第27話 アンネリーゼと眠気
ふう。コールドポーションは、トータル100本作った。
あとどれくらい必要かな。
『アンネリーゼ、回復疲れたよぉ。お腹減ったー』
コハクに言われて、時計を見た。
時間は夜の九時になろうとしてる。
夕ご飯の時間、なくなってたね。
「じゃあ、フェルの作りかけで何か作ろうか」
鍋の火は消えてるけど、具材はシチューみたい。
冷蔵庫に残ってるお肉も、どんどん使わないとね。
おそらく豚肉……と、おそらく牛肉……だと思われる魔物肉。
牛肉っぽいお肉を選んで、角切りに切る。
筋を切ろうにも、筋が全然ない。残りはステーキのほうがフェルが喜ぶかも?
じゃがいも、人参、玉ねぎの中に潰して濾したトマトを入れて、お肉とローリエを入れて煮込む。
揚げ物……もいいけど、絶対冷めちゃうな。
エイムの森にいるか分からないけど、鳥系でお肉がたくさんついてるやつがいたら、から揚げを作ってもいいかも。
醤油がないから、塩味になっちゃうけど。
『アンネリーゼ、まだぁ~?』
「煮込んでるから、待っててね」
闇の使徒のせいで、怒り狂ってたひとたち、どうなったかなぁ。
コールドポーション、どのくらいで効果あるんだろう。
闇の使徒は、どういうつもりで激怒ポーション配ったんだろうなぁ。
使徒なんだから、前世でいったん死んだ人だよね?
――考えたところで、なにも分からないか。
憶測でなにか言ってても意味がないもんね。
「今のうちに、太陽草とコルドの葉を摘んでくるね」
ポーションを持って、外に出る。
コハクが疲れるのも当たり前だ。
もう十回以上は、畑を回復してる。
いくら聖獣でも、魔力の限界があるよね。
摘んで、ポーションをかけて回復させて、また摘んで。
……ただ、問題がある。
すっごく眠い。
疲れはポーションと緊張感でとんでるけど、ひたすら眠い。
でも、コールドポーションを作れるのは私だけだ。
眠気に負けてる場合じゃない。
こんなときこそ、フランクさんのあのミント飴だよ。
すごく眠気がとびそう。
スマホを開いて、新しく追加されたものを色々チェックした。
中には、アンチエイジングポーションとか、化粧水なんかもある。
八歳児の私には、意味がないな~。
『アンネリーゼ、お鍋が~』
「あ、はーい! ごめんね今行く」
鍋の火力を弱めて味見をしたけど、すこし酸味が強い。
牛乳を足してまろやかにすると、塩コショウしてちょうどいい感じ。
フェルがご飯のセットしてくれてたのを押したから、お米はとっくに炊けてる。
コハクの分だけよそうと、コハクは私の顔を見上げた。
『アンネリーゼは食べないの?』
「今満腹になったら寝ちゃいそうで……」
『すごく頑張ってるもんね。偉いよ』
トマトシチューをばくばく食べてるコハクの毛並みに、よりかかる。
あったかいし、もふもふしてるし、振動が――。
「アンネリーゼ、アンネリーゼ!」
つやつやで、柔らかくて――。
「アンネリーゼ!」
はっ。
今、私寝てた?
「疲れてるところ悪い。あと30本ほど、コールドポーション作れるか?」
「フェル……おかえり。あと30本?」
目途がついたんだ。
良かった。あと少し頑張ろう。
今も、怒ってるひとがそれだけいるってことだもんね。
さっき摘んだ量で間に合うかな……。
水を飲んで少ししゃっきりすると、錬金窯に向かう。
魔力水を作って、材料を入れて、世界樹の葉を一枚。
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
今回の量は、40本分だった。
フェルは、ご飯を食べもせずにまた飛び出していく。
みんな、頑張ってる。
私も、また薬草取りにいかなきゃ……!
『アンネリーゼ、今日のエヴァリディアス様のご褒美はいいの?』
「ごめん、コハク……。今はまだそれどころじゃないから」
今日の分は無効になってもいい。
明日頑張ればいいんだから。
世界樹の葉入りの魔力ポーションのお陰で、まだ錬成は出来る。
そうだ。
コハクに頼らずに、畑用のポーションを作っておこう。
最初は、畑の薬草全部摘んでは回復してたから、ポーションの素材は山のようにある。
ポーションは、世界樹の葉が入ってなくても効き目あったもんね。
ポーション瓶生成の魔導具は、ホーンピッグをたくさん倒したおかげでまだ余裕がある。
ホーンピッグ一体の魔石で50本はとれるから。まだ魔石は六個もある。
ポーション50本、作っても大丈夫だよね?
『今日のご飯もおいしいよー』
「良かった。途中まではフェルが作ったんだよ」
『フェルは、順調に馴染んでるね。エヴァリディアス様を信仰しだしてからは、魔力回復も早くなってるし』
そうなんだ……。
エヴァリディアス様の使徒である私やコハクといることで、なにかしらのいいことがあると私も嬉しい。
ポーションを50本作り足すと、私は薬草を摘んでは回復を繰り返す。
体を無理やりにでも動かさないと、睡魔が忍び寄ってくる。
魔力はすぐさま回復するので、あいまに牛乳でバターを錬成したり生クリームを作ったり、カカオからチョコレートを作ったりと、甘いものを作ってフェルを待つ。
時計は十時を過ぎ、瞼がどんどん重くなる。
コハクがくっついてくるので、その体温が眠りを呼び込んできた。
寝ちゃダメ……寝ちゃダメ……。
フェルが帰ってくるまで、待たなきゃ。
ランスロットさまは大丈夫かな。
貴族の方だし、街に下りてきてびっくりしただろうな。
「アンネリーゼーー!」
「アンネリーゼさまー!」
頭がかくりかくりと揺れそうな中、フェルとランスロットさまの声で目が覚める。
まだコールドポーション足りない?
何本作ればいいかな?
「終わったぞ、アンネリーゼ! 街の確認が取れたってさ!」
「お疲れ様でした、アンネリーゼさま。無事に、被害はゼロになりましたよ」
疲れた顔で、でも嬉しそうなフェルの言葉。
良かった。良かったよ……!
エヴァリディアス様の使徒として、役にたてたよ!
「良かった……! よかっ、た、ぁ……」
急速に意識が遠くなる。
緊張の糸が切れたんだ、と思う間に意識が遠ざかる。
『おやすみ、アンネリーゼ。初めての使徒のお仕事お疲れさま』
***
あれ……?
私、いつのまにかベッドに入ったんだろう。
うんと背伸びしてから、私ははっとした。
「コールドポーションは!? 街はどうなったんだっけ!?」
起き上がると、昨日の服のままだった。
私、いつ寝ちゃったんだろう。
スマホは朝の九時半だと告げている。
「おはよう、アンネリーゼ。街はもういつも通りだぜ」
「ソレビの街の救世主さま、落ち着いてください。もう事態は落ち着きました」
フェルとランスロットさまの顔が覗いて、笑いかける。
そ……っか。
コールドポーション、間に合ったんだっけ。
「生産ギルドも商業ギルドも感謝してたぜ。被害が大きかったのは冒険者ギルドだけど」
「町長と、各ギルドのマスターがアンネリーゼさまが起きたら感謝したいと」
え、そこまで!?
まあ、確かに暴れる人たちは凄かったけど……。
きゅるると私のお腹が鳴ったので、昨日のトマトシチューの残りをあっためながら、朝食になった。
「フランクさんも、直接謝りたがってたしなぁ」
「結局、136本使いましたからね。かなりの数をバラまかれましたね」
ランスロットさまは、貴族なのにちゃっかりご飯にトマトシチューをかけている。
コハクはランスロットさまを全く気にしていないので、なんかすっかりこの家に溶け込んで見える。
『エヴァリディアス様も喜んでると思うよー』
「コハクさま、耳にトマトシチューついてる」
「アンネリーゼさまはおかわりいかがですか? よそいますよ?」
ガヤガヤとにぎやかな食卓に、頬が緩む。
平和が帰ってきた。
まだ、錬金術師としては未熟な私だけど、邪神の使徒の災害を防いだんだ。
これからも、旅をしながらエヴァリディアス様の使徒としてお仕事できそう。
もっと、基礎を磨きながら寿命を集めて、そして使徒のお仕事を頑張る。
それが、新しい私。
アンネリーゼだもんね。
「街にいくとき……せっかくだからエヴァリディアス様の使徒だって言った方がいいよね。言った途端拝まれたりしないよね?」
「拝んだとしても、それはエヴァリディアス様へのお祈りだからアンネリーゼは気にすることないって」
「フェル、不遜だぞ。……ですが、使徒は本来民に下りる存在。感謝されこそ、親しまれるはずですよ」
でも……なぁ。
トマトのうまみを味わいながら、複雑な気持ちになる。
「ランスロットさまは、貴族なのに私たちに敬語でしょう?」
「一応、これでも貴族の端くれですしね。貴族は国の繁栄を与えてくれる存在には、大いに感謝します。そうですね、剣聖のような存在と同じでしょうか。民は親しみ、憧れ。貴族は礼儀をとる」
アイドルのようなものかなぁ。
一般人にはファンでも、貴族には人気芸能人として扱われる、みたいな?
私が杏奈時代のアイドルの存在について話すと、フェルとランスロットさまは興味津々に聞いていた。
コハクはどうでもよさそう。
お腹いっぱいであくびしてる。
「なるほど、確かにアンネリーゼさまはアイドルかもしれませんね」
「その、ファンサ? はしなくてもいいと思うぜ」
お腹も膨れたことだし、街の人たちは待っている。
アイドルデビュー……じゃなくて、いよいよ使徒デビューだ。
元気になったみんなの顔を見に行こう!
アンネリーゼが作った今回の量は、ベテラン薬師が5人がかりで徹夜して作る量です。
アンネリーゼは魔力水をすいすいこなしていますが、薬師たちは時間もかかるし薬草から成分を抽出したりするので、投げ込み型の錬金術師とはスピードから負けます。




