夜怪
「ガキはなにしてきたん? ここくるまえまで」
丹澤が光華に話し掛けている。丹澤から話し掛けるとは以外だった……しかしガキとはどんな言いようだ!
「私に言っておるのか? 外道……」
光華の言葉からは殺気が滲み出ている。オーラが見えたならきっと光華の回りは赤一色に見えるはずだ。
「あぁそうやで」
「やめろ! あほっ、なに挑発してんだよ。光華に謝れ馬鹿! 」
多分このままいけば丹澤が原型をとどめられないほど叩きのめされてしまうはずなので、俺は丹澤の命を無駄にさせないため謝らせることにした。感謝してほしい。
「今のは丹澤が悪いわね」
理雨流は冷めた声で丹澤を非難する。
「謝罪しろ、外道」
光華は相変わらず挑発しているが、この場合は丹澤が先に言ってきたので悪いのは丹澤だから、光華が丹澤を挑発することについては俺はなんにも思わない。……というのは建前で、本当は少し怖いから注意できない。
「……んー……悪かった」
少し死線をさまよった後丹澤が延命出来た。しかし光華の何が気に入らないのだろう。後で聞いてみよう。
「……それでいい。…………まぁ疑問には応えてやろう」
俺個人として凄く聞きたい。あの強さは半端じゃなかったからな。
「私はある仕事を主としてする傭兵だったんだ」
「傭兵? 」
傭兵という仕事は確かにあるが危険性が高い依頼が多くあり、いくら光華でも女性がするものではない。
「そうだ、一人でな」
『一人!? 独立してやっているのか……』
俺は光華に憧れを感じた。実は…俺は傭兵になりたかったからだ。子供の頃から変わらない夢だな。だから義務終了後も鍛練を続けてきたんだ。今じゃ傭兵を仕事として生きていく人は昔と違い大分少ないんだが……それでも俺はなりたかったんだ傭兵に、親父に憧れてね……
「いつから、傭兵やってたの? 」
興奮し過ぎな程(心の中)、騒ぐ俺は光華に傭兵について色々聞きたかったのだ。
俺の問いに光華は暫く黙っていたが、不意に小さく呟いた。
「……14からだ」
静寂の中に響くその声は強い口調ではあったものの重い悲哀を纏った小さいなものだった。
『…………』
部屋からは暖かさが消え、肌にピリッとくる張り詰めた寒さにそれが変わった。
―――――
―――
―
「……お前達は夜怪というのを知っているか? 」
少しの間室内を沈黙が支配した後光華が重い口を開く。
『ヤカイ? 聞いたことがある気がするんだが……』
「……私はここに来る前まで夜怪狩りを主とする傭兵をやっていた。雇われのな……」
光華の声は昔の思い出に浸っているかのような思い詰めたものだった。
『……ヤカイ狩り? 』
「夜怪って、あの、神話とかに出てくる化け物? 」
理雨流が真剣に光華に尋ねるが少しだけ眉間に眉を寄よせている。
『そうだ、神話に出てくるやつだ』
「信じることは出来ないだろうが……夜怪はいる」
その言葉からは覇気が全く感じられず、光華のその想いが窺えた。
「夜怪ね……」
丹澤が普段とは違う雰囲気、いつもの彼とは異なる真面目な表情で物思いにふけるかのような深い意味を覗かせる声をたった四文字に乗せて顔を伏せた。
「夜怪は神話の中の存在だけではない。実際いる、しかし多くの者にはその姿は見えん……だからそのように神話などというものになってしまったのだ」
『どうして見えないんだ? 』
「信じれないだろうがな……」
「信じますーよーだからーどんなのかーおしえてーくださーいー」
紫苑は夜怪がなんなのか知りたいようだ。俺も知りたいという思いには紫苑と変わりはないのだが、信じれない。光華の話すことは嘘じゃないと分かるのだが、やはりその話を信じることは出来ない。
「夜怪……名前の由来は夜出てくる怪物、そのままだな。種類は多くあるとされ、人型のモノ、四足歩行のモノ、空を飛ぶモノ……まぁ他にも色々といるという。大きさもそれぞれ一個体によって違い、人と同じ大きさのモノから雲のように大きいモノまである……古来からいるとされている夜怪はたいていの人には見えないはずなのだが、やはり見えた人もいるのだろう、古来それらは神として奉られていたらしい」
「どうしてその神を狩っていたの? 」
理雨流の疑問の答えも知りたいが俺にはもっと聞きたいことがあるのだが……
「夜怪だって生き物だ……食っていかなきゃ死ぬ……」
光華の表情が曇り、目には怒りの炎が燈る。
「だからどうして狩るんや? 昔からいる神なんやろ。それは……」
丹澤が光華の遠回しな発言から光華の言いたいことを捕えられないようで疑問を投げかけている……ようなんだが、演技のような口ぶりに思える。
「……奴らは人を喰らう……」
光華がボソッと小声で呟くように言ったが俺はちゃんとソレを聞き取ることが出来た。その声には憤怒の念しかこもっていなかった。
「んっ聞こえんかった、もう一回言ってぇな」
丹澤、理雨流、紫苑は光華の声が聞こえなかったようでリアクションはない。
「……とにかく夜怪は敵だ! だから殲滅しなければならん」
「なんだそりゃ〜」
丹澤の声はおちゃらけている……が光華の表情は暗い。
『光華……夜怪は人を喰らうって言ったよな……』
そもそも夜怪とはなんなのか詳しくは俺は知らない。だから…というわけではないのだが今聞く事ではないという事は事実なのでこのことについては今追求しないことにした。代わりに気になっていた事を聞く。
「夜怪はどうして少数の人にしか見ることができないんだ? 」
光華は夜怪狩りをしていたという、であるならば光華は見える方に入っているはずだ。
「夜怪から生き残るために、いや……生き残った者の中で何かが変わる……自らが生き残るために」
何が変わったら見えるようになるのか?とにかく光華は夜怪が見えるわけだから……
「光華……夜怪に襲われたことある……の? 」
「…………ある……」
深く追求することは許さない。鉛のような空気がそう物語っているかのように思われた。俺自身も深く掘り下げる話しではないと思ったので話題を変えることにした。
渉のいる世界では神話は義務で教えられる。他にも義務には色々とあり、武具の扱い方、料理の作り方もそれの中に入っている。




