第30話 アンネリーゼと美容品②
『いやーアンネリーゼの力が強まったおかげで、魔法の威力があがってね。さくさく狩りできちゃった☆』
なんだか、語尾に星がついてる勢いのコハク。
私がアンチエイジングポーションを作っている間に、オークを倒すなんて。
「すっげーコハクさま、これオークジェネラルじゃないのか?」
玄関と畑の間に、こんもりと魔物の山が積みあがった。
コハクは空間収納に入れてきたんだろうけど、このサイズ……。
二メートルこえてない??
「コハク、これさばけるの……?」
この、豚の頭の魔物を……。
『さすがに大きすぎるねー』
「それこそ、冒険者ギルドで解体してもらったほうがよくないか? 肉はまだホーンピッグのもあるし」
『でもホーンピッグよりおいしいのにー』
「じゃあ、解体してもらってホーンピッグを売るとか?」
『それだー!』
なんか、フェルとコハクで話が決まっているけど、オークを食べるの……?
そりゃあ、他の魔物肉も食べてきちゃったけどさ……。
二足歩行の豚だよ?
「大きな魔石が取れそうですね。魔石だけ買い取りにしては?」
オークに困惑してランスロットさんを見上げたけど、ランスロットさんもそれが普通みたい。
普通に食べるものなんだ、そっか……。
でも私も冷蔵庫のお肉知らずに食べちゃってるしな……。
『おなか空いた~』
「あ、オレ米炊いてたんだった!」
もうお昼か。
時計は十一時半。コハクの腹時計は正確だね。
お米があって、冷蔵庫には豚肉もどきと牛肉もどきがある。
それに、感謝の品として醤油や味噌もある。
今日は和食だ!
とっさに閃いたのは、牛丼と生姜焼き。
……でも、ランスロットさんは貴族だもんね。
トマトシチューをご飯にかけていたけど、またどんぶりはいかがなものか。
今回は生姜焼きにしよう。
フェルには野菜を切ってもらって、お味噌汁の支度。
さすがのフェルも味噌汁は飲んだことがないようで、味噌と出汁は私が担当する。
今回は豚汁。十代のフェルも二十代と思われるランスロットさんも、お肉は好きだろうしね。
豚かぶりだけど、まあいいか……。
「出汁の原料はカルプの乾燥粉末……?」
カルプってなんだろう。
鑑定さんは、そのうち進化して異世界オリジナルも説明してくれないだろうか。
「カルプは、海藻をよく食べる海の魚です。そのまま食べるには味が濃すぎるんですが、出汁をとるとうまみが高いので、和食の出汁によく使われれていますね」
ランスロットさんが、危なっかしい手つきで玉ねぎをくし切りにする。
貴族の方だもんな……料理はしてこなかったよね。
カルプか……鰹節みたいなものかな?
カツオはそのままでもおいしいけど。
貰った調味料には酒もみりんもあったけど、片栗粉がない。
私は錬金窯にじゃがいもを放り込んで、片栗粉を錬成する。
ランスロットさんに、肉にまぶすのと、残りを瓶に入れる作業を任せる。
「さて、私はタレ作り、と」
ボウルに、酒、しょうが、砂糖、醤油を入れてよくかき混ぜる。
つけこみたいけど……背後で、家の浄化を終えてきゅるきゅるの眼で見てくるコハクがいる。
仕方ない、時短でいこう。
ランスロットさんが切った玉ねぎを、充分炒める。私個人としてはしなしなの玉ねぎの方が好き。
透き通ってきたところでフライパンの隅に玉ねぎを寄せて、肉を焼く。
作ったタレを絡めたところでフェルとバトンタッチ。
今度はお味噌汁。カルプの粉を入れて味見をすると、鰹節とあご出汁、昆布のような味もする。複雑な味のハーモニー。これ一つで、三つ以上の味を備えてる!
箸でお玉に乗せた味噌を少しずつ、ときいれる。
出汁を調整しながら、味を調えて最後に刻んだ長ネギをいれる。
「出来たぁ、豚汁と生姜焼き!」
冷蔵庫の豚肉を使い切ったぞー。
五人前くらい作っちゃったけど、食べきれなかったら誰かの空間収納に入れて……。
「俺は皿を並べよう。それしか役に立たないからね」
「じゃ、オレが盛り付ける」
『ボクは食べる~』
午後は化粧水作り。
ついでに、シャムの実と苺でフルーツケーキを作ろう。
「「「偉大なる食の神テティスよ、 あなたの御力に感謝を。 あなたの御恵みに感謝を。その御加護が我らと共にあらんことを」」」
一番仕上がりが気になった生姜焼きを、箸でつまむ。
これ、片栗粉いらなかったかも? っていうくらいジューシーでお肉の油がおいしい。
片栗粉で端がカリカリだけど、甘い生姜たれが絡んで厚めのお肉が甘い。
生姜焼きにするには勿体ないほど、いいお肉だった。
「うまっ……なんだこれ、うま!!!」
「下町の食堂で生姜やきを食べたことはありますが、これは……クオリティが違いますね」
『お肉おかわり~~』
フェルもコハクもランスロットさんも、豚汁も生姜焼きも夢中になって食べている。
コハク以外はナイフとフォークだけど、この生姜焼きはナイフいらないほど柔らかいもんね。
ランスロットさんはさすがに綺麗な食べ方をしているけど、コハクとフェルはがつがつと食べ進む。
「アンネリーゼちゃん、化粧水を入れる入れ物は決まりましたか?」
「あっ……決まってません」
そうだよ、ポーションはポーション瓶だけど……。
あとはお菓子を入れる魔導具の瓶だけで……。貴族の方に瓶って微妙だよね……?
「良かったら俺に任せてみませんか?」
「そうか……ランスロットさんは魔導具師!」
「そういうこと」
良かったぁ。
危うく透明な瓶で王族の方に渡しちゃうところだったよ。
ランスロットさんがいて助かったなぁ。
「アンネリーゼちゃんは、本当に八歳なのかな?」
「え、いえ……前の世界ではもう少し生きてました。エヴァリディアス様のご厚意で、八歳からリスタートしたんですけど」
「なるほど」
ランスロットさんの眼鏡が光る。
豚汁を最後の一口を飲みほして、また頷く。
「コールドポーションの指示や、言動、こうした料理の腕前は使徒さまだからだと思いましたが……なるほど」
なんとなく、杏奈時代は二十二歳だったことを察せられた気がした。
ランスロットさんのほうが、貴族だし使徒についても詳しそう。
それでも、何も言わなかったので私も食事を終えた。
あんなにあったお肉は、フェルとコハクの胃に収まってしまった。
「ふー、人生でこんなに食ったことねえ」
『お腹いっぱいでなにもしたくないねぇ~』
お腹を抱える一人と一匹に、私はお茶を淹れた。
貰った中には紅茶もあったけど、これはケーキをつくったときに取っておこう。
こんなにまったりしてる時間を過ごしていると、昨日の騒動が嘘みたい。
気を抜くと、またうとうとしそう。
すると、ランスロットさんが私を抱きかかえてソファーに下ろした。
空間収納からひざかけのようなものを出して、私にかけてくれる。
食べてすぐに寝たら体に悪い……。
そう思いながら、瞼が下がっていく。
最後に見たのは、ランスロットさんがお皿を下げて浄化をかけているところで、意識は途絶えた。
和風だしが出てきました。唯一大人のランスロットは寝かしつけ係です




