第22話 アンネリーゼのランクアップ
フェルを待とうと思いながら、おいしそうなサンドイッチから目が離れない。
あの卵サンド、絶対おいしい。
駄目だ駄目だ、見た目は八歳でも、私はもう大人……!
そう言い聞かせてたのに、お腹の虫に負けて私はサンドイッチにかぶりついた。
もちろん、食の神様のテティスさまにはお祈りをして。
『あ、アンネリーゼだけなんか食べてる! ずるいー!』
畑から戻ってきたコハクが、椅子に飛び乗ってきた。
「コハクはフェルと食べない?」
『アンネリーゼと食べるー!』
しょうがない。私も食べちゃってるし何も言えない。
コハクの分も挟んで、サンドイッチを二個作った。
私の作った食パンがけっこう大きかったので、二個でもけっこうお腹いっぱいになると思うよ。
「このあと、フェルが魔力ポーション買ってきたらまた栄養満腹ポーションを作るんだ~。コハクは午後はなにするの?」
『魔力ポーション? アンネリーゼにはまだ早いよー。せめて成人しなきゃ』
「え?」
ポーションは、コハクが勧めてくれたのに。
まさか、魔力ポーションは飲んだらダメなの?
『いざというときは、同じ魔力の元であるボクが、魔力を直に流し込んであげてもいいけど。それはアンネリーゼの身になにかあったときだけだよ。今じゃない』
シャクシャクと、きゅうりとトマトとハムのサンドイッチを食べながら、コハクは困った顔をする。
私はふわふわの卵サンドを慌てて飲み込んだ。
「今だよ! だって飢えてる人がたくさん――」
『今までだってなんとかしてきたんでしょう? だったら、せめて午後ゆっくりしてその回復分で、また錬成すればいいじゃない』
この子狐、ときどきこういう可愛くないことを言う。
でも、命の神のエヴァリディアス様の聖獣なんだから、もっと緊急を緩めてもよくない?
『アンネリーゼはすでにやれるだけのことをやってるんだよ? うちの畑の野菜はボクの魔力で満ちてるし、それをよく食べるってことは自然回復の魔力が多いんだ。午前中に使い切っても、夜に二回錬成できてるでしょ』
「うん、そうだけど……」
「ボクが出来る協力は、薬草をたくさん摘んでも再生させること。アンネリーゼを守ること。魔石を集めること。くらいかな。でも、ないよりは全然いいでしょ?』
肉球吸わせてくれたり、毛皮を堪能させてくれたりもしてるもんね。
それに、ネクターラビットの魔石は一個でポーション瓶30本で消えてしまった。
ネクターラビットの魔石は二個だから、60本。
明日の分には全然足らない。
魔石は、フェルが帰ってきてお昼食べてからにしよう。
あとは、フェルが帰るまで、栄養満腹ポーションやポーションの素材をたくさん取って、またコハクに回復してもらわなきゃ。
材料が多いほど魔力水は必要だけど、私もそこらへんは慣れてきた。
昨日、匂い消しポーションもそれで大量に作って……。
「待って、自分回復用の魔力ポーションを作って……匂い消しポーションと栄養満腹ポーションどっちが優先したほうがいいのかな?」
『どっちか、明日に回せばいいんじゃない?』
そりゃあそうだけど。
でも、栄養満腹ポーションの数のが足りてないよね?
ああ、討伐してる上級冒険者さんたちの人数をなんで聞いてこなかったんだろう、バカバカ。
「コハク、私、薬草とりあえず全部摘んでくる。全部収納してもらって、また魔力流してもらっていい?」
『いいけど、アンネリーゼ、ご飯の途中だよー?』
「あとはフェルが帰ってきてから食べる!」
飢えながら戦っている人たちがいると思うと、おいしかったサンドイッチが喉を通らない。
誰目線だって話だし、ほかに私ができることなんてないんだけど。
杏奈の時代、食べたくても食べられなかった気持ちを、私は知っている。
籠をもって、庭にでると私は次々と薬草を摘む。
根っこは残して、基本はナイフで採取する。
薬草畑はコハクが拡張してくれたので、汗を流しながらせっせと集めた。
「アンネリーゼ! ただいま!」
「フェル! おかえり!」
ひと段落したとたん、フェルが帰ってきた。
笑顔で帰ってきたということは、魔力ポーション買ってきたのかな?
コハクに止められたって言わないと。
「アンネリーゼ、露店のロザリーおばさんにポーションおまけしてただろ! アンネリーゼの鑑定に美ってつく意味が分かったぜ!」
え?
フェルはローブを脱ぐのを忘れたまま、ロザリーさんのところであったことを話してくれた。
謎の美が、美肌の美のこと。
ロザリーさんの口コミがどうやら広がりそうなこと。
「良かった……! 意味がわかったことも嬉しいし、役に立ってたんだ!」
「すごい感謝してたぜ! しかもおまけにたくさん調味料もらったぜ」
飲んだだけで、疲労回復して肌も綺麗になるなんて。
魔法みたい!
あっ魔法の世界か……。
突然、ポケットの中でスマホが振動した。
エヴァリディアス様かな?
〈信仰が一定数溜まりました。レベルがあがります〉
スマホを出すと、そんな説明が挟まっている。
レベルがあがる? 私の?
「気を付けろ、アンネリーゼ!」
フェルに捕まれて、私は揺れる家を振り返った。
家の柵のそばの世界樹も、ぐんと伸びた。
なになに? これがレベルアップ?
揺れているのは家だけで、ここから見える森は揺れていない。
揺れるのが落ち着いたかと思ったら、ぼふん! と薬草畑が増えた。
「アンネリーゼ、木も生えてきたぞ!」
「ええー?」
なにが起きてるの、レベルアップ。
地震のようなそれがやっと止まったので、まずは増えた薬草畑を鑑定で確認する。
アキネが咲いていて、これで森に取りにいかなくてもいいね。
ツェラとか、リピールなんかも今までなかった薬草だ。
「アンネリーゼ、この木、砂糖の木に似てるな」
「ほんとだ……。グラニュー糖に和三盆に……ざらめってあのねえ」
鑑定で見ると、お菓子作りがはかどりそうなものばかりだ。
でも、プリンとかなら錬成なしでも作れるかな。
そして……最後の木は”カカオ”
カカオ……チョコレートが作れちゃうのかー!
ますますお菓子作りが忙しくなりそう。まだ、出してるのはクッキーだけなのにね。
「フェル、大変だよ。泡立て器とか手に入れたら、錬成しなくてもお菓子つくれるよ!?」
「そっか、それを覚えればオレも役にたつな」
おそるおそる、揺れた家に近づく。
コハクは出てこないけど、大丈夫だよね……?
玄関をあけると、家の中は広くなっていた。
キッチンは最初から豪華に広かったのに、さらにもう一人作業が出来そう。
『アンネリーゼおめでとう~! レベルアップしたねー』
「コハク、怖くなかったの?」
『エヴァリディアス様から、レベルアップしたらこうなるって聞いてたから~』
ううう、そういうこと私にも教えておいてくれないかな。
テーブルも広がって椅子が二脚増えてるし、寝っ転がれそうなソファーもある。
寝室には、大人サイズのベッドも増えていた。
今後、大人が仲間に加わることはあるのかな……?
突然のレベルアップに驚いたけど、これはロザリーさんたちのお陰かな?
何気なくポーション渡したけど、こうなるなら、もっと色んな人に渡してもいいかな。
『アンネリーゼ、あんまり軽率にモノをあげたりしないでね。人によっては転売したり、悪用したりするんだから』
知らない間に念話でもしたかな?
コハクに図星を刺されて、私はふくれる。
「でも、喜ばれたし……少しくらい……」
『だめだめ、なんのために世界に通貨があると思ってるの? 親切にしたら色んなものくれるってなったら、本音じゃよく思ってなくてもおべっかとか使ったり、人によっては施されたって思うひともいるでしょ。アンネリーゼだって、小さいしお金ないだろうからアレもコレもあげるって言われたら、なんでも受け取るの?』
コハクがいうことは、間違っていない。
私だって中身は大人だ。
人にものをあげることが、いいことではないのを知っている。
「そんときはオレの仕事だ。アンネリーゼをだまそうとすつやつが出たら、オレが見抜いてやるよ」
フェルが、深呼吸しながら私とコハクの間に割ってはいる。
「きっと、そのためにオレがアンネリーゼと出会ったんだ。神様は、アンネリーゼがそうしたいってことを分かってて、オレと出会わせたんだよ」




