第十六話 急襲②
「ガルルルルゥッ!!」
「グオァァァァッ!!」
虎と狼の姿をした二体の雷獣の攻撃は、さらに激しさを増していた。
二体でラヴィンとグレンを挟み込める位置に着くと、帯電する爪と牙で次々と襲い掛かる。雷獣たちはお互いに移動し続け、二体の連携で休む暇もなく次々と攻め続ける。
だが、二体の雷獣の攻撃が二人を捉えることは無かった。
ラヴィンとグレンは背中合わせになり死角を無くすことで、帯電する爪と牙を全て躱し続ける。滑らかに淀みなく、息の揃った軽快な動きで攻撃を回避すると、反撃とばかりに光と炎の剣が振るわれる。
「グルルゥ……ッ!」
「グオァァ……ッ!」
その度に二体の雷獣は身体を切り裂かれる。
瞬く間に元に戻り攻撃を続行するが、何度も斬られることに鬱陶しさを感じたのか、二体は同時にその場を離れる。
「“弾の雨“」
「「――ッ!」」
すると、ラヴィンはすかさず複数の光球を放つ。
一斉に放たれた光球が向かったのは、二体の雷獣――ではなく、周囲に生えた森の木々だった。二体の雷獣の近くにあったものが光球によって撃ち抜かれ、バキバキッという音とともに折れていく。
「“鎖“」
そこに光の鎖が放たれる。
鎖は瞬く間に幹に巻き付くと、勢いよく引っ張られ、それによりいくつもの木々が雷獣たちに向かって飛んでいった。
「「~~~ッ!!!」」
慌てた様子でその場から離れようとする雷獣たちだったが、降り注ぐ倒木と巻き起こる土煙に、次第にその姿が消えていく。
「やったか……?」
「ん~……」
グレンの言葉にじっと眺めて観察するラヴィン。
このまま倒せれば簡単だな、と思いながら警戒を続けていると――
――ドゴォォォォォォンッッッ!!!!!
雷が炸裂する爆発音ととも倒木が粉々になり吹っ飛んでいく。
土煙を割いて現れた二体の雷獣は、その身体を構成する雷が半分ほど無くなっていた。
「ガルルルルゥッ!!」
「グオァァァァッ!!」
怒り心頭といった様子で咆哮を上げる二体の雷獣。
その怒りに応えるように崩れていた身体も徐々に元の形に再形成され、土煙が収まることには、二体とも万全の状態に戻っていた。
「身体能力だけでなく、視覚や嗅覚も獣並のうえ、感情までちゃんとあるな」
「……でも、だんだん分かって来た」
斬っても潰しても雷獣には通用しない。
その事実にうんざりするグレンだったが、ラヴィンは変わらない様子で淡々とナイフを構える。
「ガルルルルゥッ!!」
何度も斬られたことに加え、今も怯えを見せないラヴィンに感情を乱された虎の雷獣が、地面を蹴って一直線に飛びかかる。
そして――
「ガルルルルゥッ!!」
「――ッ!」
虎の雷獣の身体が急激に白く輝き出す。
放電の予備動作だと気づいたラヴィンとグレンは、すぐに地面を蹴ってその場を離れる。それぞれ別方向に離れた二人だったが、虎の雷獣はラヴィンに目標を定めると、追いかけるように飛び込んで距離を詰める。
「“鎖“」
逃げられないと悟ったラヴィンは、瞬時に後方に設置してあった待機状態の光球から光の鎖を形成。自身に向かって射出すると、そのまま身体に巻き付けて離脱する。
その瞬間。
――バキリッッ!!!
「――ッ!!」
後方から何かが砕ける破壊音が響き渡る。
ラヴィンが振り返り確認すると、そこには、光球から射出された光の鎖を砕く狼の雷獣の姿があった。
鷲の雷獣に対応した時のことから放電の回避方法を学んでいた雷獣たちは、それぞれが連携することで、確実に攻撃を当てられるように動いていた。
「避けろ、ラヴィンッ!!」
グレンの叫びも虚しく、光輝く虎の雷獣の身体は臨界点を迎え――
――ドォォォォォォォンッッッッ!!!!!
凄まじい轟音とともに、落雷に匹敵する放電が発生した。
「やべぇ、直撃だッ!!」
「そんな……ッ」
「ラヴィン様ッ!?」
周囲に衝撃波が伝わる中、離れた場所で戦闘を見守っていたグレッタとセレス、そしてジーノの顔色が悪くなる。視線の先には、土煙が立ち昇ってラヴィンの姿は見えないが、先程と違って離脱に失敗していたラヴィンが無事だとは思えなかった。
そして――
「グルルゥッ!」
「何ッ!?」
「二人とも、下がりなッ!!」
残った狼の雷獣が、今度は後ろにいた三人の方へと飛びかかった。
無視される形となったグレンがすぐに追いかけるが位置が悪く間に合わない。それが見えていたグレッタは、己の仙具である槌を両手に握りしめて一歩前に出る。
「グオァァァッッ!!!」
「くっ、“衝撃“!!」
飛びかかってきた狼の雷獣に、彼女は仙具の能力を発動して対抗する。
槌が雷獣を捉えた瞬間、追撃するように衝撃波が放たれる。その衝撃に、一瞬、雷で出来た雷獣の身体が揺らぐ。
「グゥゥ……ガアァァァッ!!」
「――ッ!!」
だが――すぐに元に戻ると、大きく顎を開きグレッタの頭を噛み砕こうとする。
「ぐぅッ!!」
「グレンッ!?」
しかし、追いついたグレンがグレッタを押しのけるようにして雷獣を受け止める。真っ赤に発熱した刃と雷の牙がぶつかり激しく閃光と火花を辺りに散らしていく。
剣を振り抜くのではなく、受け止める形になったことで雷獣を構成している雷が剣を伝ってグレンに感電していく。身体に走る痛みに顔を歪めながらも必死に耐えていると。
――ドンッッ!!!
『――ッ!!』
立ち昇っていた土煙を切り裂いて、ラヴィンがその場に飛び込んできた。
突然の出来事にその場にいた全員が驚くが、ラヴィンはそのままグレンとせめぎ合いをしていた狼の雷獣に迫る。
そして――
「“剣“」
ナイフに形成した光の剣が振るわれ、雷獣を真っ二つに両断した。
雷の身体を持つ雷獣にとって、両断されることは致命傷にならない。
実際に先程まで、ラヴィンとグレンによって何度も両断されていたが、瞬く間に元に戻っていた。だが――
「グオ……ォ……」
今回は元に戻ることなく、バチバチッと最後に雷が小さく爆ぜると同時に空気に解けるようにして、雷獣は消えていった。
「なッ……死んだのか? 何たって急にッ!?」
「核を斬った」
「核ッ!?」
「ん、斬る場所によって元に戻る時間が違ったから、あると思った」
「な、なるほど」
「それよりラヴィン様、怪我は大丈夫ッスか!?」
淡々と疑問に答えるラヴィンに、納得しそうになったグレンだったが、ジーノの言葉に我に返る。慌ててラヴィンの身体を確認したが、ここであることに気づいて絶句する。
――怪我を負っていないのだ。
いや、正確には負っている。
だが、それは軽い切り傷や軽度の火傷といった、元々怪我をしていた部分で、虎の放電によって出来る筈の新しく怪我が存在しなかったのだ。
「さっき直撃していたよな……?」
「してた筈ッス……」
「一体どうやって……?」
「いえ、まずは治療を……ッ」
困惑している周りをよそにラヴィンの視線は森の奥に向けられていた。
「ん、まだ来る」




