第五話 捜査任務
「やっと事情聴取が終わったな……」
「長かったッスねぇ」
「二人とも、お疲れ様」
ジーノ、グレンの二人は、三日ぶりに衛兵たちの詰め所から解放され、宿に戻ってきていた。どちらも心身ともに疲れており、顔には生気がなかった。
そんな二人にラヴィンが軽食を渡す。
「いや、まぁ。あやうく外交問題に発展するトラブルが起きたッスから、理解はできるッスけどね」
「まぁ、そうだな。俺も街中で仙具使ったこともお咎め無しだったから別に良いけど……。つーか、途中から見なくなったけど、ラヴィンってどこいってたんだ?」
「ああ、まだ子供ってことで、軽い聞き取りだけで解放してくれたッスよ」
「ん、その日の内に帰って良いよって言われた」
「羨ましいぜ……」
モソモソと手渡されたパンを食べながらグレンが愚痴る。外交問題に発展しかねない事態であったため、何が起こったのかを事細かに把握するべく、衛兵たちに代わる代わる同じ話を聞かれまくったのが、よほど堪えたようだ。
「でも、領主様からお褒めの言葉もあったんスから、良いじゃないッスか」
「ああ、まぁ確かに驚いたな。伝言だったとはいえ、貴族がお礼を言えるとはな」
「そこッスか……? まぁ、密輸を阻止して、保護対象を無傷で救出。外交問題どころか西の国に対して、盛大に恩を売れたッスからね」
「褒美として金貨も貰えたし、まぁ、結果的には良かったか」
「ッスね。でも、密輸自体は解決したッスけど、この問題、結構根深いみたいッスよ」
「そうなのか? というか、何でそんなこと知ってるんだよ?」
「事情聴取の合間に、衛兵たちから、それとなく情報収集してたッス」
「そんなことしてたのか、お前……」
「さすが、ジーノ」
「それで、どうも今回の密輸と似たような事件が増えてきてるらしいッス。誰かが裏で糸を引いているんじゃないかって、噂になってるッスよ」
「ん、仙具を使用した犯罪は、重罪って前に聞いたことある」
「その通りッス。それが軽い悪戯で、通常なら衛兵からの注意で済まされるようなものでも、仙具が使用されていた場合、問答無用で切り捨てられる可能性があるッス」
「まぁ、実際、仙具を使うだけで、犯罪の規模も危険性も跳ね上がるからな。今回の件も、仙具があったから保護対象指定の銀狐を拉致なんて真似が出来たんだろうし……」
ジーノとグレンの説明にラヴィンは、口を半開きにしてほへーと聞いていた。
その様子に呆れながらも、グレンは続ける。
「いや、感心してないで、お前も理解しとけよ? 仙具使いなんだから、知りませんでした、は通用しねぇぞ」
「そういや、仙具に関する手続きって俺がやってたから、あんま説明できてなかったッスね……。この機会に説明しとくッス」
そう言って、ジーノはラヴィンと向き合って、仙具に関する説明を始める。
「まず、仙具の取扱いって、国じゃなくて、世界共通でルールが定められているんス。だから仙具に関しては、“仙具保安管理局”っていう専門組織が一手に管理していて、仙具が犯罪に使われていた場合、こいつらの管轄になるッス」
「こいつらは、世界規模の組織だから、貴族は勿論、王族ですら逆らえねぇ。どっかのバカ王子が仙具で犯罪をした時、捕縛の際に抵抗したからって理由で、その場で切り捨てられたのは有名な話だな」
「おー、世界の最高権力者?」
「いや、あくまで仙具に関することだけッスから。権限は強いッスけど、横暴を利かせている訳じゃないッスよ。ほら、ここの領主に発行してもらった仙具の使用許可ッス。こんな感じで、ちゃんとルールを守っていれば問題ないッス」
そう言ってジーノは懐から一枚の紙を取り出した。
そこには「街中における仙具の使用許可証」と書かれていた。
「いやいや……、なんでお前がそんなもん持ってんだよっ!」
「ほら、裏で糸を引いている奴がいるって話したじゃないッスか。そいつらの調査、および捕縛に関してなら仙具の使用を許可してもらったッス」
「は? 調査? まさか、俺たちにやれって領主に言われたのか?」
「いや、俺の方から打診したッス」
「なんでだよ!? 犯罪者の捜索なんて衛兵の仕事だろうがッ!」
「いやぁ、ちょっと思うところがあって」
「……何だよ、思うところって。ふざけた理由だったら、ぶっ飛ばすぞ」
「金ッス」
無言で拳を構えるグレン。
それを見て、慌てた様子でジーノが弁解する。
「ちょちょっ、冗談ッスよッ! いや、領主から報奨金が欲しいのは事実ッスけどッ! 今回の分の謝礼が金貨二十枚は少ないな~、とは思ったッスけどッ!」
「何も言うな。来世では金の亡者から脱却できるといいな」
「だから、違うんッス! お金もそうッスけど、情報が欲しいんッスよッ!!」
「……情報?」
ジーノの顔面をぶち抜かんと拳を振り上げていたグレンだったが、その言葉に動きを止める。その様子にほっとするジーノだったが、続きを話せとばかりに睨むグレンに、慌てて口を開いた。
「実は、この裏にいる奴ら、管理局の連中も後手に回ってるみたいなんス」
「そうなのか?」
「ッス。この街だけでなく、かなり広い範囲でそういった動きが多発していて、人手不足みたいなんス。それに加えて、この領内で起こってる事件はどれも危険性自体は低いってことで後回しにされてるみたいッス」
「……まぁ、現状は分かったし、領主が部外者である俺たちに協力を求めた理由も分かった。想定する敵に仙具使いがいるなら、同じ仙具使いをぶつけたいだろうしな」
「――だが、俺たちが協力してやる理由は無いぞ。敵に仙具使いがいるなら、相応に危険だ。しかも管理局の連中とやり合えるなんて相当だろ」
「まぁ、ここまでなら、俺もわざわざ首を突っ込まないんスけど。……どうもこの連中、有能な仙具を奪って回っているみたいなんスよ」
「奪うだと?」
「そうッス。しかも現時点で結構な被害が出ているらしくって、俺たちも狙われる可能性があると思うんス」
「……だから、後手に回る前にこっちから捜査してやろうって? ちょっと短絡的だろ」
「いやぁ、でもこういった犯罪者の情報って、関係者にならないと手に入りづらいッスから。それに許可証持ってないと、返り討ちにしたのに、こっちも犯罪者、なんてことになる可能性もあるッス」
今回は、たまたま目撃者も多く、さらに結果的に領主の利になる行為だったため、事情聴取だけで話が済んだ。だが、これが路地裏などで襲われた場合、自身の潔白を証明するのは困難だろう。
「う~ん。……ラヴィンはいいのか? お前は天京に行く約束があるんだろ?」
ジーノの言葉に考えこむグレンだったが、ふとラヴィンの方を向くと、大事な用事があるのではないかと思い尋ねる。しかし、ラヴィンはあっさりした様子で首を縦にふった。
「ん、大丈夫。別に急いでるわけじゃないから」
「……そうなのか? なら、まぁいいけど……」
「なら決まりッスね! これから俺たちは裏に潜んでいる犯罪者の捜査任務に当たるッス!」
全員の賛同を得られたことで、ジーノは両手を叩き今後の方針を決める。
「捜査は良いとして、当てはあるのか? 闇雲に探しても見つかるとは思えんぞ」
「それなら大丈夫ッス。実は、心当たりあるんッスよ」
グレンの言葉にジーノは自身満々に答えるのだった。




