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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
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第二章:ムーンライト・デュエル/02

 そんな最悪の目覚ましから一時間と少し後、二人はヘリコプターで真夜中の空を飛んでいた。

 月明かりが照らす夜空の下、飛ぶのはカクカクとした形の軍用ヘリコプター。ノーティリア帝国が極秘に開発した最新鋭のステルス・ヘリコプターだ。しかもレーダーに映らないだけじゃなく、スレイプニール専用機のこれには試作型の光学迷彩装置が組み込まれている。

 簡単に言えば、ヘリ自体が透明になれるのだ。

 だから二人は誰にも悟られることなく学園都市を離れ、こうして真夜中の空を飛んでいるのだった。

『――――よし、改めて状況を説明する』

 そのステルスヘリのキャビン内で、耳に着けたインカム越しに二人はニールから状況説明を受けていた。

 ちなみに、彼の姿はフィーネが持つ携帯端末――学院生徒に支給される、学生証代わりのものに映し出されている。潜入する二人のために特別改造された端末だから、こういう時にも使えるのだ。

『数時間前に次元湾曲現象が観測され、それを受けた海軍の戦闘機が偵察を行った結果、Dビーストの出現が確認された』

 ――――Dビースト。

 それは、超次元帝国ゲイザーがワームホールを通じて送り込んでくる尖兵。まさに怪獣と呼ぶに相応しい巨大な身体と、恐るべき凶暴性を持つ……言ってしまえば、奴らの巨大生物兵器のことだ。

 かつてフィーネの村を襲い、彼女から大切な家族を奪ったのも……Dビーストだったと聞いている。

 だが、二人とも驚きはしなかった。Dビースト自体は何度も出現しているし、二人も幾度となくそれとナイトメイルで戦い、撃退した経験がある。

 無論そのことは世間には秘匿され、表向きには事故とか自然災害とか、そういう具合にカバーストーリーを流して誤魔化されている。しかし現にDビーストは何度も現れて、ウェインたちに倒されているのだ。

『で、現れたDビーストというのが……これだ』

 と、フィーネの端末にピコンと何かの画像が表示される。

 それは少し前、海軍の戦闘機が積んだTARPS(タープス)偵察ポッドが捉えた画像だった。炎に包まれた小さな村の中、うごめく四本足の巨大な影……Dビーストの姿を映し出した画像が、フィーネの端末に映っていた。

『見ての通りだ、偵察機が到着した時点で……残念ながら、襲われた村は壊滅が確認されている』

「っ……!」

 Dビーストに襲われた村の、炎に包まれた光景と……ニールが告げた言葉を受けて、フィーネが小さく顔を強張らせる。

 端末に映る現地の画像と、かつて幼い彼女が経験した惨劇が重なり合い……強烈な体験がフラッシュバックする。

 彼女の意志がどうであれ、トラウマである以上こういう反応は仕方ないことだ。

 だから気を遣ったウェインがポンっと無言で肩を叩いてやると、ハッと我に返ったフィーネは「……続けてくれ」と、落ち着きを取り戻して呟く。

 それを見たニールも小さく頷き返して、何も言わずに説明を続けた。

『……推定身長は42メートル、ナイトメイルとほぼ同クラスの四足歩行型Dビーストだ。攻撃能力は不明、ただひとつ懸念点は……奴が、姿を消せるということだ』

「おいおっさん、それって……野郎は光学迷彩でも積んでるっていうのかよ、このヘリみたいに?」

 苦い顔をしたウェインが問うが、しかしニールは『そうとも限らん』と首を横に振る。

『単なる透明化なのか、それとも瞬間移動の類なのか……詳しいことは不明だ。だが分かっていることは、奴が偵察機の目の前で突然消滅したことと、赤外線を始めとしたあらゆるセンサーで捜索しても、一切探知できなかったこと。……この二点だ』

「また厄介な能力だな、姿が見えん相手では対処のしようがない」

 神妙な面持ちで呟きながら、フィーネはウェインと一緒に改めてそのDビーストを観察する。

 …………本当に、何度見ても不気味な敵だ。

 42メートルの身長はナイトメイルと殴り合えるほどに大きく、四足歩行だから低く見えるが……後ろ足で立ち上がったら、恐らくナイトメイルと背丈は変わらないはずだ。

 鼻先にはサイのように巨大な一本角が生えていて、長い尻尾も見受けられる。四本足の身体で、ぷにぷにとした肉感のある体表は柔らかそうでもあり硬そうにも見える有機的なもの。サイズがおかしいだけで、見た目的には野生動物の類に見えなくもない。

 少なくとも、今までウェインたちが相手にしてきたDビーストの中では割と常識的な見た目の方だ。

 だが……問題は、このDビーストに透明化能力があるということだ。

 厳密に言えば透明になれるのか、それとも瞬間移動の類なのかは分からない。

 しかし……脅威であることには変わりない。フィーネが言った通り、見えない相手では対処のしようが無いのだから。

『先刻、このDビーストのコードネームは『不可視超次元獣インヴィジリア』と命名された。分かっていると思うが……いつも通り、皇帝陛下のネーミングセンスだな』

 だろうな、とウェインは呆れっぽく肩を竦める。

 そうした後、目付きを鋭くさせると……ウェインはポツリとニールに問うた。

「……で、兄貴(・・)はどういう考えなんだ?」

『いつもと変わらんよ、皇帝陛下(・・・・)は秘密裏に、かつ迅速な解決を望んでいる』

「ケッ、気軽に言ってくれるぜ……」

『そう言うなよウェイン、これも任務だ。……分かっていると思うが、被害をこれ以上拡大させるわけにはいかない。ウェイン、フィーネ、お前たちだけが頼りだ。二人とも……くれぐれも、頼んだぞ』

「了解した、私たちに任せておけ」

 フィーネが頷いたところで、ヘリのパイロットから降下ポイントに到着したと告げられる。

 いつの間にか、二人の乗ったステルスヘリは壊滅した村……から数キロ離れた場所に着陸していたようだ。通信を切った二人はガラリとスライドドアを開けて、ヘリコプターから飛び降りる。

 直後、再上昇したヘリコプターがバタバタバタとけたたましいローター音を響かせながら、夜空の彼方に消えていった。光学迷彩を起動させて……文字通りに、夜空の中に消えていった(・・・・・・)

「よし、行くぞウェイン」

「こりゃあ、ちょっとした大仕事になりそうだぜ……」

 そして二人は、Dビーストの現れたという村を目指して歩き出していく。遠くに見える、未だ燃え続けている村の真っ赤な炎の色を目印に…………。

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