寄生
「ん〜誰や〜」
その時のあいつは俺があいつに貼っていたレッテルそのままの奴だった。今更だがあいつが俺一人を自身の部屋に呼んだというのは丹澤の性格上可笑しいよな。だがあの時の俺はそんなことを考えちゃいなかった。
「俺、渉だよ、わーたーるっ」
「一人か?」
鋭く、それに冷たかった、その時俺の耳に入ったその声は。それに俺は若干の違和感を感じたし、そんな声を出すあいつの顔をイメージできなかった。だがあいつが決してニコニコとは笑っていないことは見ずとも分かった。
「あ、あぁ……一人だけど」
「そうか、じゃあ入れ」
俺は言われるがままに眼前の扉を開け放った。……あぁなんて言えばいいんだろう、とりあえずそこは曇っていた。言葉の意味通りに曇っていたのだ、その部屋は……そして俺はそこを開けた途端に咳込んだ。身体がそこの空気を受け付けようとしなかったのだ。喉の半分ぐらいまで来たところで俺の喉はそこから下を閉じさせたのだ。
「こほっ、こほっ」
目の前すらよく見えないほどの曇りようだった。それに噎せかえるような異臭もしたので始めは直感で火事かとも思った。
「おぉ悪かったな。きつかったか? 煙草?」
「きついも、こほっ、なにも、お前なにやってんの?」
正直な話、かなりきつかった。煙草の放出する毒ガスに慣れていないというのもあるのだろうがやはり精神的にこのサプライズは効いた。
「なにって、座ってんだよ」
輝かしき青春まっただ中の未成年である筈のこいつは、有害極まる煙草を吸うことについては何も思っていないようだった。個人的に残念なことにね。
「……いや、もう、いいや」
「とりあえずな、その戸閉めてくれ」
俺は半意図的に開けられていた、いや開けていた戸に振り返り、一度盛大な溜息を入れてから渋々それを閉めてやった。おかげですぐさま雲のような白煙が部屋、そして俺の肺に充満したのは言うまでもない。
「よしっ、ほんじゃ早速本題だ。おぉとっ、それから俺が話終わるまでその口開けんじゃねえぞ。いいな?」
【いいな】と言われてもその問題よりもその時の俺には気になって仕方なかったことがあったのだから、俺はその断ることを絶対許さない的な質問には答えず、気になっていたことを心の望むままに聞いた。
「いや、ちょっと待て、お前話し方とかもう、なんか全然違うくないか?」
「あぁん……この話方? いいじゃねえか、別によ。それともこのせいでなにか問題でもでてくんのか?」
完全なめられていたと思う。ああ、思いだしたら腹が立ってきた。それでもその時は怒りよりも疑問が先行していたのだ。
「……うーん問題はないんだけど。ちゃんと説明してくれないか? っつうかネコ被ってたのか?」
「ああ、そうだ。偽ってたよ、自分を。でもそんなこといいだろう? 初対面の野郎どもにはああいう風に振る舞っていた方が都合がいいんだからな」
その言葉を聞いた俺の中には憤怒より感嘆の念がどこからか湧き出てきていた。丹澤があまりにも自然に尚且つ堂々と開き直ったからなのかもしれない。
「そんじゃ、いいな。もうしゃべんなよ」
「…………」
そこから、淡々と話された。彼のいう【事実】を……
「光華、言ってただろ。夜怪について。あれはな、ほとんどが事実だ。だがそれに反すること、んんや、それをカモフラージュしたこともあいつは多々言っていたんだぜ。あいつなりに何か考えがあったのかは知らねえけどな。とりあえず俺がお前をここに呼んだのはその曇りガラスを取った事実をお前に教えたかったからだ」
ここで丹澤は一息入れた。そして俺の瞳を曇りのない澄んだ眼で睨みつけ言った。
「お前だけにな」
その丹澤の声に乗って疑問符も飛んできた。そして俺の思考にグルグルに絡みついた。なぜ俺だけにそれを教えるのか、俺はその時知らなかったのだから。
「じゃあ先ずは、つうかこれしかねえ……夜怪についてだ。あんまりだらだら言っても理解できねえだろうから概要だけ分かり易く言ってやるよ。……夜怪ってのはな簡単にいえば寄生虫みたいなもんだ。そう、宿主の身体の中で生きるんだ。とはいってもそれ自体は形なし、魂みたいなものだけどな。もっとも奴ら独自の身体を所持しているものもいるんだが……そんなことはいい、つまりは夜怪ってのは大抵は人の身体に身を置いて生きてるんだ。そして奴らの栄養源は宿主の精神。精神ってのは簡単には底をついたりしないものだからそいつらへのエサだけじゃ決して無くなりはしない」
確かに分かりやすい言い方ではあったが、内容はそうではなかった。ここは丹澤を質問攻めにしたいところなのだが、止められている以上はそれはできない。恐らくはそれを予期して俺に頼んだのだろう。
「だがな次が問題なんだ。よーく聞けよ。夜怪が身体に付くことで使えるようになる能力、つまりは夜怪自身なんだが、それはな、多く精神をすり減らす。ちなみになその能力ってのは夜怪が俺らに与えるものじゃねえからな。俺らが身体を持った奴らから生き残るために無理やりに使えるようになる能力だ。……まあ言いたいことはそれを多用しすぎ精神が酷く疲労すると身体を夜怪に乗っ取られ易くなるということだ。まあだが、ほどほどに休みながら使えば問題はないんだがな」
そこまでぱっぱぱっぱと口を走らせた丹澤は又しても俺の目を迷いなく直視した。
「だが、今のお前には夜怪は扱えない。だから奴らを殺さないことを俺はお前に奨める。それと、あえて言わなかったが夜怪が何なのか分かってるか?」
その丹澤の発言の冒頭になにか気になることを言われたが、疑問を持たれたところは違うところなのでそこについて俺は自身なさげに声を低くし答えた。
「形のある夜怪はそいつらに乗っ取られた人?」
苛立ちに似た感情もその言葉に籠っていたかもしれない。
「そうだ。それとさっき言い忘れていたが、今言っておく。宿主が死んだらそいつに憑いていた夜怪はまた違う宿主を求め彷徨い歩く。だからまあ、奴らに憑かれたくなかったなら、奴らを殺さないことだな。間違って能力を使えばお前なんかはすぐに御仕舞いだろうからな」
『意味がわからない』
どうしてか自分の大部分が強く貶されている気がして俺は次の瞬間苛立ちを口に出していた。
「んなっ……だからさっきから、お前まで何言ってんの? 意味がわからない」
―――――
―――
―
そして今に至る。
遅くなりすぎた更新ですが、もし、もしもリピーターさんがいたのなら……ごめんなさい。遅すぎました。




