二十三話「二代目紅の魔王の正体」
スフルの放った言葉を理解するのに、数分かかった。
「何で?」
気が付けば、疑問を口に出していた。スフルは渋い顔をしてスラスラと答える。まとめると、初代勇者は空間を捻じ曲げてこの世界に戻ってきたのはいいものの、反動で記憶を失ってしまったらしい。失った記憶はこの世界のことと、恋人の蒼魔女のこと、それから自分が初代勇者であることの三つ。
西の国で初代勇者が倒れているところを、魔眼を持った者が拾った。魔眼とはその人の魔力、属性を見ることのできる目のことを言うんだとか。魔眼を持った者は倒れている初代勇者が闇属性なこと、膨大な魔力を持っていることを見て二代目の紅の魔王にしてしまおうと考えた。初代勇者は記憶を失ったまま、いつのまにか紅の魔王の座におさまっていた、と。
どうして何百年も経って初代勇者がこの世界に戻ってきたのか。それは何百年もの間生まれ変わりを繰り返し、魔力を温存し、ようやく空間を捻じ曲げるだけの力がたまったらだとスフルは言う。なるほど、よくわからん。
話し終えたスフルが、縋るような声を出す。
「お願いだミゼ。初代勇者ミゼを救ってあげてほしい」
「いやいや、救うも何も僕関係ないし」
思わず本音がポロリとこぼれた。スフルの瞳から涙もポロリとこぼれた。……冷静に考えてる場合じゃないよ子供泣かしちゃったよ僕。いや、でもスフルは精霊だから見たまんま子供ってわけじゃないし、初代勇者の精霊だったんなら僕よりも年上だ。しかし五歳児が泣いてる姿が良心の呵責に苦しめられる。でも、ここで「オッケー、任せろ」なんて言ってみろ、地獄が待ってるぞ。
魔王とはなるべく関わらない。リッツ除く。これは最近僕が掲げたポリシーである。ついでに魔族ともあんまり関わらない。魔王と繋がっているかもしれないから。とにかく、魔王とつながりがありそうな相手とはなるべく関わらない! これ超大事。
サネと言う獣人に「お母さんが捕まったから助けて」と言う魔王と対峙するフラグ立てちゃったばかりだし……。あれがフラグじゃなくてもこれ以上魔族や魔王と関わるのはご免だ。リッツ除く。
「でも……でも……。このままじゃリザリーが可哀想だ。リザリーは元の世界に帰された初代勇者ミゼの帰りをまだ待ち続けているんだ。さっき見せたあの光景は、古い古い何百年も昔の……ボクが見た光景なんだ。あの時のように、ボクは二人に笑って過ごしてほしい」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、スフルが話す。そうは言われても……ねぇ。今の僕にはサネの母親を自称魔王から助けるって言う使命があるし、これ以上他人の事情に首突っ込んでられないよ。下手したら青宮たちに危険が及ぶかもしれないんだ、五歳児の涙に惑わされるな、僕よ!
「……無理だよ、スフル。僕は見ず知らずの他人を救う義理もなければ正義感も持ち合わせていない。欲しいのはただ、平和な日常だけ」
しばらく、スフルがしゃくりあげる声だけが聞こえた。眼下には、いつまでもこの幸せが続くと信じて疑わない初代勇者と蒼魔女の笑う姿が見えた。ごめんね、スフル。僕はどうやらとことん勇者と言うものに向いていないみたいだ。ここで正義感の一つでも発揮すれば、よかったのだろうか。しかし僕が望むのは青宮たちとバカ騒ぎするだけの日常であって、魔法と剣のファンタジーなバトルじゃないんだよ。
「ごめん、ミゼ。無茶を言ってるのはわかってた……これが酷いわがままなことも。どうやらこの世界は物語の中にいるような、正義感溢れる勇者らしい勇者を呼び出す力がないみたいだね。君を、戻してあげる」
ええー……そこまで言うか、普通。僕仮にもスフルと契約したよね? 僕スフルの主だよね? て言うかそれは初代勇者のことも言ってるのか? そんな突っ込みを入れる間もなく、スフルの言葉に視界がグラりと大きく揺れた。




