二十二話「初代勇者ミゼの真実」
気が付くと、僕は足元に何もない場所に立っていた。いや、下に何もないのだから浮いていたと言うのが正しいか。
辺りを見渡すと、スフルが僕と同じように空中に浮いて、下をじっと見つめている。話しかけようとして、そのあまりの真剣さに気圧されて思わず開きかけた口を閉じる。下に一体何があるのだろう? 僕もスフルと同じように下を見ると、霧のようなものが晴れて、一組の男女の姿が。
一人は蒼魔女、リザ。もう一人は……誰だろう? 金髪で髪はツンツンしてる。目つきの悪さと服を着崩した感じと言い、不良って感じだ。ん? 目つきが悪い……不良……まさか、あの少年は初代勇者ミゼ?
「ミゼ、見て。蒼魔女リザリーと初代勇者ミゼは、恋人同士だったんだ」
頭を金属バッドで殴られた並の衝撃を受けた気分だった。まおたびでは、蒼魔女は勇者ミゼの最後の敵であり、まさしく諸悪の根源と言った感じの蒼魔女は勇者ミゼに敗れるのだ。しかし、この世界で読んだ歴史書には勇者ミゼは蒼魔女を打ち取らなかったと書いてあった。まさかその理由が蒼魔女と恋仲だったからだとは……。
よくよく見れば、初代勇者ミゼ……ううん、僕もミゼだからややこしいな。もう初代勇者で統一しよう。初代勇者は目つきは悪いけど、顔は整っているほうだと思う。蒼魔女と話している時のように、笑っていれば十分イケメンに分類される。
でも、何でまた蒼魔女と初代勇者が恋人同士に? そうスフルに尋ねると、少し悲しそうに笑って、小さな声でポツリと答えた。
「初代勇者ミゼは。君と同じで闇属性だったんだよ。僕は初代勇者ミゼと契約した精霊の一人だった。それで、最初は呼び出したフラワーウィドルの人間に恐れられていた。闇属性は、魔王の象徴みたいなものだから。フラワーウィドルの人の態度にやさグレちゃった初代勇者ミゼは、たまたま出会った蒼魔女リザリーを打ち取って自分の力を見せつけようとしたんだ。結果は惨敗。リザリーは強かった……最強で最悪な魔王だったから。だけど、何の気まぐれかリザリーは自分が倒した相手である初代勇者ミゼを助けた」
最初は自分を負かした相手に世話になるかと意地を張っていた初代勇者も、リザリーに優しくされていくうちに心を許した。そうして気が付けば、二人はすっかり打ち解けて恋人同士になったそうな。
だけど、彼らの周りがそんな関係を許さなかった。闇属性を持つ初代勇者を魔王にされてはかなわんと、二人は強引に引き裂かれた。初代勇者は身勝手なこの世界の住人に怒り、魔王を打ち取ってやる、と宣言した。宣言通り、一年後彼は三人の魔王の首をぶら下げて帰ってきたそうだ。その中に、当然だけど蒼魔女の首はなかった。初代勇者は魔法を使ってこの世界の人間に警告した。「リザリーに手を出したヤツはもれなくぶっ倒す」と。初代勇者を恐れた世界中の人間が創造主であるイザナに願い、初代勇者は半ば強引に元の世界に戻された、と。
何だ、歴史書に書かれていたこととも大分違うじゃないか。あのふざけた歴史書の著者は恐らくイザナさんだろうから、真実は書けなかったのか。自分が、一組の恋人を引き裂いてしまったから。
しかし、それは許されざる恋だった。魔王と勇者が恋仲になるなど前代未聞である。
スフルの話によれば、リザリーは何者の攻撃を跳ね返すことのできる女神の祝福と言う力を初代勇者から得ており、それによってリザリーは何百年も行き永らえているとのこと。
さらに驚いたのは、何と初代勇者が元の世界に強引に戻されてからこの世界で得た知識を生かしてまたこの世界に来てると言う。どうやって、と聞くと「強引に空間を捻じ曲げて」と恐ろしい答えが返ってきた。初代勇者さんマジ半端ねぇ。
今は何をしているのか聞くと、スフルは悲しそうな顔を引き締めて、真面目な顔でこう告げた。
「西の紅の魔王が、初代勇者ミゼだ」




