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真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


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20/46

昼間の不意打ちデート 2

「では、若旦那様、ごゆっくり」


女将の菊乃は邪魔にならぬよう、

にやにやと笑いながら座敷を後にした。


そのあとすぐに、


「若、わたしは奥で控えております」

「……くれぐれも、ほどほどにしてくださいよ」


景はそう呆れ顔で、

隣の部屋へと移動していった。


パタン、


と襖が閉まり、

お稽古部屋には二人きりの静寂が訪れる。


「わ、若旦那様!」


唯衣は慌てて三つ指を立て、

床に額をこすりつけるようにお辞儀をした。


まさか夜まで会えないと思っていた焦がれ人が、

目の前にいる。

しかも、明るいお昼間に。

唯衣は嬉しさと驚きで、

まだ夢を見ているのではないかと

信じられない気持ちだった。


「唯衣」


頭上で、あの低い声が響く。

唯衣がそっと頭を上げた瞬間、

目の前に、レオの顔があった。

床に膝をつき、

唯衣の目線に合わせて、

すぐ目の前でしゃがみ込んでいたのだ。


ち、近い!


睫毛の一本一本まで見えそうなほどの

至近距離。

唯衣はまたビックリして、


「ひゃっ」


思わず小さな悲鳴を上げてしまった。

すると、

薄い青色の優しい瞳が少し細められ、

レオの唇の端が楽しげに吊り上がった。


「くくく……」

「あ……」

「びっくりさせたかった」


レオは満足そうに、

めずらしく子供のように肩で笑っている。

いつも冷徹で、

何を考えているか分からない

大店の若旦那様が、

自分の前でだけ、

こんなに無邪気な笑顔を見せてくれている。

唯衣は恥ずかしさで

顔が爆発しそうになりながらも、

その笑顔の眩しさに、

胸の奥がトクンと甘く震えた。


「も、もう……」

「意地悪でございます、若旦那様」

「心臓が止まるかと思いました……」


唯衣が真っ赤になってお銚子の代わりに

三味線をぎゅっと抱きしめると、

レオはふっと笑みを和らげ、

床に座り直した。


「夜五つまで、待てなかった」


レオは、

窓から差し込む初夏の光を浴びた唯衣の素顔を、

じっと見つめる。

白粉の香りのない、

お座敷用の豪華な衣装でもない、

ただのひたむきな女の姿。


「夜の座敷では、お前が遠い」

「……ここは誰もいないから、

お前の音が、よく聞こえる」


そう言って、

レオはそっと自分の大きな手を、

唯衣が抱える三味線の胴へと伸ばした。

指先はまだ触れていない。

けれど、お互いの体温が、

昼間の静かな空気を通じて

じりじりと伝わってくる。


「唯衣。俺だけのために、弾いてくれ」


夜の吉原の「嘘(夢)」をすべて削ぎ落とした、

明るい太陽の下の特等席。

唯衣は、

熱を帯びたその空色の瞳を見つめ返し、

今度は嬉しさに満ちた笑顔で、

深く頷くのだった。


「はい」


唯衣は三味線を構え、

すっと息を吸い込んだ。


ベン……。

ベン……。


昼下がりの静かなお稽古部屋に、

優しい音が響き出す。

それは、

夜の華やかなお座敷では

決して弾くことのない、

穏やかで、

どこか懐かしい子守唄のような曲だった。

その音は初夏の澄んだ空気に溶けて、

どこまでも優しく、

美しい音色となって部屋を満たしていく。


レオは静かに目を閉じ、

唯衣が紡ぎ出す音のすべてを、

愛おしそうに胸の奥へと染み込ませていた。

最後の音が夜風の代わりに

昼の光の中に消えていくと、

唯衣はそっと撥を置いた。


「いい曲だな」


レオが閉じていた目を開けて、

唯衣を真っ直ぐに見つめた。


「母が、よく弾いてくれたんです」


唯衣は三味線を優しく撫でながら、

にっこりと微笑んだ。


「お座敷用の曲ではないので、

少し迷ったのですが……。

若旦那様に聴いていただけて、

本当によかったです」


その、白粉の化粧もない、

作った人形の笑顔でもない、

唯衣の心の底からのひたむきな笑顔。

それを見た瞬間、

レオの顔が、

じわりと赤く染まっていった。


「若旦那様、どうされました……?」


いつも青白いほどに冷徹な顔をしているお方が、

急に頬を染めたのだ。

唯衣は何か体調でも悪いのかと、

心配そうにレオの顔を覗き込んだ。


「少し、お顔が赤いように思います」

「お身体の具合でも……」

「……ごほんっ」


レオはわざとらしく咳払いをすると、

唯衣から気まずそうに視線を逸らした。

そして、

耳たぶまでほんのり赤くしながら、

ぼそりと照れ臭そうに答えた。


「……さっきのお前の笑顔に、見とれた」

「――っ」


今度は、

唯衣が釣られて顔を真っ赤にする番だった。

まさかそんな、

直球で愛おしそうに言われるなんて

思ってもみなかった。

嬉しさと恥ずかしさで、

今度こそ二人して顔を真っ赤にしながら、

お互いに視線を彷徨わせてしまう。

二人の間に流れる、

夜のお座敷よりも何倍も甘くて、

初々しい時間。


「……何か、もう一曲、弾けるか?」


レオが、

自分の高鳴る心臓を隠すように、

少し硬い声で尋ねた。


「はい!」


唯衣は弾かれたように元気よく答えると、

今度は自分の得意な曲、

そして

今まさに一生懸命練習している曲など、

色々な曲を夢中になって

レオの前で弾いてみせた。


隣の部屋では、

景が

心が洗われる様なキレイな音だ……

お茶をすすりながら耳を傾けていた。

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― 新着の感想 ―
ジレジレだったので、やっとラブ回! 待ってました! レオくんのラブラブ待ってました!
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