第二話 傭兵
武器屋を後にしたラヴィンは、その後も観光を続けていた。
すると――
「ラヴィン様~! お疲れ様ッス!」
「ん、ジーノ」
通りの向こうからジーノが手を振りながら合流した。
「商売、どうだった?」
「ばっちりッスよ! やっぱり人が多いだけあって、色んな人がいるッスね。持ち込んだ薬草が通常価格の十倍以上で売れたッスよ!」
そう言って嬉しそうに、お金がぎっしり詰まった袋をポンポンと手の中で弾ませながら報告してきた。
「ラヴィン様のほうは、どうッスか? 面白いところありました?」
「ん、串焼きが美味しかった」
「それは良かったッス! ところで、この後どこか寄りたい場所はあるッスか?」
「ん、別に」
「なら、護衛と顔合わせしたいんで、そっちに行きましょう」
「護衛?」
「ッス! 前の街で護衛として傭兵を雇おうとしたんスけど、目当ての奴がこの街にいるってんで、この街で合流する予定なんス。さっき傭兵ギルドに確認して場所を聞いたんで合流しようかと」
「ん、いいよ」
「了解ッス! なら向こうの酒場ッスね」
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「えーと、ここにいるらしいッスけど……。あ、彼ッスかね」
酒場に着くと、そのまま店内に入る。
まだ昼間のせいか、酒場にはほとんど客がおらず、がらりとしていた。そのお陰もあって目当ての人物はすぐに見つかる。
酒場の真ん中の席に座っていたのは、真っ赤な髪をした男だった。
無精ひげを生やした男だったが、意外にも身に着けている服や装備は手入れが行き届いており、清潔感がある。
「ちょっと失礼するッス。あんたが、グレン=ファルガで間違いないッスかね? ……あ、店主さん、彼にエールのお代わりを」
「あん……?」
椅子に座っていた傭兵の男――グレンは、突然声をかけてきたジーノに訝しむように見るが、エールを奢ってもらえることに気づくと、態度が少し柔らかくなった。
「確かに俺がグレンだが、どちらさんで?」
「俺はジーノ=アルゴ。こっちはラヴィン様ッスね。護衛としてあんたに指名依頼を出したんすけど、ギルドから聞いてないッスか?」
「ああ、あんたらのことだったのか。確かに行商人の護衛ってことで受けているよ」
お互いの素性が分かったことで、ジーノとラヴィンも椅子に腰かけて軽食を注文した。
「いや、悪かったな、昼間から酒飲んでて。指名依頼を受けると他の依頼を受けられねぇから暇でな」
「大丈夫ッスよ。こっちも今日着いたばかりなんで問題ないッス」
「そう言ってもらえると助かるよ。……それで、依頼を受けた時から気になってたんだが、報酬が金貨二百枚って、相場の数倍あるのは何か理由が?」
「ああ、単純に腕の良い傭兵を雇いたかったからッスよ。どうも俺たちは運が悪いのか、結構トラブルに巻き込まれるんッスよ」
「へぇ、トラブルメーカーって奴か。それで金貨が二百枚も必要になるってぇと、ちょっと怖い気もするな」
「ははっ、そんなことないッスよ。せいぜい、街に着くたびに二、三回命を狙われるだけッス」
「いや、怖すぎるわ」
思わず真顔になるグレン。
朗らかに伝えられた内容にしては、想像の数倍重すぎる。
「……って、三回!? 街に着くたびに!?」
「そうッスよ」
「いや、何で平然と返事してんだよ!? お前それ、貴族でも怒らせて狙われてんだろ!? ふっざけんな、そんなもんに巻き込むんじゃねぇよッ!」
いきり立つグレンに、ジーノは慣れたようにまぁまぁと宥める。
「俺も気になって調べたんスけど、毎回別件なんスよ。たまたま巻き込まれただけだったり、暗殺のターゲットと勘違いされたりと、全部ただの偶然ッスから、安心ッスよ」
「いや、それはそれで怖ぇよ。完全に呪われてんじゃねぇか」
完全に引いているグレンを説得するのに、この後かなりの時間を要した。
~数十分後~
「はぁ、頭痛ぇ……、お前らの目的地って、東にある天京って街だろう?」
「そうッス」
「遠いな……。道中の街に着くたびにトラブルに巻き込まれるなら、金貨二百枚が妥当に思えてきたぜ」
「退屈はしないッスよ」
「黙れ。……ところで、天京には何をしに行くんだ? まぁ、あそこは世界の中心なんて呼ばれるくらいに栄えているから商売のタネには困らねぇだろうが……」
「あーいや、あそこを目指してるのは、俺じゃないんスよ」
「ん? そうなのか。てことは、そっちの……ラヴィンだっけ? そっちの都合か?」
そう言ってラヴィンの方へと視線を向ける。
注目を集めたラヴィンは、しかし集まる視線を気にも留めず、薄い生地に肉や野菜を乗せて焼いた料理をもっちもっちと食べていた。
「……んで? 坊主が天京に行きたい理由って何だ?」
「ん、約束」
「約束?」
「そう。ずっと昔に交わした約束」
「そりゃ、一体……」
ラヴィンの言葉に要領を得られず、グレンが聞き返そうとした、その瞬間――
――ガッシャアァァァァンッッッ!!!!
突如、酒場の外から何かが壊れるような轟音が響き渡る。
平穏な街には似つかわしくないその音に、その場にいた全員が身を強張らせる。
「何だッ!?」
「外からッス!」
グレンが素早く酒場の入り口まで移動すると、慎重に顔だけを出して外の状況を窺う。
そこで目に飛び込んできたのは、人々が我先にと逃げ惑う光景だった。
荷台の側面を盛大に破壊された大型の馬車が横転し、道を塞いでいる。
その破壊婚は、まるで内側から破られたかのようだった。
それを裏付けるかのように、馬車の近くには、首輪を嵌められ、鎖につながれた狐の魔獣が周囲に向かって威嚇を繰り返していた。
「魔獣だと? なんだって街中に……」
「あれは、銀狐ッスよ。初めて見るッスけど、銀の毛皮に赤い瞳……間違いないッス」
「それって西の国に生息している……幸運を呼び寄せるっていう、あれか?」
「それッス。だから魔獣ッスけど、同時に保護対象に指定されているッスよ」
「ははぁ、なのにこんな場所にいるってことは……あれ、密輸か?」
グレンはそう言いながら、馬車の近くでオロオロしている男を見る。
商人風の恰好をしているが、あの男が銀狐を密輸した張本人だろう。
「ッスね。多分、眠らせていた薬が切れたとか……いや、待つッス」
グレンと状況を分析していたジーノだったが、途中で何かに気づいたように言葉を止めると、目を細めて銀狐の方をじっくり観察する。
「着けている首輪……あれって仙具じゃないッスか?」
「何……?」
「ほら、刻まれている文様がうっすら光ってるッス」
「げっ、マジだ。おいおい、仙具を使った犯罪行為は重罪だぞ。しかも催眠や魅了みたいな精神系のやつは特に」
「うーん、ああして抵抗できているから、純度は低いっぽいスけど、これは大問題ッスね」
「だな。まぁ、こうして待っていれば衛兵が駆けつて解決だろう」
「いやぁ、どうッスかね?」
グレンの言葉にジーノが疑問を浮かべるが、その理由は目の前にあった。
「銀狐を繋いでる鎖、今にも千切れそうなんスけど……」
「うへぇ、しかも一見すると繋がれているように見えるから、野次馬も気づいてねぇ」
グレンの言う通り、銀狐は今も周囲に向けて威嚇しているが、鎖に繋がれていることに危機感が無くなっているのか、その効果は薄い。
集まっている人の内、一部は避難を促しているが、大多数の人間は突然の非日常に足を止めてしまっている。
「どうするッスか?」
「どうしたもんかねぇ……」
現場が店の前のため、店から出る訳にもいかず、判断に困る状況。
そんな中、グレンはこっそり、「この事態も、こいつの呪いのせいかなぁ」と内心思っていた。




