148.それぞれの組の進捗状況
『ぴぎゃ~~』
猫カーくんはご機嫌だった。
猫にあるまじき鳴き声であるとか、そういうのは抜きにして、ご機嫌に練り歩いていた。
やっぱり触られるのは好きじゃないようで、手を伸ばすと躱してしまうけど、みんなの周りをぐるぐる回っている。
自分に追加された機能(個人部屋)で皆が喜んでいる。これがカーくん的には嬉しかったらしい。
なので触られたくはないけど、嬉しい気持ちはあるのでみんなの周りをご機嫌で歩き回ってると。
めんどくさい彼女みたいなやつだな…まあ、車って精密機器でもあるから専門家以外に触られたくないって意識もあるかもしれない。
それはそれとして、乗車しているメンバーのことは好きではあるらしい。
「受肉の経験値、どうでした?」
「レベル11に使った時より減ってるな。まあ、これが妥当といえる数値なのかもしれないけど」
「やっぱレベルアップの必要経験値が減っただけあって、取得できる経験値減るんだな。いや、レベルアップに必要な経験値減ってくれた方がありがたいけど」
「せやな、やっぱ一万はデカいわ。あたしらも追加機能つけるのやってみよ。それで苦手分野の行動したって判断されたら儲けもんやし」
「追加機能以外に、僕がやってて他の子がやってないこと…は、もうないよな?」
「派生能力も一通り一回は使ってますし、多分大丈夫でしょう」
「これで次の必要経験値が1200になってくれればなあ」
「…とりあえず、今わかったことについては掲示板で報告しとこう」
カーくんの受肉、今までは一回で1000以上稼いでたのに、今やったら100ちょいの経験値にしかならなかった。
それでも次のレベルへの経験値があと1000ちょっとなので、一回で100も稼げてたら経験値効率はかなりいい扱いだろうけど。
極端な話、10回受肉したらレベル上がるわけだ。MP消費と疲労があるので一日一回以上は出来ないけど。
むしろ一回やったら一日以上空けてからやった方がいいとラムに助言されてしまった。
うん…これからはカーくんへの受肉はちょっと控えます…
カーくんは車に戻して、全員で中に入った。今日はもう外に出る用事はないだろう。
というか全員で新しい部屋を整える作業になる。ナズ、カーペットとか出せたんだ…凄いな。
そんなわけで夕飯までの時間、それぞれの部屋を整えていた。従魔も一緒になって作業してて楽しそうだった。
「え、リオ兄、和テイスト?意外!」
「何ですかこの畳…あ、召喚にあるんでしたっけ?」
「そうそう、畳、一畳のやつと半畳のやつ。寝る場所はこれでいいかなって」
「あの寝室にあったベッド、結局使わないのか」
「『変形』で小さくして使うのも考えたんだけどな。今住んでる家が日本家屋だから、懐かしくなって」
「ああー、それやと住んでる家に近い雰囲気のがええかもな」
「あのベッド好きだったんだけどな。小さくできるなら俺が貰ってもいいか?」
「いいよ」
そういやベッド系はまだ準備してなかった。
というか、準備する段階になったからこそ全員集まったと言うべきか。
僕とナズの協力技で出すわけだから。
「扉も障子っぽいのにしてもいいかな、これ」
「せめて鍵のかかるものにしましょうよ。今はこれでいいんじゃないですか?」
扉はデフォルトで引き戸みたいなやつである。医務室もそうだけど。
あれだ、近未来とかにありそうな、扉に触れるとシュンって扉が横にスライドして開くやつ。
車だからね。横にウィーンって感じで開く種類のやつあるし、雰囲気としてはあんな感じに近い。
医務室は誰でも入れるけど、個人部屋は入れる人を設定しようかと思っている。部屋の主とその従魔のみ、みたいに。
あと、扉の色も変更した。カーくんは基本的に白っぽい車体なので、壁とかも白系だ。扉もせいぜい灰色っぽい色とかだった。
四つもあったらややこしいし、個人の部屋とわかるように変更しておこうと相談して決定したのである。
と言っても周りの雰囲気を壊さないようにか、若干色味がつく程度のものだけど。
アキ兄さんはちょっと赤っぽい扉になった。赤みを帯びてる程度の僅かなものだ。
僕は茶系。部屋が和っぽいので、障子のような、檜とかそういう感じの色なのでアキ兄さんの色とは一応区別がついている。
ナズは意外にも紫系を選んだ。ラテの色らしい。薄紫なので、周りの白系の色から浮いたりもしていない。
ハルは元の色から大差ない色になった。やや白っぽくなり、青みを帯びてるかな、くらいだ。サンの鱗の色を意識したらしい。
従魔の色か、それ考えてなかったな…それだと僕、赤になるんだけど。
何であれ、それぞれ扉の色は違った色になった。
「あ~何か自分の部屋が出来たーって感じするぅ」
「みんなで寝るのも楽しかったので、たまにやりましょうね」
「そうだな、この元寝室使ってもいいし、温室で雑魚寝してもいいし」
「この元寝室…居間みたいな部屋にさ、人をダメにするクッションとか置いたらいい感じのたまり場に出来るような」
「ナズさん、ナズさん、何て恐ろしいこと言うの?そんなん俺ここに入り浸っちゃうじゃん?」
「悪魔の誘惑ですか………」
「召喚に出たら炬燵置いてやろうかと思ってたけど、それよりヤバイ案出たな…」
「リオ兄さんの案も悪魔の誘惑ですけど!?」
「二人とも、めっ!!!」
反対されてしまった。
ギリ普通のちゃぶ台ならいい、とは言われたけど。
結構いい時間になってたので、ここで晩ご飯になった。
何故かおせちが出てきた。新年とっくに越してないか?
と思ったら、手間暇かかる系の料理に挑戦したやつ、と言われた。
ああ、ケーキとかスイーツ系だけじゃなくてこういうのも作ってたのか。
よく材料あったな、と思ったけど、簡易的なものだし色々誤魔化してると言っていた。マジで?わからん。美味しいことしかわからん。
「アキ兄さんの作れるものの幅が広すぎる…」
「マジでそれ」
「いや、料理番組とかで見たうろ覚えがほとんどだよ」
「うろ覚えでこれが出来るんですか!?神の手!?」
「お菓子はともかく料理は多少配分適当でも何とかなるから!」
「僕が同じことやったら大惨事になるけど!?」
「アキ兄さんは自分の料理の腕をちゃんと認識しましょう。私たちにとってはありがたいですけど」
「スキル補正はあるだろうけど、それだって万能じゃないもんね」
「お、おう…」
晩ご飯の後のまったりタイムで掲示板に報告した。
反応凄かったし、橋本くんが褒められまくっていた。うん、本当に助かった。彼の一言がなきゃずっと一万だったよ。
明日か明後日あたりにアキ兄さんたちがレベルアップしたら報告する、と言って僕らの報告は終わった。
その直後にひとつデカい報告があった。
タークくんの『錬金調合』スキルレベルが10になり、特典召喚が発生したということだった。
あるだろうとは想定してたけど、本当に発生したんだな…
悩んだ結果、『作業室』を選んだらしい。名前の通り錬金術や調合の作業をする部屋だ。
料理スキルのキッチンスペースや被服スキルのウォークインクローゼットと似たようなものだろう。
同じように扉と若干の奥行があるものが召喚されて、壁などに設置したら中に入れるものだそうだ。
これでアイさん達の班にも室内が出来たのか。作業室なので寝るための部屋ではないが、雨風の避けられる個室には違いない。
ドラゴンの結界スキルやアイさんの隠密スキルを利用すれば、邪魔者が入れない安全地帯となる。
「おお…いいやつ召喚したなあ、タークくん」
「今までは宿屋の作業場を使ってたみたいですけど、これからは召喚の『作業室』が使えますね」
「必要な器具あれば連絡しろって言っとくか。交換で送ってやろう」
「待って、それも大事だけどタークくん、レベル11への経験値5000てどういうこと?」
「俺らの半分だな」
「1000なんじゃないかって思ったけど、そう上手くはいかないか。でも僕らの一万より低いのは何でだ?」
「…上位スキルの経験値が10以降1000台になるためには条件がいくつかあって、タークさんは私たちより条件を達成していたとかでは?」
「二つ条件があったと仮定して、一つクリアしてたけど一つが未達成。だから半減ってことか。じゃあ残る条件は何だ?」
「俺たちが一万、今はリオくんが1000台。リオくんがレベル10から11の間にやった行動で条件がクリアされた…?わからん!」
「…私、追加機能の実装なのではって思ってるんですけど…」
「あ…なるほど!?…いやでもリオ兄、追加機能使ってたけど経験値一万やったで?」
「条件のひとつではあるけど、他にも条件いくつかあるから軽減に至らなかったのかな?あれ以来、ほぼ使ってなかった派生能力も意識して使ったし」
「あー、変形とか、今までちょっと形整えるとか小さい変形にしか使ってなかったもんな。で、デカい変形使ったりしてたな」
「無機物操作も戦輪くらいでしたもんね。…何度か、別のものに使うのも条件でしょうか?同じことだけじゃ駄目とか」
「一応掲示板に書いとくか。もしかしたら坂下さんの『看破』スキルでわかるかも」
掲示板にハルの予想を書いてみた。
タークくんは『作業室』を召喚したんだから、その作業室に何か追加機能をつけてしまえばいいんじゃないかと。
一からMP溜めていかないといけないけど、どうせ5000なんて経験値、そうそう溜まるもんでもない。
レベル11になるまでにはひとつくらい追加出来るんじゃないだろうか。そうすればレベル11になった時の経験値が1100になるかもしれない。
僕らよりマシだろ。レベル10からふたつレベル上げるために二万も稼ぐ羽目になってるんだぞ。
まあ、同じ苦労をしてほしいわけじゃないので、僕らの出した情報が役立てばいい。少しでも楽になるなら苦労した甲斐がある。
そして、坂下さんもハルの意見を肯定したので、これがほぼ正解なのではないだろうか。
坂下さんも自信なさげではあったけど、やってみる価値はあるということだったし、どの道わからないなら検証するとタークくんも了承していた。
今日は召喚も使えないしということで、今からちょっとずつMPを溜めるそうだ。ああ、特典召喚使ったら24時間通常召喚使えないもんな。
追加機能を何にするかはアイさんと相談するらしい。
というか、タークくんもアキ兄さんたちと一緒で、寝る前に余ったMPを少し溜めていたようだ。
召喚出来るスキルってそれが出来るからMP無駄にならないよな…
今までは追加機能つけたい召喚物がなかったので、溜まる一方だったらしい。現時点で300ほど溜まってるそうだ。
アキ兄さんもタークくんも、召喚物のほとんどが消耗品だからな。仕方ない。
もっとも、今回のレベルアップでようやくタークくんにも器具が並んだようだ。まだかき混ぜ棒みたいな単純なものしかないけど。
「俺らも検証に協力できるかもだよな。レベル12に上がる前に追加機能つけないと」
「せやな。アキ兄、何にするか決めてる?あたし『室内拡張』にするつもり」
「ウォークインクローゼットを大きくするってこと?」
「そうそう。てか他の機能、別にどうしても欲しいってわけじゃないしな」
「ああ、トイレとか別室とかスポットライトとかか」
「結界とかもいらんしな。それよりドレスコーナー増やしたいし」
「ドレス作り、ハマったか」
「隣の棚に和服コーナー作るで!浴衣とか着物とか!」
「あー、そういうのだと今の棚の数じゃ間に合いませんね」
「うん、だから拡張してクロちゃん大きくしようかなって。大きくなったら棚も自動で増えるっぽいし」
「…いいな、俺、何にしようかなあ…やっぱ注ぎ口増やすやつかな?」
「ああ、一気に二種類用意出来るようになったらありがたいな」
「従魔入れると八人分ですしね」
「…そうだな、うん、やっぱそれにしようかな!便利なのが一番!」
二人とも追加機能の方向性は決まったらしい。
どれにするか迷って決まらないという展開は無くなったようで安心した。
今日のところは大きな報告はこのくらいか。
いや、もうじきアイさんたちがオーレンの町を出るというのは大きな動きか。
『作業室』が召喚出来るようになったことで、野宿の利便性が上がったためだろう。
今まではテントを張ってドラゴンの『結界』で寝ていたそうだが、やや大型のテントを張るためどうしても場所が限定される。
けれど『作業室』であれば、ナズがやっていたように土魔法の『土壁』とかで出した壁に貼り付けるだけでいい。
なので、広い場所を探さなくてもよくなるのだ。当然『作業室』なので火を使う場所もあるし。なるほど、これは確かに動きやすい。
それに、移動速度が速くなる手段に乏しいので、単純に早く出発しようという結論に達したそうだ。
オーレン組も手助けがいらなくなるくらいになってきたようだし、と。
もうホムンクルスと相談したりして、次に行く町も大体決めてあるようだ。ちなみにガレメナはスルーするとのこと。
あとは坂下さんからの情報。
前に黒髪の人間を見かけたという件の続報だった。
遠い町にいたということだが、どうやら僕たちの…ゼイレムの方へ来てるそうだ。
と言っても距離はまだ遠いから、進行方向がこっちというだけで会う危険性は低いとのことだったけど…
「フラグな気がするな」
「思った。会いそう。ゼイレムで」
「滞在時間出来るだけ減らそうな」
「何なら一日だけギルドカード失効対策の任務を受けて翌日発てばいいんですよ」
「RTAか?」
まあ、スーも付近の山に住んでたというだけでゼイレムの町自体は訪れたこともないそうだし。
特に見るべきものとかもないか。ガレメナだってシェリルの件がなければすぐ発ってただろうしな。
のんびり進んでもあと三日ほどでゼイレムに着く。
その頃には他の三人も初期スキルが12になっているだろう。うん、他に変なイベントもないはずだ。
「…今日はそれぞれの部屋で寝ようか。早速だけど」
「そうですね!ちょっと楽しみです」
『隠密があるので大丈夫だとは思うですが…念のためラムツーを居住区に配置しておくです』
「うん、何かあったら知らせて」
「ああ、思えば完全に外の様子が見えない室内なのか、個室って」
「しまったな、窓つけるか?…窓、追加機能だな。変形とかでも弄れないや」
「マジで?じゃあ別にいらんか」
「そういや医務室も窓とかないもんね。まあ蛍光灯っぽいのあるし天井高いから圧迫感とかないし閉鎖空間って感じはしないけど」
でも確かに起きて窓が見えないのはちょっとアレか…?医務室で寝た時も見えないので今更かもしれないけど。
ひとまず時間はわかるようにと壁掛け時計を召喚しておいた。それぞれの部屋に設置してもらおう。
ベッドについては、アキ兄さんが今まで寝室で使ってたやつを再利用。さすがに一人で使うにはデカいので『変形』でシングルサイズにした。
ナズは好奇心で天蓋付きベッドを所望した。というか、布を自前のものにしたり改造するつもりではないかと疑っている。
何となく蜘蛛の巣に既視感を覚えたのでこのベッドにしたらしい。ちなみにこの部屋になら好きに巣を張っていいと許可したようだ。ラテ大歓喜。
ハルは宣言通りシンプルなのを選んだ。自分が小柄なのもあってか、他の皆のベッドより一回りくらい小さく見えるものを選んだ。
そして部屋の一部をタイル張りにして、その真ん中に水槽を設置。サンは喜びと申し訳なさでしっぽをビタンビタンしていた。何だこの子可愛いな。
…結果的に、個室は作って大正解だったかもしれない。
そういえば温室に池作るつもりだったのにまだ作ってないな。
木についてはそこそこ育ったのがあるので、たまにスーが止まり木にしてくつろいでるらしいけど。
寝床籠やら巣に使っていたものも、それぞれの部屋に持ち込んだ。
何だかんだで気に入ってるらしく、引き続き使うつもりだそうだ。
「…じゃあ、今日は寝ようか。おやすみ」
「うん、おやすみー」
「おやすみ!」
「おやすみなさい」
部屋の前で挨拶して、それぞれの部屋に引っ込んだ。
ちょっと寂しいかもしれないけど、スーもいるし大丈夫だろ。
「おやすみ、スー」
『おやすみなのだ、主』
今日は止まり木で寝る気分らしい。
照明を落とすと暗くなり、かろうじて足元の非常灯だけ見える感じか。
スーは今ヂュンの姿だからな。ただの小型化だったらぼんやり光るのか…ホラーかな…
『お望みなら目が眩むくらい輝いてやるのだ』
「やめて。ごめんて」
心読まれた。輝く(物理)のはやめて。




