第七話 事件
襲って来たチンピラたちを撃退し、戦闘用の仙具が使用されたと噂の現場へと道案内をさせたラヴィン。
店が立て並ぶ大通りから、かなり奥まで進み、浮浪者やマフィアのような連中がウロウロしている場所まで来て、ようやく噂の現場に到着した。
「これは凄い」
「ですよね? こんなことが出来ちまうのなんて、仙具しかありえないですよ……」
噂の現場は、大人が三人、両手を広げて立っても問題ないほどに間隔が広い通りだった。だが、現在そこは無残な姿を晒している。
地面や壁は至る所が砕かれ、辺りに破片が散らばっている。特に目立つのは、中央付近にある巨大なクレーターだ。大きく陥没しており、さらに地面は蜘蛛の巣状にひび割れていた。
「ん、これが出来たのは数日前?」
「はい、三日か四日くらい前ですかね。気づいたら、いきなりこんな状態になってたらしくって……」
「戦闘音とかは聞こえなかった?」
「そう、ですね、はい。こんなクレーターが出来るような轟音なんて、誰も聞いてないです」
「衛兵に相談した?」
「まさか。あいつらにこんな場所まで入り込まれたら堪ったもんじゃない」
吐き捨てるように零したチンピラの言葉に、どこか納得の顔を浮かべるラヴィン。
轟音が鳴り響くような戦闘は起こっておらず、だから衛兵たちはこの事態に気づいていない。そのうえ、場所が場所なだけに通報がされず、結果、この場所は放置されているようだ。
「あ、あの……もう、俺いいですよね?」
「ん、大丈夫。案内ありがとう」
周りを気にしながらチンピラが立ち去る。
その後も通りを調べていたラヴィンだったが、ふと声が聞こえて視線を上げると、少し離れた先で男たちが集まり会話していることに気づいた。
「おい、すぐに集まれ! 例の仙具使いたちを追い詰めたようだ!」
「なにッ!? 場所はどこだ!?」
「ああ、向こうの方に――……」
男たちは、誰かを追いかけているようであり、急いだ様子で情報交換を済ませると、すぐにその場を離れて走り去っていく。
――そして、その後ろをこっそりとラヴィンが追いかける。
ラヴィンが注目したのは、彼らの会話内容では無かった。注目していたのは、周りに指示を出していた一人の男の腕――そこに刻まれていた三日月と歪んだ瞳のマークだった。
「ジーノが言ってた悪者マーク。分かりやすくて助かる」
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「セレス、大丈夫かい?」
「はい。グレッタの方こそ、無理をしないで下さい」
「なぁに、これくらい何てこと無いさ!」
スラム街の一画。
少し大きな広場の隅で、二人の女性が男たちに囲まれていた。
セレスと呼ばれたのは、二十歳ほどの女性だった。腰まで伸びた金髪に碧眼を持ち、均衡の取れた体躯を外套が包んでいる。非常に整った容姿をしており、この状況でも怯えることなく、鋭い目で周囲を見渡していた。
そんな彼女を庇うように立っているのは、グレッタと呼ばれていた女性。
彼女は小柄であったが、どっしりと割烹の良い体格が、気弱な印象など微塵も与えない。両手に大きな槌を持ち、怯む様子もなく囲む男たちを睨みつける様が、彼女が歴戦の傭兵であることを物語っていた。
「全く、いい加減に諦めて欲しいものですね」
「チッ! 面倒くせぇのが出てきやがった」
グレッタを警戒しているせいか、彼女たちを囲む男たちは、それなりの距離を開けている。そんな中、メガネをかけた一人の男が出てきて彼女たちの前に姿を現すと、ため息を零しながら投降を促す。
その様子にグレッタは警戒を高めるように、両手に構えた槌を握り直し、いつでも迎撃できるように腰を落とす。
「てめぇらこそ、いい加減しつこいんだよ! こんなに大人数でなきゃあ、女を誘うことも出来ねぇのか、×××野郎どもがッ!!」
「やれやれ。下品で野蛮、これだから傭兵は嫌いなんですよ。知性というものを感じられない」
グレッタの物言いに、眉をしかめた男がその場にかがみ込む。そして、地面に手をつくと仙具を発動させる。
「大地の怒り――“構築”」
その瞬間、男の腕輪が光る。手をついた場所から、地面が盛り上がり、一直線にグレッタたちの方へと迫っていった。盛り上がった地面は、派手な音を鳴らしながら変形していき、瞬く間に鋭く尖った形状になる。
そして、そのまま二人を襲う――
「衝波の槌――“衝撃”!」
――直前、グレッタが仙具を発動する。
迫りくる円錐状の岩を前に、両手に構えた槌を振りかぶると、前方の空間に叩きつけるように振り抜く。
すると――
――ドゴォォォォォンッッッ!!!
槌が空気を叩くと同時に、衝撃波が発生。
目前まで迫っていた岩をまとめて砕きながらも、衝撃はそこで止まらず、さらに奥まで突き抜ける。砕けた破片を周囲にまき散らし、攻撃してきた男の下まで到達するが――
「ふんっ」
男が地面を叩きつけると、衝撃破はそこで相殺された。
砕かれた破片がパラパラと空中から落ちていくのは横目に、男はうんざりしたように顔を顰める。
「はぁ、本当に相性が悪い。貴方のような雑魚を相手に、ここまで時間がかかるとは……」
「はっ! 負け惜しみはなんて、みっともないねぇ! でかい口を叩くのは、結果を出してからにしな!」
苦い顔をする男をグレッタは鼻で笑い挑発する。
だが、内心では、状況の悪さを理解していた。
「(ちっ、今は何とか凌いじゃいるが、このままだとジリ貧だ。セレスの傍を離れられない以上、攻勢に出られない。とっとと逃げたいところだが……)」
そこまで考えたところで、彼女の視線が仙具を使った男のさらに後ろに向かう。そこには、一人の男が両手に持った杖を地面に突き立てていた。
「(あいつの仙具のせいで、ここらに結界が張られてやがる。お陰で人は近づかねぇし、戦闘音も届かねぇ。数日前は上手いことぶん殴って抜けられたが……)」
グレッタが杖持ちの男を注視していることに気づいたメガネの男が合図を出すと、周囲にいた男たちが杖持ちを守るような配置をとった。
「(ちっ、同じ手は通じねぇか……)」
それを見てグレッタは内心で舌打ちをすると、正面突破しかないかと槌を構える。その瞬間、メガネの男がグレッタから目線を外すと、愉快そうに笑った。
「おや、どうやら我々の応援が到着したようだ」
「くそがッ!」
メガネの男が言った通り、広場に繋がる通りから続々と男の仲間らしき人物が集まって来た。いくら仙具が通常の武器よりも遥かに優秀だといっても、十人や二十人に一斉に襲われれば後れをとることもある。相手にも仙具使いがいるなら猶更だろう。
思わず悪態を吐くグレッタだったが、ふと気づいた。
こちらに向かって走ってくる一団、そのさらに後ろから、誰かが猛スピードで突っ込んでくることに。
――タンッ
その人物――ラヴィンが、一団の最後尾に追いつくと同時に地面を蹴る。大きく跳躍したラヴィンの身体は、一団の頭上をとる。
「残祷の刃」
瞬間、ラヴィンは仙具を発動する。
手に持ったナイフから光が溢れ出すと、ラヴィンの周囲でいくつもの光球となる。
そして――
「弾の雨」
「ぐおっ!!」
「なんだ……っ!」
「うわぁっ!」
無数の光球が一斉に一団に向けて放たれた。
頭を強打し意識を失う者、吹っ飛ばされて地面を転がる者、さらには砕けた地面の破片が突き刺さる者と、男たちは状況を把握する前に薙ぎ倒されていく。
光球によって次々と男たちは無力化される。
最終的に、ラヴィンが跳躍してから着地するまでの一瞬で、一団の全員が意識を失い、地面に転がることなった。




