表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真壁レオは今日も重い〜吉原外伝〜  作者: ほしよみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/46

若旦那の全買い宣言と、世話役の悲鳴 4

「若……! 」

「本当に、本当に全部買ったんですか!?」


真壁家の一室に、

景の悲鳴のような絶叫が響き渡った。

普段はスラリとした美男で、

どんな時も冷静沈着な景だが、

今ばかりは手にした蒼月楼からの

『差図帳(スケジュール帳)』を震わせ、

漆黒の髪を振り乱さんばかりに

レオに詰め寄っている。


「声が大きい、景」


レオは着替えの最中、

お気に入りのシックな羽織に袖を通しながら、

いつも通り涼しい顔で淡々と応えた。


「大きくなるに決まっているでしょう!」

「 翡翠花魁の空いている時間、

すなわち先客のいない一刻や半刻の隙間を、

明日も、明後日も、

その先もすべて我が真壁家の財力で

買い占めるなど……! 」

「蒼月楼の女将さんも、

あの大金が積まれた書状を見て

腰を抜かしたそうですよ!?」

「部屋が空いているなら、

客が買うのは当然だろう」

「当然の規模を超えています! 」

「いくら我が真壁大店が

江戸屈指の富豪だからといって、

これではまるで

吉原そのものを買い叩くような暴挙です!

大旦那様に『仕事はどうした』と怒られるのは、

お側近くにいる私なんですよ!?」


景は額を押さえ、

机の上に広げられた山のような帳簿を

見つめて白目を剥いた。

昨日まで

「一時の夢(遊び)」

として微笑ましく見守っていたはずの姐さん芸者たちも、

この中二日での桁違いの全買いスケジュールを見たら、

今夜あたりから

「……おや?」

と色めき立つに違いない。


「若、はっきり仰ってください」


景はすっと真面目なトーンに声を落とし、

レオの薄い青色の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「そこまでして、あの一滴の清水」

「――唯衣さんの音が、

今すぐ聴きたいのですか」


レオの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。

そして、

いつもの冷徹な仮面を被り直しながらも、

ほんの少しだけ、

声に熱を帯びさせて呟く。


「……音、だけではない」

「は?」

「お前に会うためにここに来る、

と……昨日、約束した」

「……はあぁぁ!?」


景は今度こそ、

持っていた筆を畳に落とした。

お座敷ではあんなにバツ悪そうに


「視線が熱すぎると怒られた」


などと言い訳していた若旦那が、

裏ではそんな情熱的な約束を

新米芸者に叩きつけていたのだ。

不器用な癖に、

やることが極端で容赦がない。

景は


このお人、本当にあの娘の沼に、

頭の先まですっぽり浸かっておられる……


呆れを通り越して感動すら覚えていた。


「やれやれ……」

「そこまで言われては、

私もお供せざるを得ませんね」


景は落とした筆を拾い上げると、

いたずらっぽく、

けれど優しく目元を和らげた。


「さぁ、若」

「約束の夜五つまでまだ時間はあります」

「せめてそれまでは、

大店のお仕事に判を押してください」

「……唯衣さんに、恥ずかしくない若旦那でいるために」

「……ああ」


レオは短く答え、机へと向かった。

窓の外には、

昨日唯衣が見上げたのと同じ、

どこまでも澄んだ薄い青色の空が広がっている。

大富豪の規格外の行動力が、

二人の運命を猛スピードで狂わせ、

そして愛おしく紡ぎ始めようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ