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真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


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花魁道中と、忍び寄る影 2

「さぁ、まずは一つ」


翡翠はそう言って、

レオの盃へ静かに酒を注いだ。


「いただこう」


レオは盃を一息に飲み干すと、

静かに翡翠へ視線を向ける。


「昼に言っていたな」

「何か伝えたいことがあると」


その声に、

唯衣と姐さん芸者たちは軽く目を伏せ、

酒や肴の支度をしながら、

二人の邪魔にならぬよう気配を消す。

景もまた、

レオの傍らへ控え、

黙って耳を傾けていた。


翡翠は煙管を置くと、

いつになく真剣な表情で口を開いた。


「黒崎の旦那様は、

ここ数年、一年に一度

お見えになるかどうかのお方でありんす」

「むしろ若旦那様の方が、

よほど熱心に吉原へ通っておいででありんす」


少しだけ口元を緩めたものの、

その笑みはすぐに消えた。


「……ただ」

「菊乃姐さんが、

まだ現役でお座敷へ上がっておられた

二十年ほど前は、

足繁く通っていたと聞いておりんす」


レオの表情がわずかに変わる。


「女か?」


短い問いだった。

翡翠は静かに首を横へ振る。


「確かなことは……」

「ただ一つ、

古い姐さん方が口を揃えて申しておりんした」


一拍置いて、 ゆっくりと言葉を続ける。


「……誰か一人の女を、

ずっと探していた、と。」


部屋の空気が、 静かに張り詰める。


「しかも」


翡翠の瞳が細くなる。


「恋慕ではござりんせん」

「恨みにも似た、 執念でありんしたと」

「そして……」

「逃げられた婚約者を探している……」

「そんな噂があったそうでありんす」


翡翠は煙管を静かに灰吹きへ置いた。


「けれど、

人の過去を詮索するのは、

この吉原では野暮。

ましてや、ご法度でありんす」

「だから、 誰もそれ以上は聞かなかった」


翡翠はレオを真っ直ぐ見つめる。


「……わっちが申し上げたいのは、

その昔話ではござりんせん」

「昨夜、

黒崎の旦那様を目の前にして、

あのお方の執念は、

二十年経った今も、

少しも消えておらんと感じたのでありんす」


部屋が静まり返る。


「そして」


翡翠は一度だけ唯衣へ目を向け、

静かに言葉を続けた。


「女の勘かもしれんせん」

「けれど…… その執念が、

いつか唯衣へ向くのではないかと」

「そう感じてしまったのでありんす」


レオの薄い空色の瞳が、

はっと見開かれる。


「何かあったのか」


短く問い返す。

翡翠は静かに頷いた。


「若い芸者を付けろと申されました」

「そして、 こんなことを」


翡翠は昨夜の久遠の低い声を思い出すように、 ゆっくりと口を開く。


「『私が聴きたいのは、

磨き上げられた音ではない。』」

「『……まだ若い、

清らかな三味線の音だ。』」

「『どこか懐かしい音がする。』」


「その一言が、 わっちの胸に、

どうしても引っ掛かったのでありんす」


「……」


レオは静かに考え込んだ。


「若」


景が思考を邪魔しないほどの小さな声で呼ぶ。


「長崎行き、 日程を改めますか。」


しばしの沈黙。

やがてレオは禿へ視線を向けた。


「……女将を呼んでくれ」

「かしこまりました」


禿は静かに部屋を出ていった。

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