第十一話 VS大地の怒り③
「“構築”!」
ラヴィンの足元の地面が変形する。
左右から突き刺すように巨大な杭が形成されると、ラヴィンの頭部目掛けて勢いよく伸びてくる。
しかし、ラヴィンは慌てることなく、行動する。
地面に接触するほど身体を深く沈み込ませると、彼の頭上で巨大な杭同士がぶつかりあい、その衝撃で砕け散る。
「――――ッ!!」
その隙を狙った岩の騎士の一体が、声にならない咆哮とともに、両手に握った戦鎚を高く振り上げ、ラヴィンに叩きつける。
「“剣“」
ラヴィンは、ナイフから伸びる光の剣を形成すると、振り下ろされる戦鎚に合わせるようにして、横から力を加える。
「――っ!!」
すると、ラヴィンの頭部を狙っていた巨大な戦鎚は、まるで滑るかのように力を逸らされ、ラヴィンの横の地面を砕くこととなった。
その隙に、岩の騎士の横を駆け抜けて、奥にいるオルクスを狙う。当然のように進路を妨害するため壁が現れ、地面が崩れるが、その全てを躱しつつ、身体強化による猛スピードで距離を詰めていく。
「むんッ!」
「はぁッ!」
そして、間合いに入った瞬間、オルクスを切り裂かんと、光の残像を残しつつ刃が振るわれるが、オルクスは地面から槍を形成させると、刃と身体の間に滑り込ませ防御する。そして払うように槍を振ると、合わせるように地面から巨大な杭が襲い掛かった。
「むぅ……」
これには、さすがにラヴィンも下がるしかなかった。
再び距離が開くと、岩の騎士が襲い掛かり、地面は変形を始める。
ラヴィンが傷を負ってから数十分が経った。
あれから、仙具の発動中も両手が使えるようになったオルクスは、さらに攻撃を激しくさせ、さらに防御や迎撃に槍や盾といった道具を使うようになっていた。
ラヴィンにとって、オルクスの槍術は脅威にならなかったが、仙具と同時に発動することにより、最後の一手を詰め切れずに一進一退の状況を繰り返していた。
仙具を発動させる度に生命力を削るラヴィンにとって、長期戦は当然ながら不利にしかならない。それは明確なラヴィンの弱点であり、攻めきれないこの状況は、オルクスの優勢を確かなものにする。
筈だったが――
「そろそろ体力の限界では? かなり仙具を使用して生命力を削っているようですが……」
「ん、まだまだ大丈夫」
――戦況はラヴィンが優勢だった。
元々、己の弱点を理解しているラヴィンは、だからこそ、仙具の発動を最小限にするために徹底して戦っていた。相手の攻撃に対して、身一つで躱したり、意識の隙間を狙い攻撃をしたりと、純粋な体術を活かした戦術は、彼の消耗を極限まで抑えていた。
一方、オルクスの方は最初の攻防で受けた傷が無視できない状態になっていた。致命傷では無かったが、戦闘中に血を流しすぎていたため、激痛や眩暈により集中力が低下し、だんだんとラヴィンの接近を止めきれなくなっていた。
「ふぅ……決着を、急がせて貰いますよッ!」
このままでは、自身が先に倒れることを自覚したオルクスは、攻勢を強める。岩の騎士をさらに一体追加すると、ラヴィンの周囲の地面を一斉に変形させた。閉じ込めるように壁で囲うと同時に、巨大な杭を内側に向けて一斉に伸ばした。
防御を捨てた、短期決戦用の猛攻撃。
――しかし、それがラヴィンの狙いでもあった。
オルクスの後方、離れた場所に設置された二つの光球。
相手の視界を塞ぐために土煙を起こした時、オルクスに気づかれないように、ラヴィンはこっそりと待機状態のまま光球を配置していた。
決着を急ぐためにオルクスの意識から防御が消えた瞬間――
「“光線”」
「ぐぁッ!!」
後方に設置された二つの光球から、光線がオルクスに向かって放たれた。
圧縮された光は、オルクスの背中に命中すると、そのまま彼の身体を貫く。
突然の衝撃と激痛でオルクスの意識が逸れ、ラヴィンを攻撃していた巨大な杭も途中で変形が止まる。ラヴィンは、その隙に閉じ切っていなかった壁の隙間から脱出する。
「な……に、がッ?」
一瞬の出来事で、オルクスは何が起こったかを把握できていなかった。だが、身体の痛みと肉が焼け焦げたような匂いから、攻撃を受けたことを理解する。
「(攻撃……いつの間に、いや、それよりも、このダメージはまずいッ! 撤退しなければ……ッ!)」
オルクスは冷静に、これ以上の戦闘は不可能として、捕まる前に撤退しようと考える。歯を食いしばると、踵を返して走り出す。
「逃がさな――むッ!」
追跡を逃れるため、三体の岩の騎士をラヴィンにぶつけ、足止めを行う。
戦鎚を振らず、その場に留めるために壁となって進路を妨害してくる騎士たちに、ラヴィンも足を止めてしまう。
「はぁ……はぁ……ッ」
その間にオルクスは広場からの脱出を目指す。
激痛と疲労によって、フラフラとなる足に活を入れ、何とか前へと進んでいく。広場の端にまで来たことで、安堵しそうになった瞬間――
「よぉ、どこ行くんだ、色男!」
「――っ!! お、前はッ……!」
突然、オルクスを呼び止める声が届く。
驚いて声の方へと視線を向けると、そこには槌を担いだ女傭兵――グレッタが居た。
ラヴィンとオルクスの戦闘が始まった時、グレッタの方は、十数人のオルクスの部下たちに襲われていた。
仙具使いはいなかったが、時間稼ぎのために遠距離からチマチマと攻撃されていたグレッタは、護衛対象のセレスが居た事もあり、かなりの時間を稼がれていた。
だが、オルクスにとっての誤算は、ラヴィンとの戦闘がここまで長引いてしまったことだろう。
当初はラヴィンのことを子供と侮っていたが、予想外に追い詰められてしまったことで、グレッタのことが完全に意識から外れていた。
結果、部下たちを片付けた後、援護が必要だった時のために遠巻きで戦況を見ていたグレッタに追いつかれてしまっていた。
「お前には、さんざん世話になったからな! お礼をしてやるよッ!」
「ま、待て……ッ!」
オルクスに向かって仙具である槌を振りかぶるグレッタ。
そして――
「“衝撃”ッ!!」
「“構……ッ!!」
――ドゴォォォォォォンッッッ!!!!
広場中に響き渡るような轟音が辺りの建物を震わせた。
グレッタの一撃を防ごうと仙具を発動させようとしたオルクスだったが、構築途中だった壁は衝撃で粉々に砕かれ、迫りくる槌を眺めるほか無かった。
そのまま振り抜かれた槌により、オルクスは反対側の広場の端まで吹っ飛ばされ、意識を手放すこととなった。




