第十五話 急襲①
セレスが自身の過去を語った後、しばらく思い思いに休んでいた。
その瞬間――
「「「――っ!!」」」
ラヴィン・グレン・グレッタと、その場にいた戦闘員が弾かれるように一斉に上空を見上げた。
彼らが見上げた空には、今まさに急降下して襲い掛かってきている一体の鷲の姿があった。
異常なことに、その鷲の身体が雷で構成されていた。
バチバチッと身体の雷を打ち鳴らしながらセレスに向かって一直線に突っ込んで来る。
「セレスッ! 逃げ……ッ」
――ドォォォンッッッ!!!!!
狙いに気づいたグレッタがセレスに逃げるよう呼びかけるが、それよりも早く。
セレスのすぐ頭上で鷲の身体が激しく輝いた、次の瞬間――その身体を構成している雷が弾け、閃光と衝撃波が辺りに鳴り響いた。
「ゲホッ……おい、全員無事か!?」
「あたしは大丈夫ッ! それよりもセレスが……ッ」
衝撃波で土煙が巻き起こる中、グレンが咳き込みながら確認する。
先程までセレスがいた場所には、まるで落雷にあったかのように中心部が焦げ、腰かけていた倒木は粉々に砕け散っていた。
だが――
「ん、セレスは無事」
鷲の身体が暴発する直前、危険を察知したラヴィンが飛び込んでセレスをその場から引き離すことに成功していた。セレス自身は、突然のことでまだ理解が追いついていない様子だったが、その身体には傷一つなかった。
ちなみにジーノも瞬時にグレンの背に回り、彼を盾にすることで無事だった。
「間違いねぇ、今のは“雷獣”だッ!」
「くそッ! もう襲ってきやがったのかいッ!?」
「ん、来る」
「「――っ!!」」
相手の正体に気づき、状況が最悪であることを認識した傭兵たちだったが、一息つく間もなく、さらに三体の雷獣が姿を現した。
鷲、狼、虎の三体は先程と同様に身体が雷で構成されており、ジリジリとこちらに向かって距離を詰めてくる。
そして――
「ガルルルルゥッ!!」
「グオァァァァッ!!」
「クゥアァァァッ!!」
――雄叫びとともに一斉に襲い掛かってきた。
「“剣“」
「“炎刃“!!」
同時にラヴィンとグレンが飛び出して迎え撃つ。
ラヴィンは光の剣を形成、グレンは剣に炎を収束しながら雷獣に向けて駆けていく。
その間にグレッタはセレスとジーノを後ろに下がらせると、仙具を構えて二人を守る。
雷獣とラヴィンたち、お互いの距離がどんどん縮まっていくと、虎と狼の雷獣が咆哮を上げながら二人へと飛びかかった。
次の瞬間――
「むんッ!」
「ガルゥッ!?」
「おらぁッ!」
「グゥアッ!?」
ラヴィンは走りながら身体を沈み込ませると、そのまま地面を滑るように移動する。そして飛びかかっていた虎の雷獣が真上に差し掛かった瞬間、光の剣を素早く振るい、その身体を横に両断する。
一方、グレンは飛びかかって来た狼に対して、上段に構えた剣をそのまま振り下ろす。真っ赤に発熱した刃が雷獣の身体にぶつかると、反発するように雷と炎が弾けるが、次の瞬間には、狼の雷獣の身体は盾に両断された。
だが――
――バチバチバチィッッッ!!!
「グルルルゥッ!!」
「グオァァァッ!!」
雷の鳴る音とともに、両断された身体が元に戻っていく。
そして、何事もなかったかのように二体の雷獣は着地すると、ラヴィンとグレンの方を振り返り、笑うように吠える。
「むぅ……」
「こいつは……」
切り捨てた相手が瞬く間に元に戻る姿に二人は表情を歪める。
「(軽い、というより手応えが無い。本当に雷が獣の姿をしているだけで、実体は存在しないのか?)」
グレンは雷獣を斬りつけた時の感触から敵の情報を集めていく。
だが、まるですり抜けるような感覚に、そもそも攻撃が意味をなしていないことを理解する。
「クゥアァァァッ!!」
「“盾”ッ!」
次の瞬間、頭上からラヴィン目掛けて鷲の雷獣が一直線に降下してくる。
鋭い爪がラヴィンの肉体を抉らんと立てられており、それを見てラヴィンは頭上に光の盾を形成する。
すると――
――バチチチチチチィィッッッ!!!
「――ッ!!」
鷲の爪と光の盾が接触した瞬間、眩い閃光が辺りに走った。
空気が焼け付く匂いがラヴィンの鼻孔をくすぐり、光の盾がバリンッと音をたてて砕ける。すぐに地面を蹴り、その場を離れると、先程までラヴィンのいた空間に鷲の爪が突き刺さる。
「グルルルゥッ!!」
「グオァァァッ!!」
「“弾の雨”」
さらに、虎と狼の雷獣が左右からラヴィンに迫る。
それに対して、ラヴィンは自身の周囲にいくつもの光球を浮かべる。そして、二つほど待機状態にすると、残りを二体の雷獣にぶつける。
ボボボッという音ともに光球が雷獣の身体を突き抜け、いくつもの穴が空いた。
だが、二体の雷獣は一切止まる様子を見せることなく、そのまま飛びかかって来る。
「グルルルゥッ!!」
「グオァァァッ!!」
二体の雷獣がラヴィンへ攻撃する。
帯電した鋭い爪と牙がバチバチッと音を鳴らしながらラヴィンへと振るわれる――が、ラヴィンは、これを純粋な体捌きだけで回避する。
「むっ、ほっ、よっ」
二体の雷獣による攻撃をギリギリまで引き付けると、当たる直前で身をねじり、躱す。激しい攻撃に対して、その動きは滑らかで、まるで雷獣の爪と牙がラヴィンの身体をすり抜けているようだった。
「よっとッ!」
「グルルゥ……ッ!」
「グオァァ……ッ!」
隙を見たグレンが飛び込んできて炎の刃を振るう。
赤い軌跡を残しながら、それは正確に虎と狼の雷獣の首を跳ねる。
それでも仕留めることは出来なかったが、身体を元に戻す時に一瞬、動きが止まった。
その隙にラヴィンは、その場を離れて距離を取る。
「クゥアァァァッ!!」
「ラヴィンッ!」
「――ッ!!」
だが、ラヴィンの背後に鷲の雷獣が待ち構えていた。
通常の生物と違って気配がなく、ラヴィンも反応が遅れる。そして、ラヴィンと鷲の距離がゼロになると、鷲の身体が急激に輝き出す。
「“鎖“」
ラヴィンの頭を過ったのは、最初の雷のこと獣だった。
同じように身体が激しく発光すると、次の瞬間には、弾けるように放電したからだ。
ラヴィンはすぐに仙具の能力を発動する。
待機状態にしていた光球から光の鎖を出現させると、すぐさま自身の身体に巻き付け、引っ張る。
ラヴィンが鎖を利用してその場を離れようとした瞬間、雷で出来た鷲の身体が、臨界点を迎える。
――ドォォォォォォォンッッッッ!!!!!
視界が真っ白になるほどの眩い閃光が放たれた瞬間、耳をつんざくような轟音と腹に響くような振動が辺りを襲う。
鷲の雷獣が居た場所を起点に衝撃破が起こり、その場にいた全員を薙ぎ払うように吹き飛ばす。
「くッ……最初のよりも威力が上がってるッ! これじゃあ、落雷と変わらない威力じゃないかッ!」
「……ッ、ラヴィン君はッ!?」
離れた場所にいたセレスとグレッタも衝撃波に襲われた。
だが、グレッタが直前で仙具を発動し、威力をある程度、相殺させることに成功したため、彼女の後ろにいたセレスとジーノも少し転んだ程度で済んだ。
三人はラヴィンを探したが、衝撃で地面が爆ぜ、激しい土煙が辺りを覆い隠していた。
だが次の瞬間、土煙の中からラヴィンが出てくる。身体のあちこちに軽い火傷を負っており、プスプスと煙が立ち昇っていたが、しっかりとした足取りで残った二体の雷獣に向き直る。
「おい、無事か?」
「ん、大丈夫」
グレンも駆けつけラヴィンの様子を伺うが、言葉通り問題なさそうでほっとする。
横に並んで剣を構えるが、その表情はすぐれない。
「はぁ、いまのところ自爆以外で数が減らねぇな」
「ん、触れれば感電、掴まれば放電。こちらの攻撃は実体を捉えられず、止められない。そのうえで、それぞれが自分で考えて動いている」
「……マジで厄介すぎる」
ぼやきながらもグレンは鋭く雷獣を睨みつける。
ラヴィンもまた、怯む事なくナイフを構えて備える。
戦いは、まだ始まったばかりだった。




