劣等感
「お……丈夫……か………………」
『ん……』
「お……い……丈夫で……か? ……早く……おき……よー」
『なんだ? 』
「おぉーい大……夫ですか? 生きてますかー? 起きてくだ…ーい! 」
「うんっ……」
閉じていた目を開いた時見えたものは……シャンデリアの光りに照らされた紫苑……ふんわりと俺の背中を支えているのは恐らくソファーだろう。
『紫苑……か』
「どうしたんですか? 大丈夫ですか? 」
紫苑が何か察したのだろう、心配してくれるが気分も体調も最悪だ。腕の感覚は未だはっきりしていないし……吐き気も未だ続いている。
『あんな小さな娘に負けたのか……』
俺の顔を覗き終わった紫苑が俺の寝かされているソファーの横(頭の方)に腰掛ける。
俺は起き上がりまだ感覚の戻らない腕を摩る。
「今、何時? 」
「今ですか? えっとですね、5時30分頃ですね」
紫苑は自身の腕時計をみつつそう言う。
「どうかしたんですか? ソファーなんかに寝て? 」
「いや……」
紫苑が不思議そうな顔をし見つめてくる。
「それより紫苑、話し方が全然違うね……」
俺は話題を逸らすため朝とは全然違う紫苑の話し方について聞いた。
「あっ! 気付きましたか? なんかですね、眠った後ってハキハキ喋れるんですよ」
紫苑は嬉しそうに喋っているのだが、俺は気分もあってかなにかしっくりこない。
「そんなことより、もうご飯の時間ですよ」
「……ご飯ってここで食べるの? 」
そう俺が言った時。
「渉、起きたか? ……やり過ぎたな……」
声のした方(長いテーブルのある方)に振り向く。きっと光華だろう。初めて名前を呼ばれた気がする。
「光華……」
俺は顔を伏せる……自分を情けなく思い、光華に顔を見せたくなかったからだ。
「そう落ち込むな……お前も鍛練していけばもっと強くなれる。安心しろ」
確かに光華のあの威圧感から彼女は強いだろうとは思っていたが、まさか……負かされるとは思わなかった。それもあそこまで、たやすく……
「……また……手合わせしてもらえるかな? 」
俺は光華にそう頼んだ…決してリベンジをしたいなどと思っているわけでなく、ただ…ただ強い人とやりあえば自分も強くなれるのではないか、そう思ったからだ。
俺はある程度自分の腕に自信をもっていた。この学校が俺を引き抜いてくれたのも俺の実力のおかげだと今でも思っている。だから力で負けてしまっては俺がここにいる意味が失くなってしまう。
「あぁ、いいぞ……手は抜かないがな」
「……有り難う」
「……渉? 彼女は? 」
紫苑が真ん丸に近い目を見開き、光華をみながらそう言う。
「……あぁ……彼女は光華、有澤 光華、えっと歳は18、さっきまで……手合わせしてもらっていたんだ」
俺が光華の紹介を終えると紫苑が……
「私は月岡 紫苑っていいます。15です。これからよろしくお願いします」
言い終わりと同時に紫苑は右手を前に出す。
小走りに紫苑に近づいた光華は出されている紫苑の手を握った。
「こちらこそよろしく頼む。紫苑っ」
簡単な挨拶ではあるがやはり何か良い意味で重みがある光華の文句からは好意的な印象を受ける。
「飯はここで食うようになっているようだぞ」
挨拶早々に光華は長い長いテーブルを、あそこだとばかりに指す。
『……飯……なんだろ? 』
未だ何か胸に、もやもやと劣等感が渦巻いているが焦ったところで変わりはしない。焦るよりは行動をするべきだし、腹も大分空いている。
今すぐにでも光華に相手をしてもらいたいが、未だ体調は万全ではないし、やはり腹が減っては戦は出来ないからな……
渉は自分の力に自負心を持っている。特に剣技においては自負も大きく、実力もそれ相応にある。だが戦闘における勘が効き過ぎそれが裏目にでることもある。体が思考に追い付かない、渉はそれに悩んでいる。




