第33話 アンネリーゼと紫外線①
「おや、もうタルトができたんですか?」
失敗作のタルトは一個を除いて、そのままフェルの空間収納にしまった。
味は問題ないので、フランクさんたちにあげる予定。
問題は、タルトをいれる瓶が魔石が足らなくて止まってしまったこと。
コハクが倒したオークたちは、まだ解体前だ。
「ランスロット、おっせーぞ。魔石よこせ」
「いえいえ、貸してください。オークの魔石がとれたら返しますので」
ランスロットさんが戻ってきて、ちょっとほっとした。
さっきまでの私とフェルは、しんみりした空気になってしまってなんだか恥ずかしかった。
私もフェルも、ぼろぼろと泣いてしまったのでなんとなく顔を合わせにくい。
ポーション100本も出来ていたけど、なんとなくコハクの毛並みをモフモフしていた。
「はい、どうぞ。このサイズの魔石でいいですか?」
「はい、充分だと思います」
この大きさなら60個作れそう。そうだ。
「これがタルトです」
ランスロットさんにとっておいた一個をあげると、ランスロットさんはさすがにタルトを知っていた。
フェルと同じく立ち食いしたのはびっくりしたけど。
「屋敷で、クッキー生地を砕いたタルト生地も食べましたが、こちらはさくさくしていていいですね」
「もしかして、そっちの生地のほうが良かったですか!?」
貴族の方なら、食器の上でナイフとフォークで食べるんだから柔らかい生地なのかな。
失敗しちゃった……!?
「いいえ、どうせ出されるときに一口サイズにカットされて出てくるでしょうから。ナイフで切りにくいものは大体そうやって出てきますから、問題はないでしょう」
良かった……。
っていうことは器も……。
「タルトの入れ物は、この透明な瓶でもいいんでしょうか」
「まあ、派手はものは好まれますが、化粧水のように自分が普段使いするものはともかく、器は使用人が回収するのですから大丈夫でしょう」
フェルは、さっさと作りたてのタルトを瓶の中に入れていく。
テーブルには、フェルがトッピングしたタルトでいっぱいだったのでしまって空間収納しないと、テーブルから落ちてしまう。
アンチエイジングポーションと化粧水は、ランスロットさんの空間収納に。
コハクはポーション100本と何体かのオークをしまった。
私はいつもの手ぶらだけど、これを売れば念願のマジックバッグが手に入るもんね。
冒険者ギルドに向かって歩き出すと、足取りが軽くなる。
「そういえば、お知り合いの方とお話は済んだんですか?」
「ええ」
ランスロットさんは破顔した。
そして、前を歩くフェルの頭をポンと叩いた。
「フェルを追いかけまわしてた連中が、しっかり全員冒険者ギルドに捕まったかどうか確認したりしていました」
「そりゃ助かった」
そうか……フランクさんでも追っ手のすべては知らないかもしれないし。
いつの間にか、色々手をまわしてくれてたんだ。
「どうやって……」
全員を確認したんですか? と聞く前に、森の外に出る。
すかさず、露店の商人さんたちが私たちに手を振ってきた。
「アンネリーゼちゃーん!」
「助けてくれてありがとうなー!」
もうたくさんお礼も受け取ったし、事件も終わったんだけど……。
こそばゆいなぁ。
コハクがランスロットさんの肩によじ登って、気楽に手と尻尾を振っている。
道行く人たちも、そんなコハクに手を振り返して、道がにぎわう。
昨日もこんな感じだったのに、パレード再び。
でも、冒険者ギルドにはフェルを追い回してた人たちがたくさんいるんだよね……。
大丈夫かな?
「お、ちょうどいいとこに」
フランクさんが、冒険者ギルドの前で誰かと話し込んでいるのを見た。
あの人は……確か商業ギルドの代表だったかな?
「ランスロットさま、コハクさま、アンネリーゼ、フェル、こちらは商業ギルドのギルドマスターのバーバラだ。お貴族様の美容品の買い取りということで、バーバラにも付き添ってもらおうと思って」
「えっそうだったんですか! お待たせしてしまってすいません!」
いつもなら朝に顔をだしている。
もしかして、すっごくお待たせしてしまったのでは……?
「いいえ、色々な打ち合わせをしていましたから」
バーバラさんが穏やかに笑む。
四十代くらいの、おっとりしたマダムに見える。
耳に綺麗なピアスが揺れていて、優雅な人だ。
「フェル、連中は裏方の仕事に回してる。気にせず正面から入ってきていいぞ」
フランクさんがにかっと笑って、フェルの背を押す。
久しぶりに正面から冒険者ギルドの中に入ると、他の冒険者からも口々に挨拶された。
ただ、前と違うのは併設された居酒屋で飲んでる冒険者がかなり減っている。
代わりに、身ぎれいな服装の人たちが所在なげにうろついていた。
私の顔を見ると、びしっと一律に頭を下げてくる。
「ああ、アンネリーゼのポーションのうわさを聞きつけてきた貴族の使用人たちだ。どうも、アンチエイジングポーションの話がどっかから漏れたみたいでな……」
すまなそうな顔でフランクさんが謝るけど、誰も買わないんじゃないかなぁという私の心配は消えた。
ランスロットさんの予想だと、アンチエイジングポーションも化粧水も高額だ。
買おうと思っている方がいるなら、大丈夫そうだね。
私たちは、いつも通されてた部屋を通過してもっと大きな部屋に招かれた。
フェルもキョロキョロしているあたり、見たことがない部屋みたい。
「俺の部屋だ。一番防音だからな」
フランクさんの部屋ということは、ギルマスの部屋かぁ。
机のうえには書類なんかもあるし、私の流水を入れた水かめもあった。
「アンネリーゼの流水を飲んでから、俺も家族も流水の味がだいぶマシになってなぁ。アンネリーゼが離れたら、この水が飲めないのも、寂しいな」
フェルも、今はだいぶ流水が日本の水道水に近づいてるもんね。
フランクさんが、自分の流水のレベルがあがったなら他の人にも広められるね。
私はサービスのつもりで、残りすくない流水に新しく注いだ。
「おっ済まねえ……催促したつもりじゃなかったんだが」
「いや、してただろ……フランクさんもちゃっかりしてんなぁ」
私たちの中で一番おかねにしっかりしてるフェルにつっこまれつつ、フランクさんはお茶を淹れてくれた。
長い二対のソファに、私とコハクとフェルが座る。
反対側には、フランクさんとバーバラさん。
ランスロットさんは、一人立っていて気にしないように目配せをする。
「まあ……なんておいしいお茶でしょう……これが先ほど言った流水の差ですか」
バーバラさんがひとしきり感心する。
トッピングに失敗したタルトを出すと、フランクさんもバーバラさんも、顔が溶けている。
「なんて美味……! 貴族の方のご相伴にあずかることも多いですけど、砂糖の味が強くて……これほど新鮮でフルーツが楽しめるものは初めてです」
「これが、失敗作……? 充分綺麗に見えるがなあ。しかし、生地のザクザク感と上のフルーツで食感が楽しいな。中のカスタードがバランスとってるのか!」
食レポありがとうございます。
好評で良かった。
「今回は、シャムと苺ですが、何個かパターンを作って、上のフルーツを変える予定です」
「まああ、素晴らしいわ」
『アンネリーゼ、ボクも食べる~』
コハクがだだをこねた。あんなに生クリームのフルーツケーキを食べたのに……。
見た目はふわふわの銀色の子狐。でも、お腹はブラックホールみたい。
フランクさんとバーバラさんが食べ終わると、すかさずランスロットさんがアンチエイジングポーションと化粧水を並べる。
鑑定の魔導具で、二人がアンチエイジングポーションをみたあと、化粧水に移る。
そこで、フランクさんとバーバラさんは首を傾げた。
「紫外線を防ぐとありますが、紫外線とは、なんでしょう……?」
異世界に紫外線の概念がなかった!?
どうしよう、説明で伝わるかな……?
キャラで一番悩んだのは、ランスロットです。最初は16歳くらいを想定していて、悩んで21にしました。
フェルが大人びているので、ここまであげないと大人の包容力が出てこなかったというか……




