凡人の屈折
腰まで伸びたクリーム色に近い金髪に、中世の騎士服を思わせるような装い。ボタンなどの装飾は金色なのに対し、肩についている鎧は、白銀。
腰には1メートル50センチはありそうな剣が、掛かっている。
彼は、微かな笑みを浮かべたまま拍手を続け俺を見つめてくる。
俺が立ち上がろうとしても止める様子はない。
俺が立ち、対面すること数秒後、拍手は止み倉庫内に彼の透き通った声が響く。
「やっぱりすごいよ君は。」
やっぱり…?こいつは俺の知り合いなのか?
「初めて君出会った時の印象は今でも覚えているよ。鮮烈にして激烈。孤高にして至高な生き様。人間はこうも強くなれるものかと、自分の目を疑ったよ。」
陵魔の疑念などまるで感じないかのように、男は話し続ける。
「人が強くなろうとするとき、何のために強くなるかによって差異が出る。
その種類は大きく分けて二つ、誰かのために強くなるか、自分のために強くなるか。
多くの人が、前者の方が素晴らしい動機だと考えるだろう。しかし本当に強くなれるのは後者だ。」
この男はつまり俺は後者に当てはまると言いたいのだろう。否定するつもりはない。先ほども自分で自覚したばかりだ。
「前者は、愛する人のため、世界のため、大義のため、などなど様々な理由があるが結局は、他人に押し付けてるだけなんだよ。
動機、目標、失敗、成功、すべてを押し付けているだけだ。
そして最後に得られるのは、ただの自己満足と恩着せがましいお節介のお礼としての感謝だけ。
だけど後者は逃げられない。
失敗しても、立ち止まっても何もかもが自分の責任だ。
そして目標を立てられてもゴールがない。
何かを欲して、それを得たとしても次に何かが欲する。
人生という波の中では完璧に満たされることはない。だからこその終わりを求めず、究極まで強くなれる。」
男は目を瞑り残念そうな表情を浮かべた。
「でも君は一度堕ちた。」
俺は、心臓を握られたような衝撃に襲われた。
間違いない、こいつは俺の知り合いだ。
そして俺の過去を、知っている。
「あの時は、正直失望したよ。でもねそれ以上に救いたいと思ってしまった。
僕はね、君に救われたんだよ。当時の君の姿は、僕の人生観に大きな影響を与えた。
いやむしろあの時に僕の人生は変わったと言ってもいい。
だから君が苦しみ一度降りた道を、もう一度照らしたあげることが僕の役目だと思ったんだ…」
救う?ふざけるな…よ。お前に何がわかる。
俺は、右手の銃を相手の顔面に突きつけようと腕を持ち上げた。
瞬間熱さを感じるような鋭い痛みを感じ右手を見ると右手首から先が地面に落ちていた。
血が吹き出し俺が苦しんでる姿を見ても、男はしゃべり続ける。
「この間合いなら、その装弾が遅い銃よりもこの長剣の方が早く届く。
そのくらい君ならわかるでしょ?冷静になってよ。」
俺は、右手を再生させようと左手のエアブラシを傷口に持っていった。
刹那、俺の左手首から先は地面に落ちていた。
「冷静になってよ。
今無理やり、右手を直しても近距離武器を持ってない君じゃ何もできないでしょ?
止血までの処置が最適解だよ。」
こいつ……まるで昔の俺だ。
ショッピングモールで見た夢に出てきた俺。
周りのことなど気にせず、最短で答えまでたどり着くことを、至上とする生き方。
男はさらに続ける。
「君は、ショピングモールで弱さを捨てたと思ってたけど、それだけじゃ足りないみたい。昔の君に戻るには…
何よりも強くなろうとする意思が必要だよ。
君だって全てが欲しいって望んだんだろ?」
男に問い詰められ、俺の思考には昔の情景が写っていた。
ただ黙々と強さの証明としての学業のみに打ち込む小学生の頃。
学力だけが全てじゃないことを悟りながらも、今までの人生で形成されだ屈折した考えから、ひたすら学力に固執しながらも、友情や愛情に飢えていた中学の頃の俺。
そして、ある秋の夜迷走する俺に手を伸ばそうとした、母親を自ら拒絶し、唯一持っていた生まれてからずっと愛情を注いでくれた人を失った日。
自らが欲しいように求めたり、奪ったりする事で本当に欲しいもの全て手に入るのか?
俺の思考を遮るように男が口を開く。
「君の鋭い生き方を鈍にさせた、どうしようもない事件はさ、もう忘れよう。何の価値もない出来事だよ。」
お前に何がわかる?
誰もが最短距離で到達したいと思ってる。でもその間に生まれる過程が必ず次の目標に関係してくる。
何かを手に入れれば入れるほど周りを傷つけ次の機会にはより困難になる。
そして切り捨てたものを手に入れることは二度とできない。
だからこそのディレンマ、だからこその葛藤なんだ
お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?お前に何がわかる?
俺は、怒りに任せたまま叫ぼうとした。
「お前に何g… ゴポォ…ガバァ」
口から大量血液が溢れ出る。下目を使ってみると、自分の喉から白い頭身が伸びてることに気づく。
男が長剣を喉に突き刺してきたのだ。
男は勢いよく剣を引き抜くと、一切表情を変えず。
「だから冷静になりなよ。怒号を上げるなんて君らしくないだろ?」
失血多量なのか、視界が霞む。
ジャリ、ジャリ
普段より聴力が押した耳でも聞き取れるほどうるさい音。砂利を踏み締める音だ。
男は、剣を引き絞りもう一度放つ。
放たれた高速の連撃は、俺の手足の腱を的確に捉えて切断する。
そのまま男は俺に近づいてくると肩に手を置き
「少し待ってて。まずは彼と戦ってくる」
と言いそのまま俺の肩をを優しく押す。
手足の腱を切られ、抵抗することもできずそのまま後ろ向きに倒れる。
逆さまになった視界で見たのは、剣を構えて一歩ずつ歩いてくるクオンだった。




