146.ただし誰も着ない
『にゃごわす』
「相変わらずの最高に可愛い顔で最高に可愛くない鳴き声」
「元は車ですからね…まだ鳴き方がよくわかってないんでしょう」
『ぎゃおごん』
「おい、猫から遠ざかったぞカーくん」
「まあまあ、リオ兄も無理のない範囲で受肉やめるんだよ?」
「うん…」
猫型だからか、カーくんの言葉は僕以外に聞こえない。
杖やナイフは人型だからか、アキ兄さんたちにも通じるのに。性能いいはずのカーくんが一番意思疎通ポンコツってどういうこと???
これは念話とも少し違うようで、ちゃんと意思を口に出来ているようだ。
念話は思念を伝えるスキルなので実際に喋っていなくても聞こえるものだからな。
だから無言のフリで、念話で声だけ届けるって真似が出来るわけだけど。
…無機物干渉スキルの恩恵で、カーくんの言葉自体は僕に理解できるから、問題ないといえばないのか?
(言葉って難しいなー)
「そうだな」
(まあ、伝えたいことがあるわけじゃないからいいや)
元より、走りたいだとかそういう意思表示くらいしかしない子だしな。
一回ドラゴンを車内に入れるなって拒否ったくらいで、基本は事なかれ主義と言うべきか。
…道具は大体そんな感じだけどな。自分は使われる側っていう前提が沁みついてるのか、無駄に自己主張しないのである。
嫌な使い方されたりしたら別だけど、今のところ大事に使われてるのがわかるので不満はない。なので言うこともない。これがカーくんの主張だった。
あとは猫の体が不思議だなあ、くらいか。
『あっち、魔物がいるです』
『まだ距離はあろうし、気づかれてはおらぬが…どうする?回避か、戦闘か』
「行きましょう」
「じゃあカーくんはアイテムボックスにしまって…」
『パッパーーーー!パッパーーー!』
「うわ何!?クラクション!?」
「猫状態で車っぽい危険信号を発すな!目を光らせるな!ライトか!」
「はー、カーくんこんなことも出来るんやな。まあ魔物は危険やし、カーくんはここまでやな」
「そうですね。リオ兄さん、経験値溜まりました?」
「うん、予想通りかなり溜まってる」
「詳細は後にしようか。魔物もこっちに気づいたから、行くぞ!」
クラクションで気づいた可能性高いな。ウチのカーくんがごめん…
戦闘するって決めてたから別にいいよ!と爽やかに言うアキ兄さんがイケメンすぎたんですがうちの兄最高かな?
魔物はあっさり倒して、採取をすることになった。今更だけど、アキ兄さんは毎回どこからハーブなんて見つけてくるんだろう…
何度か戦闘をこなし、採取したり石を拾ったりしていると昼が近くなっていた。
「カーくんに戻ろうか。今日のお昼は何にしようかな…」
「火燃石いっぱい採れましたよ。タークさんにお土産です!」
「投擲玉の火玉の強化版みたいなのが出来るやつだっけこれ?」
「投げて見事に炎上してハルがテンション上げてたな」
「また火柱が立ちますね!」
「まあ森の中で使わなかったらいいけどさー」
死火山で火柱上がったことにビビった魔物が様子見に来たりしたんだよな…
全部経験値にしたけど。それを見て以来、ハルは何故かそれがお気に召したらしい。
ハルにしても僕にしても火関係の攻撃は火玉くらいだったからな。軽く燃やすだけのやつ。
あれは火のマナが多い場所で使ったからこそ火柱にまでなっただけで、本来はもっと小さな火らしい。もしかしたら『効果上昇・微』も悪さしたかもしれんが。
ちなみに名前は「燃焼玉」で「火玉」の上位互換。あと火が十数秒は消えないのだとか。燃焼というだけある。
怖いもん作るなあ、タークくん…と思ったけど、彼は攻撃方法が投擲なので致し方ない部分もあるだろう。
自分の攻撃法を模索した結果が色んなバリエーションの投擲物を作成することだったんだろうし。
その恩恵を僕もハルも受けてるので文句はない。むしろもっとやれ案件である。
というか、ハルは明確に応援してるしな。材料率先して集めてるし。
…放火魔なんて称号にならんことを祈る。向原の同類になるぞ。
昼食は作り置きのサンドイッチ、ベーグルなど。それに加えてサラダやスープをちゃちゃっと作っていた。
手際が良すぎるんだよなあ…
ちなみにサラダは温室で育てていた野菜を収穫したもので作ったらしい。
スキルの恩恵もあるせいか、信じられない速度で育つのである。最初見た時びっくりした。
芋掘りとか手伝ったよね。
スキル込みだけど、自給自足できてて怖い。それを狙ってはいたけど、想定以上の成果が出とる…
「ごちそうさま!美味しかった!」
「おそまつさまー。今からはそれぞれ経験値稼ぎに入る?」
「そうだな、もう今日はカーくんで過ごす、でいいんじゃないか?僕もさっきの受肉で結構MP使ったし」
「今、経験値どのくらいなんでしょう?」
「えーっと…」
アキ兄さんがあと6000、ナズがあと6500、ハルがあと5000くらい、か。
僕はあと2500くらいなので、多分また僕が一番乗りかなあ…まあカーくんの受肉は超疲れるから頻繁にやりたくないけど。
というか、人間族でMP1000を余裕で超えるのは超達人くらいで高レベルの人くらいだそうだ。
つまり長年培ってきた経験などがある。僕はそんなもの無しに低レベルでこのMPなので、負担が凄まじいらしい。
一気にMPを1000近く使うようなことを、未熟な子供がやるのは、柔らかい粘土の器に勢いよく水をぶちまける真似をしているようなものだと。
達人であれば、しっかり硬く作られ、水を受け止めることに慣れた器に仕上がっているので、勢いのいい水を受けても零さず受け止められる。そういう形に加工されている。
同じ材料、量で作られた器(MP)なのにこれだけの差が出る。その差は経験であったりレベルであったりするそうだ。
ちなみにこれはサンの説明だった。
「そっか、僕ってまだちゃんと形整えてもない焼きあがってさえいない器、みたいな感じなのか…」
「それで器に…リオ兄さんの体に負担がかかってしまってるんですね」
『魔物である自分たちは、高いHPやMPを持ち得る存在です。なので大量のMPを一気に使っても大して疲れないです。でも、人間族は…』
「種族特性も含むのかー、うん、これはリオ兄無理したらあかんな」
『何度も使っていれば体が慣れてくるのだ。でも主は一気にMPを1000も使うなんてほぼなかったのだ』
「そりゃなあ…」
「俺、100近く使った時だって疲れたのに、その10倍だもんな」
「自分の最大MPの約半分ともなれば、負担は大きいでしょうね。リオ兄さんの場合、半分以上使いますし、その数値も大きいと」
『自分のMPの七割以上。これを一気に使うとマナ酔いが発生しやすいです。マナの大量変動に体がびっくりする現象です』
このマナ酔いは、一気にMPを使った時や、周りのマナが自分の許容量を大きく超えていた場合になる状態異常らしい。
必ずなる状態異常ではないけど、なりやすくなると。
前にアキ兄さんが初短縮調理使った時もMPの大半を使っていた。あの時、マナ酔いにならなかったのは運が良かったのか。
MP少ない頃だったから、消費されるMPも少なかったため、酔うほどじゃなかったのかもしれない。
ちなみに、しばらくじっとしてると回復するので、一時間くらい運転せずに寝転んでろと言われた。
「リオ兄、状態異常無効あるからな。状態異常一歩手前の体調になってるって考えた方がいいと思う」
「ほぼほぼ状態異常かかってるようなもんだな。よし、スー、リオくんを医務室あたりで寝かせといて」
『合点なのだ!』
「何でだ」
「『受肉』だけならともかく、『無機物操作』とか『変形』とか試して一気にMP消費したからですよ。受肉だけならここまで言いません」
「自業自得ってことかごめんなさい!」
「まあカーくんのごめん寝とか招き猫ポーズ可愛かったけどなありがとうございます!」
「猫又も可愛かったな。尾が二本。ぴろぴろ動いてたやつ」
「趣味全開じゃないですか。眼福でしたけど」
「後悔も反省もしてない」
「反省はしなさい」
「はい」
ちなみにカーくんは『こんなことでいいの?』くらいしか思ってなかった。
様々なポーズとらせたの、全然嫌がってなかった。心広すぎだろ大海原か。
とりあえず撮影はしたので、夜あたりにでも投稿しとくか…?
昼間に爆撃したらめちゃくちゃ怒られる気がするから。
任務中に見て集中切れたりしたらまずいしな。うん、それだけの威力があると自負してる。親馬鹿とでも猫の下僕とでも何とでも言え。
まあ、MPも400くらいしか残ってないし、ちょっと休んだら多少回復するだろ。
追加機能のためにMP溜めるか、杖かナイフあたり受肉してもいい。どのみち一度休んでからだ。
『ほら主ー、寝るのだー。一日くらい到着が遅くなったって誰も困らないのだ』
「はーい」
とりあえず、今後は一気に使うとしても500~600くらいまでにしろと注意されてしまった。
つまりカーくんに対しては『受肉』しかできないと。チッ。
桁がおかしいんよなあ、なんてナズの呟きが聞こえたけどスルーだ。
「あたし一番経験値稼がんとあかんねんなー」
「多分ドレスが完成したら一気に経験値入ると思うぞ。俺、ケーキでそんな感覚あったし。今日仕上がりそうなんだろ?」
「え、あ、うん」
「楽しみですねえ。クロちゃんのどこに飾られるんでしょう。華やかになりそう」
『候補はいくつか考えてるですの!でも一着で終わらないですの!たくさん作るですの!』
「お、ラテがめっちゃやる気だ」
「浴衣作って浴衣。完全に僕の趣味だけど」
「いいじゃないですか浴衣。柄はどうしましょうね。花?」
「浴衣は夏っぽいイメージだなあ、ひまわり、金魚、かき氷、たこ焼き…」
「アキ兄さん、柄じゃなくてお祭りの屋台になってきてる。しかも食べ物」
『ゆかたって何ですの!?』
「ナズ、作成候補ひとつ増やしちゃった、ごめん」
「いや、全然いいけども~~~案くれてむしろありがとうやけど~~~」
元々が9000近かったんだから、2000以上稼げてる時点で大成功だろ。
朝もレースあみあみとかしてたみたいだし。
というか、ハルが一番経験値稼いでるけど、これ僕と似たパターンでもある。
そう、ガッツリ経験値稼げるけどかなりの量のMPが短時間で消費されるという。
下手すればハルこそマナ酔いしかねない。
「う、そ、その辺りは気を付けてますもん」
「目が泳いでる」
「…ハルに協力する子、動きを遅くするとか小さくするとかでMP消費ちょっと抑えたげてくれる?」
『承知した、ナズ殿』
『わかったです』
『合点なのだ』
「う、ま、まあ、その方が長時間出来るから、いいですけど…」
『一気に消費するのがまずいだけで、ゆっくり消費するなら体に負担はあまりかからないです。協力はするので、体第一に考えてほしいですハルくん』
「…はい」
ちょっと経験値稼ぎやって休憩、またちょっと経験値稼ぎ、みたいに間隔を空けるのもいいらしい。
料理スキルや被服スキルは劇的にMPを消費する作業は少なく、持続的にMP消費する形なのでマナ酔いになる危険はほぼない。
『短縮調理』10連発とか『糸紡ぎ』乱舞とかしない限りは、だが。
『主も含めて、やれることが増えてやる気に満ちるのはいいけど、頑張るのは程々にしてほしいのだ…』
「耳が痛い」
「気を付けます」
「ら、ラテの糸メインで作成しますー」
「手作業万歳ー」
『言っておくけど、わたしでもマナ酔いばかりは癒せないのだ。気を付けてほしいのだ。ってことで主、寝るのだ』
「はーい…」
嘴で服つままれて医務室に連行された。
一時間経ったら起こして欲しいと懐中時計を渡してスーにお願いしたんだけど…
わかったのだーって返事した嘴から靄が見えた。真偽スキル発動してるぞこら。
ジト目で見ながら寝たけど、結局起こされたのはおやつの時間だった。
…二時間経ってんじゃんか!くそう、目覚まし時計が欲しい!まだないんだよな。
時間を刻むだけならまだしも、アラーム機能だとかそういうものがついたのはまだ召喚で出せない。
うーん、これ簡易的なもの…キッチンタイマーでも召喚出来るようになったらアキ兄さんも喜びそうなんだけど。
いや、キッチンタイマーじゃ一時間も設定できないか?出来るのか?料理でそんなの使わんからな…目分量と自己感覚で突き進む系女子です、すみません。
「スーが起こしてくれなかった。遺憾の意」
「寝て休めたなら良かったじゃないですか」
「正しく昼寝やん。おはよ」
「ちょっと顔色良くなってるように見えるから正解だったんじゃね?」
「味方がいない!」
「ほらリオ兄さん、マカロンですよ」
「何かオシャレ」
「ケーキの息抜きに作っちゃったぜ」
「息抜きって何やったっけ?まあこれもケーキと同じで普段作らん系のやつやんな?」
「うん、見たら経験値結構溜まった。さすがにケーキほどじゃないけど」
「マカロンも手間のかかるスイーツですからね」
ラムはもちろん、ラテやサンも気に入ったようだ。
おお、サンこういうの好きなんだ?食感が好みだったらしい。
僕がぐーすか寝てる間もみんなは経験値稼ぎをしてるので、そこそこ稼いでいた…というより。
「ナズ、ドレス完成したんだ?」
「したよ!第一弾!ラテと一緒にクロちゃんに飾った」
「マジで?見たい見たい、見に行っていい?」
「いいよー」
そして見せてもらったドレスは綺麗だった。
自分の語彙力がクソすぎて嫌になるけど、綺麗、以外にどう言っていいのかわからなかったんだ…
このドレスがある一角だけ何か夜会とか始まりそうな雰囲気。
何と言うか、あれだ。首とか腕のないマネキンがドレスを着てるわけだけど周りにも細長い綿とかキラキラしたので飾られている。
それもあって、何かパーティとか始まるんじゃね?という感覚にさせる。
感動したのを伝えたくてクソ語彙力を駆使して伝えたんだけど、微妙な顔されてしまった。
「うん…トルソーな。首と腕のないマネキンって言い方ちょっと嫌やな…」
「頭の無いこけしって言うよりマシかと思って…」
「どっちにしても酷いな」
「てか細長い綿って何…」
「クリスマスツリーとかでよく見るあの白いもさっとした…注連縄みたいな…」
「クリスマスモールのことですか、もしかして」
「しめなわって…!洋画に出そうな雰囲気なのに和に寄せないの!」
「リオ兄が何かオシャレなのとか華やかなのから遠い生活してるのはわかってたけど…」
「自分でもひどい語彙力でびっくりしてる。もうちょっと綺麗なもの見るようにするよ…」
グロ系に耐性つけてる場合じゃなかった。24歳女性として色々アウトな気がする。
綺麗な景色とかなら見てたけど、確かにこういう華やか系は見てなかったな。
もうちょっと美術館とかそういう所に行くべき…いや、美術館や博物館で石膏像とか鎧見て動きそうだなってテンション上げてた記憶しかなかった。
行っても無駄な気がしてきた。もちろん動かなかった。動いたらホラーだわ。七不思議か。理科室の動く人体模型、みたいな。
うちの学校、七不思議あったっけ?聞いたら微妙な顔された。
「何でドレス見てて七不思議に思考が飛ぶんですか」
「何でだろう…走る人体模型とか、目が動く絵とか、何かそういうのが頭を過って」
「つか、人体模型が動いたらあたしリオ兄を疑うからな」
「無機物干渉スキルだもんな。『自動行動・微』の派生か」
「元の世界ではそんな力ないです!」
「やばいやばい、ステキなドレスの前でする話じゃねえわ。話題戻そ。このトルソーっての、勝手に出たの?」
「あ、うん、棚の近くに持ってきたらハンガーが勝手に出るみたいに出てきた」
「クロちゃん凄いですね」
「ここの棚、オシャレ系で埋める?今まで空だったよな、ここ」
「せやな。そうするわ」
デパートとか、ショーウィンドウの中で服や小物がテーマに沿って配置されてる、みたいな。
あんな感じを目指せばいいんじゃないだろうか。ぬいぐるみとか鞄とか置かれてることもあるし。
そういうものならナズのスキルで作れるはずだ。
「…いいかも。やってみよかな」
『全然わからないけど、わくわくするですの!』
「そっか、ラテにはピンとこないか。…完成を楽しみにしてな?」
「え、待ってアキ兄。それあたしのセンスに委ねられない?責任重大じゃない?」
「ハルと相談しながら作ったりすれば失敗はまずしないんじゃないか?」
「私ですか?」
「それもそうやな!」
「ええ…私もそこまで自信ないんですけど、まあ頑張ります」
ここで僕とアキ兄さんが出張らないのは、まあ、お察しというやつだ。
ドレスを見てもこれがマーメイドドレスという種類だとか全然わからなかった奴だからな。
マーメイドラインという単語を知らずに表現しようとして「ひょうたん(※僕)」「ボンキュッボン(※アキ兄さん)」て言ったことで諦められた。
次どんなドレスにしようか悩んでるナズにせめて年上として助言したいと思ったわけだけど。
精一杯頑張っても「腰からブワって広がってる、あの、ワイングラス逆さまにしたみたいなドレスいいんじゃないか」としか言えなかった。
プリンセスラインって言うそうですよ…知らんかった…
不得意分野で年上ぶろうとしても事故しか起きんな。うん、諦めよう。
結局ほとんど運転せずに過ごしてしまった。晩ご飯までは運転しよう。
寝て回復した分のMPは…追加機能のために溜めとこうかな。
そろそろ溜まってきた気がするなあ。




