第一話 プロローグ
雲一つない晴天の中、一台の荷馬車が街道を進んでいる。
荷馬車には幌が張られており、容赦なく降り注ぐ日差しを遮っていた。
「……んぅ」
そんな荷台の中に、小柄な少年が毛布にくるまって眠っていた。
年の頃は、十二、三といったところだろう。あどけなさの残る顔立ちで、手入れの行き届いた真っ白な髪には汚れ一つ無い。
しばらく荷馬車に揺られていると、御者の男が何かに気づいたように顔を上げる。
そして嬉しそうに後ろを振り返ると、眠っている少年に向かって声を上げた。
「ラヴィン様! 起きてください、着いたッスよ!」
「ん~……」
御者の声に反応した少年――ラヴィンが、目を擦りながら身を起こす。
うっすらと開かれた瞳は、ルビーを思わせる鮮やかな赤色をしていた。
彼らの視線の先には、城壁で囲まれた大きな街があり、街門に多くの人や荷馬車が並んで賑やかな様子が見て取れた。
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「いやぁ、ようやく入れたッスね」
くすんだ金髪に、ヒョロヒョロとした体型。
全体的に胡散臭い雰囲気を纏わせた二十代の男が、凝り固まった身体をほぐすように伸びをして息を吐く。
「大きい街になると、入るだけでも大変」
「ッスね! 特にこの街は交易都市で、人の出入りも激しいッスから。でも、珍しい物や貴重な物が出回っていたり、おもわぬ掘り出し物が見つかったりと、見て回るだけでも楽しいッスよ!」
「お~、なら観光も楽しめる」
「良いと思うッス! 俺はこれからちょっと用事済ませて来るんで、その間は自由に見て回ってください!」
「用事って?」
「ここまで運んできた商品を捌いてくるッス! 地方の香辛料や薬草は、この街なら何倍にも価値が高くなるんで、良い商いになるッス!」
「分かった。ならジーノが商売している間、僕は適当に観光してくる」
「了解ッス」
そう言って御者の男――ジーノは手を振りながら、馬に荷馬車を引かせて商業地区の方へと向かっていった。
ジーノと別れたラヴィンは、まずは昼食をすませようと屋台の立ち並ぶ通りへと足を運ぶ。すると、すぐに肉の焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐる。他にも活気のある呼びかけや馬車の通る音がそこかしこから聞こえ、一気に賑やかになった。
「本当に、人が多い……」
小柄な体型のラヴィンは、半目のまま人混みの流れに逆らわず移動する。そこで匂いに惹かれて串焼きを売っている屋台に近づいた。
「二本、くださ――ッ!」
串焼きを注文したその瞬間、ラヴィンは思わず固まった。
なぜなら――
「毎度! 俺の実家で育てた自慢の牛肉だ、味は保証するぜ!」
串焼きを売っていた店主の顔が、あまりにも牛にそっくりだったからだ。
「……」
「ん? どうした坊主?」
驚きのあまり声が出ないラヴィン。
だが、はっと我に返ると一言つぶやく。
「友達は、料理してはダメ」
「俺は牛じゃねぇよ?」
串焼きと友達認定されたことに、口元を引きつらせる店主。
声は荒げていなかったが、こめかみには青筋が浮かんでいた。
「……ごめんなさい」
「いや、別に良いけどな。客が来るたびに同じやり取り発生するし……」
「……串焼き、四本に変更で」
謝罪の意味を込めて串焼きは多めに買った。
無事(?)に串焼きを買うことに成功したラヴィンは、そのまま広場まで歩いて休憩用に設置してあったベンチに腰を下ろす。
「んまい、んまい」
串焼きを一気に頬張ると、口の中に肉汁が溢れた。
柔らかな肉が丁寧に焼き上げられ、舌の上で香ばしさが広がる。あっという間に数本の串焼きを完食すると、ふと通りの向こうにある店が目に入る。
「武器屋?」
気になって近づいてみると、看板には剣のマークが描かれていた。
店内を覗くと、樽の中に剣が無造作に放り込まれていたり、逆に壁一面に整然と並べられていたりと、多種多様な武器がそこにはあった。
特に目を引いたのが、店の中央に飾られている剣だった。
厚いガラスケースに収められたソレは、刀身が僅かに光っており、思わず足を止めてしまうほどに美しかった。
「おー……」
「おっと、少年。それに興味があるのかい?」
ラヴィンが剣を見ていると、店員らしき青年が声をかけてきた。
小さい男の子が武器を熱心に見ているのを微笑ましく感じたのか、その顔は穏やかで愛想が良かった。
「ん……これって、仙具?」
「おお、よく知っているね。その通り、この剣は仙具と呼ばれる武器なんだ!」
自分の仕事に関することを知られていて嬉しいのだろう。
ラヴィンの言葉に気を良くした店員はそのまま武器の説明を続けてくれた。
「知っているかもしれないけど、仙具というのは、通常の武器と違いそれぞれに“特殊能力”を持っているんだ」
「光や炎を出すやつ?」
「そう! この剣も風の力を自在に操る固有能力を持っていてね。他にも回復を促したり、相手の嘘を見破ったりと、いろんな能力があるんだ」
「へぇ……値段も他の武器と比べてすごく高い」
「それだけ希少で優れた武器ってことだよ。……まぁ、強力な反面、扱いも難しいから、君も仙具が欲しかったら今からでも鍛えるといい」
「なるほど……」
つい最近まで悪夢に捕らわれていたラヴィンにとって、目に映るものすべてが新鮮で、興味を惹かれた。
目の前にある風の力を操る能力を持った仙具についても、繊細な装飾が施されていて、思わず目を奪われる美しさだった。
だが、ラヴィンにとって仙具は珍しい品ではない。
隣で説明する店員以上に、その能力の多様さも危険性も、自らの経験を通して理解していた。
だからそれ以上店内を見て回ることもなく、店員の説明を一通り聞き終えたラヴィンは、お礼も兼ねて携帯用の火打石を購入し、店を後にした。




