138.「10年後の世界」の話
「…頑張りゃ、俺含めて三人連れ帰れる。リオ、お前も…」
『待つのだ!主をいきなり連れ帰られると困るのだ!せめてアキちゃん達に相談するのだ!カーくんがないと旅が大変なのだ!』
「三人いけんの?すげー!じゃあ芝と眞壁連れ帰ってもらえるじゃん!やったね、処分に困ってた奴らをこの世界からログアウトさせられるぜ!」
「クソが」
「何でアイアンクローされてんの解せぬ」
『主…』
よくわからないけど僕の答えがお気に召さなかったらしい。
眞壁の処分を頼んだことか。そうだな、こいつ只人だろうし。
恐らくだけど、芝は才能者なんじゃないかと疑っている。で、その力を使って異世界転移なんてものを企んだと予想。
だから才能者界隈の出来事として、芝は回収するように命令が出た。多分こんなところだ。
そこに只人の処理をねじ込もうとしたらさすがに怒るか。
でも、ここに置いとくのもなあ…
「感情論は置いといて、芝と眞壁の二人を連れて元の世界に戻るのは出来るの?」
「…出来る」
「それでいっぱいいっぱい?もう何人か追加は?」
「出来ねえ。俺以外の二人連れてくので精いっぱいだ。ここまでの道を作る方に力注ぎ込み過ぎた」
「まあ、異世界なんて場所への『道』なんか難しいだろうしな。てか普通は出来ません。何で出来てるのお前?」
「文句あんのか」
「文句はないけど、マジかお前って気持ちでいっぱい」
「失礼な奴だな。俺としてはお前を一番連れ帰りてえがな。…京のためにも」
「あーっ!いけませんお客様!京さんの名前を出すのは反則です!私だって会いたいわ!」
「誰がお客様だ」
本当なら、ここで元の世界に戻るのが一番だとわかってはいる。
最初の目的は、元の世界に戻ること。これは今でも変わってない。
だけど。
「今まで一緒に旅してきたんだ。みんなを置いて、私だけさっさと戻るっていうのは…何か、嫌だ」
「…お前、一緒にいた奴らのこと好きになっただろ」
「なったよ。いや、元々好きではあったけど、友達で、仲間で、色々助けてもらったし、抜け駆けしたくない。今回全員で帰れるって言うなら帰るけど…」
「それは俺の力が足りねえな」
「うん、だよな…むしろ補助とかないだろうに、三人が通れる道作るってとんでもねえ…」
一度行った場所とか、近い場所(位相?)なら能力補助の何かがあるらしいので負担はかなり減るそうだ。
企業秘密らしいから詳しくは知らないんだけどさ。まあそういう場所なら十人分くらいの道は作れるんだとか。
でもこんな異世界なんて遠い場所。地形も世界の在り方さえも違う場所、相当の力を消費するはずだ。
むしろルーくらいの力がないと一人分の道さえ作れないだろう。つまりこいつが凄い。
しかも『道』を繋ぐのにタイミングとか時間も関係してるらしく、いつでも繋げるわけでもないそうだ。
夜しか繋がらないとか昼間しか繋がらないとか気温が一定以上ないととか、色々条件がつくこともあるのだとか。
今回このタイミングで来たのも、何かそういうのが関係してると予想。
何であれ、僕は戻れる方法が判明している。
むしろ芝たちヒャッハー組こそ戻れないメンバーだ。
で、ヒャッハー組が戻れないということは、あっちの世界で13人という決して少なくない数が行方不明者となる。
冷遇組19人全員が戻れたとしても、戻れた人と戻れない人はどう違うのか、なんて誰かに聞かれでもしたら。警察なんかは確実に聞いてくるだろう。
言えるわけがない、オリジンが選んだなんて。日本の、あっちの世界にそんな理屈が通じるわけもない。
だから、出来るだけ多くの人数が戻れた方がいい。
…実際、僕たちのいた時代だと失踪事件なんて起きてないのだ。
芝も眞壁も、24歳になって日本で普通に生きているはず。
歪みのせいとはいえ、既にこの時点で戻せないほどの改変が為されてしまっている。歴史改変と言い換えてもいいものが。
『いなかった人』にしてしまうにしても、そんな細工をするのは少人数の方がいい。
「芝も眞壁もクソに成り下がってるけど、ここ数ヶ月の記憶を消すとかしたら、まだまともな人間でいられる可能性があるかもしれないし」
「現時点でまともな人間じゃねえって言ってるようなもんなんだが」
「だってクソ野郎だもん。片鱗見たろ。一度覚えた感覚は記憶消去でもしないと忘れないだろ」
「記憶消去か…まあ、出来なくもねえだろうが…」
『そ、そんな方法があるのだ!?』
「『才能者』の力ならね。実際誰がどうやるかとかはわかんないけど…」
「少なくとも、シバの末路はもう決まってる。てか『上』が決めてたな。俺はそのためにシバを連れて来いって命令されたが」
「じゃあ芝連れて帰ってもらわんとな。スー、いいだろ?」
『…そちらの世界の力が介入して連れ出すっていうなら、問題ないはずなのだ。問題なのはクラフェル様とそちらの神の取り決めに抵触するかどうかだから』
創造神クラフェルの力で、『悪と断じられた召喚者』を地球に戻す。これが駄目だということだろう。
地球の方の神が「そんなことしたらブチギレるぞ、クラフェル」と脅してるようなものらしいので。
なので、地球に住む人間が「クラーフに行った地球人を回収しますねー」と連れて行く分には地球の神も何も言わないらしい。
ぶっちゃけ、地球間でのやりとりになるので。あくまで許さないと言ってるのは「クラフェルの力で召喚者の移動やそれに準じた介入をすること」だ。
「あとで創造神に伝えといてくれる?」
『任せて欲しいのだ!』
「てことで、芝と眞壁連れ帰ってくれるか?眞壁は記憶消去とかして適当に元の場所に戻してくれればいいし」
「…お前らが自力で戻ってきたタイミングに合わせて放流すりゃいいってことか?それまでは拘束でもしとくか」
「わあい物騒!でもそれでいいよ」
てことでとりあえず掲示板に「眞壁も連れて来て」と投稿しておこう。
どうしてくれようこいつ。ボコる?精神攻撃?もぐ?
「そもそもどうやって戻ってくるんだ?転移玉っつーので飛ばされたんだろ?」
「ラムが空間魔法持ってるから大丈夫だろ。ワープだよ」
『転移場所にさえ気を付ければここに転移するのは難しくないはずなのだ』
スー曰く、一回の転移で戻ることにこだわらなければ問題ないそうだ。
この山は死火山だが、火のマナの強い場所なので、ラムレベルなら感知は可能だと。
なのでまずこの山の麓などの安全地帯に転移した後で、僕やスーの気配を探して転移すれば合流は可能だと。
一回の転移で合流出来ない理由は、距離の問題と山のマナが豊富過ぎて僕やスーの気配が埋もれてしまっているためらしい。
うん、スーの属性、火だもんな。混ざるよね…納得した。
了承の返事が返ってきたので、じきに合流出来るだろう。
「まずお前の紹介しなきゃだよなあ…シルバーでいいかあ…」
「ああ、それでいい」
『やっぱり偽名なのだ…?まあいいけど、主たちもそうだし。それより先に主の姿の説明した方がいいのだ』
「忘れてたわ」
「そういや、アルの能力解けてたんだな」
「…ついさっき解けたんだよ」
『壁バン男と対峙してる時に苦しんだと思ったらこうなってたのだ』
「ほんとにさっきのことじゃねえか。どういうタイミングだ」
「私が聞きたいわ!」
そんなことを言ってたら、ようやくと言うべきか、アキ兄さんたちが転移してきた。
三人とそれぞれの従魔、そして気絶した眞壁。想定していたメンツは全員いる。
それに安心したわけだが、
「誰…?」
「ひえ、金髪美女」
「スーがいるので、黒髪の人はリオ兄さん、でしょうか…?」
「ザッツライト。24歳のリオくんでーす。戻っちゃいました」
「うええリオくん!?」
『なんと』
『気配は確かにリオくんです。ちょっと強くなってる気もするですが』
『ちょっと大きくなってるですのー』
「身長、羨ましい…ッ!聞いてはいましたが、本当に大きい…!」
『…それで、そっちのは新たな召喚者、です?』
『そうみたいなのだ。主の友達らしいのだ』
「マジでか!」
全員揃ったので、もう必要ないだろうと思って結界は解除した。
当然、今何をした?と聞かれたので覚えたての『結界』スキルだと話した。
流れで投擲と護身術がレベル10になった結果、結界スキルを取得したと正直に言ったら呆れられてしまった。何故。
「眞壁を味方に出来ないことで唯一惜しいと思ったのが『結界』スキルだったんだけどな。リオくんがあっさり覚えちゃったかー」
「マジで眞壁いらん子になったな」
「何にしても、詳しい話をするならカーくんの中の方がいいのでは…こちらの方は…」
「シルバーだよ。さっきこっち来たんだ。ナズの弟くんと接触して話はある程度聞いてるからカーくんのことも知ってる」
「あ、ゆずが言ってた人やな!あの、ゆずは、弟は元気でしたか?」
「お前があいつの姉ってことは、スマホで話せる謎の力持ってる奴か。元気は元気だったな。あと、姉によろしくって言われた」
「よ、よかったー!ちょっと安心したー!あ、こっちの子も姉ですよ。双子にも会いました?」
「ああ、落ち着いた男と天然入った女の双子か」
「…もしや妹が粗相しましたか…?実にすみません」
「いや、話しかけた直後の発言が「日本語上手い」だった。ズレてんなって思った」
「まあ外人の口から日本語飛び出したらそうもなるだろ。実際は『翻訳』の力だけどな」
「才能者の能力もバリエーション豊富ですね…」
厳密に言えば『翻訳』の能力を移した何かを持っているんだろうけど。
身に着けてれば恩恵があるので、装飾品に加工していることもある。ピアスとかネックレスとかブレスレットとか。
そういうものの宝石代わりに、能力を込めた石が使われていると。
ルーがどういう形で持っているかは知らないけど、何かしらを持ってるんだろう。
ポケットに石を直接入れてる可能性も高いけど。こいつ結構雑だからな…
カーくんを出せる広さの場所に移動して、そこでカーくんを出した。
芝と眞壁はロープ(召喚した)で縛り上げ、放置。カーくんの中になど案内しない。
ラムツーとフレムバードが見張りについてくれた。
目覚めそうになったら光魔法で気絶ループさせるそうだ。雑ぅ。
「…お前、こんなとこで過ごしてたのか…異世界って何だっつー光景だな」
「キャンピングカー様様ってやつだよ。服はナズが作れるしご飯はアキ兄さんが作れるし、ハルの隠密スキルで外敵から逃れられるし!」
「…京には、衣食住の心配はいらねえって報告しとく」
「よろしく」
「…で、リオくん、その人のことって聞いていいやつ?」
「いいよ。紹介する。偽名だけどシルバー。元ヤンブラコン兄貴。男」
「雑か」
「男!?」
「マジで!?」
「男性!?」
「どこに驚いてんだ」
「お前、外見だけは天使だからな」
というか、性別って概念無さそうな感じか?
この世界、オリジンみたいに実際に性別ない存在がいるからなあ…
何て言うか、整った美術品とか絵画とかギリシャ像みたいな、そんな印象?
中身が元ヤンだから男って言われたら納得するけど、動かず喋らなかったら人形みたいだからなあ…作り物めいた美しさというか。ユリちゃんも。
女と思ったというより、ただ「綺麗な人間」って印象で、性別を考える段階にないみたいな。
「ちなみにラムとスーに性別はないぞ。サンとラテは女の子」
「性別ねえ存在が普通にいんのか、この世界…まあ、お前の旅の供に男がいたら京は発狂しかねねえから朗報か…?」
「発狂???」
「その京さんってリオ兄の恩人の、お守りくれた人だったっけ?」
「そうそう」
「…結構色々話してんな」
「共同生活する以上、話しといた方がいいなって部分は話したよ。お守りは、武器に使えたから…その時に出所を話した」
「ああ、使ったのか。何だかんだでしまいこんで使わねえかと思ってた」
「そうしたかったんだけどなー…まあ、ざっくりだけど情報共有しようか。飲み物でも飲みながら」
「そだなー。おっしゃ、ドリくん出すぞー」
「…待て、何だそれ。どっから出した」
「アキ兄さんのスキルだよ。ドリンクバーのドリくんだ。好きな飲み物選べ」
「種類多すぎだろ、どうなってんだ日本人。マジで食関係に妥協しねえ人種だな。旅でこんなガッツリ飲食出来るってどうなってんだ」
「まあ、うん…何か外人さん目線で言われると日本人がごめんなさいって気になるなあ…」
信じられない、みたいな顔すんな、ルー。
…そこからは真面目に情報共有した。ルーには時間が限られてるというのもある。
現在進行形で『道』を繋げっ放しだからな。道の維持に力…MPを消費してるし。
ここにいるメンバーには、僕が24歳であることも、10年前に来てた理由も話してある。
説明の手間が省けたという思いと、そこまで話して大丈夫かという思いでルーの顔が結構歪んでる。美形にあるまじき顔すんな。
「…オリジンってのは聞いてたよりだいぶヤベー存在みてえだな…」
「ゆずにはザックリした説明しかしてへんからなあ」
「あまり、深刻に捉えられてもと思って軽い説明で終わっちゃったんですよね」
「まあ、ガキ相手だしな。それでいいだろ。俺もガキ三人には話さねえでおく。京たちには言うが」
「うん、それでいいよ」
「で、その魔の森っつーとこにある『神石』まで辿り着けば元の世界に戻れるってことか」
「はい、今大体このあたりですね。ちなみに出発点だった城はここです」
「結構近づいてんな。まあ、二ヶ月以上旅してたっつーなら、妥当か…?」
「今からこのゼイレムって町に行って、それからビスムズ。そんで魔の森に入る予定になるかな」
「なるほどな」
ルーも、今回元の世界に戻ったら、次にこっちに来れるのは先の話になるそうだ。
むしろもう来なくていいだろ。そう言ったらアイアンクローくらったけど。
「ひとまず、シバとマカベってのは俺が回収してくが…」
「あの、シルバーさん、芝くんが異世界転移の元凶なんですよね?彼の力で元の世界に戻るという方法は使えないんですか?」
「結論を先に言うと使えねえ。絶対無理だ」
「断言したってことは、芝がどうやって異世界転移やらかしたかはもう判明してるんだな」
「ああ、…リオ、二人だけで話せるか」
「え?」
「お前だけに話しておきたいことがある」
「…みんなで聞いちゃいけないやつか」
『わ、わたしも一緒に行くのだ!主と二人にするのは、まだ、ちょっと…』
「まあ会ったばっかだからな。わからなくもねえが…信用は出来ねえだろ」
恐らく、スーの懸念は「二人にした途端、僕が元の世界に連れ去られてしまう」ことだろう。
ルーは何度もスーの前で僕を連れ帰りたいという意見を言っていたし。
そしてルーもそれを察している。両手をこちらに見せて降参とでも言いたげなポーズをしていた。何もしないアピールか。
「けど、俺はシバを連れ帰るつもりでいるから、今すぐは何もしねえ。外に出てあいつを回収しねえとだからな」
『う…そ、それもそうだったのだ…いらない心配だったのだ』
「…まあ、スーだけなら一緒に話しても問題ないだろ。他の子は、悪いけど遠慮してくれるかな」
「え、あ、うん…」
「…多分、みんなにとって『未来』に関係する話だから」
「…あ、そういう意味か!そりゃ確かに俺らが聞いちゃまずいやつか!」
「スーはこの世界の魔物で、オリジンだ。絶対この世界から離れない。僕たちの世界のことを聞いたとしても、何も影響しない。いいだろ?」
「…そうだな。それならまあ、いいか。こいつらに絶対話さねえって言うなら」
『わ、わかったのだ!』
「じゃ、そっちの医務室行くか。個室」
幸いというか、ラムたちが持ってる感知系に、聞く系はない。
唯一あるのがスーの千里眼の派生能力『読唇』くらいだ。
伝達も使ってないし、聞かれることはまずないだろう。
それに未来に関する、と言えば真面目なあの子たちは無理に聞こうと行動はしないはず。
医務室に二人と一羽で入り、念のためカーくんに音が外に漏れないように頼む。これでうっかり聞こえたなんてこともなくなる。
「…で、変なタイミングで連れ出した理由何だ?話の途中だったろ」
「シバに関することだな。お前らの中の認識と、こっちで把握してるもんがズレてる。それの修正だ」
「…なら、あそこで話してもよかったんじゃないか?」
「あいつらにも話していいものか判断に迷った。お前には話すから、お前が必要だと思ったらあいつらにも話してくれ」
「…なるほど?」
「というか、あいつらには聞かせねえ方がいいこともある。それも話す」
「あ、ああ…」
医務室には一応ベッドと小さなテーブルがある。
そのテーブルを引っ張り出して、椅子はもう一脚出して座ることにした。
スーはテーブルに座る形だ。卵温める時みたいに丸っこくなってて可愛い。
で、ルーの話を聞くと、芝が元凶であることは間違いないようだが、本当の元凶と呼べるのは24歳の方の芝だったらしい。
今、外で気絶している14の芝は、24の芝に唆されただけ…というより、実行犯か。
なので『元凶が芝』というのは間違いないが、その『芝』は二人いるということになる。
更に、ここで芝が半才能者であることも明かされた。能力は『干渉』。
やろうとしたこと、やらかしたことを全部聞いて、頭が痛くなった。
「マジかよ…」
「これを、どこまであいつらに話すかはお前に任せる。まあ、24のお前がいることを知ってるから24のシバの話をしても問題ねえ気はするが」
「あああ、マジの元凶が僕らのいた時代の芝かあああ…!異世界転移の誘導があったとかいう話、ガチだった…!」
「シバとしては、『この世界』というより、異世界転移の力を手繰り寄せただけらしい。つまり、たまたまこのクラーフってとこが転移の力を使ってただけだな」
干渉出来る範囲から力を手繰り寄せた結果、このクラーフが『勇者召喚』をしようとしていた。
そしてそれを利用したというか便乗した形になるのか。
てことはラージフールから召喚されるはずだったのは、本当は僕たちじゃなかった可能性もあるんだな。
都合よく芝が力を使ったタイミングで『勇者召喚』が実行されてたというより、『勇者召喚』の力を察した芝がその力を利用した。
『干渉』の力で時間もズラした。本来であれば僕たちの世界では1/20の出来事だが、クラーフでは1/18とか1/22にあたる日だったかもしれない。
それをズラして干渉して歪めて、無理やり時間軸を合わせた…らしい。芝の力はそう大きくないので、大幅にズラされたわけではないそうだが。
ああ、地球とクラーフの時間はもしかしたら数日のズレがあったのかもしれない。今となってはわからないが。
「それだけのことを仕出かしたのは、24の芝なんだな?」
「そうだ」
「14の芝が同じことをする可能性は…」
「24のシバは事故で力が増した。今の14のシバに、そこまでの『干渉』の力はねえ。半分程度の力だ」
「なるほど。力が増した芝が、今後の分の力も全て振り絞って成したのが異世界転移か。それで14の芝には同じことは不可能、と」
「ああ。単純に力が足りねえ。倍くらい」
「なるほどなー…」
僕はある程度納得できたけど、スーは多分理解出来てない。「???」という顔でポカンとしていた。可愛い。
才能者は命の危険に瀕したり、大きな衝撃を受けたりすると力が増大することがあると説明すると納得したようだけど。
恐らく芝はその事故で大怪我をしたことにより力が増大したパターンなのだろう。
それでも半才能者レベルのものらしいが、今後使える能力を絞り出してまで力を底上げして行使した。
干渉の能力で、14の芝を通じて力を使わせた。
どちらも『干渉』の力であるために、そんなことが出来てしまったのだろう。
24の芝の力を、14の芝が受け取ることで力の出口を10年前の、14の芝にした。14の芝本人の力は力の出口になったこと以外に使わずに。
消費された力は24の芝のもの。それもあり、今24の芝はほぼ力は枯渇しているらしい。
水道で例えると24の芝がタンクや蛇口のようなもの。14の芝はホースとかの、力の通り道。あとは水の出る方向性を多少調整できるくらい。
逆に言えば、14の芝の力は弱いとはいえ、使われずにほぼ残っているということだ。才能者の力は使えば減る。が、使わなければ減らないから。
「その、消費されてない14の芝の体を乗っ取ろうとしてた、か…悪魔の所業かよ」
「24のシバは大怪我でロクに歩けもしねえからな。体ごと捨てようとしたんだろ」
『そ、そんなことが、可能なのだ…?』
「能力が『干渉』っていう幅広い分野に使える能力だからなあ…しかもお互いに『干渉』の能力者で本人っていうなら、可能、なのか?」
「理屈の上では出来なくもねえ、だそうだ。研究室がそう言ってたから可能なんだろ。まあ今は無理だがな」
「何で?」
「24のシバと14のシバが繋がってたリンクっつーかラインを断ち切ったからだ。今はお互いに干渉されてねえ」
「ああ、じゃあ24の芝はもう14の芝に対して何も出来ないんだな」
「加えて残ってた『力』も吸い出してるとこだからな。24のシバはもうほぼ只人だろうさ」
「残るは、14の半才能者の芝だけか。あいつ単独じゃ何も出来ない、と」
「そういうことだ」
そして14の芝に対しても、能力を吸い出してしまおうと決定したらしい。
今後目覚める力を失くすという方向で、事態の解決を図るつもりなのだろう。
才能者は『能力』を吸い出されたり使い切ったりすると只人になるだけだ。別に命に関わるようなことはない。
意図的に吸い出す時は多少苦痛を伴うが、軽減することも出来る。
だからそれをしようと思い、芝を連れて来いとルーに命令が下った。
「24の芝はどこまで把握してるんだ?才能者の、自分の能力自体のこと」
「感覚的なもんでわかってる程度だな。上限のある力ってのも多分知らねえ。その割には無茶した使い方しやがったが」
「事故で力の総量が増えたことは?」
「把握してねえみたいだ。14のシバも今の自分と同程度の力があるって思いこんでるみてえだな」
「14の芝を乗っ取ったとして、同じことが出来ると思ってるのか。実際は出来ないのに」
「詰めが甘いってやつだな。まあ知ったこっちゃねえが」
『さすが職業に「お調子者」が出るだけあるのだ』
「10年経っても同じ職業なのかな。ウケる」
「つか、何だそのステータスっつーのは…俺とか、職業は何て出てるんだ」
「渡り人だったよ」
『異世界から来たばかりの召喚者だから多分そう出たのだ。しかも自分で渡ってきてるし』
「あー、それなら納得の職業、か」
もしかしたらルーは「魔女」って出てると疑ってたのかもしれない。
でもこの世界で言う魔女と、地球で言う魔女が同一かもわからんしな。
しばらくこっちの世界で過ごしてたら別の職業になる可能性はあるけど、ルーはすぐ帰るし多分職業はこのまま変わらないだろう。
「んで、お前だけに伝えたいっつーことが、もうひとつ」
「え、こわ。これ以上何かあんの…?」
「24のシバがこんなことを企んだ切欠だ」
「人生に絶望したとか言ってたじゃん?」
「ああ、好きな女が自分じゃねえ男と結婚するって知らせが届いたわけだが」
「うん、恋愛脳って怖いなって話じゃねえの?」
「…その、シバが惚れてた女っつーのが、ハヤシチハル…お前が今一緒に旅してる奴だ」
「………えっ」
『ハルちゃん!?』
「俺はこれ聞いた時、世間狭いなって思った」
「ま、マジか、マジかおい」
「で、まあ、つまりはそいつが『結婚予定がある』って未来を…あいつらに話すわけにいかねえな、と」
「…なるほどな。未来を知っちゃうってことだもんな。相手は知らないにしても、ハルに結婚を考える相手が10年以内に発生する、と」
「ほっといても結婚出来る、なんて知ると、本来やってた努力とかそういうのしなくなる可能性あるからな。これは伝えちゃいけねえ内容だ」
「怠ける、ってことはハルに限ってないだろうけど、でも確かに知ると知らないじゃ行動が変わるかもだし…うん、スー、これ絶対話さないようにしような」
『わかったのだ!ハルちゃんの未来のためにも絶対黙っとくのだ!』
そしてある意味納得もした。
芝と対峙していた時、ハルのことを言っていたからだ。
どこからハルが出てきたと思ったけど、芝がハルに惚れていたからか。
…ってことは、10年ずっと好きだったのか?こわっ。一途と言えばいいのか粘着質と言えばいいのか迷うところだ。
「で、まあ、企んだ理由が、この異世界でそのチハルって奴と結ばれるっつーか、まあ…知らねえとこに二人でいりゃ仲良くなれるとか何とか…」
「具体的に話さんでいいぞ。絶対気持ち悪いやつだろ?」
「まあな。ちなみに花女は生理的に無理っつってた」
「何かハッピーライフがどうとか言ってたしなー…10年ずっと好きだったって怖くね?」
「もう執着だろ。中学ん時の気持ちずっと拗らせた結果だろ。一方的にな」
「怖い怖い怖い、両想いなら美談だけど片思いの一方的な拗らせは怖い」
『気持ち悪いやつなのだ…』
「14のシバも24のシバも同じ目的だったからこそ協力したっつーかな…」
24の芝が「千晴と一緒にいたければこうしろ」なんて唆したのだろう。
もしかしたら14の芝は24の芝から、このままだとハルと結ばれないとか暴露した可能性もある。
そして元々自己中心的な芝は、ハルと恋人になってあわよくば結婚するために異世界なんて所に飛ばした。多数の無関係な人間も巻き込んで。
多分、ハルの本来の相手はこちらに来てない人なのだろう。世界を隔てて会えなくした、と。まだ会ってない可能性もあるな。出会いは高校とか大学とか。
14の芝はまんまと24の芝の甘言に惑わされた。24の芝が、自分を乗っ取ろうとしてることも知らず。
24の芝の思い通りになっていれば、24の芝の体に追いやられ、只人として、ろくに動けない大怪我の体で過ごすことになるとも知らずに。
ある意味でこいつも被害者か。ただ、実行したのは14の芝でもあるので立派な加害者でもあるが。
「うーん、どうしようもねえな…ちなみにハルは誰と結婚する予定だったんだ?」
「知らねえ」
「おい!?」
「京なら知ってるかもしれねえが、俺興味なかったからな。日本人の只人なんて今後会うこともねえだろうし」
「ああ、確かに。うーん、知ったところでって気もするし、別にいいか」
「いらねえ情報と思ったから京も話さなかったんだろ。俺も知りたいと思わなかったからな」
「そっか、まあ、結婚式に参加できるわけでもないしな…」
『出来ないのだ?』
「多分、僕のところに連絡が来ないからさ。家を出て京さんの所にいるから、連絡先が不明なんだよ、皆にとっては」
でもまあ動機はある意味納得出来た。共感は出来ないけど。
自己中にも程があるだろ。30人の無関係な人間巻き込んでまで実行しやがって。
「…お前だけに話した方がいいことは、これで終わりだな。あとは、あいつらも聞いて問題ねえだろ。つっても大体話したけどな」
「そっか。…才能者界隈にとって、どこまで元に戻したいんだ?」
「希望は全部だが、難しいとも判断してるだろうな。マカベってのを回収出来そうなのはありがてえだろうが」
「今、元の世界に戻れそうなのは僕含めて19人。残る13人のうち2人は今回回収。じゃあ残りは11人…」
「それも全部回収できるのが一番だろうが、話聞いてると難しそうだしな」
もう修正がきかないくらい『歪み』が出てしまってる。
僕たちのいた時代にいるはずの人間が32人行方不明になってしまってるからだ。
多少の歴史の修正力はあるにしても、人間一人の消失は大きい。それが32人ともなれば。
「スー、創造神の力で、僕たちが元の世界に戻る時間は選べるんだよな?」
『そうなのだ。主たちが望むなら、転移した一瞬後に戻ることも可能なのだ』
「…ってこたあ、全員が戻れば、異世界転移したっつー時間はなくなるのか?転移直後に戻れるなら、教室が光っただけ、ってことに?」
「うん、そのはず。僕はそれを狙ってた。こっちの世界でどれだけ時間が経ってたとしても、戻る時間が同じなら、あっちの世界では何も問題が起きなかったってことになるし」
「んな方法もあるのか。…それは想定してなかったな。後で報告しとかねえと。多分それ利用したがるだろうからな」
『記憶の保持も選べるのだ。この世界での出来事をさっぱり忘れることも出来るのだ』
「…じゃあ、シバやマカベも…?」
『それは無理なのだ。クラフェル様が力を行使できるのはあくまで『神石』を通じて。シルバーちゃんの力で世界を渡るなら、クラフェル様の力は及ばないのだ』
「…なるほど、そういうことか。わかった。こいつらの記憶はこっちの才能者で何とかする」
「冷遇組は記憶消去は望まない気もするなあ…まあこの世界に残るって決める子もいるかもしれんけど」
「まあ、それはこっちで無理強いは出来ねえからな。けど、『あのタイミング』でこいつらを教室に戻せば修正力で何とか出来る程度の歪みに…」
「出来そう?」
「この情報持ち帰って相談してみる」
「うん」
今、居場所がわかってるヒャッハー組といえば、向原と城に戻った何人か、か。
32人中どれだけを戻せるか。どこまでなら影響が出ないか、もしくは小さく出来るか。
…ああ、考えるのめんどくさい。とんでもねえこと仕出かしてくれやがったよ、芝の野郎。
「あ、忘れねえうちに渡しとく。アルからだ」
「え、何…石?」
「アルの『変身』の能力石」
「…マジで!?」
「つっても、アルが直接使うより弱い。解ける時間は多分前より短いぞ」
「いや、ありがたい!嬉しい!アルさんにお礼言っといて!」
「弟にも感謝しろよ。わざわざこの石取りに行ってくれたんだ。触媒が凄いほど込められる能力は高くなるからな。これならお前にも効く」
「マジで!?ありがとう愛してるって伝えといて!」
「喜んでたとだけ伝えとく」
「私の愛なかったことにしやがった!」
「弟が欲しけりゃ俺を倒してからにするんだな」
「無理ゲー!いや、今のたまに犬猫談議するくらいの関係で満足してるけどさあ」
「それは弟も嬉しそうだから続けてやってくれ」
「おうよ」
とりあえず、未来人同士で共有しとくべきことは終わった。
ってことで、居住区に戻ることにした。
でも、どう伝えたらいいんだろうな…24の芝が元凶の元凶ってことは、伝えとくかな。
勇者召喚の力に干渉して方向性をズラして自分たちにぶち当てただけで、召喚自体は芝の力じゃない。範囲や規模を強めたりはした。
なお、芝が山でアキたち四人を探し当てたのは魔道具の効力だけど、それを若干強めたりと無意識に『干渉』の力を使ってた。
芝のハルへの執着はクソヤバレベルなので、力を使ってる自覚なくハルを探し当てたことになる。
ハルの隠密効果が芝に対して薄かったのもそのあたりが影響してる。
24の芝に言われて、14の芝は自分に何かしらの力があるのは自覚してる。それがどういうものか、どれだけの力かは把握してないけど。
が、力の総量はリオの何分の一かの力。14の芝の全力でも多分リオの力は突破できない。
リオに転移が効いたのは「勇者召喚+24歳芝の底上げした力」で一時的にリオの力を上回ったから。




