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二十一話「闇の精霊」

 くいくい、と弱い力でズボンの裾を引っ張られ振り向くと、そこには五歳ぐらいの子供の精霊が座っている。この子は今、確かに僕の名前を呼んだ。


「何で、僕の名前を……?」

「どうした、キザキ」

「子供の、子供の精霊が僕の名前を呼んで、契約してほしいって」


 シェラが難しい顔になる。若いうちからそんな顔ばっかしてると怖い年寄りになっちゃうぞー、と言いたかったけど真面目な雰囲気でそんなこと言えるわけがない。僕も難しい顔をして黙ってシェラの言葉を待つ。しばらくして、シェラがポツリと呟いた。


「罠かも。キザキ、お前の本能で選べ」


 ええええ、そんな危ない事言っておきながら僕に任せるってどう言うことなの。でも命落としても責任とれんって言われたしな……やっぱりここは自分で選ぶしかないのか。……よし、決めた。

 僕はズボンの裾を引っ張った男の子を抱き上げる。意外と重くて驚いた。見た目五歳ぐらいだし、人間と同じ体重なのかな?


「ねぇ、君。僕と契約してくれる?」

「イイヨ、ミゼガ選ンデクレルナラ」


 何だかカタコトっぽい話し方だ。あれだ、少しだけ日本語話せマースなアメリカンな人と話してる気分だ。


「どうやって契約するの? シェラ」

「まぁ人によって契約の言葉は違うが……。汝、我の手となり足となれ。我に力を与えよ――精霊……のところで精霊に名前をつける。これが基本みたいなもん」


 汝、とか我、とか。いかにも中二っぽくて恥ずかしいなー。いや、でも魔法が実在する世界では普通なのか。恥ずかしがってる場合じゃないな。羞恥心よ、消え去れ!

 僕はゴホゴホとわざとらしい咳をして羞恥心を消して、すぅっと息を吸い込んだ。


「汝、我の手となり足となれ。我に力を与えよ――精霊スフル」


 僕に抱き上げられた男の子が、ニッコリと嬉しそうに笑った。その口が、「ありがとう」と動く。

 こう言う契約シーンは漫画とかアニメなら大体光るもんだけど、相手が闇の精霊だからか光らなかった。むしろ黒いもやが出てきて闇に包まれた気分。でも、不思議と心地いい。暗い所は嫌いじゃないんだよな。


「おい、キザキ。スフルってのは?」

「ゼロって意味だよ。一番最初の精霊だから……」


 ネットで見かけた言葉だ。僕は数字の中でゼロが一番好きだからって言うのも、理由にある。イチよりもゼロのほうが好きなんだ。未だに中二病から抜けきってないのだろうか……。あれは不治の病とも聞くし。一度かかったが最後、死ぬまで逃れられない病! 何て恐ろしい病気なんだ中二病!


「一応……契約は完了したようだ」

「そっか、よかった」


 安堵してほっと息をつく。僕の腕の中で、男の子……スフルがニコニコと笑みを浮かべている。子供の笑顔は癒されるなーなんて考えていると、さっきのカタコト言葉とは違う、ハッキリとした日本語。おまけに五歳とは思えぬ大人びた口調でスフルが言った。


「ミゼ、ミゼ。君に真実を教えてあげる。僕の主として、知っておいてほしいことだ――」


 瞬間、僕を包む周りの闇が濃くなった。傍にいるはずのシェラの姿が見えなくなるほど。


 何だ……これは。スフルがやってるのか? シェラが言う通り、僕の命を取るため――? いや、違う。この闇に、スフルに、悪意(・・)は感じない。もしスフルが蒼魔女みたいに悪意もなく人に害を為せる存在だったら……その時、僕は終わるな。


 突然、意識が遠くなる。眠気が襲ってきて、僕の異常を感じ取ったシェラが悲鳴のような声をあげるけど、それも段々遠くなって行って――僕は、闇の中に意識を引きずり込まれた。

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