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Girl’s Memory

 私は、弱い人間だ。


 異世界の地に一人で転移し、自らの世界を憂い、涙を流す少女を抱きしめることすらできない。


 ただ立ち上がって抱きしめれば良いだけ。

 何度も自分に言い聞かせ、立ち上がり声をかけようとする。


「あっ—」


 しかし数秒早く動いたクオンが彼女を胸に抱き、囁く。


「大丈夫だ。俺が救ってやる。任せとけ」


 クオンの囁きで冷静さを取り戻したのか、彼女は涙を手で拭い、再び口を開く。


「それで、この中で異世界へ転移するための術を持っている人はいるの?」


 するとクオンは手を挙げて喋り出した。どうやらこの話し合いは挙手制になったらしい。


「俺は、一度訪れたことがある異世界なら自由に転移したり、させたりできる。

 けど多分君がいた世界には行ったことがないから別の手段が必要かな」


 クオンの答えを受けて、彼女も手を挙げて喋りだす。


「私の世界で作った転移装置。使ったのは一度きりだけど、起動させた時、幾つかの計測機で周期的な波動を計測したの。そして一番反応が強い波動に合わせて転移したんだけど…」


「つまり同じ装置をこの世界で作って、俺の異世界転移術を使って、マッピングしたいと…」


「貴方にその機械を使って貰って、波動と世界の位置関係を……」


「それを……」


「じゃあ……」


「……」


「……」




 あ〜これが蚊帳の外って奴か…


 今に始まったことじゃない私はいつも周りから疎外感を感じていた。


 ——————————————————



 私は、特筆すべきこともない平凡な家庭に生まれた。


 両親は共働きで家にいないことも多く、幼稚園の閉園時間の間に合わない時もある。その時よく一緒に帰ったのが、陵魔とその母親だ。


 家も隣であったため、両親が帰ってくるまで陵魔の家で遊ぶというのが日課であり、うちの母親も当時から賢く大人びていた陵魔を見習うようにと言っていた。


 小学校に入り加速度的に頭が良くなる陵魔を、必死で追いかけ、休み時間や何もかも自由な時間は全て勉強に捧げる毎日。


 当時の陵魔に対する感情は「憧れ」というのが適切だろうか…


 しかし当時の私は陵魔以外の対人関係を蔑ろにしていたため、友達など一人もできず常に一人で過ごしていた。


 愚かな行動をする同級生を軽蔑すらしていたと思う。


 ある日、私たちがいつもどおり小学校に登校しているとき、血だらけの猫が道に倒れていた。


 私は思わず足を止め、それに気付いた陵魔も足を止める。


「どうした?」


 私は、社会への批判というよりは単純な質問のつもりで聞いた。


「こんなにもたくさんの人がこの道を歩いているのに、誰も立ち止まらないの…」


「確かにな。でも紅衣奈は止まった。それで良いんじゃないか」


「どういうこと?」


「人間っていうのは、みんな自分のことが大好きなんだよ。

 自分のことが大事で大事で仕方がない。自分の利益のためなら他人をも傷つける」


 その言葉を聞いた私が少し複雑な表情を浮かべていると、陵魔は私の頭を撫で、


「けどな、だからこそ愛情っていうのは尊い。

 自己中心的な本質とは逆の行為。


 [見返りを求めず誰かのために愛を注げる]そのこと自体に価値があるんだ。


 瀕死の猫に、手を差し伸べるなんて無意味な行為に気付けた紅衣奈は、俺より、よっぽど凄いよ」


 私は、憧れの人に認められた嬉しさに満ちると同時に、愛情の尊さを気づかせてくれた陵魔に愛を注ぎ続けようと決めた。


 ————— ————— ————— —————


 もしこの時の陵魔の自己否定的な発言を注視できていたら、もしかしたらあんな悲劇は起きなかったかもしれない。






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