長崎への旅路と、一か月の約束 2
「若旦那様!」
勢いよく顔を上げると、
思っていたよりずっと近くに、
白銀の髪と、 薄い空色の瞳があった。
「ち、近うございます……!」
「いつも申し上げておりますのに!」
耳まで真っ赤になって慌てる唯衣を見て、
レオは小さく笑う。
「はは」
「可愛い」
そう呟くと、
今度は少し長めに唇を重ねた。
「……んっ」
ようやく離れると、
唯衣は真っ赤な顔のまま、
ぽかぽかとレオの肩を叩く。
「若旦那様、もう!」
「こんなに近くで口づけをされましたら、
心臓がどきどきして……」
「伝えたかったことまで、
忘れてしまいそうになります」
その姿が可愛くて仕方がない。
レオは微笑みながら、
もう一度だけ唯衣の髪を撫でた。
「安心しろ」
その薄い空色の瞳が、
真っ直ぐ唯衣を見つめる。
「俺が戻るまでの一か月」
「お前を、 誰の宴席にも上げさせない」
「女将には、 すでに手を回してある」
「だから」
「何も心配するな」
レオは安心させるように
そっと囁いた。
「会えないのは……寂しゅうございます。」
唯衣は少しだけ俯き、
レオの胸へ額を預けた。
「でも」
そっと顔を上げる。
「お仕事を頑張っておられる若旦那様も、
わたしは大好きでございます」
そう言うと、
今度は唯衣の方から
ゆっくりとレオへ近づいた。
両手でそっとその頬を包み込み、
ほんの少しだけ背伸びをする。
「……。」
柔らかな唇が、
レオの唇へ優しく重なった。
触れるだけの、
短くて甘い口づけ。
唇を離すと、
今度は照れ隠しをするように
レオの首へ腕を回し、 胸へ顔を埋める。
「待っています」
小さな声だった。
「もっと三味線をお稽古して、
若旦那様に聴いていただきたいのでございます」
その言葉に、
レオはしばらく何も返せなかった。
「……ああ」
ようやくそれだけを絞り出し、
唯衣を抱き締める腕へ力を込める。
そして、
嬉しさを隠しきれなくなったレオは、
そっと天井を見上げた。
「……行ってくる」
照れた笑顔を、
唯衣にも景にも見られないように。
ただ、 耳の付け根だけは、
隠しようもなく真っ赤に染まっていた。




