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真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


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22/46

暮六つの門限と、若旦那の心残り2

「唯衣……」

「俺はお前がそんな泣いてしまうほど

無粋なことをしてしまったのか?」


抱きしめていた腕がそっと離れ、

レオはポロポロと泣いている唯衣の涙を拭う。


「すまない」

「もう2度こんな無粋なことはしない」


レオがしゅんとしなだれた。


「わたし、若旦那、」

「う、うれしっくって」


涙に濡れた長い睫毛を震わせながら、

涙を拭ってくれてるレオの腕を掴んだ。


「ゆめ、みたいなのです……」

「夢、でもいいとすら思ってます」


唯衣の手が少し震えている。

涙で潤んだ目でレオを見つめる。


「……夢、なわけがないだろう」


レオは唯衣の小さな手に

自分の大きな手を重ね、

壊れ物を扱うように、

ぎゅっと優しく握りしめた。


「お前が泣くから、

俺の心臓が止まるかと思った」

「……夢でも、嘘でもない」

「ここにいる俺も、お前の唇の熱も

すべて本物だ」


しゅん、

となだれていた白銀の髪の若旦那が、

今度は唯衣を閉じ込めるように、

じっと熱を帯びた空色の瞳で覗き込んでくる。


「若旦那様……」

「これからは、毎日会いに来る」

「お前に、これが現実だと分からせるために」

「何度でも」


そう耳元で囁くと、

レオは唯衣の震える細い肩を、

今度は包み込むように優しく、

けれど強く抱きしめた。


夕暮れの光の中で、

二人の影が、畳の上に一つに重なる。


「若、本当に暮六つの鐘が鳴り終わりますよ」

「女将さんが廊下で待っています」


襖の向こうから、

景の「早くしなさい」と言わんばかりの

あきれた声が、二人の甘い静寂を遮った。


「……チッ」


レオはあからさまに

不機嫌な舌打ちを漏らすと、

唯衣の肩からゆっくりと手を離した。

その薄い青色の瞳には、

時間が足りないことへの激しい口惜しさが

滲んでいる。

唯衣の涙に慌て、

その愛おしさに時間を忘れているうちに、

無情にも暮六つの門限が来てしまったのだ。


……まだ、一回しかしていない。

もっとしたい。


わざわざ昼間に

大金を積んで押し掛けたというのに。

結局、

自分のほうが唯衣の可愛さに圧倒されて、

たった一回の口吸いだけで、

もう帰らなければならない。

否、泣かれた時は、

本当にどうしようかと思ってしまった……

でも、

あと10回はしたい!


「若旦那様……?」


どこか

本気で悔しそうに拳を握りしめているレオを、

唯衣が不思議そうに、

涙の滲んだ目で見上げる。


「……なんでもない。夜五つに、また来る」


レオは立ち上がり、

お気に入りの羽織の裾をバサリと捌いた。

その耳の付け根は、

茜色の夕日に染まるよりもずっと赤く、

熱を持ったままだった。


「はい」

「……お待ちしております、若旦那様」


唯衣は三つ指を立て、

畳に深く頭を垂れた。

ほどけた髪の隙間から覗く白い首筋が、

恥ずかしさで林檎のように赤くなっている。

パタン、

と静かに襖が閉まり、

あの人の気配が遠ざかっていく。


廊下に出た瞬間、

景がやれやれと肩をすくめて

レオを振り返った。


「若」

「ずいぶんと物足りなそうな、

未練がましい顔をされていますね」

「うるさい、景。黙れ」

「おやおや」

「毎日お稽古部屋に通うと仰るから

お供しましたが、そんなに焦らなくても、

夜になればまた会えますよ」

「さぁ、本宅へ戻って

書類に判を押してください。お仕事です」


残された夕暮れのお稽古部屋。

唯衣はそっと自分の唇に手を触れ、

そこに残る本物の熱に、

一人きりで何度も何度も胸を熱くさせていた。

あのお方の、

愛おしすぎる初めての空回り。

けれど、

二人の『千夜の契り』への時間は、

夕暮れの街を包むように、

どこまでも甘く、深く、始まろうとしていた。

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