどさ。わざわざ出向いて教えてやる義理なんてない。
自分の体の一部である分裂体を影に仕込んで、そこから伝わる声を盗み聞いてるだけだ。
ぼく自身がその場にいるわけじゃないので、ぼくの声なんて届かない。
分裂体を通じて、移動することは出来るけど、やるつもりなんてないしさ。
幸い、分裂体については気づかれてない。
王子に仕込んだ分も、召喚者に仕込んだ分も、騎士に仕込んだ分もだ。
人間族の城ともなれば魔道具なんかでガチガチに固められてると思って、警戒して分裂体もすぐ撤収できるよう少数しか仕込まなかったけど…
ここまでザルなら、もっと色んな奴に仕込んでおけばよかったかもしれない。
スキルや状態異常への対策はそれなりだったけど、ぼくみたいな分裂体を仕込んでいた場合の対処は一切なかった。
まあ普通魔物でもない限りやんないけどさ、こんなこと。
光の強い場所とかもあんまりないし、普通に薄暗い場所が多いからぼくの分裂体が消される心配もない。
強いて言うなら教会みたいなとこは明るかったかな?でも光属性が強いわけでもなかったから苦手とも思わなかった。
そんな風に、変わらない日々をずっと過ごしていた。
ていうか本当に変わり映えしない日々だ。もう少し召喚者を見習った方がいいんじゃないの?
あっち、びっくりするくらい色々進んでるみたいじゃん。又聞き情報でしかないけど。
ぼくたちが逃した悪の召喚者もひっ捕らえたとかさ。こっちの王家、そんな情報欠片も掴んでないんだけど。
ギルドにも圧力かけてたみたいだけど、ギルドからも目ぼしい情報ないみたいだし。
本当に情報がないのか無視されてるのか、どっちだろう。両方かな?
その日も変わらず情報なんて何もない日、珍しく一斉神託じゃなくてぼくだけに『神託』が来た。
『オリジンよ、お前、分裂体は何体くらい作れるのだ?今以上は作れんかの?』
『…まだまだ作れるけど…』
『10体でも可能かの?』
『可能だけど…』
『ふむ、もしかすると協力を頼むかもしれんの。今はまだ必要ないが』
『何するの?』
『善の召喚者の一人の権能が『配達』だったようでの。物を一方的に送ることが出来るものであるらしい』
『権能、そうか、それを覚えるくらいには強くなってるんだ…』
『そうだ、それでの、行方の知れぬ悪の召喚者宛てに『配達』でお前の分裂体を送りつければ居場所が知れるかもしれんと思っての』
『え…それ、やった方がいいんじゃないの?協力するけど』
『それがの、今はまだ紙のような質量のものしか送れぬようでな。さすがにそれにお前の分裂体は仕込めまい?』
『紙…それは、確かに無理かも…』
『もし立体のものを送れるようになれば、お前の一部を送るという方法も使えようが、今はまだのー…』
『そっか…もし権能進化で出来るようになったら協力するよ』
『ふむ、そうか。であればその時は頼むの』
クラフェル様にしては珍しい、ぼく好みのお願いだった。
召喚者の、助けになれる…!
悪の召喚者については、このクラーフで生かすものと思っていたけど、もしかしたら元の世界に送り返すことが出来るかもしれないらしい。
それは召喚魔法陣じゃなくて自力でこの世界に来たという異世界人が連れ帰るという方法、らしいけど…
そんな異世界人いるの…?本当に…?でもクラフェル様がこんな嘘言う訳ないしな。というか神って基本嘘はつかないし。
1500年以上生きてきたけど、知らないことってやっぱりあるんだな…召喚者というか異世界人ってやっぱり規格外だ。
まあそんなわけで、元の世界に戻せるなら戻してしまいたい。というか、ぶっちゃけこの世界にいらない。
こいつらがスキル取得したり鍛えたりしても絶対悪事とか欲望のためにしか使わないだろうし。
なので悪の召喚者がいなくなる分には嬉しい。
だからこそ、今行方がわからない悪の召喚者の居場所が知りたい。
それでぼくの協力かあ…
うん、『配達』の権能覚えた召喚者、頑張ってほしいな。ぼくの分裂体を送れるようになるなら、ぼく、いくらでも協力するから。
10でも20でも分裂体作るよ!…そこまでいらないかな。
「くそ、また父上からの呼び出しか。どうせまた同じことを言うだけだろうに…何かに失敗した憤りを僕を責めることで鬱憤解消するな!」
「今日も出られないのかな…いい加減外に出たい。訓練室で思いっきりスキルぶっ放したい。壁ちょっと傷つけたくらいで部屋に閉じ込めなくていいだろ、クソッ」
「はあ、王がまた無謀な試みを…逆らえやしないけど、召喚魔法陣を作るなんて無理に決まってるだろ…」
ああ、分裂体から聞き取った愚痴がまた聞こえる。
あの王家はまだ召喚者を利用することを諦めてない。
召喚魔法陣を自力で作ろうって考えるのは別にいいけど、出来るわけないよ。
だって異世界のこと、なーんにも知らないんだから。しっかりした道も作れないで呼べるわけもないだろうに。
無駄な足掻きでマナをたくさん消費してくれてるみたいだから放置でいいってクラフェル様が言ってるから、ぼくも手出しはしない。
召喚者もだいぶイライラしてるみたいだ。
スキル使って発散したら壁壊しちゃって、部屋から出るなって命じられてるらしい。隷属があるから逆らえない。
もういっそ元の世界に戻してあげた方が幸せなんじゃないだろうか。
思いっきり暴れたいそうだけど、そんなことは叶えてやる筋合いもない。今まで好き勝手してたんだからちょっとは我慢すればいいのに。10年くらい。
生き延びてはいるけど、悪の召喚者たちはみんな飼い殺し状態だ。大人しくしてろって命じられて部屋に監禁状態。スキルのレベルも上がってない。
もう善の召喚者の方が強くなってるんじゃないかな?
何か企んでは失敗して、周りに当たり散らして、当たられた方がイライラして、すごい悪循環。
負の感情がものすごい。闇属性に傾きそうなくらいこの城の空気は悪い。
でもヒトが暮らす場所でそうした属性の傾きがあるのは良くない。感情で属性に影響を及ぼすなんて滅多にあることじゃないんだけどな…
そんな理由で闇属性のマナはぼくが吸い取ってる。
は~~~…ぼく、こんなことのためにここに宛がわれたのかなあ。別に、ご飯みたいなものだからいいけどさ。
…クラフェル様以外とまともに会話したのっていつだっけ。何年前?
何十年か前に魔王の子たちに魔法教えたくらい?あれが最後?
他のオリジンとも話はほとんどしないしなあ…
あ、ドラゴンが一方的に喋ってきたことはあったっけ?
デーモンは…あ、魔王の子たちに闇魔術を教えてくれって一方的に頼んできたのが最後か。ろくでもないや。
今回の誘拐作戦で、召喚者たちと話せるかな、なんて思ったけど駄目だったし。
うん、でも、まだ機会はあるよね。
『配達』の権能を持った召喚者が、ぼくの分裂体を送れるようになったら…
その時は少しでも、話せるよね。話せるかなあ。いや、話すんだ。
…話す練習、した方がいいかな。でも一人でどうやって練習したら…
答えの出ない問題で頭を悩ませてたら、クラフェル様から『神託』が来た。
前の声かけからそんなに経ってないのに連絡って珍しくてびっくりしてしまった。
『オリジンよ、ちょっといいかの?』
『えっ何?もう『配達』の権能進化したの?まだそんなに経ってないんじゃ』
『いやそれとは別件だの』
『なんだ………』
違うんだ。じゃあどうでもいいや。
あからさまにやる気をなくしたぼくだけど、クラフェル様はまるで気にしやしない。いつものことだけど。
こっちの都合関係なしに用件だけ告げていく。
まあ『神託』ってそういうものだしね。
『お前、片手間でも構わんが、同行者になる気はないかの?』
『は?同行者って…召喚者の?』
何言ってんの?だって今、善の召喚者には誰かしら『同行』してるオリジンがいるじゃん。
被りってこと?別にそれならいいけど、悪の召喚者の、とか言わないよね?それだと断固拒否なんだけど。
それに、ぼくは一応人間族の城を監視するって役割もある。
同行ってことは、こっちが疎かになる。片手間でもいいって言うけど、忙しいじゃん絶対。
ああ、だからクラフェル様にしては珍しく「やれ」じゃなくて「やってみないか」って聞き方なのか。
頑張れば出来るけど…でも、『配達』の召喚者に協力する予定もあるし、結構いっぱいいっぱいな気がする。
断っていいかな。多分許されるよね、今回は。
『悪の召喚者のってこと?それはさすがに嫌だよ』
『ああ、違う違う。さすがにそんな頼み事はせん。あやつらは元の世界に戻ってもらう予定だしの』
あ、よかった。さすがに違ったか。
悪の召喚者に味方のフリして近づけ、とか、そんな命令されるかと思った。
それで連れ出せとか…分裂体が監視してる召喚者相手ならやろうと思えば出来てしまうからなあ。
…ん?じゃあ誰に同行するの?やっぱり被り?まあ善の召喚者なら誰でもいいけど…あ、『配達』の召喚者かな?
いや、その子はスパイダーが同行して従魔にもなってたはず。
え、じゃあほんとに誰?
『ほれ、話したことがあろう。悪の召喚者を連れ帰ってくれた、こちらに自力で来れる異世界人。たまにしかクラーフに滞在せんが、その間だけでも』
『やるッッッ!!!』
『同行者になってはもらえんかと…言いたかったんじゃが、引き受けてくれるということでいいかの?』
『やる!』
ぼくはまだ誰にも同行してない。
だから同行者も同行人数も選び放題だ。
既に誰かに同行しているオリジンには出来ない役。
どうしたのクラフェル様、最近ぼく好みの頼み事してくるじゃん。
細かく聞いたら、クラフェル様は頼まれただけで自主的にぼくに話を持ってきたわけじゃなかった。
まあそんな気はしてたよ。
ぼくに話が来たのは、とある魔族の提案だったらしい。
今代魔王の末子ってクラフェル様は言ってたから、それならベルギアレイズだ。
どうやら今、召喚者と一緒にいるらしい。…なんで???
ああでもあの子、色々ほっとけない感じの子だったからなあ。でも拾われたってどういうことなの…
ともあれ、その召喚者に分裂体を預ければ、悪の召喚者を連れ帰る異世界人と接触できる、と。
ぼくの滞在先は、魔晶石を加工した物の中ということだった。
そういえばあの子、細工スキル持ってたな。それで作ってくれるのか…
ええ、まさかすぎる。めちゃくちゃ嬉しい。ベルギアレイズ、ぼくのこと覚えててくれたんだ。数十年前に闇魔術の指導しただけなのに。
『ふむ、では伝えておこう。魔王の末子がオリジンの分裂体を仕込む装飾を完成させたら、再度声をかけよう』
『うん、待ってる!』
ベルギアレイズは分裂体を持ち運ばれるのは嫌じゃないかって気にしてたらしいけど、全然気にならない。
むしろそこまでしてぼくのことを気にかけてくれていたこと自体が嬉しい。
影が出来る環境なら、それがどれだけ小さな隙間でも構わない。元が魔晶石ならぼくにとっても居心地はいいし。
今ベルギアレイズはスライムとバードが同行している召喚者と共にいるそうだ。
ああ、一番魔の森に近づいてる召喚者たちだな。
というか、ぼくたちに召喚者が来てるって連絡が届いた切欠の組じゃないか。
確か料理スキルを持った召喚者がいて、スライムが同行するようになったんだったか。そしてスライムから情報が共有された。
あと、召喚魔法陣を消した召喚者もいたはずだ。
ベルギアレイズ、すごい子たちに拾われたな。そもそも拾われたってのも意味不明だけど。
ああ、でも、楽しみだな。
召喚者たちと話せるかもしれない。
悪の召喚者を回収してくれる異世界人の同行者になれるかもしれない。
うまく話せるかな。まだその異世界人にはぼくのこと伝わってないらしいけど。
…拒否、されたりしないかな。影なんて、嫌な存在って思わないかな。
ちょっと不安になってきた、かも。
その後、魔法陣を壊した召喚者に「可愛い姿になれないか」なんて質問されることになるとは思いもしなかった。
………なんで???
ていうか可愛いって何…?どんなのが可愛いの…?
オリジンシャドー
影の魔物。現在の種族はダーク。
本体は今でも魔族領の地中深くにいたりする。
誘拐作戦の時、久しぶりに人間族領に来た。
空間魔法持ち。影のある場所なら空間魔法で転移できる。水があれば転移できるマーフォークの同類。
分裂体がある場所なら消費MPも少なく移動できるし、周りの様子を見聞きすることもできる。
分裂体は光に包まれるとジュっと消えるけど本体は「まぶしっ!」って嫌がる程度で消えはしない。嫌なので弱点に違いはない。




