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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
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第二章:ムーンライト・デュエル/09

〈お姉様!〉

「分かっている!」

(奴はどこだ? 感じろ……風の乱れる刹那を!)

 走りながら、小さく目を閉じてフィーネは感覚を研ぎ澄ませる。

 奴は目には見えない相手だ、赤外線だろうが何だろうが、あらゆるセンサーを駆使しても捉えることのできない相手。まさに不可視の怪物。

 だが、奴が動くとき……そこに風の乱れが生じる。プラーナが不自然に揺れた時……奴は、そこに居る!

「ッ! そこだぁぁぁぁっ!!」

 感じ取ったのは、ほんの僅かな違和感。

 そこに勝機を見出したフィーネはカッと目を見開き、振り向きざまに右手首から細長いチェーン『アレスターチェーン』を射出。ビュンッと飛んでいったチェーンは、そのまま何もない虚空を切る。

 ――――かと思いきや、空中で見えない何かに引っ掛かると、そのままグルグルと絡みついてしまった。

「ウェイン!」

「……ヒューッ、マジに捕まえやがった……」

「いいから早くしろ!」

「わーってらい! ――――オラァァッ!!」

 ギュッと何かを締め上げるフィーネに言われて、ウェインは何もないように見える場所をバトルキャリバーで斬りつける。

 すると、ガキンと激突した刃からは確かな手ごたえが伝わってきて。その直後――――ギャアアッという悲鳴を上げながら、インヴィジリアが姿を現した。

 見ると、フィーネが投げたアレスターチェーンはちょうど前足に絡みついていたらしい。加えてウェインが斬りつけたのは背中辺り、例のレーザー発振器官がある辺りだ。

「おおっと、逃げるんじゃない!」

 斬られた痛みで姿を現したインヴィジリアは、そのままもがき暴れてチェーンの拘束を脱しようとする。

 だがフィーネは巧みな手さばきで拘束を続けたまま、チェーンに沿わせた右手へとプラーナを流し込んで。

「お仕置きの時間だ! ――――ショックバースト!」

 バシンと右指を弾いて発生させた強烈な電撃を、そのままアレスターチェーンを通して奴の巨体に流し込んでやる。

 そうすれば、チェーンを通して伝わってきた電撃に痺れたインヴィジリアがまた悲鳴を上げながら悶え苦しむ。身体のあちこちから小さな煙が上がっている辺り、電撃の威力は相当なはずだ。

 しかしインヴィジリアは尚も抵抗を続けて、ショックバーストの電撃に悶え苦しみながらも全力でもがき、どうにかフィーネの拘束から脱出。ギャアアッと咆哮を上げながら、全力で後退しつつ背中のレーザーを発射する。

「当たるか、そんなもの!」

「同じ手ばっかりだ、芸のねえ奴だぜ!」

 上空に撃ち上げられて、折れ曲がりながら飛んでくる無数の青白いレーザー光線。

 それをフィーネはひょいひょいっとステップを踏んで回避し、ウェインは背中のプラーナウィングを前面に出して防御。堅牢な白い翼でレーザーを容易く受け止めてみせる。

 だが、その間にもインヴィジリアは再び透明になって姿を消していた。

「まーた隠れんぼかい! ……フィーネ!」

「そう慌てるな! …………見えた、そこだぁぁぁっ!!」

 一瞬スッと目を閉じたフィーネは、カッと目を見開きながら振り向きざまに背後へと一閃。

 そうすれば――――空を切るはずのミラージュレイピアの刃先からガキンと激しい火花が散った。

 直後、インヴィジリアが姿を現す。

 どうやらフィーネに背後から奇襲を仕掛けようとしたらしく、牙を突き立てようと大口を開けていたが……しかしその口にあるのはミラージュレイピアの刀身。咄嗟に噛んで刃を受け止めはしたらしいが、しかし奴の奇襲は完全に失敗していた。

「そうなんでも噛むんじゃない、行儀が悪いぞ?」

 言いながら、フィーネはそのまま鋭くインヴィジリアの顎先を蹴り上げる。

 蹴られた奴の巨体がコマのように大きく縦回転しながら吹っ飛んで、遠くに落下。ズシンと地響きを立てて地面に転がったインヴィジリアは、よろめきながら起き上がると……また透明になって消えようとした。

「――――おおっと、逃がしゃしねえよ!」

 だが奴が透明になる直前、上空から忍び寄っていたウェインが急降下。勢いをつけた斬撃を背中に叩き込んだ。

 完全に虚を突いたタイミングでの一閃を喰らい、インヴィジリアは背中のレーザー発振器官を大きく傷つけられながら……また遠くに吹っ飛んでいく。

 そうして何度も地面をバウンドして転がれば、起き上がった奴は今度こそ透明化。またウェインたちの前から姿を消す。

「バレてるってのに、懲りねえ奴だぜ」

「ウェイン、お遊びはここまでだ。一気に仕留めるぞ」

「あいよ、任されたぜ相棒」

「うむ、タイミングは合わせろ――――ッ!」

 頷きながら、フィーネは振り向くと……また性懲りもなく背後から奇襲しようとしていたインヴィジリアの首根っこを掴み、片腕で締め上げてやる。

「その角! まずは頂いていくっ!!」

 フィーネはそのままミラージュレイピアの柄底で殴りつけて、インヴィジリアの角――額に生えたサイのような立派な一本角を力づくで叩き折った。

 硬い角が見事に砕き折られて、激しい悲鳴を上げながらもがき苦しむインヴィジリア。

 そんな奴から一歩間合いを取ると、フィーネはさっきまで絞めていた奴の首元にズドンと鋭い蹴りを叩き込む。

 ジークルーネの鋭い爪先が食い込んで、よろめくインヴィジリア。

「ウェイン!」

「おうよ! ――――尻尾! 貰ったァァァァッ!!」

 そうして奴に大きな隙が出来たところで、ウェインがまた急降下して一閃。地響きを立てて着地しながらバトルキャリバーを振り抜けば、その両刃の剣はザシュッと根元から奴の尻尾を斬り飛ばした。

 叩き斬られた巨大な尾が宙を舞い、遥か彼方に落下。既に肉の塊と化した尻尾が、幾つかの家屋を下敷きにしつつ地面に転がり落ちる。

「フィーネ!」

「お膳立ては任せろと言ったはずだ! ――――アレスターチェーン!!」

 尻尾を斬られたインヴィジリアは苦しみながら、二人から逃げようと全力で走り出している。

 しかし、フィーネはバッと両手を伸ばすと――――両手首の下からアレスターチェーンを二本、バシュッと射出した。

 放たれた細長い二本のチェーンは、そのまま真っ直ぐに伸びていって……一本は前足を、もう一本は太い胴体をグルグル巻きに締め付けて拘束する。

〈やりました! これで釘付けに……お姉様っ!〉

〈今が好機です、ウェイン!〉

「よし……! トドメだウェイン! 全力を喰らわせてやれぇぇぇっ!!」

「ご苦労さん! んじゃあ……いくぜ相棒! コイツで……終いだぁぁぁぁっ!!」

 インヴィジリアはフィーネに締めあげられたせいで、どれだけもがいても身動きが取れないでいる。

 そんな奴を遠くに捉えながら、ウェインはバッと左腕を天高く突き上げる。

 瞬間――――地鳴りのような唸り声を上げながら、ファルシオンが激しく緑色に輝き始めた。

 空気を震わせながら、放つ緑色の輝きはプラーナの共鳴現象。辺りに漂う全てのプラーナは激しく共鳴しながら……彼の元に、ウェインの元に集まっていく。

 ファルシオンの突き上げた左腕、その白い装甲がバカッと大きく開き、一点集中させたプラーナを超高密度にまで臨界収束。真っ白な鎧の繋ぎ目から割れるみたく、花弁が花を咲かすように……大きく口を開けたその左腕に、その手のひらにプラーナの光が集まっていく。

「てめえにも味あわせてやるよ……ファルシオンの恐ろしさってのをなぁぁっ!!」

 目も眩むほどの強烈な光を発するのは、緑色に光り輝いたプラーナエネルギーの塊。

 その輝く左手を、ウェインは相対したインヴィジリアに向かってバッと突き出した。持てる最大の力で――――奴を、打ち砕くために!

「――――ファルシオン・ブラスタァァァァァァァァァッ!!」

 突き出した左手から、猛烈な閃光が弾け出す。

 撃ち放たれたそれは、緑色に光り輝く巨大なプラーナビーム。身の丈を遙かに超えるほどの、とんでもない熱量を秘めた純粋プラーナエネルギーの塊が……身動きの取れないインヴィジリアに向かって真っ直ぐ突き進んでいく。

 ――――『ファルシオンブラスター』。

 ウェインの、ファルシオンの持てる最大火力の切り札。あらゆるDビーストを一撃で消滅させる、恐るべき威力を持った必殺の破壊光線。

 放たれたプラーナビームは、一秒も経たない内にインヴィジリアの巨体をいとも容易く呑み込んで……その身体をプラーナの光で焼き尽くす。

 ――――Dビーストはプラーナを欲し、そしてプラーナを最大の弱点としている。

 魔術でさえああも悶え苦しむ奴にとって、純粋なプラーナエネルギーの塊たるファルシオンブラスターは……まさに猛毒に等しい。

 そんな強烈なエネルギーを持ったプラーナビームに呑み込まれ、全身を焼き尽くされたインヴィジリアは――――最期に悶え苦しむ断末魔の叫び声を上げながら、夜闇を照らす緑色の光の中に消えていく。

 不可視超次元獣インヴィジリア。奴は文字通りの塵芥(ちりあくた)となって、不可視の怪物は僅かな欠片も残すことなく……夜の闇の中に消滅していった。

「ふぅ……っ!」

 ファルシオンブラスターを撃ち終えて、がっくりと膝を折るファルシオン。

 左手を突き出したまま、膝を突いた白き翼の魔導騎士は……全身から蒸気を吹き出していて、もう一歩たりとも動けない様子。

 超強力な破壊光線の代償、一時的なパワーダウンだ。

 不完全なナイトメイルが故の、致命的な弱点。しかし倒すべき敵を倒した今、動けなくても気にすることはないだろう。

 開いていた左腕の装甲をバシュンと閉じながら、膝立ちになって一歩も動けないファルシオン。

 そんな風に……まるで残心するように動かない彼を横目に見ながら、フィーネは小さく表情を綻ばせて。

「……よくやったな、流石は私のウェインだ」

 と、独り言のように小さく呟いて……激闘を制した彼をねぎらうのだった。

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