第8話 異世界の普通に混乱するアンネリーゼ①
どうしたらいいの!?
フェルには隠してたのに、コハクが出てきちゃった!
「アンネリーゼ、その子狐は……?」
『ボクねー、コハク! 聖獣なんだぞぉ』
止める間もなく、自己紹介しちゃった。
え、いいの?
聖獣って普通にいるものなの?
「聖獣……!? じゃあ、アンネリーゼって使徒さまだったのか!」
普通にいなかった、聖獣=使徒だった……。
これ……まずくない?
使徒だってバレたら、どうなるの??
『そうだよー、エヴァリディアス様の使徒!』
「命の神様か。オレは使徒さま見るの初めてだけど、むかし魔力の神、ルミナスさまの使徒さまがこの街を通ったって聞いたなぁ」
なんか、めちゃめちゃ普通に話してるよ。
使徒ってそんな雰囲気でいいんですね……。
一人で焦って損しちゃった。
「そうなんだ、まだ使徒二日目で」
「え、めちゃくちゃ来たばっかりじゃん! じゃあ、この世界のこと全然知らないのか?」
「うん、まだなんとなくしか……」
コハクにジャムの実の材料を探して、と伝えながら私はフェルとアキネの花を拾う。
アキネの花の一部は、私が戻りながらふんじゃったみたいでクッタリしていた。
あとで、流水できちんと洗わないとね。ん? 浄化なのかな。
ややこしい。
「そっか……使徒さまって別の世界からくるんだよな、神様に選ばれて」
「うん」
死後っていうのは言わない方がいいかな。
知り合ったばかりだけど、フェルは優しい。
今も、足元の悪い森の中を、足場が悪いところは自然に私の手をとって誘導してくれたり、石を蹴ったりして私が歩きやすくしてくれてる。
私の靴は仕立てのいいブーツだけど、フェルのブーツははき古したくてくてのものだった。
汚れがないのは、古くても浄化しているからだろうなぁ。
「最初、アンネリーゼを見た時、月の女神アニマドさまの化身かと思ったんだけど、そうハズレじゃなかったんだな」
「どういうこと?」
「だって、月みたいな髪色してるし、その、すげぇ可愛かったから……」
「ふふ、ありがと」
褒められるのは嬉しい。
でも、この世界の月ってピンクなんだね……。
それにしても、エヴァリディアス様は神様の一人って言ってたけど、月の女神とか、魔力の神とか、ほんとうにたくさんいるんだぁ。
日本でいうところの、八百万の神、みたいなことかも?
「エヴァリディアス様を信仰してるのに、信仰札はつけないのか?」
んん? この世界の言葉は全部翻訳されてるのに、今一瞬副音声みたいなのが付いた。
信仰札……大切な言葉なのかな?
『アンネリーゼは、生きてるだけで使徒だからね~。でも、どうせなら信仰札つけて、大活躍してもいいねー!』
待ってよコハク。まず、私はその信仰札がわからないよっ。
「おい、聖獣さま。アンネリーゼが困ってるぞ。信仰札をもしかして、知らねぇとか」
「うん、知らないとまずいよね……?」
『言わなかったっけ~? どの神様を信仰してるか、札をさげるんだー。フェルが下げてるのは、石の神、デスティリさまの信仰札でしょ~?」
フェルが、首から下げている札を見せてくれた。
木の札に、灰色で石らしいものが書いてある。
なるほど、これで誰に信仰してるかが見てわかるんだ。
日本じゃ、なにかを信仰しているとかおおっぴらにする印象はないなぁ。
海外の、十字架みたいなものかな?
「そういうのは、自分で作るの?」
「いや、信仰札の店があるからそこで買うんだ。古くなって、絵柄が擦れ切れてきたら信仰する神の神殿に、奉納することになってる」
「買う……じゃあ、ともかくお金を手に入れないと……」
どのギルドに登録するにしても、八歳は若すぎる。
むむむ、どうしよう。
家の畑で取れる野菜は、売れるほど多くはないし。
「もしかして、アンネリーゼって使徒なのに金がないのか……? あんな立派な家があるのに」
「そうなんだぁ。食べ物はあるんだけど、手持ちのお金はないんだ」
そもそも、この世界のお金をまだ知らない。
杏奈だった時代でさえ、親のクレジットカードで電子漫画とか、オンデマンドに加入していた。私は日本円を触ったのは、小学生の時だけだ。
うう、先が長そう。
「アンネリーゼが嫌じゃなかったら、オレ、出来たポーション売りにいってやろうか?」
「え、ほんと!?」
「オレは冒険者ギルドだから、売る先が冒険者ギルドになるけど……あれ? 買い取ってもらえるよな?」
私は、常識担当であるはずのコハクを見た。
コハクは、やや背の高い木に飛びついていた。
『さぁ~? ボクにギルドのことなんかわかんないよ』
コハク~! なんだったら分かるのー?
信仰札のことだって、フェルがいたから知れたんだよー?
聖獣としてどうなの? エヴァリディアス様に言いつけちゃうよ!
「まあ、アグーレの実が見つかったし、後で一緒に行こうぜ、冒険者ギルド」
「あ、あ、それならあとで魔力ポーションも作るから、二種類持っていく!」
コハクがのぼっていたのは、例の味がわからないアグーレの実だった。
私でも、うんと背伸びをすればとれる……かも。
フェルが、ナイフを出してすいすいと実を外してはしまっている。
フェルの身長なら、届くよねえ。
私は、コハクが体重をかけて曲げた木の枝から、ぴょんぴょん跳ねて何とか一個もぎとった。
見た目は、黄色と茶色て、形は少しレモンに似てる。
すっぱいのかな?
朝食用のジャムを取りにきたけど、予想外の運動が多くてお腹ペコペコだ。
とりあえず、今回は魔物がいない!
私とコハクは、フェルを連れて家にもどった。
ただいま、我が家。
さぁ、朝食を作るよ!




