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真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


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長崎への旅路と、一か月の約束 1

翌日。

いつものように、

「昼のお稽古の視察」と銘打って、

レオと景が蒼狼の間を訪れた。


近頃の蒼狼の間は、

もはや第二の仕事場と言っても過言ではない。

真壁大店の商いは、

予想を遥かに上回る忙しさを見せており、

レオは昼のわずかな逢瀬の時間でさえ、

帳簿や商談の書状に

目を通さなければならなかった。

そのため、秘書的役割の景も同じぐらい

書類に追われている。

隣の一室は、

すっかり景の仕事部屋となり、

帳簿や書状が山のように積み上げられていた。


蒼狼の間の主室にも、

レオ専用の机まで運び込まれていた。

唯衣が三味線の稽古に励む間、

レオはそこで静かに仕事を進める。

そして休憩になれば、

唯衣を膝へ招き寄せ、

束の間の甘い時間を過ごす。

そんな日々が、

二人にとっての当たり前になりつつあった。


その昼。

襖が静かに開き、

翡翠がいつものように顔を覗かせる。


「今日もお目通り、 うれしいでありんす」


にっこり。

いつもと変わらぬ、

花魁らしい艶やかな笑顔。

……だが。

レオはその笑顔の奥に、

ほんのわずかな陰りが差していることを

見逃さなかった。


「若旦那様」


翡翠は声を落とす。


「昨夜のお座敷のことで、

少しお耳へ入れておきたいことがありんす」

「黒崎家当主、 久遠様のことでございます」


レオの薄い青色の瞳が、

静かに細められる。


「何があった」

「わっちの考え過ぎなら、

それでようござりんすが……」


翡翠はちらりと唯衣を見つめ、

小さく首を振った。


「今は、 お二人の大切なお時間」

「また今夜、

改めてお話しさせていただきんす」


そう言うと、

ふぁぁ……と大きな欠伸を一つ。


「わっちも、

昨夜は朝までお座敷続きで

少々寝不足でありんす」


口元を袖で隠しながら、

花魁らしい美しい所作で笑う。


「それでは、 これにて失礼いたしんす」


しゃらり。

鼈甲の簪を鳴らしながら、

翡翠は静かに部屋を後にした。

襖が閉まると、

部屋には再び静寂が戻る。


しかし。

「黒崎久遠」

その名だけが、

まるで薄い霧のように、

蒼狼の間へ静かに残り続けていた。


レオはいつものように

唯衣を膝に乗せる。


「黒崎といえば、

うちと肩を並べる老舗の大店だ」

「その当主、 黒崎久遠……」


レオは唯衣を抱えながら

静かに考え込む。


「頭は切れる男だ」

「だが、あまり良い噂は聞かん……」


その低い声に、

唯衣は膝の上で小さく身体を震わせた。


「……若旦那様」


不安そうな瞳が、

そっとレオを見上げる。


レオはすぐにその表情へ気付き、

ふっと頬を緩めた。


「……すまん」

「少し考え事をしていた」


そう言って、

唯衣の唇へ、

触れるだけの優しい口づけを落とす。


「若旦那様……」

「ん?」


唯衣は小さく俯き、

そっとレオの着物を摘まんだ。


「……ぎゅっと、してくださいまし」

「どうした」


レオは少し驚いたように目を瞬かせる。


「お前から甘えてくるとは、 珍しいな」


そう言いながらも、

唯衣を包む腕にそっと力を込める。

逞しい胸へ引き寄せ、

さらりと揺れる黒髪へ、

優しく口づけを落とした。


「……わからないのです」


唯衣はレオの胸へ頬を預けたまま、

小さく呟く。


「ただ……」

「そのお名前だけは、

あまり聞きたくない……」


吐息に紛れるほど小さな声。

けれど、

レオの耳には確かに届いていた。

胸の奥に、

言いようのない違和感が残る。

しかし、

唯衣本人にも理由は分からない。

それ以上は聞かず、

レオはただ、

抱き締める腕へ静かに力を込めた。


やがて。

「もうすぐ、 長崎へ行かねばならない」


ぽつりと零した言葉に、

唯衣が顔を上げる。


「唯衣を連れて行けないなら」

「……もう、 行かなくてもいい」


あまりにも真剣な声音。

唯衣は思わず目を丸くした。

お読み頂きありがとうございます。

ぜひ、ブックマーク いいね 評価

頂けたら嬉しいです。

あと、本編の挿絵や裏側や、

レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。

小説の合間の息抜きにどうぞ。

X「真壁レオは今日も重い」

@reo_yui_archive

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