第21話 フェルの内心②
オレが冒険者ギルドに戻ると、フランクさんが奥の部屋の前でウロウロしていた。
オレが来るのを、待ってたんだろうな。
フランクさんの元に行こうとして、オレは肝が冷えた。
オレの似顔絵を持ったやつが、冒険者ギルドの居酒屋で聞き込みをしている。
アンネリーゼ特製のローブをかぶっていてよかった。
すっと受付を横切って、フランクさんの袖を無言でひっぱる。
フランクさんは、さっきオレがフードを脱ぐところを見ていたはずなのに、オレだと分からなかったらしい。
はっとしてから、奥の部屋に招かれたがアンネリーゼの作ったローブは、性能えげつないぜ。
「フェルだよな? どうだった、栄養満腹ポーションは?」
「とりあえず40本持ってきた。けど、アンネリーゼが魔力切れでさ……魔力ポーションを用意してくれないか? あとポーション瓶生成のための魔石も少し」
ローブをぬぐと、フランクさんは渋い顔をした。
なんだ?
「アンネリーゼさまは……まだ小さいだろう? ポーションならともかく、魔力ポーションを飲ませるわけにいかないな」
「え!? けど……」
コハクさまに聞いておけばよかった。
アンネリーゼの体のことを、当人以上に知っている。
「ご本人の作られた魔力ポーションなら、まだアンネリーゼさまの魔力で作っているからあまり負担にはならないだろうが……それでも2本も3本も無理して飲まれるなら、フェル。おまえが止めろ。鍛えた成人冒険者ならともかく、これから成長していくアンネリーゼさまの体が魔力欠乏症になるぞ。おまえが一番、その怖さを知っているだろ?」
オレは、俯いた。
オレの憧れは魔法剣士だ。でも、オレの魔力は平均より低い。
身体強化に任せてただの剣士になるほうが、圧倒的に向いてる。
それでも、小さなころに見かけた魔法剣士がかっこよくて、ああなりたいと思った。
それで、魔法を使いながら剣を振り回して、そんときゃ貴族から大金を貰ってたから魔力ポーションを買って飲んでは特訓した。
魔力ポーションは、魔力の借り物だ。
それでも限界をこえれば、オレの体からも空になっていても魔力を引き出そうとする。
吐きながら倒れているところを運よくランスロットに発見されて、オレは一か月寝込んだ。
魔力が正常に回復せず、高熱とのたうつ痛みに苦しんだもんだ。
それでも、特訓期間が三日間だったことで回復した。
――オレは、アンネリーゼが使徒だから大丈夫だと思い込んでいた。
「悪いことは言わん。この40本で40人が救われるんだ。明日も納品してくれるんだろ? それで充分だ。清算するから、また明日頼む。一個大銅貨2枚だから……銀貨8枚だな。あとこれはおまけの魔石だ」
フランクさんから銀貨と魔石を受け取って、オレはしまいこんだ。
「アンネリーゼさまに、ありがとうと伝えてくれ。そうだ、フェル。おまえ、あのお方からおまえがどこにいるか問い合わせがきたぞ。ここに来てると言っていいか?」
「いいよ。あいつなら問題ない。多分、また仕事の依頼だろ」
あいつとは、ランスロットのことだ。
貴族の四男なのに、あいつはふらふらっとよく出かける。
「じゃあ、明日も待ってるぞ」
「ああ」
裏口から出た瞬間、大きな風が吹いてローブがめくれる。
慌ててかぶりなおしたけど、通りすがりの視線が痛い。
……見られてないよな?
きっとアンネリーゼはガッカリする。
あの勢いだと、魔力ポーションがぶ飲みして栄養満腹ポーションをたくさん作る気まんまんだったろうから。
なんか、アンネリーゼが気がまぎれるものはないかな。
大豆を欲しがっていたけど、今魔力を使って醤油や味噌を錬成するとは思えない。
エヴァリディアス様の信仰札を買って……そういや牛乳一瓶使い切ったんだ。卵もけっこう使ったな。
瓶を戻せば安くなるし、ロザリーおばさんの店にいくか。
信仰札も近くに売ってたし。
信仰札は、それぞれ神殿や孤児院で自分の信仰のものを作る。
それを、商人が各地を回って一括で売る。
数少ない、孤児院の集金ネタだったが、オレの石の神は人気がなくてあまり売れなかったな。
「牛乳瓶、一つ戻るから、また一瓶くれないか? 卵と……カレールー五人前」
「はいな!」
ロザリーおばさんは、なにか前と違っていた。
動きもきびきびしていて……そうか、肌が違うのか。
にきびを消えていて、そこそこ目立っていたシミが薄くなっている。
「あいよ! カレールーはブレンド確認するかい?」
「前に買ったから、味はわかってる。ロザリーさん、あのポーション飲んでみたか?」
「あのポーション?」
そうか、オレが隠蔽率のたかいローブを使っているから、分からないのか。
まあ、わかられても困るんだが。
「あの月みたいなピンクの髪色の女の子から、ポーション二つもらったろ?」
「ああ!! あんた、あのときのお嬢ちゃんといた子かい!? それ被ってると誰だか分からないね」
カレールーを測っていたロザリーさんは、うっとりと自分の肌に手を当てる。
夢でも見てるような顔つきだ。
「あれを試しに1本飲んだら、この通りさ……! それはもう驚かれてね、知り合いの商人に残る1本をあげたら、そばかすが目立たなくなったと大騒ぎさ! お嬢ちゃんが通りかからないか、目を光らせてたんだよ」
アンネリーゼのポーションにそんな力があったのか!?
ああ……でも、「なんで、美って言葉がつくんだろう。美ってなにかなぁ」って呟いてたな。
美って、美肌とかそういうんじゃないか?
「そうか、それは良かった」
「生産ギルドに尋ねても、そんな女の子は来ていないって言われてねぇ。途方にくれてたところさ。あの子のポーションは売ってないのかね?」
そりゃ生産ギルドにはねーわ。
まあ、冒険者ギルドにあるとは思わないかもしれん。
「事情があって、冒険者ギルドに卸してんだ。多分、ギルドマスターのフランクさんに聞けば、どれがアンネリーゼのポーションなのか分かると思う」
オレが飲んだことのあるポーションは、もっと濁ってた。
アンネリーゼのポーションは、あの流水もあってか色も綺麗だった。
たぶん、並べてても違いは分かると思う。
「あのお嬢ちゃん、アンネリーゼちゃんって言うんだね? 毎日はあたしらには高くて無理だけど、週に1本飲むだけでも効果があるに違いないさ。買いに行かせてもらうよ。……ちなみに今はあのポーションもっていないのかい?」
「少しならあるけど」
作ったけど、納品されなかった分が16本ある。
アンネリーゼは売れなくても、作り続けるって言ってるし。
「じゃあ、今日の会計……ただでいいからポーション一つと引き換えってのはどうだい? 勿論、もっとたくさん買い物してくれていいからさ」
「小麦粉と、卵と牛乳、たくさんもらうぜ?」
「いいともさ! わさびや、唐辛子、ゴマ油やオリーブオイルなんかもあるよ」
わさびは分からなかったが、アンネリーゼは調味料に詳しい。
多分、持って帰ればなにか料理を教えてくれるだろう。
「じゃあ、それで」
なんだか、ポーション一個で貰いすぎたかもな。
でも、もう1本ポーション出すには払いすぎな気もするし。
そうだ。
ロザリーおばさんがたくさんの商品を出し、それをオレの空間収納にしまう。
オレは代わりに、エヴァリディアス様から貰った包装袋いっぱいに詰めたアグーレのクッキーを出した。
三枚ほど、新しい袋に入れてポーションと一緒にロザリーおばさんに渡す。
「これ、おまけ。アンネリーゼが作ったアグーレのクッキーだ。本人は失敗したって言ってるけど、すげえうまい。あと、成功したクッキーは冒険者ギルドに大銅貨5枚くらいで売ってるぜ」
「まあ、ありがとうねぇ。クッキーなんて贅沢品だけど、商人仲間でお金だしあって買ってみようかね」
ロザリーおばさんは、すっかりアンネリーゼのファンみたいだ。
ポーションを宝物のようにしまうと、ロザリーおばさんは手を振る。
魔力ポーションのことは残念だったけど、ロザリーおばさんの話をしたらアンネリーゼは喜ぶだろう。
いい話が聞けて良かった。
「こっちこそ、ありがとな。アンネリーゼが聞いたら、喜ぶ」
クッキー用の瓶生成魔導具を買ってから、オレは駆け出した。
アンネリーゼの元へ帰ろう。
感謝の言葉を持って、アンネリーゼの笑顔が見たい。
オレの足取りは軽く、エイムの森へ向かっていた。




