第二章:ムーンライト・デュエル/10
そんな激闘を制した後、夜明けを迎えた空が次第に明るさを取り戻し始めた頃。フィーネが母子を逃がした、あの丘の上で……二人は背中を預け合うように立ちながら、遠くの村の焼け跡を眺めていた。
「ったく、今日は特にひでえ目に遭った気がするぜ……すっかりくたびれちまった」
「私も同感だ、お互い大変な一日だったな」
「大変っつーか、その一日は今やっと始まったばっかなんだけどよ」
「細かいことは気にするな、気分の問題だ」
「へいへい……」
東の方から明るくなり始めた空には、インヴィジリアの撃破を知ったステルスヘリコプターが……来るときに乗ってきた、あの光学迷彩付きのヘリがけたたましい音を立てながら旋回している。それ以外にも数機、帝国軍のヘリも事後処理のために駆け付けていた。
その内の一機が、少し離れた場所に着陸しているのが見える。
ヘリから降りてきた帝国軍の兵士たちが、例の母子を保護し……どうやら怪我の手当てをしているようだった。
「おい、フィーネ」
「ん?」
「手、振ってるぜ。あの坊主だ。振り返してやんなよ」
「……そうだな」
そんな景色を遠くから見つめていれば、あの男の子がこっちに手を振っていた。
見えるのは、力いっぱい二人に向かって手を振る少年の笑顔。聞こえるのは、振り絞った大きな声で叫ぶ、ありがとうという幼い感謝の声。
そんな男の子に向かって、フィーネも小さく手を振り返してやる。背中を預けたウェインも一緒に……きっと、いつものようにぶっきらぼうな態度で手を振っている気配を、そっと背中越しに感じながら。
「なあ、ウェイン?」
手を振り返した後、ふと頭上の空を見上げてみて。眩しい朝日を浴びながら、真っ青な朝焼けの空を見上げながら……フィーネはそっと、背中越しの彼に語り掛ける。
「んだよ」
「私は……私はまた、お前に救われてしまったな」
「気にすんなよ、んなことぐらい」
彼がニヤッと小さく笑う気配が、背中越しに伝わってくる。
「お前に何かあった時、フォローすんのは俺の役目だからな」
「……それでも、礼のひとつは言わせてくれ」
「気にすんなっての。ただし……俺がポカやらかしたら、そん時は頼んだぜ?」
「仕方ないな、その時は好きなだけ甘えさせてやる」
やれやれと肩を竦めながら、でも緩んだ頬から嬉しさが笑顔になって零れ落ちてきて。
「全く、お前の世話をするのも一苦労だな」
なんてことを言えば、フィーネは彼の手に……そっと後ろから指を絡める。
ウェインはそれに一瞬だけ戸惑いつつも、
「馬鹿言ってんじゃねえ、そりゃこっちの台詞だ」
言いながら、そっと彼女の手を握り返した。
戸惑いがちに揺れる彼の指を、フィーネの指が絡め取って……ぎゅっと強く、強く握り締める。
「…………お前の傍は、やっぱり居心地がいいな」
握り返してきてくれたウェインの手に、強く指を絡ませながら……フィーネはぎゅっと彼の手を握り締めていた。朝焼けの下で……強く、絶対に放さないと誓うみたいに――――。
(第二章『ムーンライト・デュエル』了)




