第六章:絡みつく疑念の糸/01
第六章:絡みつく疑念の糸
「うおおおおおっ! ウェインが決めたぁぁぁっ!!」
「はい、本当に見事な勝負でしたね。私もハラハラし続けでした」
コロシアムの管制室で大騒ぎする風牙の隣で、エイジもニコニコと笑顔を浮かべながら言う。
二人が見つめる先にあるのは、ファルシオンとソードブレイカーの雄姿。熾烈な戦いの果てに勝敗を決した二騎のナイトメイルの姿だ。
「いやあーホントっすねえ! マジでどっちが勝ってもおかしくなかったっすよぉ!」
「本当にギリギリのところでウェインさんが勝利を掴んだ形ですね。ファルシオンブラスターを撃つタイミングが勝負の鍵だとは思っていましたが……いやはや、お見事です」
「でもでも、ミシェルも負けてなかったっすよ? ウェインの野郎がサシの勝負であんだけ苦戦するとは思わなかったっすから」
「ふふっ、ソードブレイカーは頑丈でパワーがありますからね。一度間合いに入ってしまえばさもありなん、です。例えば私がミシェルさんと戦ったとして、多分かなりの苦戦を強いられるんじゃないでしょうか」
「うえー、マジすか先生?」
「お世辞とかじゃなく、率直な感想ですよ」
「くぅーっ! いやあそれにしたってスゲえ戦いだった! ブラボーブラボー! これだから競技会は盛り上がるんだよなあっ!!」
いつにもましてやかましく騒ぐ風牙の横で、エイジは尚もニコニコと爽やかな笑顔を浮かべている。
……が、二騎のナイトメイルを見つめる目は笑っていない。
フレームレスの眼鏡の下、細めた双眸でエイジはじっとグラウンドを眺める。
切れ長の赤い瞳で、まるで値踏みするように注意深く、エイジは二騎の内の片方を――――ファルシオンを見つめていた。
(……しかし、ミシェルさんを破るとは驚きでした)
白き翼の魔導騎士を遠くに見つめながら、エイジは内心で呟く。
(途中までは確かにミシェルさんが優勢でした。ですが……彼は力づくで勝負の流れを変えてしまった。その大きな要因として、純粋に彼が優秀な魔導士であることは疑いようもない)
しかし――――と思いながら、エイジはファルシオンを見つめる。
(一番の勝因は、あのナイトメイルであるが故でしょうね)
遠くを見つめるエイジの顔から、いつしか笑顔は消えていた。
(ファルシオン……とても奇妙なナイトメイルです。何もかもがあり得ない、この世界に存在し得ないはずの力……だからこそ、興味深いというもの)
スッと細めた双眸、赤い切れ長の瞳でファルシオンを見据えながら、エイジは内心でそう考えていた。
(もっと見てみたくなりました、貴方の力を。このまま勝ち進みなさい。そして私に見せてください。期待していますよ――――ウェイン・スカイナイト)
風牙がやかましく実況の声を張り上げる中、グラウンド上のファルシオンを見つめながら……エイジはまた、薄い笑顔を浮かべていた。
一方その頃、食堂棟では。
「ウェインさん、勝ちましたね」
「当然の結果だな」
壁掛けテレビで試合の様子を見ながら、フレイアとフィーネがそう言葉を交わし合っていた。
テレビに映るのは、見事に勝利したファルシオンの雄姿。
ウェインとミシェル、二人の激闘に釘付けになっていた食堂の学生たちもまた、スタジアムの観客たちと同じように歓声を上げて盛り上がっている。
そんな皆から一歩引いたところで、二人はテレビ越しに彼を眺めていたのだった。
「見立て通り、奴のナイトメイル……ソードブレイカーはファルシオンに近い特性だ。言うなれば近距離型、であるのならば……私のウェインが負けるはずがない」
「でも、本当に凄い試合でしたね。接近戦では互角でしたし……ひょっとしてウェインさんが負けるんじゃないかって、一時はハラハラしました」
「お前のデュランダルに叩き斬られたときみたいに、か?」
軽くウィンクなんかしながら、冗談めかして言うフィーネ。
「ふふっ、かも知れませんね」
それにフレイアは、ニコッと柔に微笑んで返す。
フィーネはそんな彼女の反応に小さく肩を揺らしながら、
(しかし……ミシェル・ヴィンセント、やはり奇妙な男だな)
彼の――ミシェルの奇妙さを、改めて認識していた。
(フレイアの言う通り、アイツの実力は互角だった。いや……もしかすればそれ以上かもしれない。今回は搦め手でウェインが勝ったが……しかし、二度目はもう通用しないだろうな)
それに、あの殺気――――。
(間違いない、あの男の殺気は本物だった。こちら側の人間……戦いに慣れたプロフェッショナルにしか出せないものだ)
やはり、彼は戦い慣れている。
それはきっと、実際に手合わせしたウェインの方がより強く感じていることだろう。奴は……ミシェル・ヴィンセントは、間違いなく自分たちと同類なのだ、と。
(これは……やはり警戒する必要があるな)
そして、突き止めなければならない。
(ミシェル・ヴィンセント……お前がひた隠しにする、その正体をな)
フィーネが静かにそう思う中、隣でフレイアが横目に彼女を見て。
「ウェインさん、迎えに行って差し上げたらどうですか?」
と、笑顔で彼女に言う。
それにフィーネも「ふむ」と相槌を打って、
「そうだな、迎えに行ってやるか」
と言って、ウェインを迎えに行くべく食堂を去っていった。
「……お見事でした、ウェインさん」
遠ざかっていくフィーネの背中を見送りながら、その場に残ったフレイアはまた壁掛けテレビを見上げて。
「このまま勝ち進めば、いずれ私も貴方と相まみえることになる……今から楽しみです、貴方ともう一度、この剣を交えることが」
画面に映るファルシオンの背中を見つめながら、微笑んで……そうひとりごちていた。




