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真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


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21/46

暮六つの門限と、若旦那の心残り1

ゴーン……。


遠くから、

日没を告げる暮六つの鐘が鳴り響いた。

障子の隙間から差し込む光が、

いつの間にか綺麗な茜色に変わっている。


「若、そろそろ暮六つです」

「見世が夜の営業に切り替わりますよ」


隣の部屋から、

景が静かに声をかけてくる。


「……もう、そんな時間か」


レオが名残惜しそうに立ち上がる。

昼間の幸せな時間は、

本当にあっという間だった。


「夜五つに、いつものお座敷でまた会おう」

「はい」

「お待ちしております。若旦那様」


撥を動かすたびに揺れる細い肩。

楽しそうに、

けれどどこか恥ずかしそうに綻ぶ桃色の唇。


ああ、もう耐えられない――


その瞬間だった。

レオの大きな手が、

唯衣の小さな肩をそっと掴んだ。


「わ、若旦那様……?」


驚いて見上げた唯衣の茶色の瞳に、

レオの顔が、一気に近づいてくる。


ち、近い、と思う間すらなかった。


柔らかな初夏の太陽が差し込むお稽古部屋で、

レオの唇が、

唯衣の唇へと静かに重ねられた。


「――っ!?」


唯衣の頭の中が、

一瞬で真っ白になる。

手元から撥がポロリと畳に落ち、

小さな音を立てた。

吉原では「口吸い(くちすい)」と呼ばれる、

恋人たちの契りの儀式。

夜のお座敷で交わされる

大人の嘘のキスではない。

今、唯衣の唇に触れているのは、

白銀の髪の若旦那様の、

少し震える、

けれど狂おしいほどに優しい本物の熱だった。

触れ合っているのは、

ほんの数瞬のこと。

けれど、唯衣にとっては、

吉原の時間がすべて止まってしまったかのように長く、

甘い一時に感じられた。

ゆっくりとレオが唇を離すと、

いつも冷徹なはずの彼の薄い青色の瞳が、

見たこともないほど潤み、

熱を帯びて唯衣を見つめていた。

レオの顔は、

さっきよりもずっと赤くなっている。


「……無粋なことをしてしまったか?」


レオは、唯衣の肩を掴んだ手に、

ぎゅっと愛おしさを込めるように力を込めた。


「お前の音だけじゃない」

「……俺は、お前が欲しくて、ここに来た」

「若旦那、様……」


唯衣の目から、

嬉しさと、

胸がいっぱいになった衝撃で、

ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。

夕べ、

嘘でも夢でもいいと覚悟を決めた初恋が、

今、

明るい太陽の下で、

本物の奇跡になって自分を抱きしめている。


隣の部屋では、

襖越しに気配を察した景が、

手にした茶碗を口元で止めたまま、

天井を見上げて深くため息をついていた。


やれやれ……若の行動力が、

私の予想を遥かに超えていらっしゃる。

これでは本当に、

我が真壁家の金蔵が空になるまで、

あの娘の元へ通い詰めかねませんね。


吉原という深い泥沼の中で、

指先すら触れ合わなかった二人の純情は、

初夏の光の中で、

激しく、

そして甘く『千夜の契り』への

確かな第一歩を踏み出したのだった。

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