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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『DANCE WITH CRISIS』
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第五章:SWORD BREAKER/03

「おらよ……っと」

「ッ、この野郎……!」

「へぇ? 今のを避けるたぁ、ちったぁやるみてえだな」

〈一撃一撃が、重い……ウェイン!〉

「わーってる! ここが正念場だ……こらえろよ相棒ッ!」

 地下の複合フィールド、一面真っ白の雪景色の中で、ファルシオンとソードブレイカーは素手で取っ組み合っていた。

 拳を突き出し、避けられれば二撃目、三撃目と繰り出し。相手が仕掛けてくるカウンターは上手く受け流しつつ、隙を見てハイキックを繰り出す……。

 そんな熾烈な格闘戦、両者の勝負は互角だった。

 どちらも一歩も引かず、互いの拳をぶつけ合っている。ウェインもミシェルも、二人ともお互いに有効打は一発も与えられていなかったが……しかし拳を交わす中で、既に相手の実力は十分すぎるぐらいに理解していた。

 ――――間違いなく、強い。

 ウェインも、ミシェルも。拳を交える中で自然とそう感じていたのだ。

「なるほどねぇ……思った通りだ、こいつぁ相当に場慣れしてやがるぜ」

 激しく拳を交えながら、感心したように呟くミシェル。

〈フン、貴様の予想通りか。それぐらいでなければ、この俺様の相手など務まらんがな〉

 それに返すのは、どこか尊大な口調の男声。

 無論、その声の主はミシェルのナイトメイル――ソードブレイカーだ。

 とんでもない上から目線、あまりにも偉そうな喋り方の声。

「焦りなさんな相棒、ここからがお楽しみだ……」

 しかしミシェルはそんな彼の大きな態度も気にせず、ニヤリと不敵な笑みを湛えてみせる。

〈だが、これでますますキナ臭くなってきたな〉

「ンなもん最初から分かり切ってらぁよ。それより楽しもうぜ……今はまだ、な」

〈ならば――そろそろ、次の一手を打つしかあるまい!〉

「言われんでも、そのつもりさね」

 ソードブレイカーに呟きながら、ミシェルは格闘戦を中断して後退。バッと後ろに大きく飛んで間合いを取ると、静かに右手を前に突き出して。

「いくぜ……」

〈ハルバァァァド・ランサァァァッ!!〉

 その手の中に、身の丈ほどもある長い槍斧を生成する。

 ――――ハルバードランサー。

 重装近距離型ナイトメイル、ソードブレイカーの本領はここからだ。

〈ふむ、あちらが先に得物を抜きましたか〉

「んだよファルシオン、引っかかる言い方だな」

〈いえ、私としては短気を起こしたウェインが先に抜くとばかり思っていましたから〉

「口の減らねえ野郎だことで」

〈日頃の行いというものです〉

「ま、向こうが抜いたってんなら……こっちも抜かなきゃ無作法ってもんだなァッ!」

〈ここからが本番、油断なさらずに!〉

「わーってらい! ――――ファルシオン・バトルキャリバァァァッ!!」

 ウェインも飛び退き、左手に両刃の剣――ファルシオン・バトルキャリバーを召喚。グッと握り締めた剣を構えれば、ミシェル目掛けて一気に突っ込んでいく。

 背中のプラーナウィングをはためかせて、急加速しながらの突撃。

「オラァァァァッ!!」

「おおっと……」

 瞬時に懐に飛び込んだウェインだったが、しかしミシェルはその斬撃をハルバードランサーで難なく防いでみせる。

 ウェインは更に刃を返し、二度三度と剣を閃かせる。

 だがその全てを、ミシェルは巧みな手捌きで防御し受け流してしまう。

〈くっ……存外重いな、奴の剣は!〉

「流石ってところだねぇ。なんでい相棒、もう限界かい?」

〈ミシェル、ふざけたことを言うな! 俺様がこの程度で音を上げるだと? 貴様……あまり見損なってくれるなよ!〉

「くくっ、冗談だよ……んじゃ、仕掛けるぜい」

 ニヤリとしながら言って、ミシェルは一度バッと飛び退いて後退。

 そこをウェインが「逃がすかよ!」と追撃するが――。

〈かかったな、阿呆が!〉

 しかし踏み込んだ瞬間、ソードブレイカーの右手が閃いた。

 大きく振り抜いた右手がブン投げるのは、ハルバードランサー。長い槍斧がひゅんひゅんっと回転しながら、今まさに飛び込もうとしていたファルシオン目掛けて飛んでいく。

「ッ――――!」

 弧を描きながら飛んできたそれを、ウェインは自分の剣で斬り払うことで防御する。

 ……が、防御のために立ち止まったせいで、奴の懐に飛び込むタイミングを失ってしまった。

「ブーメランってわけかい、やるじゃねえかあの野郎」

 ウェインが苦い顔で呟く傍ら、弾かれたハルバードランサーがひゅんひゅんっとミシェルの元まで戻っていく。

 帰ってきた槍斧を、ソードブレイカーが右手でサッとつかみ取る。

〈顔に似合わず、力押し一辺倒かと思っていましたが……意外に技巧派なようですね、あのミシェル・ヴィンセントという男は〉

「みてえだな。……で、どうするよ相棒?」

〈いつもの通りに戦うのがベストかと。向こうは自分のペースに乗せて、我々の立ち回りを乱すことが目的でしょうから〉

「オーライ、んじゃあ……仕掛けるぜ!」

 ファルシオンと短い言葉を交わし合えば、ウェインは再び攻勢に出た。

 ダンっと雪の大地を踏みしめて、剣を構えながら再び飛び出すファルシオン。

 激しくはためいた背中の翼の勢いに、ふわりと白い雪が押されて舞い上がる。

「来やがったか……」

〈さあミシェル、次はどうする気だ?〉

「決まってらぁよ。――奴の勢いを削ぐのさ」

 急加速しながら、猛スピードで突っ込んでくるファルシオン。

 それに対し、ミシェルはまたダンっと大きく飛び退きながら……槍斧を持たない、もう一方の左手をバッと彼に向かって突き出して。

「喰らいなァ――――とっておきの、スパイラルブリザードだ」

 瞬間、ソードブレイカーの周囲に猛吹雪が発生する。

 何の前触れもなく、突如として巻き起こった超低温のブリザード。それは決して、雪に包まれた地下複合フィールドの環境パラメーターが変化したからではない。ミシェルがその手で、故意に発生させたものだ……!

 ――――『スパイラルブリザード』。

 先日のタッグマッチでフレイアが見せたのと同じ、風と氷の二属性を組み合わせた複合魔術だ。

 知っての通り、複合魔術は高度かつ繊細なテクニックを要求される特殊なもの。攻撃魔術の中でも特に技量を求められる、とても難しい技だ。

 使える魔導士は世界中にごく僅かしか居ないような、超高等テクニック。

 それを放ってみせたということは、即ちミシェル・ヴィンセントは――魔導士として、フレイアに近い実力を持っているということに他ならない……!

〈スパイラルブリザードを……!?〉

「マジかよ……っ!?」

 猛吹雪を放ったミシェルを見て、ファルシオンとウェインが驚愕の声を上げる。

 その間にも、超低温のブリザードはウェインへと迫る。

 あの猛吹雪をモロに喰らえば……例えファルシオンといえども、瞬時に凍り付いてしまう……!

〈ウェイン!〉

「皆まで言うんじゃねえ! あの技はとっくに経験済みだ……!」

 だが、ウェインとて腕利きの魔導士だ。

 タッグマッチで一度はフレイアから受けた技、そう何度も同じ手は食わない……!

「喰らいやがれ! プロミネンス……バァァァストッ!!」

 バッと右手を突き出したファルシオン、その手のひらから超高熱の焔の奔流――『プロミネンスバースト』が放たれる。

 向こうが風と氷なら、こっちは火属性の攻撃魔術で対抗してやる。

 そんなウェインの目論見通り、放たれたプロミネンスバーストの奔流は、今まさに彼に叩きつけられようとしていたスパイラルブリザードの猛吹雪と真っ正面からぶつかり合い、その燃え滾る紅蓮の焔で相殺してしまう。

 全てを焼き尽くす烈火の焔と、万物を凍り付かせる超低温のブリザード。

 二つの攻撃魔術はぶつかり合い、互いに打ち消し合い……どちらに届くこともなく消滅する。

〈ほう……この土壇場での機転の良さ、どうやら只者じゃないな〉

「らしいねェ。いい判断だぜ、敵ながらあっぱれって奴だな」

〈フン、だが俺様ほどではない。……してミシェル、次の手はあるんだろうな?〉

「へへっ、まあ見てなって……」

 ニヤリとしながら、また飛び退いて距離を取ったミシェルは次の攻撃魔術を発動した。

 ウェイン目掛けて突き出した左手に、バチバチと稲妻を迸らせて――――。

「――――インパルスブレイカーだ、とくと味わいなよ」

 その左手から、激しく瞬く稲妻を撃ち放ってみせた。

 まるで雷が落ちた時のような轟音が鳴り響き、ソードブレイカーの左手から放たれた稲妻が……体勢を立て直しつつあったウェインに向かって真っすぐ伸びていく。

 ――――『インパルスブレイカー』。

 今度は風牙が使っていた、雷属性の攻撃魔術を使ってきた。

 これもさっき見せたスパイラルブリザードに負けず劣らず、高度なテクニックを求められる難しい魔術だ。ミシェルの手から放たれた数百万ボルトの超高電圧の稲妻……その威力は、風牙のものとほとんど変わりない。

「畜生、今度はインパルスブレイカーかよ……!?」

〈よほど、腕のいい魔導士ということでしょうか……!〉

「むちゃくちゃにも程があんぜ、あの野郎ッ!」

 飛んでくるインパルスブレイカーの稲妻を避ける暇はないと判断し、ウェインは回避でなく防御を選択する。

 背中のプラーナウィングを前面に出し、白い翼を盾にすることであの猛烈な稲妻を受け止める。

 激突した稲妻がバチンっと弾けた時、翼の表面には微かな焦げ跡が付いたが……しかし、それだけだ。流石のプラーナウィングの防御力を以てすれば、これぐらいを防ぐのは容易い。

〈……マズいな、思ったより硬いぞあの翼は〉

「あーらら、ちぃと予想外だねぇこりゃあ」

〈呑気なことを言う暇があったら、さっさと仕掛けろたわけがっ!〉

「へいへい、言われんでも分かってらぁよ――――っと!」

 ソードブレイカーに言われるよりも早く、ミシェルは次の一手を打っていた。

 ウェインが防御態勢を取った隙に、ダンっと地を蹴ったミシェルがその懐に向かって飛び込んでいく。

 真っ白い雪の大地を踏みしめて、その重厚な見た目に似合わぬスピードで駆け抜けるソードブレイカー。

 右手のハルバードランサーを振りかぶり、ウェイン目掛けて一直線に突っ込んでくる。

〈ウェイン!〉

「おうよ!」

 無論、それを見たウェインは迎撃態勢を取る。

 だが――――ミシェルは彼より更に一枚上手だった。

「あらよっと!」

 走りながら、ミシェルは突然ハルバードランサーをブン投げる。

 ひゅんひゅんっと回転しながら飛んでいく先、狙いをつけたのは……無論、ファルシオンだ!

〈なっ!?〉

「そう来やがったか、畜生め!」

 距離が近すぎる、避ける暇はない。

 ブーメランのように飛んでくるハルバードランサーに対し、ウェインが取れる選択肢は迎撃しかない。

 毒づきながら、ウェインは構えていたバトルキャリバーを振るって飛んできた槍斧を斬り払う。

 だが――――その行動こそが、ミシェルの思惑通りなのだ。

「おたく、ちぃと詰めが甘いぜ」

 ニヤリと呟きながら、ミシェルは失ったハルバードランサーの代わりに十手を召喚。バトルキャリバーを振り抜いて、隙を見せたファルシオンの懐へと瞬時に潜り込めば――――。

「ふっ……!」

 バトルキャリバーの刀身を十手の(かぎ)で挟み込むと……そのまま十手を捻り、バキンっと剣をへし折ってしまった。

 半ばから折れた刀身が吹き飛び、遠くの地面に突き刺さる。

 ぼふっと緩い音を立てて雪の地面に突き刺さった刀身と、折れた手元のバトルキャリバー。そして……眼前にまで迫ったソードブレイカーを交互に見て、ウェインはくそっと毒づく。

 ――――そう、これこそがミシェルの真の狙いだったのだ。

 あの間合いでハルバードランサーを投げてやれば、避けられないウェインにあるのは斬り払う選択肢のみ。

 しかし、剣を振り抜いた時にほんの僅かな隙が生じる。

 それを狙ってミシェルは踏み込み、こうして十手でバトルキャリバーをへし折ってしまったのだ。

 ウェインから、ファルシオンから武器を奪うこと。

 それこそが、ミシェルが飛び込んできた真の意図に他ならなかった。

「ああくそ、やっぱこれが目的かよ……!?」

〈ウェイン、一旦引いてください! この間合いでは……!〉

「分かってんだよ! んなこたあっ!! ――――プラーナウィィィングッ!!」

 剣を失った今、この距離では確実にやられる。

 ファルシオンに言われるまでもなくそう判断したウェインは、背中のプラーナウィングを使って急加速。とんでもないスピードで一気に真後ろに向かって飛べば、ミシェルから大きく距離を取る。

〈くそっ、俺様でもあのスピードには対応できんぞ……!〉

「しゃーねえよ、そうボヤきなさんな、相棒」

〈フン、まあいい……この調子で畳み掛けるぞ、ミシェル!〉

「おうともよ」

 猛スピードで後退するウェインを、ミシェルは追撃にかかる。

「チッ――――ライトニングハーケンッ!」

 それに対し、ウェインは後ろに飛びながらバッと左手を突き出し、ミシェル目掛けて光の槍を放つ。

 ライトニングハーケン、ご存知の通りの光属性の攻撃魔術だ。

 それを何度も何度も、ウェインは逃げ続けながら連続して撃ち放つ。

「おおっと……!」

 遠くから飛んできた光の槍に対し、ミシェルは回避……はせずに、その場で立ち止まったまま対処する。

 左手を突き出し、展開した光のバリア『フォトンシェード』でウェインの光の槍を防ぐ。

(? あの野郎……)

 無論、ミシェルの張ったフォトンシェードは全ての光の槍を受け止めた。

 だが……その光景が、ウェインの目にはどうしてか奇妙に見えていた。

〈ウェイン、気付きましたか?〉

「……ああ、お前も気付いたみてえだな」

 同じ疑問はファルシオンも抱いていたようで、はいと彼は頷くと。

〈あのナイトメイル……ソードブレイカーは、思っていた以上に遠距離戦は不得意なようですね〉

「俺たち以上に、な。あそこで避けずに立ち止まるってこたあ、そういうことだろ?」

 ――――そう、まさにその通りなのだ。

 ソードブレイカーは、遠距離戦を苦手としているのは間違いない。

 同じ近距離戦型のファルシオンも似たようなものだが、しかしソードブレイカーはそれ以上に遠距離戦闘に弱いらしい。

 これだけ距離があったのに、避けずにフォトンシェードを張ったことが何よりもの証拠だ。

 ファルシオンならば、背中のプラーナウィングから来る空戦能力を駆使して避けることは容易い。飛び道具はウェインの魔術頼りだが……それでも、隙を突けば間合いを詰めるのは容易いことだ。

 ……しかし、ソードブレイカーはそうじゃない。

 飛び道具がミシェルの攻撃魔術にしか頼れないのは、まあファルシオンと似たようなものだ。

 しかし、奴には圧倒的に欠けている部分がある。

 それは――――身軽さだ。

 あの鎧武者のようなスタイルは確かに頑丈なのだろうが、しかし重たい鎧は肝心の機動力を削いでしまっている。あの見た目の割には身軽な動きだが、それでも遅いのは事実だ。

 だからこそ、ミシェルはこれだけ間合いがあったにも関わらず、回避でなく防御を選択したのだろう。

 下手に避けようとするより、防いだ方がより確実。それは間違いなく合理的な選択だ。

 しかし……その合理的な選択が、ウェインにその弱点を見抜くきっかけを与えてしまった。

 奴が常にウェインより先手を取っていたのも、割と突っ込んでくるのも、ハルバードランサーを投げるなんて奇妙な戦法を取ったのも――全てはその弱点を補い、そして悟らせないための作戦だったのだ。

 ファルシオンは同じ近距離戦型。ならば自分の弱点は悟らせず、敢えて先手を取り続けることで自分のペースに乗せて……ウェインの頭に血をのぼらせて、自身の間合いに突っ込ませる。

 間違いない、それがミシェルの作戦なのだろう。

 現にウェインは奴の作戦にまんまとハマり、バトルキャリバーをへし折られてしまっている。

 初めの方にスパイラルブリザードのように強力な攻撃魔術を見せておけば、ウェインは自然とそれを警戒し……無意識に動きは鈍くなる。そんな心理もミシェルは利用して、常に自分の有利な間合いで戦っていたのだ。

 しかし、それを看破すれば後は容易い。

 が……こちらも遠距離戦は不得手な間合いであることは事実だ。

 その距離で決着をつける術は、ファルシオンブラスター以外に持ち合わせてはいない。

 ならば――――持ち前の機動力で、奴を翻弄するのみ!

「喰らいやがれ! ブレイジング……ノヴァァァァッ!!」

 雄叫びをあげて、ウェインは新たな攻撃魔術を発動する。

 瞬間――立ち止まっていたミシェルの周りに、ぶわあっと超高熱の火柱が出現した。

 ソードブレイカーの周囲、四方八方を囲むように地面から噴き出した火柱。降り積もっていた人工の雪を瞬時に溶かしながら現れたその火柱は……焔の牢獄と化して、飛ぶ術のないソードブレイカーの動きを封じる。

 ――――『ブレイジング・ノヴァ』。

 普通は自分の周りに火柱を発生させる、火属性の攻撃魔術だが……しかし状況によっては、こうして相手の周囲に発生させることも出来る。

 尤も、普通の相手なら囲む前に脱出されてしまうことが多いから、使う機会は少なかった。

 だが……相手は鈍重な、重装甲のナイトメイルだ。ならば……この技で十分に通じる。

〈いかん……身動きが封じられた!〉

「っと、こりゃあチョイとマズったかもなあ。おいらたちの弱点、きっと見抜かれちまったぜ」

〈この馬鹿者め、呑気に言っている場合か!〉

「ま、そう焦りなさんなよ。――スパイラルブリザード、もう一発だ」

 ブレイジング・ノヴァの火柱の牢獄に囚われながらも、ミシェルはあくまで冷静な声のまま状況打開の手を打つ。

 左手を突き出し、再びスパイラルブリザードを発動。周囲に発生した猛吹雪を使って、ソードブレイカーを取り囲んでいた灼熱の火柱を全て凍り付かせてしまう。

 囲んでいた火柱は凍り付き、ただ背の高い氷柱へと変わった。

 そんな氷柱をバリンと裏拳で砕きながら、ミシェルは焔の牢獄から脱する。

 ――――が、その頃にはもうファルシオンが至近距離まで迫っていた。

「ファルシオン・バトルキャリバァァァッ!」

 ミシェルの頭上に飛んできたウェインが、左手にバトルキャリバーを再召喚。急降下で勢いをつけながら、振りかぶったそれを地上のソードブレイカーに向かって叩きつける。

「おおっと……!」

 予想外の方向からの攻撃にミシェルは驚きながらも、小さく飛び退くことでそれを回避した。

 だがウェインは即座に刃を返すと、二の太刀、三の太刀と閃かせて追撃する。

 その斬撃をミシェルはどうにか十手で受け流し続けるが、しかしファルシオンの猛攻を前しては反撃に転ずることは出来ず、ただ防戦一方を強いられてしまう。

〈くっ……ミシェル!〉

「こいつは……おいらたちの想像以上だねえ……っ!」

 拘束で気を逸らしてからの見事な奇襲、ウェインの直情的な性格に似合わぬ巧みな戦術に、ミシェルとソードブレイカーは思わず舌を巻く。

 ……が、それはウェインたちとて同じことだった。

〈いい調子です、が……よもや、この奇襲に対応するとは〉

「この野郎、やっぱ戦い慣れてやがるぜ。状況判断に隙がねえ」

 ウェインとファルシオンもまた、ミシェルがあまりに戦い慣れていることを再認識していた。

 ――――両者とも、既に悟っている。

 間違いなく、相手は場慣れした戦士だ。こうして刃を交えながら、二人は互いに確信を持ち始めていた。

「つっても、そういうことならよ!」

〈このまま……一気に勝負をつけるまでです!〉

 この勢いのまま、ウェインは勝負に出る。

 バトルキャリバーを激しく叩きつける中、隙を見てソードブレイカーの腹に鋭い蹴りを叩き込む。

「おおっと……!」

 ミシェルは吹っ飛ばされながらも、上手く勢いを受け流しつつ着地。すぐさま十手を構え直すが……。

「――――ライトニングハーケンッ!」

 彼が着地したタイミングで、ウェインは右の手のひらから光槍――ライトニングハーケンを撃ち放つ。

 飛んできたそれを、ミシェルは難なく十手で払いのけるが……しかしその隙に、再びウェインが懐に飛び込んだ。

「ガラ空きだぜ、貰ったァァァッ!!」

 十手を構え直そうとするミシェルだが、もう遅い。

 ひゅんっ、とバトルキャリバーが閃く。

 ――――取った。

 そう確信したウェインだったが、しかしミシェルも甘くない。

 十手での防御が不可能だと見るや、ミシェルはすぐに背中をグッと大きく逸らせる。

 すると……ウェインが振り抜いた刃は確かにソードブレイカーを斬ったが、しかし切りつけたのはごく浅いところのみ。バトルキャリバーの切っ先は分厚い紺色の鎧をほんのちょっぴり傷つけたのみで、致命傷には至らなかった。

(野郎……やっぱり出来るな!)

 ハッとしつつ、ウェインはすぐに刃を返す。

〈次が来るぞ、ミシェル!〉

「分かってらい……!」

 しかし彼が二の太刀を閃かせるよりも、ミシェルの反撃の方が早かった。

 斬撃を避けた直後、ミシェルは逸らした上体をバネのように使いながら、十手をファルシオンの首元目掛けて叩きつける。

「ぐぅ……っ!?」

 バコン、っと鈍い音が響く。

 叩きつけられた十手の衝撃に思わずたじろいでしまい、剣を握るウェインの左手の動きが一瞬止まる。

「あらよ……っと!」

 その隙を見逃さず、ミシェルは彼の横っ腹にキツい回し蹴りを喰らわせた。

「野郎……ッ!」

〈ウェイン!〉

「次が来るってんだろ、分かってんだよ!」

 ファルシオンに怒鳴りながら、ウェインはどうにか空中で身をよじって体勢を立て直す。

 蹴られた衝撃で大きく吹っ飛んでいったファルシオンだったが、しかし背中の翼をはためかせながら、ふわりと着地。

〈チャンスだ……行くぞ、ミシェル!〉

「しゃーねえなあ……ハルバードランサー、おかわりだ」

〈ここからが俺様の本領発揮だッ!〉

 その間にもミシェルは十手を消滅させ、代わりにハルバードランサーを再召喚。長い槍斧をぐるぐると手の中で回しながら、一気に踏み込んでウェインとの距離を詰めていく。

〈やはり、来ますか……!〉

「かといって、ブラスターは撃たせちゃくれねえよな……!」

〈ならば――――答えはひとつ!〉

「真っ向勝負でケリ、つけるっきゃねえよなァァァッ!!」

 それに対し、ウェインは剣を構えて迎撃態勢を取る。

 ――――ソードブレイカーの動きは、確かに重い。

 だが、切り札のファルシオンブラスターを撃たせてくれるほどの隙はない。

 ならば、今取れる最良の選択肢は――奴を、ここで迎え撃つ!

「ふっ……!」

 飛び込んできたミシェルが、ハルバードランサーを振り上げる。

「喰らうものかよ、そんなもん!」

 それをウェインが剣の腹で受け止めて、外側に弾き出す。

 同時に刃を返し、バトルキャリバーを縦一文字に振り下ろすが。

「てやんでえ、舐めるなよ……!」

 しかしミシェルは大きく振り上げた脚で真横から刀身を蹴っ飛ばし、剣の軌道を逸らしてみせる。

「ッ……!?」

「お返しだぜ……!」

 振り抜いたハルバードランサーを引き戻し、今度はミシェルが真っ正面から縦に振り下ろす。

 ハルバードランサーの長い穂先、分厚い斧の刃がファルシオンへと迫る。

〈ウェイン!〉

「分かってるってんだよ、怒鳴るんじゃねえっ!」

 間一髪、ウェインは小さく飛び退くことでそれを回避した。

 掠めた槍斧の穂先が、ファルシオンの白い鎧を浅く傷つける。

「まだだ……勝負はこっからだろ?」

 だがミシェルはニヤリとすると、即座に刃を返して二度、三度と槍斧を激しく振り回す。

 その猛烈な攻撃をなんとか躱しながら、ウェインは僅かな隙を突いて反撃の刃を閃かせる。

 ……が、ソードブレイカーの鎧は見た目通りに頑丈だ。

 隙を突いて放った軽い斬撃だからか、バトルキャリバーの切っ先は奴の鎧にほんの掠り傷しかつけられない。

 逆に、ミシェルの攻撃はその一撃一撃がかなり重い。

 ただでさえ長く重量のある槍斧を、あれだけ勢いを付けて振り回しているのだ。上手く避けているから穂先が掠める程度で済んでいるが、それでもファルシオンの白い鎧には、もう幾つもの鋭い刀傷がつけられている。

 ……このまま戦い続ければ、いずれは押し切られてしまう。

 そう判断したウェインは、イチかバチかの勝負に出た。

「オラァァァァッ!」

 ミシェルの一閃を避けた直後、間髪入れずに斬りかかるウェイン。

「甘いねえ……」

 無論、それをミシェルは引き戻した槍斧で防いでみせる。

「あらよ……っと!」

 そのまま穂先で刀身を絡め取れば、ミシェルはウェインの手から剣を弾き飛ばしてしまった。

 手元から離れ、宙を舞うバトルキャリバー。

「さぁて、仕上げだぜ……!」

 それを好機と見て、ミシェルは渾身のパワーを込めて槍斧を振り抜いた。

「ヘヘッ……」

 このまま、勝負が決まるのか。

 槍斧が眼前にまで迫る絶体絶命の状況の中、しかしウェインが浮かべるのは――してやったり、と言わんばかりの不敵な笑み。

「――――プラーナウィィィングッ!」

 迫る槍斧の切っ先が当たるか当たらないかといった寸前のタイミングで、遂にウェインは行動に出た。

 背中のプラーナウィングをはためかせて、急加速し飛翔。ふわりと宙返りするように小さく飛ぶと……そのままミシェルの後方へ。

 くるりと飛んだファルシオンは、そのままミシェルが振り抜いたハルバードランサーの上にタンっと飛び乗ってしまった。

〈なっ……!?〉

「おい、冗談だろ……!?」

 自分の握るハルバードランサーの上に、中腰になって立つファルシオン。

 振り向いたミシェルとソードブレイカーは、その想像を絶する光景にただただ言葉を失ってしまう。

 ソードブレイカーは元より、ミシェルでさえもが……初めて、驚きと焦燥に満ちた声を上げていた。

「ありがとよ、待ってたんだ――この瞬間をなぁっ!」

〈勝負です、ソードブレイカー!〉

「うおおおおおおっ!」

 雄叫びを上げながら、ウェインが左手をバッと突き出す。

 空気中に漂うプラーナが共鳴し、ファルシオンが緑色に輝き始める中。突き出したその左腕の装甲が……パカンと大きく口を開ける。

 白い鎧の繋ぎ目から割れるように、まるで花弁が花を咲かすように……大きく開いたその左手に、緑色に光り輝くプラーナの光が集まっていく。

「畜生、ファルシオンブラスターか……!」

〈マズいぞ……ミシェル!〉

「べらぼうめ、コイツは……おいらにゃ、避けきれねえ……っ!」

〈無理だな、いくら俺様でも……これは……っ!〉

「ちぃぃっ!」

 強く舌を打ちながら、ミシェルは避けようと動き出したが……しかし、もう遅い!

「喰らいやがれ! コイツが俺たちの……切り札だァァァッ!!」

〈我々はこんなところで負けられない! 故に……頂きます、この勝負ッ!〉

「――――ファルシオン・ブラスタァァァァァァァァァッ!!」

 突き出した左手から、目も眩むほどの猛烈な閃光が弾け出す。

 撃ち放たれたのは、緑色に光り輝く巨大なプラーナビーム。とんでもない威力を秘めた純粋プラーナエネルギーの塊が……超至近距離から、ソードブレイカーの身体を飲み込んでしまう。

 ――――『ファルシオンブラスター』。

 ウェインたちの持てる最大最強の切り札たる一撃、必殺の破壊光線。これをブッ放すチャンスを作るため、ウェインは敢えて剣を弾き飛ばさせたのだ。

 彼から剣を取り上げて、ミシェルが勝利を確信した時。そこに生まれたほんの僅かな心の隙間。

 それを突くことこそが、ウェインの真の狙い。ごく小さなチャンスに全てを賭けた、まさにイチかバチかの勝負に……彼は勝ったのだ。

〈負けるのか、この俺様が……!?〉

「こりゃあ、ドジっちまったかねぇ……っ!!」

 超至近距離でブッ放したプラーナビームが、ソードブレイカーを飲み込んだ直後……その勢いに押されて、ファルシオンまでもが後ろに吹き飛んでいく。

 ザァァッと後ろに滑りながらどうにか着地したが、しかし直後にがっくりと膝を折ってしまう。

 左手を突き出した格好のまま、膝を突いたファルシオン。全身から白い蒸気を噴き出しながら、もう一歩も動けない。

 とんでもない威力の破壊光線の代償、一時的なパワーダウンだ。

 ファルシオンが不完全なナイトメイルであるが故の、あまりに致命的な弱点。この無防備を晒したとき、相手がまだ立っていればそこで一巻の終わりだ。

 だから、ウェインは撃つタイミングを計っていた。

 これを撃つときが、即ち勝敗が決するとき。プラーナビームの閃光と、直後に巻き上がった砂埃の向こう側に消えていったソードブレイカー……奴が立っているか否かで、この勝負の行方は決まる。

 …………スタジアムを、奇妙な静寂が包み込む。

 そして、巻き起こっていた砂埃が晴れていくと。その向こう側に――――奴の、ソードブレイカーの姿があった。

(チッ……)

 ――――負けたか。

 晴れた砂埃の向こうから現れた、奴の姿を見てウェインはそう思い歯噛みする。

 ……が、その直後。

「参った参った、おいらの負けだ……完敗だぜ」

 ミシェルの諦めた声が聞こえてくると、ソードブレイカーがガクンと膝を折った。

 ドシンと地響きを立てて、紺色の鎧武者がうつ伏せになってスタジアムの地面に沈む。

 つまり、この勝負――――ウェインの、勝利だ!

戦闘終了(ノック・イット・オフ)。勝者――――ウェイン・スカイナイト』

 勝者を告げるエイジの声が響いたとき、スタジアムに轟くのは……観客席からの、割れんばかりの大歓声だった。





(第五章『SWORD BREAKER』了)

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