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バトルシープのホルモン、チャンジャ風

「はぁー、なんでこうなった。」

ワタルはため息をつかずにいられなかった。

呪いによりダンジョンに封じ込められていた竜の子を解放したことで、古龍の逆鱗に触れることなく、ゲルマニアの危機を未然に防ぐことも出来た。

そのこと自体は喜ばしいことだが、ほんのちょっと前まで古龍の重圧におびえ、気絶していた者が、竜の子を狙ってワタルをつけ回し,手に入れるためならワタルの生死は問わないという態度に出てきた。

魔王の討伐という大仕事を終え、一生困らないだけの賞金をもらってゆるふわなセカンドライフを送るという万全なライフプランが、一体どこで狂ったというのか。

まあ、ワタルの顔を知り、竜を保護していることを知っているのは、あの場に居た人間だけだから、しばらくは安全だろう。とりあえず冒険者ギルドは避けておいた方が無難か。

名前だけは伝わってしまっているかもしれない。そう考えると、町の入り口で身分証明書を提示する時には、いずれにしても名前だけでなく登録しているスライムもドラゴンもその存在は知られることになる。

ベルリーの町にいずれは行くつもりでいたが、果たしてこのタイミングで行くのは得策か。

ワタルにはその答えが出せずに居た。

それでも、もうすぐ本格的な冬が来る。

平地での野営はワタルにとって苦も無いことではあるが、ブランカには厳しい季節となる。

せめて冬の間だけでも暖を取れる宿泊場所を確保しなければならない。

ワタルは当初の予定通り、ベルリーの町に行くことにした。

ツェルマーからベルリーには,一旦南下して、 の町を経由し、大きな街道を乗合馬車で行くのが通常であるが、ブランカの存在を人目にさらしたくないワタルは、そのコースを避け、直線で森と草原を抜けてベルリーに向かうことにした。

街道を進みながら野営する時だけ脇に逸れると盗賊の目を引きやすいというのもあった。

幸い平地に出没する魔物にそれほど危険なものはいない。ソロでテントを張るのであれば結界も最上の選択が出来る。


翌日、ワタルは森の中に居た。

今回森の中でしておこうと思ったことがあった。それが薪の確保である。

この先野営には厳しい季節となる。冬の間ずっと宿に居る訳にもいかない。

ベルリーの町でテント用の薪ストーブを買おうと考えていた。

薪ストーブがあれば、冬の野営が快適になる。ブランカも安心してテントで過ごせるようになる。

ワタルはそのためにツェルマーで急遽ミスリルの斧を買ったのである。

キャンプにたき火は切り離せない。たき火のないキャンプなどミルクのないコーヒーミルクのようなものである。

そして、ワタルは経験から、たき火の薪には広葉樹の木が適していることを知っていた。もっとも広葉樹の木は幹が堅い。斧で切り落とすのも一苦労である。

そこで、この先頻繁に使うのだからと奮発してミスリル製にしたのである。

冒険者垂涎の武器を、生活道具として使う、これもキャンプの醍醐味であろう。

さらにワタルには秘策があった。

ワタルは、ミズナラの森に入ると、マザーツリーを残し、原生林の森を破壊しないよう伐採する木を適度な間隔を開けて間引きするように決めて切り倒すことにした。

ワタルは伐採する木を決めると、エメリーに水分を吸い取るよう指示した。

エメリーはメガトレントとの戦いの時のように、木の幹にとりつくと、水分を吸収していった。

あのときの戦いを見て、この作業に使えると考えたのである。

立ったまま、水分を抜かれみずみずしいのに立ち枯れしているという奇妙な現象になってしまった木は斧の一撃で倒れた。

その後も、適当名長さのところで丸太に向かってまっすぐ斧を振り下ろすだけで両断し、枝を払うのは、アイスアックスで豆腐を切るように抵抗なく打ち払える。

さらに、輪切りにした木を立てて、6分割する作業も木の上から斧を落とすだけの自重で綺麗に真っ二つになり、わずか1時間の作業で10本分の木が2t以上の薪に早変わりした。加えて乾燥済みのキャンプ場で一束500円くらいするような薪の状態でである。

ワタルはこの成果に満足し,全部を収納して、先に進むことにした。

さらに、森の中で食肉用の狩りも出来れば言うことなしだったが、あいにくそこまで都合良くはいかなかった。

襲ってくるのはゴブリンばかりで、ギルドにも立ち寄れないので討伐証明部位の採取は放置して、そのまま穴を掘って焼いてしまった。せめて伐採した木の後に、すぐに次の木が生えてくるようにと、肥料になればとの思いで。


ツェルマーの町を出て5日後、ワタルは草原に出ていた。この草原を東に進めば、ベルリーに向かう街道にぶつかるはずである。

そこからは街道を歩くことになる。

ワタルは、森の中と違い、見通しがよくなったものの、念のために索敵を行った。

人の気配はないものの、草原にはいたるところに反応があった。

食べられる魔物であれば、少し調達しておきたい。

ワタルは自分のところから一番近い反応に向かって慎重に歩き出した。

それはすぐに視界に入ってきた。

他の反応もまず同じと思われるが、羊の魔物、バトルシープだった。

その羊毛は服飾の繊維素材として、肉は食用として、そして内蔵の中でも腸は保存の効く加工肉の原材料として使えるありがたい存在である。

ワタルの頭の中は突如、ソーセージ祭りとなった。

しばらくこの草原に滞在して、羊を狩る。

ベルリーに行くという当初の目的が薄れかけた瞬間であった。

ワタルは気配を消して、死角から近づき、電撃により瞬殺した。

バトルシープは群れで行動する魔物であり、目の前で仲間がワタルに瞬殺されたことで、他のシープが敵意を募らせることとなった。

バトルシープの攻撃方法はなんと言っても体当たりであり、また短いながら角で敵を引っかけ、その突進力をもって引き摺り、肉を引き裂くという見た目のおとなしさと裏腹な攻撃的な性格を持ち、故に好戦的な羊と呼ばれて居る。

とはいえ、トレッkングポールに電撃を通してリーチの長い攻撃のできるワタルにとって、所詮敵ではなく、みるみるうちに肉の塊が積み上がっていくのであった。

目の前に居た群れが肉塊に変わった時、ワタルの目の前には20頭分の肉、もといバトルシープだったものが横たわっていた。

ワタルは引き続き普段お風呂場にしている大きめのテントを張って、中で一頭ずつ解体処理を行っていった。解体未了のものは、一旦時間停止の収納に入れておかないと、腸が胃酸で融けてしまうためである。

ワタルはエメリーに血抜きをさせた上で、羊毛を刈り取り、腹を開いて内臓を掻きだし、腸にクライミング用の炭酸カルシウムをまぶして酸と中和させ、たらいに張った水で洗って綺麗にしてから収納する。エメリーによって完璧な血抜きが施された内臓は、腸以外の部分は、エメリーとブランカの食料に回すため、20頭分を纏めて収納に入れて置く。

内臓を全部掻きだした枝肉は、テントの中に吊し、熟成の作業を進めることにした。広いテントとはいえ、20頭分全部をテント内で吊すことは出来ないので、半分の10頭分だけを熟成に回し、残りは収納して別の機会まで置いておくことにした。

その日は、それで日没を向かえることになったので、ワタルは寝る用のテントも設営し、両方のテントに防臭と防御の結界を張る。

夕飯はエメリーとブランカには捕れたばかりのバトルシープの内臓を味噌と唐辛子、臭み消しのスパイス、果汁を併せたたれにつけてよく揉み込んだチャンジャ風にして与えてみた。

唐辛子の辛さは大丈夫かなと心配もあったが、エメリーは辛いものを特に苦手にしていなかったが、ブランカは口から火を噴いていた(なんてね)。

二匹とも普段と同じ勢いで食べていたので、気に入ってもらえたようだ。

ワタルはホルモンを生で食べるのは寄生虫の心配があったので、羊のホルモンは従魔にまかせて、自分は同じもみダレに肉屋で買ったラージボアの薄切りを漬けて,コンロで焼いておにぎりと一緒に食べた。

辛味がご飯によく合う。数日後にはベルリーに着くだろう。

草原の中での野営も楽しい。満天の星空を見ながら適度に疲労した体をシュラフの中で休める。キャンプの醍醐味だな、とワタルはたき火をしながら星空をひとしきり堪能した後、テントの中に入っていった。

そしてほぼ一日中鞄の中にいてエネルギーがありあまっているエメリーとブランカが遊び疲れて眠るまでつきあわされ、へろへろになった頃、漸く眠りに着くことが出来たのだった。




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