第24話 アンネリーゼと結界魔法
私は、なにかが飛び出してきたので反射で魔法を放ったみたい。
そういえば、結界魔法を持ってたんだ。
魔力の扱いにも慣れてきて、反射で出しちゃったみたい。
フェルはショートソードを持ったまま、ぽかんとして自分の体を触っている。
『ホーンピッグは、パリーカやローリエなんかが大好物だから注意してねー』
「アンネリーゼ、なにか透明な膜が体にくっついてるぞ!」
この結界、とっさに私たちを守ることを考えたから体にまとうように考えてしまったようだ。
普通は、空間ごと守るよね……魔力不足かも。
でも、フェルも魔物が自分の体に触れないとわかってどんどん攻撃してる。
魔物――ホーンピッグは、頭に大きな角があって突進を繰り返す。
いつのまにか、何体にも囲まれててバニラ……パリーカが大好きなら、ここが彼らの拠点なのかもしれない。
「アンネリーゼ、パリーカが必要ならどんどん摘んでくれ。オレはコハクさまと戦う!」
「う、うん! 無理しないでね」
そうだ、私は仕事をしないと。
結界魔法へ魔力を流しつつ、私は急いでパリーカを摘む。
アイスクリームにもなるし、今後ケーキを作るにもバニラは不可欠。
ホーンピッグには悪いけど、私にも分けてね。
『ホーンピッグのお肉って、柔らかくておいしいんだよね~』
「毛皮は、匂いがいいから貴族や大店の商人に高く売れるんだぜ」
むむむ、骨はブイヨンに欲しいし、今回は毛皮が高く売れるのは助かるなー。
私はせっせと花を摘み、コハクとフェルはホーンピッグを倒し続けた。
ホーンピッグの群れがいったん途絶えたところで、コハクが倒れたホーンピッグを一気に空間収納にしまう。
私はカゴから溢れていたパリーカをフェルに入れてもらう。
ホーンピッグが来た方向をおいかけると、今度は強くハーブっぽい匂いがしてきた。
『ローリエの木だねー』
「スパイスで売ってるやつか」
「ろ、ローリエ欲しい!!」
正直、魔物肉って日本の牛肉とかより臭みは少ない。
なくてもできるんだけどね、あれば嬉しい。
北海道でおばあちゃんが元乳牛だったお肉をもらってきたけど、あれはミルクくさかったなぁ。
「じゃあ、アンネリーゼが欲しいなら採ろうぜ」
ローリエって普通、月桂冠の葉よね……?
これ、乾燥したローリエが葉になってる……さすが異世界すぎる。
せっせと採取してしまっていると、フェルが思い出したように呻いた。
「孤児院でも使ってたけど、今思うと流水のひどさをごまかしてたな……」
ああ……。
ミントをやたら使うのも、そのせいなのかな。
なんとなく、異世界のみんなも流水はまずい……?
『誰かくるよ、人間の足音!』
なんとなく、嫌な予感がする。
私は、空間収納(生)にコハクとフェルを収納した。
そのまま、草むらの中をかき分けて膝まづく。
こういうとき、八歳児は便利だよね。
「このへん、戦闘のあとがあるぞ!」
「剣の跡と、魔法のあとか……。あの小僧か?」
「あいつにしちゃ、魔法の跡が大規模だぞ……」
「知ったもんか! あいつのせいで俺は20年も勤めてきた屋敷をクビになったんだ」
やっぱり、フェルの追っ手だ。
私が飛び出したら、簡単に追いつかれてしまう。
息をひそめて、呼吸を整える。
バレないように、バレないように。
「いねぇな……どこいったんだ!!」
「誰だよ、行き倒れて死んでるとか言ったやつ!」
「冒険者ギルドの裏口から出てくるとこを見たやつがいるって証人がいるんだ!」
見つかったんだ……!
ローブは完璧じゃなかったのかも。
もしくは、脱げたとか?
それでも声を殺していると、足音は遠ざかっていった。
あの人たちは、ホーンピッグを簡単に倒せるほど強いのかな?
遠回りで家に帰ると、私はコハクとフェルを空間収納(生)から出した。
「ごめん、アンネリーゼ! 一瞬、ギルド出るときにローブが脱げたんだ!」
『なんでボクまで隠すの~? 万が一アンネリーゼが襲われたらどうするの?』
フェルに謝られ、コハクに怒られたけど私は怖かった。
フェルがあの人たちに捕まってたらどうなってたんだろう。
前に会ったあの人たちも、確かに感じがわるかった。
でも、今回はブチ切れしていて、木を蹴ったり罵声を飛ばしたり……。
酔っていたとしても、勢いがおかしかった。
『アンネリーゼ、震えてるの……? ボク、怒りすぎた?』
「冷や汗かいてるし、顔色も真っ青だ……! ごめんな、オレのせいで」
そうなんだけど、そうじゃない。
森に行ってるときは気づかなかったけど、森から戻ったら瘴気みたいな気配が強くて。
ちょっと前までは、こんなんじゃなかった。
街の様子が気になるけど、フェルが見つかったら困る。
ホーンピッグの解体は、フェルとコハクにお願いして私は久しぶりに昼間にベッドに入った。
転生してから始めてだ。
――すごく嫌な予感がする。
スマホのステータス画面を開いて、魔力が1……2……3と回復していくのを見つめながら私は目を閉じた。
***
起きた時、外は夕暮れで家の中にはコハクの照明がついていた。
寝ていたのは、三時間くらいだったみたい。
ステータスを見ると、魔力は11に回復していた。
魔力ポーション作れる!
嫌な気配は消えないけど、少し遠ざかった気もする。
「コハク~」
『アンネリーゼ、起きた! 大丈夫?』
「うん、少し落ち着いたみたい」
『邪神の使徒のせいかな。アンネリーゼはまだ使徒として弱いから、当てられたんだね』
「うん……うん!?」
邪神の使徒!?
いたの? この辺に?
コハクぅ、早く言ってよ……。
『まあ、通り過ぎただけかもしれないし、何かしたのかもしれないし。そこまでは分かんないよ~』
コハクのテンションに、身構える気持ちがしぼむ。
通り過ぎただけでも、あんな嫌な気配がするんだ……。
何もしてませんように。
『魔力は溜まった?』
「うん、魔力ポーション作るよー!」
『世界樹の葉は、一枚ずつだからねー!』
魔力ポーションと、今回限りの栄養満腹ポーションで二枚だね。
世界樹まで行って、二枚の葉を取る。
そういえば、世界樹って落ち葉がないね。落ち葉でも凄い威力がありそうだけど。
錬金窯に行くと、コハクが厳しい表情で素材を確認している。
魔力ポーションの材料は、魔力水、月光草、アキネの花。手慣れて魔力水を作ると、コハクに見張られながら私はその素材の中に世界樹の葉を一枚入れた。
量としては、40本作れるくらいかな。
ポーション瓶生成のほうを見ると、大量にポーション瓶が並んでいた。
ホーンピッグからたくさん魔石が取れて、フェルがセットしてくれたんだろうな。
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
いつもより強く、錬金窯が光る。
魔力ポーションはいつも青色になるけど、今回のはすごく透き通っている。
どこか、フェルの瞳みたいな感じ。
”魔力ポーション:ランクS。魔力を最大限回復させ、短期的に持続する。美”
鑑定さんによると、世界樹の葉入りはすごい効果だ。これなら、毎日飲まなくて済みそう。
「お、起きたのか」
フェルが三階から降りてきて、じゃがいもの袋や玉ねぎ。それにお米や小麦をキッチンにしまう。
上に置いたままの野菜も回収してくれたんだね。
「フェル、魔石のセットありがとう!」
「どういたしまして。少しはよくなったみたいだな」
フェルの手が私の額にあたる。
「心配かけてごめんね……」
「元はといえば、オレの追っ手だったぜ!」
でも、あの追っ手の人たちがおかしかったわけで……ややこしい。
「誰も悪くないってことにしよ! でも、次に栄養満腹ポーション届けるのは私だからね」
「夜の街にアンネリーゼみたいな美少女がうろうろしたら、危険すぎる! それはダメだ!」
「じゃあ……フェルに作ったローブ借りる」
「なら、オレでいいじゃねーか」
言い争う私たちの横で、コハクが栄養満腹ポーションの材料をテーブルに並べる。
心なしか、呆れた視線だ。
『二人とも~いい加減にしなよ~。二人でいけばいいでしょ~、どうせ僕はお留守番だし』
「いや、アンネリーゼの空間収納(生)でコハクさまも連れていくべきだ!」
「わかった、それならいいよ」
空間収納(生)の中にいても状況は分かるみたいだし、聖獣のコハクがいれば邪神の使徒の気配も怖くない。
なにかあったら、助けてくれるはず!
Sランクの世界樹の葉入り魔力ポーションを飲むと、私は同じくスペシャルバージョンの栄養満腹ポーションを作成した。
素材はいっぱい、魔力はたっぷりなので魔力水もたくさん。
一回で60本を作れたので、二回錬成して120本。
これだけ作ったなら、安心だよね。
しかもこの120本は、二日はお腹が減らないスペシャル製。
ローブをしっかり被ったフェルと手を繋ぎ、コハクは空間収納の中に入れて私たちは出発した。
「どーなってんだ、これ……」
フェルが絶句する。
私も、言葉なく大通りで立ち尽くしていた。
そこは、いつもの冒険者ギルドに繋がる通りとは全然違っていた。




