凡人の傍観
一歩づつこちらに向かってクオンが歩んでくる。
全てを吸収するような漆黒の外套に、鈍く光る砲金色のチェストプレート、肩の鎧には黒く薄らと光りを投下する鉱石がはめ込まれている。
片手には、頭身も柄も黒く、灰色の鍔の真ん中に紅い石があしらわれている、長い長剣を持つ。
その剣を握りしめ近づいてくる迫力はとてつもなく、自らが敵意を向けられていないにもかかわらず、悪寒が走った。
相対する金髪の男は、白い剣についた血を払うとそのまま優雅とも言える足取りでクオンの元に向かう。
息が詰まるほどの静寂の中2人の足が砂利を踏み締める音だけが響く。
ジャリ…ジャリ…ジャリ…
俺は呼吸も忘れ2人を凝視し続けた。
2人の距離が2メートルと少しまで近づいた時
ギィィィイン
という甲高い剣戟の音が倉庫内に響き渡った。
沈黙が破られ、自らが呼吸してないことに気づく。
数秒間の無呼吸状態と、空気中の分子で止血しか施していない喉の傷口の痛みで、咳き込み喀血しながらも、彼らの戦いから目を離せない。
クオンが右上段からの袈裟斬りを放つとそれを男は、三連撃の刺突で止めた。1回目と2回目で威力を弱め三撃目でクオンの剣を静止させて見せた。
クオンの剣が振り下ろされ胴体に当たるまでの一瞬の間に三回も刺突を行うことが出来る速さも異常だが、クオンの斬撃言うなれば線の攻撃を、突きという点の攻撃で止めた。
あの高速で打ち合いで一ミリもない剣先で敵の剣を突く正確性は、クオンと同種言い換えれば俺らとは別種、つまりこの世界の人間ではないことを俺に瞬時に理解させた。
そこからは、ひたすら互角とも言える打ち合い。
クオンが振るう剣を、ひたすらその倍の手数で止める金髪の男の剣。
自分から切り掛かれていないところを見ると、男の方が不利だろうか…
これらの決着がどうなるのかを予測しようとしている時、突如白い煙幕で周りが包まれる。
コンマ数秒何が起きたのかわからなかったがそれが小麦粉だと気づくとそれを大きく吸い込み、俺は喉を回復させた。
腹筋を使い状態を起こすとそこには小麦粉の袋を持った紅衣奈がいた。紅衣奈は、残りの小麦粉を俺の足にかけ、足の腱を復活させると、俺に肩を借りるように促してきた。彼女の肩に手を回し立ち上がると両腕の激痛に耐えながら移動を開始する。
俺たちが動きだすとすぐ男はこちらに駆けて来ようとしたが、クオンがそれを阻んでいる。
なんとかクオンの背面側の壁に移動した俺たちは、そこで倒れるように座った。
「もっと遠くに移動した方がいいんじゃないか?」
と紅衣奈に尋ねると彼女は、
「クオン君が遠くに逃げるよりもなによりも絶対俺の後ろに居てくれって…」
今はクオンの指示に従うしかないと納得した俺は、冷静に辺りを見渡すすると、すぐそばに紡葉が安置されていることに気づく。
恐らく紅衣奈がここまで運んできたのだろう。その推測を立証を促すようにに彼女の額には汗が滲み、相当疲労していることを思わせる。
現状を冷静に整理し終わり再び視線をクオンたちに戻す。
すると彼らの戦いにも動きがあったようで、打ち合いから鍔迫り合いに移行している。
金髪の男は、力に押し負け片膝をつき剣を両手で持つことでなんとか対抗している。
するとクオンの口が動く、少し距離が離れてることを考慮し、耳を澄ます。
「お前は、何のために奴の配下になった?」
質問の意味は、俺には理解できなかったが金髪の男は理解したようで、
「希望を叶える為に…」
と慈しむように呟いた。
それを聞きクオンは、
「ならお前はもう救えない」
と言い放つと一気に距離を取り剣を上段に構えた。いや上段よりももっと上、まるで天に掲げるように構えている。
「我の進む道に、逃避なし、回帰なし、防御なし。なればこそ、剣としての道を示せ…」
クオンが厳かに唱えると、彼の肩や胸の鎧、シャツまでもが消滅し、それと同時に掲げた剣は眩く発光し始めた。
発光している剣の鍔に埋め込まれている赤い鉱石から、血の色に似た深紅の液体が溢れてクオンの体を伝って下に落ちていく。
謎の液体が通過した箇所は、火傷を負ったかのように、深紅が肌に染み付いている。
恐らくここにいる者全てがこの一撃で全てが終わることを確信しただろう。
彼は無言でその剣を振り下ろした。
放たれた光は、彼を中心として前方範囲1キロを包み消滅させた。
全体の約半分が吹き飛んだ倉庫は、外の光が差し込み明るく照らされていた。
なぜ彼が紅衣奈に、自分の後ろに移動させたか?それは前方を無差別に消滅させるからに他ならない。
この攻撃を受け敵は倒れたはず。そう思いこみながらよく見ると、男はまだ立っていた。
剣で防ごうとしたのか剣を横に構え防御の姿勢をとっているが、剣はそこら中にヒビが入り、白い服はめちゃくちゃに破け血が滲んでいる。
《白龍の時に》光が解けるように消滅しているが、それは服だけで男の肉体は全く消滅する気配はない。
男は、俺を指を刺すと
「必ず、俺は手に入れる。」
と叫んだ。
クオンが剣を構え介錯に向かおうとしたその時彼は青白い光に包まれその場から立ち去った。




