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第八話 純度

「ども、お久しぶりッス!」


「おお、君は確かジーノ君だったかな? 数日ぶりだね」


 ラヴィンが仙具使い同士の戦いに介入しているのと同じタイミングで、ジーノもグレンを連れて商人ポルクスと接触していた。


 店の前でジーノの名前を出して会いたいと言うと、ポルクスはすぐに会ってくれた。どうやら予想通りにジーノへの印象は良いままらしい。


「突然すみませんッス。本当は前もって約束するべきなんスけど……」


「いやいや、構わないさ。君から購入した香辛料はとても状態が良くてね。私はとても満足しているのだ。会うくらい何の問題もないさ」


「いや~、さすが大商人ともなると心の広さが違うッス!(本当は、また月霊草を買い叩けないかと期待してんのが見え見えッスよ、豚)」


「(なんか隣から黒いオーラを感じる……)」


 お互い笑顔で挨拶を済ませると、テーブルを挟んで向かい合うように椅子に座る。ポルクスの後ろには護衛が立っており、それに倣うようにグレンもジーノの後ろに立つ。


「それで、今日は何の用かな? また薬草の取引を行いたい、ということなら構わないと思っているが……」


「おおっ、それは嬉しいッス! 実はそうなんスよ、特に月霊草を取引する予定だった相手が突然、街から離れてしまって、途方に暮れてたんス」


「はっはっは。商人をやっていると、そういうこともあるな。私でよければ力になろうじゃないか」


「いやぁ、本当に助かるッス。月霊草は保存が難しいッスから、何とかこの街で捌きたかったんス。あ、でも以前より、ちょっとだけお値段が高くなってるッス」


「うむうむ、分かっているとも。私の方も少し勉強せねばな」


 上機嫌に商談を進める中、ジーノは内心でポルクスの心情を推測する。


「(こいつ、俺の目的が前回のリベンジだと思ってるッスね。まぁ、暴力チラつかせて買い叩いた相手が新しく護衛を連れてやってきたらそう思うッスよね)」


「でも、取引の前にちょっとお聞きしたいことがあるッス」


「ほう? ……まぁ、また君と取引が出来るというなら、私の口も軽くなるというものだ。いいだろう、何が聞きたいのかね?」


 少し不審そうにしたポルクスだったが、再び月霊草を手に入れられると思い上機嫌のままジーノへと促す。

 そして――


「数日前に、西の口で保護対象に指定されている魔獣――銀狐が密輸される事件があったのを知ってるッスか?」

「――っ」


 ジーノの口から出た言葉が予想外だったのか、ポルクスは僅かに動揺した。

 だが、すぐさま感情を抑えると、何事も無いかのように振舞う。さすがに大商人と呼ばれる相手とあって、動揺は一瞬だけだった。


「ふむ……? 確かに、その事件は私も耳にしたが、何故その話を?」


「実は、その現場に自分も居合わせたんスよ。で、後ろにいるグレンが銀狐の捕縛に一役買いまして。お陰で領主様に信頼されて、引き続き事件の捜査を任せていただけたんス」


 そう言ってジーノは懐から仙具の使用許可証を取り出し、テーブルの上に置いた。


「……なるほど。確かに領主様のサインだ」


「ポルクスさんは最近、仙具を使用した犯罪が増えていることを知ってるッスか? あの密輸事件は、ただの氷山の一角にすぎず、裏で手を引いている連中がまだいるみたいッス」


「……」


「この連中は、どうも組織だって動いているっぽいんスよ。奴らは、身体のどこかに三日月と歪んだ瞳のマークを刻んでいるらしくって…………何か、ご存じないッスか?」


 この時になって、ようやくポルクスはジーノのことを真正面から見た。にこにこと笑顔の仮面を被ったこの男が、月霊草を貢ぎに来た鴨ではなく、自身の首を狙いにきた狩人であると。


 許可証を持ち、領主からの依頼で動いている以上、ここで排除することは勿論、追い返すことも出来ない。

 そのことに気づいたポルクスの迷いは一瞬だった。


「理想(レトゥ)郷(ム)――それが、組織の名前だ」


「……ご存じなんスね」


「当然だろう。彼らは仙具を狙っている犯罪者集団だ。私の商会でも仙具を取り扱うことがある以上、調べることに不思議はあるまい。……君も、そう思ったから、私に声をかけたのだろう?」


「……勿論ッス」


 自身を疑っているのではなく、ただ大商人の情報網を頼りたくてここに来たんだろう、と釘を刺されたジーノは大人しく引き下がる。

 彼にとっての最優先事項は、ラヴィンの敵になりうる存在の情報収集だ。ここでポルクスと完全に敵対するつもりはなかった。


「彼らの目的は不明だ。だが、組織には数多くの仙具使いが所属しており、非常に危険な存在と言えるだろう。実際に我々の商会でも何度か荷馬車を襲われたことがある」


「襲われた? 仙具を運んでいたんスか?」


「いいや。だが、護衛を揃えても仙具使いが相手では分が悪い。犬に噛まれたと思うのが賢明だな」


「……」


 ポルクスの荷馬車が襲われたことに違和感を覚えたジーノ。

 もし、それが本当ならば、彼は組織と繋がりが無く、ただの被害者ということになる。


「ところで、君は“純度”という言葉を知っているかね?」


「仙具の性能を示す五段階評価のことッスよね?」


「そうだ。では、その詳しい内訳を知っているか?」


「そういえば、あんまり詳しくは無いッスね。純度4からは性能と値段が爆上がりするってことくらいッス」


「仙具を取り扱わないのであれば、そうだろうな。では、せっかくの機会だ。私が教えてやろう」



「仙具というのは、それぞれに特殊な能力が込められている。そしてその種類は非常に多岐に渡るため、優劣が付けづらい。そこで登場したのが、“純度“という指標だ。これは仙具の”能力“ではなく、”質“と”規模“に焦点を当てた評価だ」


「まずは、“純度1”。これは作成されたばかりで、まだ能力が発動していない状態を示す。この状態では、通常の武器とほぼ同じため、仙具としては扱われない場合も多い」


「次に、“純度2”。これは能力が発現したものの、まだ不安定な状態だ。質が低く、安定して使うのは不安が残るが、その分素人でも扱える仙具だな。例の銀狐の首輪に使用されていたのが、ここに当たる」


 そう言われてジーノは思い出す。

 銀狐の首輪に嵌められていたのは、精神系の仙具だった。実際に西の国からここまで秘密裏に運べたことから、効果はあった筈だが、能力が安定していなかったために、この街で縛りが緩み、暴れたのだろう。


「続いて、“純度3”。ここからが実用的な仙具となり、一般的に仙具として期待されるのがここだ。戦闘用の仙具であれば、通常の武器とは一線を描くほどに強力なものだが、扱いが難しく、慎重な取り扱いが求められる」


「そして、“純度4”。君も言っていた通り、ここからは性能の規模が明確に変わる。分かりやすく戦闘用の仙具で例えるが、純度3までの仙具を“対人”とすると、純度4からは“対軍”になるのだ」


「対軍、ッスか?」


「そうだ。純度3までの仙具ならば、強力であっても人数を揃えれば、通常の武器でも対処することも出来なくはない。だが、純度4からは無理だ。能力の規模と出力が桁外れであり、同じ純度4の仙具使いでなければ、止めることは出来ん」


「それは……怖いッスね」


「ああ。だが、当然ながら制約も多い。取り扱うには特別な資格が必要であり、街への持ち出しや持ち運びにも、その都度、申請が必要になってくる。扱いとしては、もう武器ではなく、兵器だな」


「なるほどッス……」


「最後に、“純度5”だな。これは単純、“意味不明なもの”、だ」


「いや、何スかそれ」


「例を上げると、過去に“なんでも切り裂く”能力を持った剣型の仙具があった。この剣には切れない物がなく、強大な竜の鱗も最高硬度の鉱物だろうと容易く切り裂いた。だが、この仙具の本質はもっと別のものだった」


「ある日、この剣が川を切った。普通なら何の意味もない行動だが、この剣で斬られた川には、“傷跡“が残ったのだ」


「傷跡?」


「そう、その傷跡には川の水が流れ込まず、まるで身体に残る切り傷のように、川に切り裂かれた跡が残ったのだ」


「ええ? 何ッスか、それ……」



「不気味だろう。本来、切れる筈のない物まで切り裂いてしまった。このような現代の技術では説明すら出来ない現象を引き起こす能力を、純度5と分類しているのだよ」

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